灰色大聖女は隣国の地にて金色に輝く

錦木 深雪

第1話

 エタリナ王国。

 この国は代々聖女を排出して来た貴族達により、潤い満ちていた国だった。


 聖女達が住まう神殿には、公爵家を筆頭に子爵家の出の娘もいる幅広い層により成り立っていた。


 そして、その中の一人、伯爵家の出の大聖女アリシア・フロディーテは、今日も大量の仕事をこなしていた。


 ···一人で。


 神力の使い過ぎにより、髪は灰色で艶がなくバサバサで、簡単に纏めた長い髪はピンピンと毛が所々跳ね、白い肌はカサカサで唇も乾ききっていた。


(あぁ···、早く寝たい···)


 見上げた空は、もう既に日が暮れて星が輝き白み始めていた。


(今日も徹夜かしら···)


 生気がなく、もはや聖女の出涸らしと呼ばれていたアリシアは、フラフラと神殿に帰って来てた。


 ろくな睡眠は愚か、食事も摂る暇さえもなく、年相応に見える事も無い。


 頬は痩け、目の下には黒い隈。


 伯爵令嬢とは呼べない容姿になっていた。

 聖女だと名乗らなければ、ただの老婆か魔女と間違われるであろう姿は、悲惨なものだった。


 聖女として神力があると判明した時から、アリシアはその溢れんばかりの神力に、毎日毎日休む暇さえ与えられ無かった。


(少しでも良いから、横になりたい···)


 神殿の最上階の物置を改造して造った部屋の隅に、ポツンと置かれた木製のベッドにアリシアは倒れ込んだ。


「···はぁ─···」


(ベッド、気持ちいい···)


 ギシッと悲鳴を上げたスプリングの音を気にする暇も無く、アリシアは目を閉じた瞬間に意識を暗転させた。



 ♦



 バンバンバンバンッッ!!!


「〜〜!〜〜!アリシア!アリシア!」


 早朝、朝日がさすと同時に、アリシアの部屋のドアが壊れんばかりに乱暴に叩かれていた。


「っ、·····」


(もう、···朝?)


 はめ殺しの窓からは朝日が差し込み、アリシアの顔を照らしている。


 毎日けたたましい音をたてられて目を覚ます為か、アリシアはものどおじする事もなく、眠たい目にぼんやりしながら体をのっそりと起こした。


(体が重い···でも、行かなきゃ)


「·····」


 何の感情も映さない瞳は、輝きを濁してフラフラとする頭で立ち上がると、キィ、とドアを開けた。


「大聖女様ァ!!お目覚めですか?本日のお祈りの時間ですわぁ!!···、あらあら、相変わらずひっどいお顔!大聖女様とあろうお方がなんとみすぼら···おほん、出涸らしみたいなお顔して歩いていたら、ご婚約者の殿下がお可愛そうですわ!!伯爵令嬢としての嗜みはございませんの?···それに、臭いますわぁ!?昨晩はお風呂に入りまして?」


 ドアを開けたのは、アリシアの次に神力のある公爵家の出のルシィだった。


 金色の艶々の長い髪を縦ロールに巻いて、白い聖女の衣装は宝石を散りばめて改造している、何とも金に物を言わせたゴテゴテの衣装だった。


 ルシィはアリシアの容姿を見ると、これみよがしに罵倒して来た。


(···今日も目に悪いわ···、宝石が)


 太陽の光にチラチラと反射する宝石に、アリシアは目を細めた。


 ちなみにこの瞬間も、ルシィの罵倒は続いているが、普段から魔物を相手にしているアリシアには、小鳥のさえずりのようにしか聞こえていない。


 魔物に比べれば、ルシィなど可愛い小物に過ぎないと、いつまでも続く罵倒が読み聞かせのようにし聞こえて、再び瞼が重くなる。


「ちょっと!聞いていまして?」


(···そんな事、言われても)


 眠くなってしまった物は仕方がない。

 うつらうつらと船を漕ぎ始めた時だった。


「これでも被って、目を覚ましなさいな!!」


 ルシィは手に持っていた水筒の中の水を、アリシアにかけた。


 ビシャッ!!


「んっ!!!?」


 冷たい水が頭から顔へ、服へと伝わりブルっと体が震えた。


「これで少しは見えるようになったのではなくて?臭いは取れたか分からないけれどっ」


 濡れそぼったアリシアの姿を見ながら、ルシィはゲタゲタと笑いながら姿を消した。


「···、冷たい」


 アリシアは呟くと、神力でふわりと髪から服を一瞬で乾かした。


 結局の所、アリシアにはルシィがどうして自分に嫌がらせをしてくるのかが分からなかった。


 大聖女と言われても、令嬢としは終わっている外見だ、そこは自覚があるし、なんならルシィの方が公爵家であり伯爵家のアリシアに嫉妬する理由が分からないでいた。


 殿下の婚約者と言っても名ばかりで、目を合わせようならば舌打ちされるくらいには嫌われている。


 では何故アリシアはそんな中で聖女として今も尚働いているのか、それは、自分が聖女だからとしか思っていなかったからだ。

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