近づいてくる事故物件

 どう思うだろうかって話。


 友人、ここでは仮にAとしよう。Aが仕事の都合でその時住んでいたアパートを引っ越しことになった。


 話の始まりはすっかり片付いたAの部屋に俺が遊びに行った時のことだ。


 気軽には行けない距離に一人暮らしをしていたAと会うのは久しぶりだった。何もない部屋で近況報告のような他愛の話をしていた。


 そして話はAの新居の話になった。


「新居はどの辺りなんだ?」


「〇〇市ってとこ。地元にはだいぶ近くなるよ」


 ほら、と言ってスマホで地図を表示して見せてくれた。


「この辺か、通ったことあるよ」


 俺はそんな反応をしていた。そのときふと、いたずら心が湧いたんだ。


「この建物事故物件じゃないかどうか調べたか?」


「調べてないけど、流石に大丈夫だろ」


 そんな事を言いながらAはスマホで事故物件掲載サイトを開いて新居を検索する。


「これ、事故物件のマークついてね?」


「いや、これは隣の建物だな」


 そう言いながらAは詳細を開く。読み込んだAは


「なんだ、そういうことか」


と言った。事故物件の詳細はAの新居となるアパートの隣のマンションの駐車場で人が亡くなったそうだ。死因は病気とのこと。


 Aは気にするような事ではないと言う。事件性があるならまだしも病気や老衰で亡くなることはある種自然なことであり恐ることではないと。それが恐るべき事故物件なら自分の実家もそうなるとも言っていた。


「それもそうだな」


と俺は同意したのと同時に少しホッとした。冗談で変な事を聞いて気を悪くしてしまったら申し訳ないと思っていたからだ。


「ってかここはどうなんだろう」


 そう言ってAはこの物件を調べ始めた。


「違うけど…」


と言ってから顔を顰めて画面をこっちに見せてくる。


「4件隣が不審死だって」


 Aの言う通り4件隣に事故物件のマークがついていた。そして詳細は不審死の一言のみ。


「こういう変なのが一番嫌だな」


とAは肩をすくめていた。


「まあ引っ越すんだし気にすることないよ」


 俺は多分そんな事を言ったと思う。


 それから1年経たないあたりのことだった。Aがまた引っ越すことになった。


 その新居に引っ越したばかりの頃、俺はそこに遊びに行った。


「今度はまた遠くなったな」


「一年だけだけどな。前の支部で欠員が出て、その穴埋めに駆り出されたんだ」


「それは大変だな」


「まあな、でも仕方ない」


「そうは言え、いい部屋じゃないか。結構いい家賃がかかるんじゃないか?」


「そうなんだけど……急だったからここしか見つからなくてな」


 そんな話をしているとAが思い出したように


「そうだ、ここ事故物件なんだよ」


と言った。俺が驚いていると


「隣の部屋だけどね」


と付け加える。


「何があったんだ?」


「首吊りだって。もう10年近く前だけど」


「気持ち悪くないのか?」


「その隣の人はもう4年住んでるんだって。その前の人も3年は住んだって。つまり何にもないってことだ」


 Aは何も気にしていない様子だった。


 また時は経ち1年後Aはまた引っ越しをした。この話の1回目に引っ越した辺りに戻って来たのだ。


 引っ越した時に新居に俺を呼ぶことが半ば恒例行事のようになっていたこともあってか引っ越しが終わったその日の夜にすぐ電話がかかってきた。


「おー久しぶり、どうしたんだ?」


「前に会った時言っただろ?1年で戻ってくるって。それで前と同じあたりに引っ越しが終わったんだよ


「ああそんな事言ってたな。また遊びに行くよ」


「そうか、じつは誘おうと思って電話したんだよ」


 そんなことを話していると以前の会話が頭の中に蘇ってきた。


「今度もまた事故物件か?」


「馬鹿を言うな。そうそう事故物件なんかねえよ。そんなことより前よりも広くて綺麗な部屋だぞ。言いたり来たりさせたのを気にしてるのか会社が補助金を出してくれたからちょっといいところに住んだんだ」


「へぇ、それはラッキーだったな」


「だろ?それでさ」


 話をしている途中、電話越しでも聞こえるほど大きな


『バンッ』


という音が聞こえた。


「どうした?大丈夫か?」


「いや……ベランダの方からだ」


 ガタガタと何かを動かす音、それから扉を引く音が聞こえる。


「なあ」


「どうした?」


「事故物件になった」


「なった?」


 その時はそこで電話が切れてしまった。


 後日、あらためてAと話ができた時に俺はその日何があったかを聞いた。


 なんでもマンションの屋上から投身した人がいたらしい。そしてその人がどう言うわけかAの部屋のベランダに叩きつけられて死んだそうだ。


 あの日の電話越しにも聞こえたバンッという大きな音はベランダにその人が叩きつけられた音だったのだ。


 俺はAになんと声をかければいいか分からずいるとAが


「次は俺なのかな」


と呟いた。


 なんのことか分からず、俺が聞き返すと


「一番初めは4件隣、二番目は隣の建物の駐車場、三番目は隣の部屋、今回は俺の部屋のベランダ。なら次死ぬのは俺やろ」


 俺は思いもよらぬことを言うAに呆気に取られてしまった。それからは考えすぎだと言ってAを慰めたがAは絶対に次は自分だと言って聞かなかった。


 俺は気休めを言ったつもりはない。本心からAの考えすぎだと思っている。


 でも気味が悪いってのも本心。


 だから聞いてみたいんです。


 事故物件が近づいてくるなんてことありえると思いますか?

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