第5話 導かれ、着いていき
クルニア歴1036年4月1日 午前11:07
自由都市
追い剥ぎ草原
船という機動力を得た一行は、あっという間に自由都市へと到着した。
彼らが上陸したのは、広大で殺風景な土地。
荒野と見紛うその場所は、地元では「追い剥ぎ草原」と呼ばれていたが
彼らには知らぬことであった。
「変な場所だねー」
「そう、ですね。なんか怖いです……」
「その分見通しはいいですな。
なにか来ても対処はしやすいかと」
「自由都市ってこんな感じなのねぇ」
「ワシも初めてだが、陰気くさい場所だのう」
「ええ、長居はしたくありません。
さっさと調査を終わらせましょう」
「だな。補給も早めに済ませよう」
それぞれが感想を口にしながら荒野を進む。
エラリアの呑気さと、レイモンドの元隊長としての視点。
マールとアヤメは、怖さと好奇心という対照的な反応を見せる。
ルルドの陰気くさいといった一言に、アレイドとゲイラも同意し、
気持ちを引き締め目的達成を目指す。
◇◆◇◆◇◆
20分ほど歩いた頃。
前方から、彼らに向かって駆けてくる男が見えた。
強者であるレイモンドは警戒態勢を取り、アレイドとゲイラは釣られそれに倣う。
一方、同じ強者のエラリアは何もせず自然体であり、
残りの面々はオロオロしながら事態を見守っていた。
「外から来るなんて珍しいなぁ。
ここが自由都市と知っているのかぁ?」
語尾を引き伸ばし、神経を逆撫でするような口調の男。
大剣を携え、体格もよく、顔に刻まれた傷が迫力を補強していた。
「俺は小早川組のクレイドだぁ。
なにが目的か知らないが、ここにいるなら身ぐるみ剥がされても文句言えねぇよなぁ」
その言葉に緊張が走る――ことはなかった。
クレイドと名乗った男は次の瞬間、その背後からやってきた男に蹴り飛ばされたからだ。
蹴り飛ばしたのは金髪の偉丈夫。
その脇には、3メートルはあるオーガと、老獪という言葉が似合うリザードマンが控えていた。
金髪の男は、蹴り飛ばしたクレイドの胸倉を掴み怒声を浴びせる。
「テメェが小早川組だぁ……?
俺は入れた覚えはねえし、入団試験で逃げた腰抜けが何言ってんだ。
筋も道理もねえクズが!
二度と言えねぇように歯ぁ全部叩き折ってやろうか! あぁ!?」
「ひっ……! うぁ……!」
「人の威を借りるしかできねぇ……
そんなただのハイエナは自由都市にもいらねえ!
さっさと消え失せろっ!!」
「う、うわぁぁぁぁ!」
脅しを受けたクレイドは、半狂乱になり失禁しながら逃げていく。
金髪の男はイライラが抑えられないのか、逃げた方を見ながら舌打ちをする。
事態が目まぐるしく変わる中、
最初に動いたのは転生者組――アヤメ、マール、ゲイラだった。
「小早川組って、確実にそうよね?」
「完璧ヤクザですよ。もう転生者です」
「口ぶりからして組のトップみたいだしな。確かめてみるか」
三人はヒソヒソ打ち合わせし、そしてゲイラが代表して金髪の男の前に立った。
「あん? なんだテメェ?」
「お、おいゲイラ! お前さん何を……!?」
「心配すんなってルルド爺。
なあアンタ! "東京タワーとスカイツリー、どっちが好きだ"!?」
「あん?
ま、どっちかっつったら東京タ……ワー……。
テメェまさか!?」
「そのまさかだ! わかるか!?」
一連のやりとりは、転生者同士にしか通じない暗号のようなもの。
だが金髪の男にはしっかりと伝わり、驚きの表情を浮かべた。
「は、ははっ!
まさか会えるとはな!」
それこそ何度目になるかわからない、転生者特有のリアクションで
笑みをたたえ金髪の男はゲイラを抱きしめた。
アヤメ、マールは「やっぱりか」と納得するが、周りはついていけてない。
マールは説明するのも納得してもらうのも時間かかるだろうな、と内心苦笑した。
◇◆◇◆◇◆
クルニア歴1036年4月1日 午前11:49
自由都市
宿屋
金髪の男――リュージと名乗った――に連れられ一行は宿屋へ。
どうやら客人として歓迎してくれるようで、酒に肉などのいろんな料理でもてなされる。
その場で全員の紹介も行われた。
リザードマンはルーラジャ、オーガはガロウドウ、
いつの間にか加わっていたドワーフはグリンドルというようだ。
他にも仲間はいるようだが、療養中で来れないとのことだった。
「ルーラジャさん!
亜人なら白砂をご存知ですよね!?」
「白砂か。
確かに碧鱗会で扱っているが、欲しいのか?」
「欲しいです! もうすっごい欲しいです!」
「アヤメさん、白砂は亜人しか食べないものですよ……」
「そんなことないわ!
白砂、もとい塩がやっと食べられるのよ!?
チャーハンも進化するわ!」
ルーラジャ、アヤメ、アレイドは白砂に熱く――主にアヤメだが――語り合う。
「強そうな奴が多いなぁ。
そこのスキュラもそうだが――爺、お前かなりのやり手だろ?
俺と闘ろうぜ!」
「いいけどー、私が勝つよー?」
「お戯れを……。この歳ではオーガに敵いませんぞ」
ガロウドウ、エラリア、レイモンドは物騒な話で盛り上がる。
「あ、このお肉美味しいです」
「ああ! 旨みが凝縮されてるな!」
「ワシも初めて食う味じゃ。 他国の文化は面白いのう」
マール、ゲイラ、ルルドは舌鼓を打った。
そんな中、グリンドルはリュージにひっそりと声をかけていた。
「リュージよう。
奴らを信用しているようだが、いいのか?」
「ああ、こいつらは……まぁ昔の俺を知ってるっつーか、悪い奴らじゃねえ。
なんかやらかすなら、俺がケツ拭くわ」
「ほーぅ、昔のお前をなぁ。
ま、ここの実質トップみたいなお前が言うなら構わねえか」
そうして一通りの歓談が終わった頃、不意にリュージが声を上げた。
「で、お前ら外から来たんだろ?
なにしに来やがった?」
その問に反応したのはマールだ。
これまでの経緯を話し、エルフの似顔絵を見せる。
それを見たリュージたち自由都市の面々は、目の色を変えた。
「こいつ……! ヒマルカンじゃねえか!?」
「他所に迷惑かけてたか、奴らしい下衆さだな」
その反応を見てアレイドが前に出た。
「知っているなら話が早い。
そのヒマルカンというエルフ、今どこにいますか?」
だが、返ってきたのは期待を裏切る答えだった。
「奴は逃げたよ、龍邸山にな。
俺たちゃコイツに落とし前つけるために、山に行く方法探ってたんだ。
そこにお前らが来たってわけだ」
そして舌打ちをするリュージ。
ルーラジャやグリンドルも苦々しい顔をする。
だが、その場に待ったをかけたのはゲイラだった。
「なぁ、龍邸山行くなら船に乗るか?
俺たちもこれから行こうと思っててよ。
補給終わったら出発するけど、どうする?」
「マジか……!
俺たちも乗せてくれ!
欲しいものがあるなら好きなだけ持っていけ!」
「ああ、物資なら碧鱗会のシノギだ。
言ってくれれば用意させよう」
「力仕事なら任せろ!
奴をブン殴るためなら協力するぜ!」
「都合よすぎねぇか……?
だがまあ、渡りに船だわな」
表面的には利害の一致。
だがそこには、人間、亜人、魔物の垣根を越えた連帯が生まれていた。
こうして話はトントン拍子に進み、
新たな仲間を加えた一行は、龍邸山へと進路を取る。
まるで、なにかに導かれるかのように――。
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