名案の予感 Shiho
家に着いて、部屋のドアを閉めた。これでようやく息が出来る。
竹川君の部活が終わるまで時間をつぶすはずが、心の中はさっきの帰り道でいっぱいになっていた。
わたしは帰ったフリをして後ろから回り込み、亜衣ちゃんと夜見川君の姿をこっそりと見守っていた。いや、これは別に野次馬とかじゃないよ? ただ、あの二人が心配で。そう、心配でそうしたの。
尾行がバレないように塀の影に隠れたり、木陰に溶け込んで遠くから覗いてたんだけど……あーもう、あの二人シャイ過ぎ。何度も途中で指示を出しそうになっては自重した。
さすがに手ぐらい繋ぎなよって思ったけど、いなくなったはずのあたしが急に出てくるわけにもいかない。三人でいるうちからそう言えば良かった。
しかし、見守る方もなかなか疲れるな。あの二人、きっと肝試しでもキスしたりとか絶対にしてないんだろうな。天然記念物並みのピュアさだなって思うけど。
とりあえず、ちょっと休もう。
ベッドにドサッと倒れ込んで、天井を見つめる。夕陽がカーテン越しに部屋を染めて、うっすらとオレンジ色になっている。
夏が終わってすぐの夕暮れって、なんだか切なくなるよね。あんだけ暑さが憎らしかったのに、夏が行っちゃったってちょっと悲しくなるの。それが大切な誰かと別れたみたいに感じて、時々無性に寂しくなる時がある。
ねえ亜衣ちゃん、夜見川君の横顔をチラチラ見てるの、バレバレだったよ。
夜見川君も、時々亜衣ちゃんの方を気にしてるみたいで……。手を繋ぎそうで繋がない。どっちかが手を出せば絶対に握り返すくせに。
はたから見ていても、つかず離れずで超もどかしい。この前の肝試しで二人ともお互いを意識しはじめたはずなのに、なんで進まないのー?
――夜見川君、わたし、あなたのことが好きだったの。
――俺もだよ、上城。君の顔を見るたびに、この胸が張り裂けそうなくらい苦しかった。もうこんな思いはしたくない。二人で、この先もずっと一緒に生きてくれないか?
あたしの妄想の中で手を取り合う二人。そのまま見つめ合って、お互いに目を閉じる。
ああああああああ!!
枕を抱きしめて、ゴロゴロ転がる。あたしが自分で考えた妄想なのに、甘過ぎて死にそうになる。真面目な二人がそんな風にくっついたら最高なのに。
竹川君とあたしはあっという間にくっついちゃったけど、あの星空の下でドキドキしたのと同じように、亜衣ちゃんたちも同じトキメキを覚えたはず。その勢いであの二人もくっついたら最高なのに。
夜見川君なんかクールぶってるけど、亜衣ちゃんの笑顔見て照れてるの、絶対に。でも、あの鈍感っぷりだと亜衣ちゃんが勇気出さない限り、永遠にこのままかも……。
あー、なんかかわいそう。あたし、親友として見てられないよ。
ベッドから起き上がって、鏡の前に立つ。ポケベルをいじりながら、考える。どうやってあの二人をくっつけようかな。学芸会とかで一緒に準備させるとか?
いや、それじゃ遅いかも。きっと今日みたいに地味に地味に作業だけして、日常的な会話だけして老人のお茶会みたいに終わる。それだと何も変わらないじゃない。
もっとダイレクトに……あ、なんか思いついたかも。
これなら、きっと……。
名案が浮かんで、思わずニヤニヤしちゃう。さっそくお迎えに行った時、竹川君に相談してみようか。
ふふふ、これは楽しみ。亜衣ちゃんの恋、絶対叶えてあげるんだから。二人の幸せを、あたしが後押ししてあげよう。
窓を見ると、いつもよりも早く夕陽が沈みかけている。ようし明日から、作戦開始だ。
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