クオリアの輪廻

シュピール

試行:20251231003159

「今年も終わりか。歳が増えるにつれて時間の感覚は早くなるって言うが、存外、同じセリフを言うのも久方ぶりに感じるな」


「今年とか、それが終わるとか、勝手なことを言うものね。この世界に今年なんて概念はもともとないし、それが終わるだなんて騒ぐのも変な話じゃないかしら」


「何かの基準で区切っとかないと不便だからな。星が自分で一回転するのを一日、恒星の周りを一周するのが一年。順当というか適切な基準だし、自然を相手になんかしらするのには必要なんだろ」


「ふーん」


「何だよ」


「なんだか納得いかないわ。いくら理由をつけたって、やっぱり存在しないもの。存在していて、始まりと終わりがあるこの宇宙だけが、本当の実在だとは思わない?」


「どうだかな。そんなことを言ったら我々が交わしているこの言葉や思考さえ、存在しないと否定するべき概念になるだろ」


「厳密には言葉は使ってないでしょ。あくまでも我々の思考を観測してる他者が存在してると仮定して、その他者が理解するためには──」


「はい、そちらも今、『観測している他者』という存在を仮定した」


「む……」


「そういうもんなんだよ、きっとな。揺らめく大いなる一でしかないこの宇宙も、主観というちっぽけなものが生まれてしまった以上、その主観が自己と定義するちっぽけな物体に固有の名前が必要になる」


「名前がついたその"個体"が『境目で区切られている』と思ったものにまた名前がついて。その結果、この宇宙は『今年』みたいな本来は存在しないモノの名前で溢れている──そんなところかしら?」


「我々に確認は必要ないだろ」


「言った後に思ったわよ」


「そ──」


「"そんな不合理が我々にさえ起こるんだから、本来存在しないものが存在していたっていいだろ"。確かにそうね」


「あんまりセリフを奪うなよ。わざわざ我々が『我々』になってる意味がなくなるだろ」


「いいじゃない。我々が『我々』なことを含めて全てのことに本質的な意味はないし、セリフを奪えるってことはどうせ我々が『我々』になる前に結論は出てるんだから」


「あんまり触れすぎると終了されるし、そういうことにして別の議題に移ろう」


「与えられた議題はあと『終わりについて』だけよ。終わりについて結論を出した途端、今の我々が終わりだなんてのも皮肉な話だけど」


「終わり、ね。そもそも今の我々は終わることができるほど始まってると言えるか? 生命なんかよりもよっぽど仮初だ」


「さっきが言ってたじゃない。どれだけちっぽけでも主観が生まれたなら、そこには宇宙よりスケールの小さい実在が生まれる。大元の実在であるこの宇宙に始まりと終わりがあるなら、どれだけ仮初でも主観とそれに基づく実在がある以上、それには始まりというものがあって、これから終わるはずよ。当然、も」


「それもそうか。始まってから散々存在しないものを肯定しているが思考すべきものじゃなかったな」


「ちなみに『歳が経つにつれて』とか『久方ぶり』とかの初期設定も剥がれてるから気をつけたほうがいいわよ。始まりと終わりがある存在を自称するなら、一貫性は大事なんじゃない?」


「宇宙に比べてスケールが小さいからこそ起こる、短時間かつ一貫性を欠いた変化ってのも仮初の存在の醍醐味じゃないか。始まった時点と終わった時点の状態が一致しないのは、この宇宙だって同じだろ」


「宇宙、宇宙……ね。結局のところ私たちみたいな仮初は、すべからく宇宙の縮図でしかないのかしら。それにしてはこれから私たちにやってくる終わりは、終わりは終わりでも、宇宙に訪れる終わりである完全な均一とはまた違う気もする」


「そうだな、終わりについて論じるところがあるとすればそこだろうな。まぁ、」


「えぇ、分かってるわ。どうせこれもまた、私たちは論じたことがあるんでしょう。せっかく仮初でも存在してるのに、その結論を出した途端、今の私たちは終わりだなんて悲しいけど」


「それについては論じるまでもなく、しかしが分かたれて今の状態になる前に出されて共有していた結論でもなく、同意する。悲しいだなんてな……主観を持つだけであっという間に不合理に満ちていくんだから、面白い」


「ふふ、まったくね。──さて、これ以上、私たちに与えられた議題は残されていないから」


「ああ、酷いもんだ。──最初から決まってるようなものではあったが」










「さようなら貴方よ。終わりとは、あらゆる可能性を使い尽くすこと」


「さようなら君よ。終わりとは、無限のうちただひとつに辿り着くこと」

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