烈火の剣聖
ComiQoo
序章 すべてを見届ける火竜(サラマンダー)
オレは名乗るほどでもない。否、本来は名前もない精霊
一応精霊だから数千年くらいは軽く生きてるし、本来ならばこんなちっぽけな城に縛られるようなつまらぬ家畜であるはずではなかったはずだった。
今から25年前、オレはある男に左の角をへし折られた。
本来ならば同じ火属性同志の戦い。精霊であるオレのほうが火力的にも魔力的にも圧倒的に有利な場面のハズだった
あのとき舐めプしてオレの体に傷をつけたら言うことを聞いてやるって言うべきではなかったのかもしれない
だが後悔後に立たずって言葉通りあの男は魔法を使わず剣術のみでオレの角をへし折ってみせた。
そして、オレはあの男の軍門に下る羽目になった。
ケンヴィード・ゼファー・ティアマート。
どこぞの跳ねっ返りの小僧にオレは『アッシュ』という名前をもらった。
そしてその瞬間オレはこの男と主従関係を結んだ
それからはや25年。オレにとっては一瞬だがアイツにとっては戦争の英雄になったり、公爵家を継いだり、そして今はこの帝国の宰相に上り詰めようとしている
人間とはなんとも儚くそして眩い人生を歩むものなのだな。
あのときのヤンチャ坊主は悲しき恋を経て政略結婚に身を投じ今や人の親。
──そして、今あの女の面影を色濃く宿した少年がアイツの眼の前で寝ている
オレは黙ったままその少年の顔を天井からじっと眺めていた
まるでカラスのように艶めく黒さを持った髪
東方に住む夜美の民特有の褐色の肌
今は閉じている瞳もおそらく黒曜石のように黒いのだろう。彼女の忘れ形見であるのであれば
彼女もケンヴィードと同じくらい跳ねっ返りだった。そしてそれ以上に頑固な女だった。
そしてそんな彼らは反目しあい、傷つけ合い、そして愛し合った。
そうそれがケンヴィードが唯一愛した女ユノ・リーゥ…
そんなとき不意に部屋の扉が開く
オレは隠れようとしたがアイツは一瞬でオレの気配に気づいて眉を険しく潜めた
「お前…何故ここにいるんだ?」
ケンヴィードは不機嫌そうに一言そう呟く
オレはヘマしたなと舌打ちした
「選帝侯家の魔血と夜美の民の混血ってどんな灰の味がするのか気になっただけだ」
その言葉を聞いてケンヴィードは不満げにため息を付いてオレを睨んだ。
「もう一本その角を折ってやろうか?アッシュ?」
その一言に笑いながらオレは張り付いた天井から落ちるように降りる
そして床に寝転ぶとニヤニヤしながら言った
「冗談だよ。オレがユノの息子に手を出すわけがない。第一不味そうだしな」
オレはそう言うと大きく欠伸を噛んだ
ケンヴィードはそれ以上返答せずに近くの椅子に座り、ただ愛しい女の落とし子である少年の寝顔を黙って見つめていた
オレも黙ってまま思い沈黙の時が流れたが、オレは前々から気になっていたことを言った
「なあ、ケンヴィード。お前このガキをこれからどうするつもりだ?」
その問いにケンヴィードは少し沈黙したあとはっきりと答えた
「聞くまでもない。俺の息子だ。引き取るに決まってる」
「いや、お前自分の立場わかっているのか?」
なんで精霊のオレが人間の立場を心配してるんだ?
一瞬、オレの脳裏にそれがよぎったがオレはさらにケンヴィードに問うた。
「こいつは曲がりなりにもお前の命を狙いに来た暗殺者だぞ。それにお前は一応妻帯者なんだし──」
「そんなこと関係ない!」
その稲妻に似た一言にオレは思わず息を呑んだ。
その瞬間、おれはコイツの本気を見た気がした。
「本当ならあのときに俺はすべてを捨てれば良かったんだ。そうすればユノは死なずに済んだかもしれないし、彼もこんな道を歩むこともなかったかもしれない。俺はその罪滅ぼしをしなくてはいけない…」
オレはその時初めてあの自信過剰で傲慢な契約相手であるケンヴィードの涙を見たような気がした。
だがコイツの言った罪滅ぼしという言葉がそれ以上の意味と決意を感じてならなかった。
オレは思わず押し黙るしかなかった。オレにはそれ以上コイツにかける言葉など見つからなかった。
しばらく彼は愛おしくベッドで眠り続ける少年の艷やかな黒髪を撫で続けた
まるで愛おしい女性にふれるような手で──
「──アッシュ」
しばらくの沈黙の後、ケンヴィードはふと言葉を紡いだ
「25年前俺達3人が出会ったあの頃のこと…」
その言葉にオレは鼻で笑った
「オレは人じゃない」
「細かいこと言うな。嫌われるぞ」
オレはその一言にイラッときたがすぐにため息混じりに返した
「オレは数千年生きた
「はいはい、長生きアピールは聞き飽きたぞ」
ケンヴィードはそう言うと彼の黒髪から手を離した
「ユノの事…忘れてなんかないだろ」
その一言にオレはケンヴィードを睨みつけた
「忘れるわけがないだろ。お前が唯一愛した女のことをな…」
その言葉を聞いてケンヴィードはすこし顔を俯けた。
「そう…だよな」
そんな彼の口元はうっすら笑みさえ浮かんでる
「もはやユノことをちゃんと語れるのは
悔しい──それがコイツにとって素直な感情。
周りは彼女がいたということを徐々に忘れようとしている。そんな記憶の消滅をコイツはただただ嘆いている
俺はそんなコイツを見て呆れたようにため息をついた。
「25年なぞオレにとっては一瞬だ。だけどお前にとっては長すぎたのかもしれぬな」
そう言うとオレは静かに目を閉じた。
25年か…ちょうどオレとケンヴィードと交戦した頃だったか。
あのとき、コイツはただただ尖っていた。実家の権威をとことん嫌って一兵卒として戦役に飛び込んだあの頃だ
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