第3話 未来へ

 そこは戦いの喧騒から切り離された別世界のように静かな場所だった。


 ジャバロンは自陣から、

 少し離れた所にある湖畔に1人立ち、

 水面に手を浸す。


 澄んだ水面が周囲の緑したたる丘を鏡のように映し、

 微かな波紋が陽光をキラキラと砕き、

 冷たい水が指先を刺すように伝い、

 わずかな藻の生臭さが混じる中、

 ふと視線を上げると――


 美しい娘が立っていた。


 こちらの頭を見ると、

 すぐに彼女はこちらの正体に気づいたらしい。


 キリッとした顔にも関わらず、

 可愛い声で自らの身分を名乗り出した。

「 私はシャルークの娘、ミリア。

あなたが噂のオスマトルの赤獅子ジャバロンですね?」


 ドキンドキンと心臓が波打っているのがわかる。


( ど、どうしたんだ?俺は?一体どうしちまったんだ?...... )


 正直、戦でもこんなことは一度もない。


 きっと腹を括っているのだろう。


 こんな状況にも関わらず、

 はっきりと自身の考えを述べている。


 胸の辺りに握り拳を固く結び、

 それは微かに、小刻みに震えていた。


 きっと内心は怖いのだろうが、

 その大きなつぶらな瞳を、

 一度もこちらから外さない。


 その気高くも愛らしい姿に、

 ジャバロンは心を奪われていく。


 さすがシャルークの娘。


 こちらも自身を名乗り、

 危害を加えるつもりがないことを身振り手振りで必死に伝える。


 本当に必死だった......


 彼女に受け入れてもらいたい......


 そんな心が通じたのだろうか?


 彼女はニコッと大きな瞳を輝かせて笑ってくれた。


 固く握りしめていた拳をほぐし、

 下ろしていく。


 首を可愛く傾けて、

 こちらを覗き込むように尋ねてくる。

「 ふふ、意外と可愛いところがあるんですね、赤獅子さん。父の敵なのに、なぜ私を殺さないの?」


 可愛さで頭が真っ白になる直前で、

 何とか持ちこたえた。

( 殺される......俺が瞬殺される所だった......

さすが戦狼の娘だ......

心奪われてる場合じゃ無いが......

何故か止められない!

今、ここだ!この時のために俺は生きて来たのかもしれない。)


 この後の事はあまり覚えていないが、

 彼女の質問に一生懸命答え、

 一生懸命質問をしていた。


 彼女の可愛さにどんどん惹き込まれている自分に気づく。


 彼女の全てを知りたいと思い、

 自分のガサツでダメな所ですら、

 包み隠さず彼女に知ってもらい、

 受け入れてもらいたかった。


 彼女もだんだん打ち解けてくれているのがわかる。


 敵同士でもあるのになんだろうか?


 この一体感は......


 ジャバロンはこの姫様に一目惚れをしていた。


 未練たらたらで彼女と別れると、

 すぐに陣を引き払い、

 バーンと合流することに。


 他の仲間は何故捕縛してこないんだと憤慨していたが、

 あの可愛さを目の前に何をするつもりだと逆に説教をし、

 そして、呆れられるwww


 大体この出来事があって戦いを進めていくうちに、

 バーンから感じていた緊張感が、

 良い方向に集中しだした。


 バーンの作戦からは、時に

 相手を試すような意図も感じられる。


 それは、極上の料理のレシピを覚え、

 よだれが垂れる様な重厚な味付けや、

 香辛料やハーブのふんわり漂う香り付けを覚えた、

 一流になりつつある料理人の様だった。


 しかし相手はあの戦狼......


 だが、あの顔をしている時のバーンは、

 この世界で一番信用できる男の顔だ。


 俺のできることと言えば、

 ひたすら指揮を高め仲間を引っ張っていくことぐらいしかない!


 そしてジャバロンは、

 無責任な周囲の予想を裏切り、

 度重なる接戦を制し、

 ついに単独で戦狼を打ち破る快挙を果たす。


 これには半島だけでなく、ラハビア、バディード帝国、フリージア諸国連合にまで、

たちまち噂が広がっていく。


 しかもシャルークとの戦いの果てに生まれたのは敵意ではなく、

 互いの才覚を認め合う深い敬意だった。


 官軍の使者として二人は、

 緑が豊富な小さくも豊かな匂いがする、  

 シャルークの居城に乗り込む。


 しばらく会話をした後に、

 ジャバロンを深く気に入り、

「 目に入れても痛くない」双子の姉ミリアを、

 そしてバーンには妹を娶らせ、

 更に彼には千手の字名も与え、

 オスマトルの属国となった。


 ここに赤獅子ジャバロンと千手のバーンが、

 揃うことになる。


 シャルークは老いた目を細め、

 2人の勇者と娘達が楽しそうに話すのを見て満足そうにしていた。


 しかしここからも一波乱あり、

 決して仲間の誰もが口をつぐむ、

 語られることのない悲劇の事件も発生する。


 更にはオスマトルの一部将校たちは、

 ジャバロンのその影響力を恐れ、

 中央権力から遠ざける画策を巡らせた。


「 オスマトルの大盾」などと持ち上げられながら、

 事実上の左遷。


 そこはシャルークの領土のさらに西側、

 領地の境も曖昧な異民族の襲撃が多い僻地の族長に任命された。


 だがジャバロンはそんなことを気にするはずもなく、

 新たな地で家族と仲間と共に生きる道を選ぶ。


( 僻地か......まあいいさ。嫁さんとバーンと仲間達が一緒にいりゃ、どこだってな。

あの事だってミリアから忘れさせてみせる。)


 彼は赤髪をなびかせ、

 西方の地を見つめた。


 ファイア・ウォーターの物語は、

ここからさらに広がる。


 アブーたちが生まれ3歳になった時、

 彼女たちの祖父でもある戦狼シャルークが亡くなった。


 その後、

 ジャバロン達は、

 祖父の遺言でもあった

 廃港となって寂れていた人口千人足らずの小さな港町に、

 戦略的活路を見出そうと拠点を移していくことになる。

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エバーレコードパーツ アブパパ編 行雲 日千羽 @peekabooAkhal

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