雑誌の表紙で面影を見つける第1話の場面が秀逸です。名前も知らないまま抱き続けた記憶が、「新橋夢士」という活字と出会った瞬間に静かに着火する——その感覚の描写が繊細で、獏々というキャラクターへの感情移入が自然に生まれます。
夢の中でしか会えない、目は合うのに言葉が届かないという設定が、20年越しの片想いの「届かなさ」の比喩としてそのまま機能しているのが巧みでした。NYの記憶から現代のカフェまで、時系列を往復しながら獏々の想いの重さを少しずつ積み上げていく構成も丁寧です。
「彼の感情は荒れた海みたいに大きなうねりがある」という獏々の直感が、本編の夢士の苦悩と呼応しているのを感じると、シリーズ全体が一つの大きな物語として繋がっているのだと改めて実感します。本編と並走しながら読むと、さらに味わい深い一篇です。