特別な品で

紅鷺える

特別な品で

「誕生日おめでとう〜!」


 幼馴染のこいつは毎年毎年、律儀に私の誕生日を祝ってくれる。お菓子作りが趣味で、プレゼントは毎回手作りのホールケーキ。私は軽く十回は食べ祝われてきている。

 逆にこいつの誕生日もささやかに祝ってやるけど、さすがにここまでモチベーション高くはやれない。ケーキはお店のものを買うし、渡すプレゼントもハンドクリームなんかでごまかしている。


「うん、ありがとね〜……」


「あれ? なんかいうほど嬉しそうじゃないね」


 そう言ってこいつは腕組みしながら首を傾げる。幼馴染ゆえに付き合いが長いからか、私の考えはすぐに見透かされてしまった。


「まあね。もう二十五にもなると、誕生日を素直に喜べないよ」


「なんで?」


「だってさ、こっからの人生はもう不利になってく一方じゃん?」


 十八歳や二十歳ハタチと違って、特に何かが解禁されるわけでもなく。代わりに『アラサー』のレッテルを貼られるようになるしで、いいことなんてない。


「逆に、あんたはなんでそんなテンション高いの? あんたの誕生日でもないのに」


「だってケーキ食べられるじゃん」


 そんな子どもみたいな理由でかよ。まあ、お菓子作りが趣味なら、その分食べる方も好きでもおかしくないか。にしても、私の誕生日に毎回作らなくたっていいけど。


「だってケーキだよ? 特別感あるじゃん」


「そりゃあるけども。だから毎年、誕生日をわざわざ祝ってくれるんだもんね?」


 彼は黙って首を縦に振る。以前、何回目かの誕生日会でそうだと答えてくれた。

 誕生日という特別な日は、自分にとって特別なケーキでお祝いしたいらしい。


「じゃあさ、他のやつの誕生日もこうやって祝ってんの?」


「ううん。こんなささやかなお祝い、ずっと受け入れてくれるのはキミだけだよ」


 彼は明らかにぎこちない笑顔を見せた後、少しだけうつむく。ヤバッ、思いがけずまずいこと言っちゃったかもなぁ……。


「そっか……なんかごめん」


「謝んなくていいよ。僕が好きでやってんだし」


「知ってる。歳は取りたくないけどさ、あんたがこうやって毎年祝ってくれるのは嬉しいよ。ケーキも食べられるし」


「やっぱりケーキ好きなんじゃん」


 ケーキなんて大体の人が好きでしょうに。少なくとも私は大好きだ。

 あまりにも大量な生クリームも、不格好ないちごたちも、たとえ砂糖と塩を間違えていたとしても、私は大好きなんだ……!


「ケーキっていうか、まあ……私甘党だし」


「そっか。じゃあもっと高いケーキじゃないと満足できないかもねぇ」


「そんなこと言って、自分が食べたいだけでしょ」


「キミと、だよ」


 ――は? 私と? 私は別にお高いケーキが食べたいわけじゃなくて、あんたの作ったやつが……てか、値が張るやつを食べたところで、逆に満足できないっての!


「私、別に値段とかにこだわりないよ? ほら、あんたの作ってくれるケーキに毎年美味い美味いって言ってんじゃん? だから違いとか分かんないんだって」


「……そうじゃなくて。はい」


 彼は私の前でひざまずいたかと思えば、ポケットから小さな箱を取り出した。


「高いケーキだと切るのが大変だからさ……一緒に切ってくれるかな?」


「ああ、ってそういうこと!? 物理的な話? そっかぁ……じゃあいずれ二人のお祝いとして、一緒にしよっか」


 ――まだケーキを食べてないってのに、もうずいぶんと甘ったるいなぁ。

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