主人公の教室
二ノ宮恒一
本編
そこは主人公の教室。物語の主人公が、主人公としてのオーラを磨くため、日々学ぶ教室。今日も教室で授業が始まった。
「さて。みなさんは主人公たる条件とはなんだと思いますか?」
教鞭を取る女教師に対し、ある男子生徒は自信満々に立ち上がった。
「そんなのはもちろん、周りを凌駕する圧倒的なパワーっしょ! 俺は炎で全てを燃やし尽くせる! 誰にも負けねぇ!」
「うん、正解。けれど、他にもあるよね」
また、スラリとした女子生徒が立ち上がる。
「やはり見た目。主人公とは物語の看板。だからこそ、より良い容姿が要求される。醜い価値観と言われようとルッキズム社会は根付いていますから」
「うん、痛いところを突いたね。それも正解」
他の生徒も口々と言葉を発した。
「愉快なところだよー。やっぱり楽しいのが一番!」
「共感性だな。悲しい過去は読者の共感を買いやすい」
「一体感でしょ。物語はあくまで読み手のためにある。読み手と一緒に考えているような一体感。そのために知識レベルがある程度に調整された主人公が良いんだよ」
そんな言葉に先生は笑顔で「正解」と答えた。
ある女子生徒が恐る恐る手を挙げる。
「わ、私は……主人公に、条件は、な、無いと思い、ます。私だって、主人公だけど、何も特徴ないし。だから、条件はない。それが正解……ですよね?」
「うーん、それは不正解かな。条件はあるよ。そして、あなたも条件を満たしている」
女教師は笑顔で言った。
「主人公の条件は、主人公であること。様々な考えがある中で、何か選び、それが物語の根幹に結びつく、という『無意識的な条件』。それが主人公たる条件だよ」
「先生、何言ってるかわかりません」
「わからないのー?」
女教師は困った顔をして、ピンと指を弾いた。
「なら、想像してみて」
――あなたは、最前線に立つ。
――目の前には巨大な敵。
――頼れるのは己の力のみ。
――あなたは頑張って、その脅威を乗り越える。
「……さて、この場面で主人公は誰?」
生徒は疑いながらも恐る恐る手を挙げた。
「わ、私たち……だよね?」
「そう、正解! 脅威に対抗しようとするあなたたちが主人公だよ。対抗して乗り越えた先には次の物語が待っている。その物語を進行させるのが、主人公の役目な訳さ」
そこで、気だるげな男子生徒も手を挙げた。
「けどよ、俺は敵も主人公なんじゃねーかって思うんだよな。だって、敵が俺らを倒すことができたら、敵側のストーリーは進むわけだろ。テメェの条件じゃ、誰が主人公かなんてのは、立場の問題なんじゃねーか?」
女教師は呆然とする。
「おっと、言いたかったこと、言われちゃった。見た目の割に、察しがいいね!」
「うっせ、主人公なんだからあたりめーだろ!」
女教師は改めて教室を見た。
「そう、これは立場の問題。立場によっては、みんなが主人公だし、みんなが敵になる。だからこそ、意識の問題とも言える」
「じゃあ私たちはー、主人公の立場を死守するために、敵を倒す術を身につけておくべき、ってことー?」
「……うーん、それはある意味では合ってるけど、ちょっと違うかな」
黒板に何かが書かれていく。
――みんなは正しくない。けれど、間違ってもいない。
「はい。主人公の勘違いしやすい点だよ。みんなは、正しくないし、間違ってもない。『主人公なんだから自分が正義だー』なんて思う人もいるから、釘を刺したくてね」
「先生、そんなことジョーシキじゃないっすか? みんな分かってますよ」
「そうだね。分かってくれてて嬉しい。だからこそ、選択を恐れないでほしいんだ。君たちの物語は、君たちが動かす。だってそれが、君たちを主人公たらしめる条件になるから」
――さて、主人公くん。君も、もう分かったかな?
「……」
小鳥の囀りが遠くで聞こえる。眩しい朝日が眠たげな眼を刺してくる。
「ゆ、ゆめ……か」
寝癖の立った頭をポリポリと掻きつつ、少し考えて、窓の外を見た。
「変な夢だったな……ほんと」
少し俯いて手に視線をやり、その掌を握り込んでみた。なにか、諭されている気がした。
「わーったよ。わーったってば。あいつに、ちゃんと謝るから……」
――その行動が俺を『俺の人生の主人公』にするんだからな。
主人公の教室 二ノ宮恒一 @Ninomiya_Koichi
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