第14話 アレ、俺なんかやっちゃいました?

 「ところでガルド」


 無意味に人差し指をクルクルと回しながら悠真が呼びかける。


 「どうした?」

 「火は出せるのか?」

 「当たり前だろう」


 言うやいなや、上に向けた右手の平から炎の塊が燃え上がる。他の二人と違い距離をとっても熱の圧力が強く、肌がジリジリと焼けるようだ。


 「呪文の詠唱無しに出せるんだな、さっきの戦闘……なんでその火を使わなかったんだ?」

 「単純に弱いからだ、スライムすら倒せん……いや、スライムくらいならギリギリか?」


 握り込んだ右手に炎が消し潰される、辺りには空気が焦がされた匂いが充満した。


 「俺はあいにく魔術を使えないんだが……どんな感じで使うんだ?」

 「オッサン、面白いことを聞くな。そんなことを聞かれたのは初めてだ」


 口角を歪めてニヤリと笑うガルド。


 「まぁ、見様見真似でなんとなくだな」

 「なんとなくだって?」

 「そうだ、親から子へ代々伝わるものだ」


 悠真が他の二人に視線を送った。


 「そうなのか?」

 「えぇ、別におかしい話でも有りませんよ。僕もそうですから」

 「アタシもやってたらできたわね」


 (つまり仕組みを知らないで慣れで魔術を使ってるのか……普通の人間がなんとなく二本足で立って歩けるのと同じ……?)


 「おや、ユーマさん。また考え事ですか?」

 「ちょっとな、試してみたいことが有るんだが……ガルド良いか?」

 「なんだ?面白そうなら乗ってやる」


 ガルドの瞳には好奇心の火が静かに燃えていた。


 「ありがとう、さっきみたいに火を出せるか?」

 「軽いもんだ」


 またもや、ガルドの右手に火が灯り、その形を悠真はジッと見つめている。


 「火を操れるか?例えば形を細長くとか……」

 「妙なお願いだな?」


 特に力んだりもせず、炎は細長く柔らかい揺らめきへと変わる。


 「コレで良いか?」

 「さっきより熱く無くなったな」

 「それはそうだろう、小さくなったんだからな」

 「そうか……左手も同じようにできるか?」


 返事も無く、ガルドの左手に細長い炎が燃え上がる。


 「うん、よし。こっから上手くいくかは分からんが……両手を近づけてくれ」


 ガルドの眉間にシワが寄る、意味が分からなそうに訝しんでいるが、とりあえず両手を水を掬うように近づけた。


 「やったぞ」

 「付き合ってもらって悪いな、次は左手の火を右手に移して合体させられるか?火の濃度を濃くする感じで」


 造作もないとばかりに右手に炎を集める、先程より火力が増している。


 「熱いな……」

 「当たり前だろう?二つ分だぞ?」

 「そう、当たり前だ……当たり前にできてるんだ」


 顎に手を当てブツブツと呟く悠真を、不気味そうにガルドが見つめている。


 「ガルド、さっきの火を仮にレベル1、今の火をレベル2とする。良いか?」

 「なんの意味が?」

 「まぁまぁ、前提条件のすり合わせだ。火をレベル1にしてくれ」


 途端に、ガルドが出す火が弱まる。


 「次、レベル2」


 言われたとおりに火力を調節するガルド。


 「次、レベル3」

 「何?レベル3は聞いてないぞ?」

 「さっきやったことを思い返してくれ、左手に出したレベル1の火が右手の火に合体する、想像するだけでいい」

 「いいだろう、やってみよう」


 ガルドは目を閉じ、頭の中で左手の炎を右手に移す、いざ目を開けると……右手の炎は先程より勢いを増していた。今までに無かった経験に思わず口が開く。


 「できたな…じゃあレベル4、5、6」


 条件反射のように、火力が上がっていく。しかし熱の上昇と合わせてガルドの疲労も増していき、無言で炎を消した。慌てて悠真が謝る。


 「スマン、セリアを見て察するべきだった。魔術って使えば使うほど疲れるんだよな」

 「そうだ、そして疲れるほどの威力の魔術は本来無詠唱では出せん」

 「出したじゃないか?」

 「オッサン、お前が出させたんだ」 


 やり取りを物珍しげに見ていたレオンが呟く。


 「ユーマさん、アナタ何者ですか?」

 「今のところ、多分異世界人だ」


 グッタリと力なくセリアが呻いた。


 「そういうことじゃ無いわよ……」

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