Kちゃん、インド行かない?
橘 みとせ
Kちゃん、インド行かない?
「Kちゃん、インド行かない?」
高校以来、会っていない友人に唐突に電話をかけたのは、ふつうの大学生みたいに卒業旅行なんてしてみたいと思ったのか、それより何よりインドって国にすごく惹かれて。
当時、流行っていた「地球の歩き方」のインド編を読み込んで、あれこれシュミレーションしたけど、一人で行く勇気はなかった。
誰か一緒に行ってくれそうな人、と思い巡らせた結果、高校の友人、Kちゃんならと、電話をかけてみることにした。
現役時代だって電話なんてしたことないのに、卒業から何年も会っていない友人の家に電話するって、そこそこ緊張した。あの頃は、メールもスマホもなかったし。
最初にお母さんが出て
「少しお待ちください」と言ったあと、わりあい長い間があいて、
「もしもし」と友人が出たので、開口一番、言ったのだ。
「Kちゃん、インド行かない?」
久しぶりのKちゃんは、こちらの高めテンションとは裏腹に、何だか気のないトーンだった。
(あれ?迷惑だったかな?)と内心ちょっと焦ったけれど、それでも予想どおりインドには興味があるらしく、旅行の計画を立てる名目で、お茶でもしようということになった。
お店の内装は覚えているけれど、どこのカフェだったかは思い出せない。
数年ぶりに再会したKちゃんは、やっぱりどこか気乗りしない様子だったけれど、わたしたちは例の「地球の歩き方/インド編」を見ながら、インド旅行の計画を練った。
それなのに、土壇場になって、わたしの方が怖気づいてしまい、結局インドには行かずじまいだった。
けれど、後日談があって。
何年も経ってから、Kちゃんが話してくれたことには、
Kちゃんは高校を卒業したあと、入学した大学に馴染めず、授業にも出ずに、ずっと図書室にこもっていたらしい。
そのうち、親から預かっていた学費も振り込まなくなり、だんだん家から出られなくなって、1年ほど、自室とトイレの往復だけの毎日だったと言っていた。
昼夜逆転して、両親とも顔を合わせることなく、誰とも口をきかない日々が続いていたそうだ。
そんな中、突然の「Kちゃん、インド行かない?」
外に出るのは恐怖でしかなかったらしいけれど、1年ぶりにカフェまで出て来たことになる。
「あの電話がなかったら、今でも部屋から出られなかったかも。」と彼女は言って、
「あれが『ハワイ行かない?』だったら、話には乗らなかったね。」と笑う。
当時、彼女が読んでいたという藤原新也の写真集「メメント・モリ」を、わたしも読んでいた。
ちょうどその頃。
生と死が、自然の姿として、そのままに、
すぐ目の前に在るインドの風景には、強力に、何かを解放してくれる力があった。
深く重い闇の中にあっても、それと呼応する何かがあった。
それがたとえ写真だとしても。
Kちゃん、インド行かない? 橘 みとせ @yuzuha2025
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます