猿スケッチ
戯画実(ぎがみ)
第1話 猿スケッチ
「猿スケッチ」
小さな動物園だが、猿の種類が多い。
猿舎だけでも大小とりまぜて四つほど。
私は猿が苦手で、猿舎はいつもよけて歩いた。
面白いが、なぜか見ていて美しくない。
それでも最近では近寄って眺めることもある。
動物園の入口から正面左手奥にある、猿の岩山。
岩山の後ろの壁は銭湯のペンキ絵のように、お決まりの絵、ジャングルが
描かれてある。
オオハシという熱帯地方に棲息している派手な色合いの鳥。大きなくちばしは黄色、顔は仮面でもつけているように白く、あるいは黄色く、黒い目は黄色や水色の縁取りでよく目立つ。体が黒色なので尚更だ。
とにかく、陽気に目立つ鳥である。壁に飛翔する姿で描かれ、絵とはゆえ、ジャングルの中を錯覚させるほどだ。緑の樹木や鳥たちの舞う姿、青々と塗られた空、猿もきっと満足しているだろう。 と、かってに思う。
しかし、いつ見ても絵は同じ、動く物という認識はないと思う。雰囲気の中で暮らす。猿は退屈にきまっている。
良く晴れた日、猿舎の壁絵の上に、本物の空がやはり美しいのだ。
ここの岩山の猿は数が多い。でも、いさかっている様子はない。
数本ある裸木に太目のロープが掛けてあり、そこを行ったり来たり。
長い手と尻尾を使って器用に渡る。
猿とこちら側の柵との間に、プールのような池がある。
猿舎の所はよく掘り込まれていて、見下ろす感じだ。脱走防止なのか。猿舎の垂直の壁。岩山と木、飛び移れるのではないのか。でも猿たちは案外おとなしいのかもしれない。
木々と太ヒモの間を雲梯のようにして軽々と移動する。
腕は長く、巻きつくことが上手な尻尾も長い。猿の身の丈よりもありそうだ。
猿舎の岩山と観衆の間の池、ただ水をためているだけの所。季節によって緑色ににごったり、観衆が枝葉を投げて浮かばせたりしても、猿は今までの通り穏やかに、枝葉をたぐり寄せては、軽く振り上げて少し遊ぶ。
閉園間際に訪れると、飼育員が一人、勢いよく水を噴射して猿舎を掃除している。岩山の出入口からは猿の気配を感じるが、猿は姿を見せない。あの岩山の中は、どうなっているのだろう。何組かの家族が暮らしているのだろうか。
別の猿舎からは甲高い声は聞こえるが。ここの猿は余り声を聞かない。穏やかな性格なんだろう。
猿には、仕草や顔付き、丸めた背中、そこに人を見てしまう。
矢張り、今のところ、好んで見たいとは思わない。
ふとした時、そこに心を重ねて見てしまうせいだろうか。
で、いつも猿の絵は描けずに、心にスケッチで終わるのだ。
猿スケッチ 戯画実(ぎがみ) @ichijiku-neko
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