『一株のすぐき漬け』/大原銀杏さま
【作品】:『一株のすぐき漬け』
【作者】: 大原銀杏さま
【URL】:https://kakuyomu.jp/works/822139843051109860
本作を拝読時点での、読者さまからの各評価。
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【PV数】:17 PV
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現代ドラマの短編。一目で純文学作品だとわかるタイトル。そして、おそらくは「泣かされる」タイプのヒューマンドラマであるということが、キャッチコピーやタグから伝わってくる。こうした作品は大好きではあるのだが、読む前には諸々の覚悟が必要であることも事実。特に外出時に読む場合など。
なお、拝読前時点の幸崎は、タイトルにある〝すぐき漬け〟が「なんなのか」は把握していない。もちろん、漬物であることはわかるのだが。基本的に、調べながら読むことはしないので、作中に書かれている情報のみでの理解を試みる。
それでは、本編へ。舞台は梅雨前、初夏の京都であることが真っ先に知らされる。「これぞ純文学」といった趣の、美しく整った文章。一瞬で読み手の心を掴み、作中世界へと連れていってくれる。とにかく「文の読み心地」が素晴らしい。
主人公は六十代か、七十手前あたりの年齢か。男性であり、息子が二人おり、大学の同期だった妻に先立たれたことなどが、無理のない文章表現によってストレートに頭に入る。文体はすべて標準語ではあるものの、〝二回生〟という単語選びなどから、しっかりと「関西らしさ」も伝わってくる。
湧き出る泉のごとく、亡き妻への思いを語り続ける主人公。特に印象に残る単語は〝半世紀〟か。悔やむように、ともすれば恨めしげに「これ」を繰り返していることから、なんらかの転機や、いわゆる「サプライズ」を用意していたとも考えられる。
若き日の思い出を回想するシーン。主人公の弁から受けた印象どおり、やや気の強い性格の彼女であったことがうかがえる。彼女から手料理のカレーライスを振る舞ってもらった際、つけ合せに〝千枚漬け〟と〝しば漬け〟を出してもらったことが、特に主人公の印象に残っているようだ。このあたりの導入は非常にお見事であり、読み進めている読者の脳内でも、思わず「漬物談義」に花が咲くこと間違いなし。ちなみに私は〝奈良漬け〟だけは、どうしても苦手。理由については割愛。
くだんの〝すぐき漬け〟の登場シーン。どうやら「すぐき」というのは、カブに似た野菜のことらしい。あるいは、茎の付いた状態で、一株まるごと漬けられているということが名前の由来か。「落ち武者の首」を提げているかのよう、という表現のインパクトが絶妙であり、同時に大体の大きさも想像できる。
この「すぐき漬け」は強い発酵臭があり、酸味が強く、主人公の口には合わなかった様子。対して、新妻となった彼女は、これが一番の大好物。また、すぐき漬けは〝京都の三大漬物〟でもあるとのこと。ご興味のある方は、検索してみては。
主人公の回想は続く。彼の心残りは、妻と一緒に「すぐき漬け」を食べなかったことであるようだ。どうやら彼女はガンで亡くなったことが、〝細胞の暴走〟という表現でわかる。直接的な表現を避けながら、読み手に情報を伝える技術がお見事。
私は純文学には疎いので、もしかすると「そんなものは当たり前だ」と仰られる方もおられるかもしれないが、前述もしたとおり、とにかく「読み心地」がいい。
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今回は『一株のすぐき漬け(1/3)』から『一株のすぐき漬け(3/3)』までを読了させていただきました。本作は短編となっておりますので、感想は以上となります。本作の感想を一言で述べるならば、「未練たっぷりのラブレター」ですね。
もちろん、これは悪い意味ではありません。本作は時の流れによる変化や、忘却や喪失といった心情などが「漬物」に例えられておりますからね。
すなわち、未練があるということは、まだ「完全に漬かりきってはいない」ということを表しているのではないかと感じました。
また、作中には、妻が生前に漬けたままの、おそらくは漬かりきってしまったであろう「ぬか漬け」に対する言及も登場します。そして、主人公や息子たちは、それの蓋を開くことも、ましてや捨てることもできず、そのままにしてあると。
蓋を開けるまではわからない――というと、かの「猫」が出てくる逸話を想起するところではありますが。つまりは、「そういうこと」なのでしょう。
とはいえ、あまり語りすぎると、本作の「味」や「風情」が台無しになるところでもありますので。私の感想は、このあたりにいたします。みなさまも是非ご賞味を。
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【作品】:『一株のすぐき漬け』
【作者】: 大原銀杏さま
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