「馬を見る」力を元馬主の大叔父から買われ、その道へ進むこととなった久世悠真。だが、与えられたものは小さな牧場と、実力の程も知れないデビュー前の牝馬1頭だけ。かくして勝ち確には程遠い状況の中でスタートゲートは開き、新米馬主と若馬による人馬一体の物語が走り出す。
本作の始まりはとにかく問題ばかりで、とても戦いを始められる状況ではありません。なのに驚くほどの「わくわく」に満ちているのはそう、悠真さんの肚がしっかり据わっているからこそ。
彼は五里霧中な競馬という世界のただ中にしかと立ち、先を見極めることを自らに課していて、牝馬シュテーリヒトは彼が指す先へひた走る。それだけの、それだからこそのストーリーの太さにまず魅せられたのですが。
両者が言葉を越えて結ぶ絆が尊い! さらに周囲の人たちと結んでいく縁が頼もしい! それを手繰るようにさらに遠くへ、先へと進んでいく人と馬の背がまぶしくて、気づけばすっかり魅了されていましたよ。
競馬を愛する方は無論のこと、人間ドラマ好きな方にもお薦めの一作です。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)