何でもできるメイド、いりませんか?

九官日食

はじまりのログ

 先日、父親が病で死んだという一通の電話がかかってきた。

 声の主は淡々と、まるで業務連絡のようにその事実を伝えた後、定型文を言うように何か質問はあるかと訊いてきた。


 俺はない、と一言だけ答えて電話を切る。

 父親は機械工学の分野ではそれなりに名の通る人物だった。公には明かされていないが、アンドロイドの研究を国家レベルで任されていたらしい。

 まあ、もう使われていない父親の書斎からなんとなく予想しただけだから、断言はできないが。


 三年前。当時俺が中学二年生だった時に、母親が交通事故で亡くなった。

 それから、父はこの家から姿を消してしまった。

 元々幼いころに何か話した記憶もなく、イベントの行事もその場にいるだけの飾り物のような存在だった。

 だから、薄情かもしれないけれど、母親が死んだときのあの絶望とも呼べるような悲しみは湧いてこなかった。


 父親の遺産相続は、全て例外なく俺に振り込まれるらしい。

 その額は公立高校に通う学生が持つ資産の偏差値を大いに高めるほどのものだった。

 地方都市の最高級マンションの最上階を楽々変えるぐらい……と言えば、少しは想像できるはずだ。


 命の危機すら感じる──そんな縁起でもないことを思った直後。


 ピンポーン。


 リビングの方からタイミングを見計らったかのような音が鳴った。


 「まさかな。……まさか、ないよな」


 そんな独り言をしたのは、無意識に自分を落ち着かせるためだったかもしれないが、効果はなかった。

 この大金の情報を知った強盗か? それとも実はこの金は闇金で、それを取り締まるとために来た捜査員……だったり。


 良くない方へと思考は進んでいく。なるほど、金は人を変えると言う言葉は間違ってはいなかったらしい。

 とにかく、確認だ。俺はリビングへ向かい、モニター画面越しに様子を見てみる。


 そこには──誰もいなかった……?


 どういうことだろう。確かにさっきインターホンが鳴ったはずじゃ……?

 ボタンを押して、記録映像を流そうとした時、玄関の方から──ガチャッという音が聞こえてきた。


「嘘だろ……」


 ここのロックを解除するには高度なAIを通したファイスIDを必要としている。

 どれだけ特殊メイクをしようが、高度な変装マスクを被ろうが、本者と瓜二つに整形しようとも、父親が発明したセキュリティAIには通用しない。

 AIに登録されているIDは三人。俺と母親、父親。うち二人は他界しており、唯一鍵を開けられる俺も家の中。


 だというのなら、誰が……?


 忍び足で玄関へと向かうがそこには誰もいない。

 だが、見慣れない黒いヒールの靴が律儀に玄関に揃えられていた。


 それを見る限りは侵入者は一人。それも足のサイズとモデルからしておそらくは女性。

 

 いや、もしかしたらそう思わせるための罠の可能性もある。

 もう少し近くに行って現場検証を──。


「我が主人あるじの存在確認」

「!?」


 ほとんど反射で振り向いたその先に居たのは──メイドだった。


「メイド……?」


 白と黒の二色で構成されたいかにもと言うべきなメイド服。

 銀色の髪と瞳。透き通るように白い肌。細みながらも女性を感じさせる肉体。

 アニメの世界からそのまま出てきました──そう言わんばかりのスタイルとビジュアルの少女が、俺のことを見つめていた。


「測定。我が主人の心拍数、急激に向上。分析。原因、当機の声によるものと推測」


 淡々とそう告げる声は、俺が電話越しで聞いた声と同じだった。


「反省。ごめんなさい」


 ぺこりと頭を下げたその姿でさえ、見入ってしまう。

 所作に無駄な動きがない。そしてほんとに申し訳ないと思っているのかもわからない。

 何故なら、表情も声色もさっきから変化がないように思えるからだ。不気味なほどに。


「お前は、一体……?」

「当機は本日より我が主人に仕えるメイド型アンドロイド──マキナ」


 アンドロイド──人間に限りなく近い人工物。父親の専門分野。


「……お前は、俺の父親によって作られた、のか……?」

「肯定。当機は我が主人の父親に当たる西宮風月によって作られたアンドロイド。別名、エクス・マキナ」

「エクスマキナ?」

「そう。ギリシャ神話におけるご都合主義の装置。不可能を可能にする機械」


 相変わらず、表情や声色に変化はない。けれど、どこか自慢げに言っているような気がした。


 確かに人間らしさという部分においては、アンドロイドの部分を隠しきれていないようだが、それ以外の部分は明らかにオーバーテクノロジーと言って申し分ない。


「お前、さては国家機密レベルで制作されてたプロジェクトだろ」

「我が主人は正しい。その通り。当機は秘密裏に制作されていた個体。……」


 目の前のメイドはそこまで言って、急にジト目を向けてくる。


「当機にはマキナという素晴らしい名前がある。さっきからお前、お前ってひどい」

「わざとやってんだよ。情が移んないように」

「つまり?」

「つまり、俺はお前なんか必要ないってこと。返品を要求する」


 こいつの制作者は俺の父親だ。

 ……冗談じゃねぇよ。散々俺のこと放置したくせに、最後の最後に父親面させるわけないだろ。


「返品要求を却下。推測。我が主人は父親に甘えたかったけど甘えられなかった想いが原因で天邪鬼になっている」

「ちげぇよ、馬鹿か! 今のではっきりわかった、こんなポンコツロボットマジでいらねぇ」

「撤回を要求。当機はポンコツではない。むしろ高性能。あんなことやこんなこともできる」

「……あんなことやこんなことってなんだよ」

「軽蔑。我が主人の下半身の血流増加傾向。人としてサイテー」

「思春期の男に向かってお前が期待させるようなこと言うからだろがっ! っ、……もういい、俺が直接電話する」


 そう言い放ち、俺はスマホをポケットから取り出そうとしたが……。


「……あれ? ない。さっきまで持ってたはずなのに……」

「推測。我が主人の探し物はこれ」

「そう、それそれ! ……ってお前いつの間に抜き取ったんだよ!?」

「訂正要求、お前じゃない。マキナ」

「ふざけんな、早く返せ」

「当機はハッキングが得意。その気になれば、我が主人の削除したであろう検索履歴を全世界にばら撒くことができる」

「すいません。お願いします、マキナさん。返してもらえないでしょうか……?」

「受理。ただし条件がある。当機の情報を外部に漏らさないこと」


 ん? 返品ではなく、外部に情報を漏らさない、だと?


「先述の通り、当機は秘密裏に生成された製品。オーバーテクノロジー。研究価値大いに存り。外部にこのことが漏れれば、我が主人の命が晒される可能性大。無論、一般機器の通信なども危険。壁に耳あり障子に目あり、通信回線にハッキングあり」

「おい、待て……それってもう、お前のこと受け入れる以外選択肢ないじゃん……」

「肯定」

「肯定じぇねぇよ!? いや、でも確か父親の部屋に特別な通信機器が……」

「ハッキング準備完了。施行まで三、ニ──」

「マキナ、これからよろしくな!」

「言質獲得。こちらこそよろしくお願いします、我が主人」

「ちっ……どうせだったらもっと大人な雰囲」

「年上幼馴染。先輩。義姉。従姉──」

「マキナしか勝たん! マキナ以外考えられない! マキナ万歳ッ!」

「嬉しい。けど、少し重い。私と我が主人はあくまでも主従関係。これからも適度な距離間隔を保とう」

「……なんで俺が振られたみたいになんだよ」


 どこか気まずそうに言った銀髪の少女に俺はそうツッコんだ。


 

 こうして俺とポンコツメイドロボ──


「訂正を要求。さもなくば我が主人の嗜好を」


 こうして俺と高性能銀髪美少女メイド型アンドロイドの生活が始まったのだった☆

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