【三が日中に終わらせたかった】日本一の殺し屋~正月キラー・MOCHI~
とりま とりね
サイレントキラー・モチ
小堀菓子店は地元の人たちに人気である。
今日は元日。
これから地方へと帰るであろう人たちが多く見られるような気がした。
「今日から宮城に帰省するんだけど、ここのお菓子を持っていくと親戚みんな喜ぶんですわ。小堀さん、いつもおいしい和菓子を作ってくれてありがとうねぇ」
「宮城は寒いでしょう。雪に足を取られないよう気をつけてくださいね」
「もちろんですもの、雪国の民は皆長靴で出かけますわ
小堀さんも宮城に来てみて頂戴、あなたが好きそうなずんだ餅を作っておくわ」
宮城生まれのマダムは最中を五箱も買っていった。
小堀とは店主の名前である。
業界紙、和菓子ウォーカーの記事によると、小堀はある著名な和菓子店で何年間も修行を重ね、三年前に独立しここで店を開いたという。
修行をしたのは業界内でも有名な店というのもあって、和菓子界隈ではそれなりに知名度のある店なのだ。
その知名度からシャレオツな都民がそこそこ訪れる人気店としての立ち位置を確保しており、元旦のお昼でも人出があった。
「元日もやっててくれてうれしいわぁ。
他はどこも正月休みでやってないからお菓子を買えなくて困っていたもの」
「流石に二日からは休みますよ。今日はお客さんみたいなうちの常連がいるので開けているんですよ」
年末に買い忘れた土産を買いに来る客も一定数いるのだ。
「空さん、餅ちょうだい!もちろんあんこ塗っといてな」
しばらく経ち、時々訪れる地元のあんこ大好きおじいちゃんが来店した。
「はいはい、もちろんですよ」
つきたてのお餅にあんこがたっぷり塗られた特別メニュー。
小堀菓子店では餅も販売されているのだ。
「餅、うんめえのぉ。
ちょうどいい柔らかさでうんめえんだ。
空さん調整してんじゃないの?」
爺さんは茶化すが、実は本当に柔らかさを調整してあるのだ。
その事実を知っているのはただ一人である。
暮れになり、店のシャッターは一番下まで下ろされた。
【正月休み 七日まで休みます】
ただ一つ、ポスターを残して。
ベランダにカラスが止まる。
店の二階は居住スペースで、小堀も普段はそこにいるのだ。
彼はベランダに向かった。
小堀がベランダに入ったのを見届け、カラスは飛び去っていった。
床に封筒を残して。
いつものことかのように封筒を拾い、封を開けた。
中にはこのような便箋が入っていた。
『明けましておめでとう!
空クン、元気カナ?😄
おじさんは元気ダヨ!😁
新年🥳だけどお願いがあるのサ!😓
「株式会社ブラックブラック」の社長タン😎をヘルにファーアウェイしてくれないカナ?😆
なるべくやってくれると嬉しいナ!😄
詳しいことはUSBに載せてるから読んでほしいナ!😘
空クンが大好きなお師匠🥸ヨリ』
これの送り主は小堀よりもひと回り年上である。
特徴的な文字使いから察することは可能だろう、おじさんであった。
小堀はUSBを封筒から取り出し、パソコンに読み込ませた。
中にmp4で綴じられた動画のファイルがあったため、それを読み込んだ。
『やっほ!空くん元気してるかい?』
動画に大きく映っているのは、少年にも少女にも見える小柄な体型の人間であった。
『師匠も元気元気!』
読者諸君、信じられるだろうか。
これが作者の趣味である。……おっと失礼。
この師匠と名乗る人物こそ、あのおじさん構文メールを送ってきた男なのだ。
(なんでこんなに元気なんだ)と苦々しい顔で液晶を見つめる。
『さ、今回の作戦の内容を発表するよ!
ターゲットは株式会社ブラックブラックの社長、
ブラックすぎる経営で何人もの自◯者を生み出してきた。
まあそんな外道だからね、恨まれるのもしょうがないよね!
ここは一月二日の午後八時から新年会を行うことになったんだ。
会場までの行き方は別のファイルを見てね!
でまあ空くんにやって欲しいのは、ここに参加する餅つき芸人……じゃなくて、餅職人になって欲しいんだ。
それで……ねえ?いつも通り餅でね、ヤっちゃえー!
ま、幸いにもここの会場のオーナーとは親しいからさ、入れる手筈は整っているよ
それじゃ!いい結果を待ってるよ』
動画はここで終了した。
別添のファイルで場所も確認する。
殺害までの方法を考えついたとき、小堀はニヤけていた。
それもそのはず、彼は仕留めた相手は数千人とも噂されているプロの暗殺者なのであった。
正月は特に依頼が多い季節なのであった。
彼の使う「モチ」は正月に多く消費される。
そのため、違和感なく犯行を遂行することができるためだ。
方法も場所もわかったため、早速明日の朝偵察に向かうことにした。
始発の電車に乗り本社ビルへと向かう。
こんな時間なのに意外と駅で降りる人が多い。
生気を感じられない人の群れはそのまま“ブラックブラック”のビルへと入っていった。
“ブラックブラック”は意外と大きい企業だった。
ビル一棟が丸々一社なので今まで露見されず処分されなかったのだろう。
ここの社員たちと社長が午後八時頃会場に赴く。
向かいのビルに登り建物の中を確認する。やっと始発が来た時間だというのにたくさんの人がいる。
きっと会社で寝泊まりしている人も一定数居るのだろう。
今日は一月二日だ。
三が日は元日しか休ませてくれない、それどころか運が悪いと元日も働いている人もいるような暗黒さである。
しかもこの新年会はほぼ全員強制的に行かされるのだ。
帰省するような人はほぼ辞めている。
他のやつも辞めちまえよと思うが、どうも退職は拒否されるためそういうわけにもいかないようだ。
さらにパワハラセクハラは当たり前、サービス残業に週休一日もあることが少ないとブラックの極みであった。
これは潰さなくてはならない。
小堀は拳を固めた。
待てよ、そういえば彼らはブラック企業。
もしかすると五分前行動の超進化版で昼か夕方ぐらいには入場してくるかもしれない。
そうなると計画の遂行はかなり大変になる。
……パーティは時間通りに来いよ!
アメリカのホームパーティだって遅れて来るのがマナーでしょうに。
現代社会の五分前行動にやり場のない怒りを感じた。
作戦失敗のリスクを考え、そそくさと退散し会場へと向かう。
一度菓子店に戻り本格的に準備をするとしよう。
菓子店の倉庫の中には秘密の出入口がある。
ドアを開けた先のハシゴを降りると、厳重に警備システムが張られたこれまた大きなドアがあった。
暗証番号に指紋認証、生体検査を重ねるとようやくドアが開いた。
ゆっくり動くドアに邪魔された視界が開けると、そこには短刀に拳銃、手裏剣などが揃った武器庫があった。
もちろんパーティ会場で銃をぶっ放せばお縄につくことになる。
それに殺すことこそ楽しけれど、無関係の者を殺す趣味を持ち合わせてはいなかった。
ターゲットだけを殺すことに命を懸ける趣味である。
もちろん怪しくない様にと、臼と杵を背負って歩き出した。
しかし臼は百キロを優に超え、杵も五キロほどはある。
そんなものを担ぐ彼に対しての視線は皆変人を見るものだったが、それには気づかなかった。
会場には多くの人々がランチを終えて職場に戻るであろう午後一時頃に到着した。
そもそもまだ前の団体が使っていて、空くのは午後七時頃だと聞いたので若干余裕を持って来れたのだった。
今回は餅での殺害のため下準備も少なくて済んだ。
念の為毒薬を用意しておくぐらいである。
この空いた時間をどうするかな〜と楽屋に行くか待っているか悩んでいると、ある男が話かけてきた。
「うちの会社の新年会に参加される餅職人の方ですか?」
やっぱり来たか。小堀は早めに来て良かったと安堵した。
「あ、私『株式会社ブラックブラック』営業課の田中と申します。よろしくお願いします」
この社員は営業課か。営業ノルマとか大変そうだ。
「田中さんはなぜこんな早くから来られて?」
「実はずっと営業最下位でして……窓際の様なものですよ。
そのおかげで毎日大変そうに遅くまで仕事三昧な同僚よりも楽できていますけどね」
田中は少し悲しそうな顔をして笑った。
「それでですね、会場の準備ぐらいは先にしておけと上司に言われましてこんな早くから開場を待っているんです。きっと私のようなお邪魔虫は視界にすら入れたくないのでしょう」
だいぶ覇気のない声であった。社会に対する絶望や諦めに似た感情を想像させる、小さい小さい声。
「お仕事、大変なのですね……」
こんな慰めにもならないような言葉を発することしかできなかった。
ブラック企業は恐ろしいものである。
「まあ、こんな成績だから今まで生きてこれたのかもしれません。
知り合いはみんな辞めてどっかへ行っちゃいました。もしかすると死んでいるかもしれません。
まあ仕事中に同僚が死んでいることなんてしょっちゅうありますからね」
過労死が身近にある環境だと死に対しての抵抗が小さいのか、簡単に死について話された。
死に慣れているのならば暗殺も意外と簡単かもしれない。
「それでは、私は楽屋の方でセッティングを行ってきます」
小堀は関係者向けの控室に向かった。
控室でやっと臼と杵を下ろす。
床からドスンという音がした。
「これ傷ついてないよな……?」
幸い下ろすスピードがゆっくりだったため傷はついていなさそうだったが、いつもの人を抹殺する調子で下ろさないようにしようと心に誓った。
午後六時頃、そろそろ準備を始めることにした。
まずは着替えから。
いかにも餅職人という風貌の白衣に鉢巻。
……おでん職人と言われるかもしれない。
小堀は悩んだがこの他に作業着を持って来なかったのでこれで出向くことにした。
臼と杵もしっかりと再び洗い、衛生的にも大丈夫な様にする。
あくまでも餅職人であり、和菓子職人だ。
社長以外には美味しい餅を食べてほしい。
保健所のお世話にならない様に十分気をつけながらあんこやタレのチェックも行った。
これで大丈夫だろう。
午後七時、前の団体が帰り開放されたと共に会場へのドアを開けた。
時を同じくして“ブラックブラック”の社員たちがぞろぞろと入り込んでいく。
社員四百人ほどが開始の八時までには全員入るのだ。その光景は圧巻であった。
ぞろぞろと集まり、会場の準備担当のスタッフに混じり準備していく。
頼まれてもいないのに準備を手伝うことに若干の恐怖を覚えた。
「明けましておめでとうございます〜新人芸人のスーパーゴリラです〜」
私の他にも出演する人はいるらしく、謎の芸人が挨拶をしていた。
しかしブラック企業に所属する者たちは皆真顔。
気まずい空気が漂った。
「……今回はちゃんとした餅の職人さんが来ているらしいので新年祝いにぴったりですね!
早速我々の初ネタを披露するとしましょう!」
ネタは可もなく不可もなく、といったものであった。
社員たちはビジネス上での冷たい笑いか真顔であり、芸人は引いていた。
「……いかがでしょうか。とりあえず餅つき大会の方をやっちゃいましょうか」
哀れなものである。
実際地域の祭りなどではこんなにウケないことが多々ある。
しかし、新人の彼らには大きなダメージになるだろう。
こうして新年を祝う会だというのにテンションが低いまま餅つき大会が始まった。
「はいよいしょ!」
「よいしょ!」
主に小堀と芸人、そして社員によって餅がつかれていく。
四百人分を賄うためには相当な量が必要になるが、その前にカタをつけるつもりでいたため心なしか余裕があるような気がした。
「それでは、つかれた餅を社長さんに食べてもらいましょう!」
芸人がこちら側の得になるように偶然動いてくれた。
まさかこの後社長が死ぬとは微塵も思っていないのだろう。
「それでは、いただきます」
社長が人相の悪い顔で餅を貪る。
そのすぐ後、異変が起こった。
「ウッ、ウグッ!」
社長が呻きだしたのである。
「しゃ、社長!?」
一応犯行がばれないように近寄ってはおく。そして餅を除ける演技をする。
仮に本気でやってもこの餅には強い粘性を持っているため出すのは不可能である。
芸人も駆け寄り助けようとするが、効果はない。
社員総出で何とかしようとするがそれでも餅はとれず、うめき声もついにはなくなってしまった。
「う、これは……死んでいますね」
社員の一人が呟く。
社員は皆黙り込んだ後……
「うおっしゃあああああ!あのクソ野郎が死んだぞおおおおお!」
ある一人の男が大声を上げた。
周りが止めようとするものの、男は止めようとしない。
男につられ、周りにも安堵の声が聞こえ始めた。
社長の独裁は終わったのだ。
救急車とパトカーが到着し、救助が来る前に死んだ社長が運ばれていく。
警察によって取り調べと餅の検証が行われたが、粘度を餅の一つ一つまで変えられる小堀の前には太刀打ちできなかった。
こうして『株式会社ブラックブラック』の社長は餅を喉に詰まらせたことによる窒息死と判断され、メディアでもそう紹介された。
ゴシップ系の動画配信者もまさか餅が偶然粘りっこかったとは思わなかったのだろう。なにも噂にならずに済んだ。
一仕事終わり、店の二階で茶と和菓子や餅を嗜んでいるとまたカラスがやってきた。
今回はビデオレターだった。
DVDをレコーダーに入れ、再生する。
「お疲れ様!お仕事どうだった?
楽しんでくれていたらうれしいな!
また今度仕事が来たら連絡するね!
それじゃ!」
嵐のような師匠である。
まだ見ぬ強大なターゲットを前に、餅を貪りながら胸に心躍らせているのだった。
おしまい
【大事なこと】
餅が詰まったらまずは自分たちでできる処置を試す!ダメだったら119番!
楽しい新年会が暗~いお通夜になんないためにはじっちゃんばっちゃんの周りにいる君たちの助けが必要だ!頼むぜ!
ついでに少しでも面白いなと思ったら☆や♡を押してもらえると作者冥利に尽きるぜ!
正直深夜テンションで書いたからロクに校正も行ってないから矛盾や誤字脱字があれば教えてくれるとめっちゃ助かるぜ!(おい)
最後に……私の雪のイメージは
【三が日中に終わらせたかった】日本一の殺し屋~正月キラー・MOCHI~ とりま とりね @toriaezu_tori
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