神淵の夜叉姫 〜最強中二病JKによる、雑談ダンジョン魅せプレイ攻略配信バズり録〜

空夜風あきら

第一章 知られざる絶対強者……ついに知られる!

第1話 深淵なる配信者……その名は〝夜叉姫〟!



 ダンジョンの目的の階層に転移してきたので、私は自分のキャラを脳内で〝ボク〟に切り替えて——配信を開始する。


「さて、みんな……ごきげんよう。今宵こよいもまた、この夜叉姫やしゃひめ様による深淵しんえんなる配信の時間がやってきたのだよ」


 宙に浮かべた浮遊型自動撮影機ドローンカメラに向かって恒例の挨拶をすると……数少ない待機視聴者たちが、配信の開始に合わせて一斉にコメントしてくる。


〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:夜ちゃんこんばんわ〜。待ってました〜。今宵も漆黒のゴシックドレスアーマーが最高にキマってるよ!〉


〈探索兵長:こんばんは、姫。まあ、今は昼ですけれどね〉


〈ニートの無職ん:おうあくしろよ、殺すぞ〉


〈浮世の社畜ん:おーひさびさスタートからリアタイいけるわ〜。ひいさまおひさ〜〉


〈アンチ太郎:ふん、きてやったぞ、喜べよ〉


〈アンチ二号:相変わらず、なんの予告も無しにいきなり始めるよね。。。誰が観んのこんなん〉


〈流浪の探索者:休日でウキウキのワイが来ましたよっと。さてさて、今日はどんなぶっ飛んだ光景が見られんのかな?〉


〈もっこり助兵衛スケベえ:んー相変わらず可愛いねぇやっきゅんてば、ああもうたまんねぇクンクンハァハァ……ハァ……ねぇ今日のパンツは何色? おねーさんにおせーて?〉


〈キチガイバーサーカー:時゛間゛は゛自゛分゛か゛ら゛や゛っ゛て゛こ゛な゛い゛ん゛だ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!゛!゛!゛!゛〉


〈ツッコミ番長:早くもキチ◯イが荒ぶってて草〉


〈†漆黒の堕天使ブラックエンジェル†:よう、†深淵†の。今日もこの†漆黒の堕天使ブラックエンジェル†が、君の動画を観に馳せ参じたぜ〉


〈試練の代行者:(^^)/〉


〈試練の監視者(部下A):夜叉姫どの、ごきげんよう〉


〈病み垢@死にたい盛りのロンリーロリータ:ああ死にたい死にたい死にたい死にたい、、、いいよね夜叉ちゃんは挨拶するだけでこれだけちやほやされて〉


〈♡←(〃ω〃):よるピおはよう♡配信みてるよ♡〉


〈ねっこ寝子ねこ:やっしゃんしゃん、こんばんは〜〉


〈暇人預言者X:来たな……ついに伝説の配信の——その時が。そう——まだ誰も、この時は気がついていなかった……。彼女——夜叉姫がまさか、この日を境に、〝あんなこと〟になってしまうだなんてことは……誰も……知らなかった。ただ一人……この預言者Xを除いては——!〉


 数少ない私の視聴者リスナーたち……。

 変人ばかりだけれど、大事にしてやらねば……。

 だってコイツらくらいしか、私の配信を観て反応してくれる物好きなんていないのだから。


 私は一人一人のコメントを拾って、丁寧に返事——という名の、いつものやり取りをしていく。


「まずは——ラブちゃ〜ん、こんばんは〜。いつも褒めてくれてありがとね。そういうラブちゃんも……相変わらず名前長いねぇ」


〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:夜ちゅわ〜ん、愛してるよ♡〉


 ——正直、毎回どんな顔してこれ打ってんのか、すっごい気になる……。


「お次に——兵長へいちょーもこんばんは。てかさ、いつも言ってるけど、定型文の挨拶にマジレスしてツッコまないでよ」


〈探索兵長:てへぺろ〉


 ——兵長のキャラもいまだに分からない。真面目なフリしてボケるからなぁ……。


「んで——黙れニート、お前を殺すぞ」


〈ニートの無職ん:雑にキレてて草〉


 ——ニートはニート。こいつはほんと、いつもいるよね。皆勤賞だ。まあ、祝ってやることは絶対ないけど。


「おー——しゃち君、ほんとに久しぶり〜。いよいよ過労死したのかと心配してたよ〜。なんて、冗談だけどね」


〈浮世の社畜ん:それが冗談にならないのがオレのリアルなんだが、まあいいわ〉


 ——いいのかよ……本気で心配になるんだけれど。


「んでぇ——アン太さぁ……ツンデレなの? キモイよ?」


〈アンチ太郎:ツンデレはお前だろ? 照れんなよ〉


 ——なに言ってんだコイツ。


「そして——二号。誰が観るのって、お前が観てんじゃん」


〈アンチ二号:観てやってんだろ、感謝しろよヤシャコ〉


 ——つったく……このダブルアンチどもが。


「さて次は——流の字、きたね。今日は休みかぁ、そっかぁ良かったね」


〈流浪の探索者:せやで、夜の字。ワイは今日休みや。せやからゆっくり観たってんねや〉


 ——関西人なのかなー、たぶん違うよなー、だってコイツの関西弁なんか変なんだもん。ってのは関西人じゃない私にも分かる。てか流浪るろうであって浪速なにわじゃないんよ、お前は。


「はぁ——もこすけはいつも通りか。それって、パンツ履いてないよって言ったらどーすんのさ?」


〈もっこり助兵衛スケベえ:ブシャー! バタン、きゅー……(鼻血を噴き出してぶっ倒れる)〉


 ——もはや職人芸だね……どうでもいいけど、お前はおねーさんじゃなくて絶対オッサンだろ。まあ、オッサンだろうがどうでもいいけど。お前のネーミングセンスに関してだけは、私はいつも脱帽しているからね。


「次——は、……えっと、番長がすでにツッコんでくれてるから、キッチーのことはスルーするよ。——あ、番長はこんばんは」


〈ツッコミ番長:ん、ばんわー。ま、昼だけどなw〉


 ——律儀にツッコむよねぇー、絶対こっちのが関西だな。出身か在住かは知らんけど。たぶんそう。


「あら——†漆黒†の。キミ、今宵もボクの配信を観にきてくれたんだね。嬉しいよ……ありがとう」


〈†漆黒の堕天使ブラックエンジェル†:ふっ、気にするな、それがオレの運命さだめさ〉


 ——やっすい運命さだめだなぁオイ……律儀にルビまで振ってくれてありがとだよ、ほんと。……まあ、そうはいってもお互いに同類だからかな、自分でもどうやってんのか知らんけど、なんかこれ発音できちゃうんだよなぁ。


「あ——代行だいこーさんと部下Aも、ごきげんよう」


〈試練の代行者:(^^)〉

 

〈試練の監視者(部下A):ですです〉


 ——この〝試練〟の二人組は謎。たぶんリアルでも知り合いなんだろうけど……他はマジで謎。


「そして——ロロリータ、死んではダメ、生きなさい。ボクの配信を観るのが生きがいでしょ?」


〈病み垢@死にたい盛りのロンリーロリータ:そんな生きがいしかないのやだぁぁぁぁぁ!!!〉


 ——生きがいは生きがいなのか。喜んでいいのかなぁ、これは。つーか、嫌がるくらいなら他の生きがいも見つけてくれ。


「はーい——わたピもごきげんよう♡ 観てくれるの嬉しい♡」


〈♡←(〃ω〃):またそんなこと言って♡浮気者が♡わたピだけ見てなさい♡縄でしばるからね♡〉


 ——こわいよ……♡


「んんー——ねっこねっこねー、こんばんわ〜、いつもありがと〜」


〈ねっこ寝子ねこ:今日も楽しみにしてるね〉


 ——はぁ〜、寝子ねこさんはほんと癒しだわぁ。普通の人いるのほんと助かるぅ……。


「最後は——暇人ヒマジンか。ああ、またなんか言ってる……けど、あれ、今日はなんかいつもと違う? いや、違わないか……? いつも通りだね?」


〈暇人預言者X:いいや、違うとも。それは君が一番よく知っているはずだろう? さぁ、今日の配信内容を言ってくれたまえ!〉


 ——暇人が「意味深なようで、それっぽいことを言ってるだけ」なのは、いつものことだけれど……でも、今日は確かに、いつもとちょっと違う配信をするつもりだったんだよね。これは……偶然? ……まあ偶然か。


「さて……ならさっそく、今日の配信内容を発表させてもらうよ」


 言いながら私は、ドローンカメラを引き連れつつ、歩き始める。


「今日はね、この先にいるボスと戦うんだけれど……いつもの配信とは違う感じに戦おうと思ってるんだ」


〈流浪の探索者:へえ、ほな、いつもみたいな魅せプレイ(とか言いつつ、謎のパワーで無双するやつ)じゃないんか……じゃあ、何をするつもりなんや?〉


「失礼だな、いつもの華麗な討伐だって魅せプレイでしょ。でも今回はね、ちょっと攻略法について解説しようと思うんだよね。だから魅せプレイというよりは、攻略動画って感じになるのかな?」


〈ニートの無職ん:いつものはただの虐殺なんですが、アンタ自覚なかったんスか?〉

 

〈アンチ太郎:華麗な魅せプレイ(デカい斧を振り回すだけ)〉

 

〈アンチ二号:魔眼さえ使っとけばスタイリッシュだと思ってるの、バカ過ぎるからやめたほうがいいからね〉


 ——うっせぇなぁコイツら……。


「……まあとにかく、今回はいつもと違うの。なんかいい感じの攻略法を見つけちゃったから、ついつい発表したくなっちゃってね。——まあ、お前らみたいなダメ人間しか観てないのに、わざわざ配信する意味とかあんの? ってのは、ボクも思ったけどさ……そんなことはもういいんだよ。どうせボクが好きでやってるだけのチャンネルなんだから」


〈ニートの無職ん:ならダメ人間しか観てくれない底辺配信者の貴様はなんなんだ? ゴミ人間か?〉


〈アンチ太郎:チャンネル登録者数たった二桁のカスが、わきまえろよ〉


〈アンチ二号:どうせしょうもない攻略法なんでしょ。笑ってやるから見せてみな〉


「出たよ、嬉々として噛みついてきやがって——この三大ダメ人間どもが……」


 ——いかんいかん……コイツらに反応してたら先に進まないから、とっとと言ってしまおう。


「だからぁ……いい? 今回の動画では、この先のボスエリアにいるエリアボスである九頭大蛇ノナプルヘッドヒュドラの、一番倒しやすい戦い方を、このボク——夜叉姫様が、お前らに教えてやろうって話なのよさ」


〈ニートの無職ん:いきなりなんちゃらヒュドラなんて聞いたこともないモンスターの名前を、さも当たり前みたいに出してくる——これが夜叉姫クオリティ〉


〈アンチ太郎:これだからダンジョン配信じゃなくてゲーム実況とか言われちゃうんだけどな〉


〈アンチ二号:攻略法の前に、もうちょいマシな名前考えてから出直して来なさいよ〉


〈流浪の探索者:現役探索者のワイ、毎度のことながら、またまた聞いたこともないモンスターの名前が出てきて困惑中(n回目)〉


〈ラブ夜叉姫@好き好き大好き♡ズッキュン♡キュン♡:いまだに口調が定まらない夜ちゃんもステキ♡〉


〈暇人預言者X:はぁ、これだから愚民どもは……気にするな夜叉姫、とっとと始めてしまえ〉


 ——はいはい……言われなくても、気にせず始めちゃうもんね。


 そして私は、いかにも軽い足取りで、ボスエリアに足を踏み入れた。


 

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