1-3.有為転変
恋人がふと思い出したように言った。
「今思えば、僕の中学っておかしかったかも」
「何、急に」
「ごめんごめん、今思い出してさ」
これは通常運転なのだ。彼は普段から、脈絡なく話し始める人である。
彼とは去年、大学の一般教養の授業で出会ったが、当時からこの調子だった。最初こそ面食らったが、テンプレートで会話をせず、興味が幅広くて話題豊富なところが好印象だった。結局私もそういうところに惹かれたため、お互い様だ。
「おかしいって?荒れてた?」
「そういう感じじゃなくて、スピリチュアルな方向。おまじないがすごく流行ってた」
……本当に、これがデート中にふらっと入ったカフェで、彼女に振る話題だろうか。別にいいけど。
「おまじない? まあ、中学生にしては若干幼いなとは思うけど、そこまでおかしいかな?」
「それが、ずっとだったんだよね」
聞けば、その“おまじない”は一過性の噂のようなものではなく、彼の在学中、みっちり3年間流行っていたというのだ。しかも彼らの間で大流行したそれは、兄姉や近所に住む卒業生から受け継いだものらしい。
「なんなら今でもある。弟もしてたし、友達も皆してるって」
彼と弟は少し年が離れている。春先に、今年から中学生1年生だと聞いた気がする。
「それは……、長くない?」
「ね、あんまりないでしょ」
確かに、特定のおまじないが少なくとも十数年に渡って熱心に行われているのは、少し不気味な学校と言わざるを得ない。というかそんなに廃らないなら、“流行”と言っていいのかも怪しい。
彼自身はちょっと変わった思い出、くらいの感覚で話し始めたのだろう。その口調はいたって普通で、茶化した風でもなければ怖がっている様子もない。
「それってどんなの?」
「えーと、紙を用意して、縦線を……何本だったっけ」
彼は記憶を探りながら、丁寧な手つきでつるの部分に指をかけ、そっと眼鏡を外した。そのまま胸ポケットから眼鏡拭きを取り出し、レンズを拭き上げている。
何故か彼がすると妙に爺臭さを感じる挙動なのだが、それはきっと彼の優等生めいた外見――染めていない髪や色白な肌、皺がなくシンプルなシャツとスラックスといった装いのせいだろう。高校生にも見える外見と、大人びた仕草のギャップが少し面白い。
「だめだ、意外と忘れてる。まあでも、君だってそんなに興味ないでしょ?」
彼の指摘は図星だった。
「……そうね」
詳細を聞いたところで、思い当たる節が無いことは分かり切っていた。幼少期からそういった類のものに興味が持てず、女児向け雑誌に必ずある占いやおまじないのページすら、完全に読み飛ばしていた子どもだった。未だにそちら方面には、相当疎い自覚がある。
まさか顔に出るほどとは、私も今知ったけど。
「要はよくある、何個かの手順を踏んだら願い事が叶います、みたいな。万能な感じ」
「なるほど。ありふれたおまじないがやたら長く流行っていて、客観的に見て異様だったな、って話ね」
「そう、それだけ。あとは中学生らしく、友達とか恋愛関係をおまじないでどうにかしようとして、拗らせてトラブルに、とかね。
……あ、足はもう大丈夫?少し混んできたし、出ようか」
ごく自然な所作で、彼は伝票を手に取ってレジに向かう。
下ろしたての靴を履いて待ち合わせ場所に現れた私を見てさりげなく近くのカフェを調べてくれたり、雑談を交わしながらも周囲の様子に気を配ったりができるところを見ると、毎回新鮮に素敵だな、と感じる。
異性に慣れてないと自分では言っていたが、こういった気遣いができる性格は、きっと過去にも誰かを惹き付けたと思う。
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