第17話 堕天
ガラード邸――
薄暗い書斎に、
父であるガラード氏と、
息子のミルドが並んで座っていた。
ガラード「オリバー……コイツ、なかなか曲者だな…」
ガラード氏の低く重い声が書斎に響く。
眼鏡の奥で冷たい光が瞬いた。
ガラード氏は深く息を吐き、
机に広げた資料の山を指でなぞった。
「コイツ、ただの基礎クラス生ではない。
初等部の仮面を被った……
いや、仮面を被っているのはこっちの方か…」
なぞった指は冒険者リストの上で止まった。
ガラード「まさか、隠れて冒険者をやっているとは。
しかも銅ランクだ…。
このガッツって奴も同様だな。コイツも利用させてもらおう…。
まずは、我々をこの状況に追い込んだ国に報復をせねばな…」
ミルドの眉がきゅっと寄った。
ガラード氏の指が資料の上でゆっくりと円を描く。
計画はすでに頭の中で完成していた。
「しかし…魔導学院も騎士学校も冒険者ギルドも、
全ては国の管轄だというのに…
表向きでは手厚い教育を謳っている国も、
裏では子供にこんな仕事をやらせているなんてなぁ…」
チリン―――
微かな鈴の音と共に、黒服の影が書斎に現れた。
黒服「お呼びでしょうか、旦那様」
ガラード「まずは、国だ。魔導学院と騎士学校は生徒を、
道具のように冒険者ギルドで働かせ
、使えなくなったら捨て、また新しい生徒…
いや、道具を仕入れている…。
という情報を、掴んだ証拠と共に国中に触れ回れ」
黒服「直ちに」
そして物音を一切立てずに闇へと消えた。
ガラード商会は処分を受けていても、
国内での力はいまだ絶大だ。
そんな情報が回ってしまえば国は一気に不信感で溢れる。
ガラード氏は邪悪に微笑んだ。
父のその姿を見たミルドは震えていた。
昔の優しかった父はもういない。
そのことを潜在的に悟ったミルドは、
自らが抱いた怒りを忘れるほどの不安と恐怖、
そして後悔に少しずつ心を蝕まれていった。
その夜―――。
ミルドは眠れずにいた。
あの父の圧倒的な恐怖。
しかし、もう後には戻れない。やるしかない。
ミルドは混乱を押し殺すように…
ゆっくりと心を悪意に染めていった。
そうすることで罪の意識から逃れられた。
楽になれた。
そう考えているうちにいつの間にか眠りについていた。
そして、ミルドは夢を見ていた―――。
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