深夜3時にLINEを送ってくる教授と、それに律儀に起きてしまう俺の人生がだいたい終わってる件

イミハ

第1話 深夜3時にラインを送ってくる人間はだいたい敵

 深夜3時。


 人間の尊厳と理性と明日の仕事への希望が一番弱っている時間帯。


 田中は布団にくるまり、久しぶりにいい夢を見ていた。


 内容は覚えていない。


 だが確実に分かることが一つある。


 ――これは、いいところだ。


 夢の中で、誰かが自分の名前を呼んでいた。


 声は優しく、距離は近く、妙に現実味がある。


 これは来る。


 来る流れだ。


 田中の心臓が、現実世界の限界を無視して加速し始めた、その瞬間。


 ♪ライン♪


 田中「……」


 ♪ライン♪


 田中「……は?」


 ♪ライン♪ライン♪ライン♪


 田中「うわあああああああああ!!」

 田中は布団から跳ね起きた。


 全身汗だく。心拍数最高潮。夢は粉々。


 枕元で、マナーモードにし忘れたスマホが無慈悲に震えている。


 画面には、見慣れすぎた名前。

 ――八木教授。

 通知は連投されていた。


『緊急事態』

『すぐ来て』

『た』

『す』

『け』

『て』

『笑』

『(熊のスタンプ)』


 田中「……」


 怒りが、静かに、確実に沸騰した。

 こんな時間に、

 こんな送り方で、

 こんなスタンプを付ける人間は一人しかいない。


 田中はパジャマのままアパートを飛び出した。



 八木教授の住むボロアパートは、

 「住めなくはないが住みたくはない」という微妙なラインを保っていた。


 田中は階段を駆け上がり、

 ノックもせずにドアを開けた。


 八木教授は、こたつに入り、

 深夜通販番組を死んだ目で眺めていた。


 田中「告白の邪魔してんじゃねえぞこのクソ教授がぁぁぁ!!」


 八木教授「え、なに、告白?」


 田中「夢の!!」


 八木教授「夢かぁ」


 田中「軽く流すな!!」


 八木教授は少し考えたあと、ゆっくりと言った。

 八木教授「でも夢の中で告白されても、付き合えないじゃん」


 田中「そこじゃねえよ!!」


 八木教授「じゃあどこ?」


 田中「深夜3時に連投ライン送ってくるなって話だよ!!」


 八木教授「いや、緊急事態だったから」


 田中「どこがだよ!!」


 八木教授はこたつの中から、ポテチを一枚取り出した。


 八木教授「今、腹減ってた」


 田中「それを緊急事態って言うな!!」


 八木教授「熊のスタンプも付けたよ?」


 田中「免罪符じゃねえんだよそれ!!」


 少し沈黙。


 田中は深呼吸した。


 田中「……なあ教授」


 八木教授「ん?」


 田中「俺、何でこんな人の弟子になったんすかね」


 八木教授「東大行きたいって言ってたからじゃない?」


 田中「東大受験小説のくせに、勉強してる描写ほぼ無いですよね」


 八木教授「娯楽だから」


 田中「開き直るな」


 八木教授は笑った。

 八木教授「まあ、そういう息抜きも必要ってことだよ」


 田中「……息抜きのために人の夢壊すな」


 その瞬間。


 ♪ライン♪


 田中「……」


 八木教授「作者からだ」


 田中「何て?」


 八木教授「“この導入、使えそう”だって」


 田中「最悪だ……」


 深夜3時。


 誰かのいい夢が壊れる音だけが、静かに響いていた。

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