8 なんて??

ギシギシと締め付けられる顎がどんどん細くなっていき、とんでもない小顔になっている!


痛くて変な声を漏らしながら、なんとかそれを外そうと顎を掴む手をグイグイと押したが、ビクともしない。


役立たずという表現はよく分からないが、中野はいつも煩いくらい喋っているから、黙ってゲームしてない。

光輝が来ると無口になるだけだ。

なのに、そんな些細な誤解で俺の顎が砕かれるの??


「にゃ……にゃきゃのはよくしゃべりゅよ!いんにゃをにきゅむにょよくにゃい!(中野はよく喋るよ!陰キャを憎むのはよくない!)」


「…………。」


必死に自分の気にくわない性質を憎むのはよくない!と訴えたが、光輝の顔は変わらず……ずっと『無』のままだ。

そのまま俺は、自分の今の状況を冷静に考え……なんだか情けなさに涙が出そうになってきた。


平均をひた走る陰キャ厨二病の俺。

嫉妬するから裸を晒したくないと思って断ったら、自分の性質や同類の仲間に対して怒りを向けられ、全てを持っているイケメン太郎に顎を砕かれる……そんなひどい事ある??


「……に……にぎゃ……〜……っうっ……うっ……きょうひにょ……あひょ〜……っ!おに……っあきゅま〜っ……!!おれぇたちをばかにちゅるにゃ!(グスングスン!光輝のアホ!鬼!悪魔〜!!俺達をバカにするな!)」


「────ハァ……。」


自分の哀れさと友達をも貶された悔しさに、とうとう涙と鼻水で顔をグチュグチュになると、光輝は大きなため息をついて顎を掴んでいた手を外す。


「……言い過ぎた、ごめん。」


「……うっ……え……あぐぐ〜……っひっ!ひっ……!光輝のアホ!ウンコ!魔王!!」


思いつく限りの悪口を言ってやると、光輝はハンカチを出して俺の顔を優しく拭いてきた。


「魔王は影太でしょ?俺は、そんな魔王を支える不死の騎士団長。」


「……うん、俺が魔王だ。光輝は俺の忠実なる臣下のくせに、上司を乱暴に扱って悪口まで言った無法者だぞ!バカー!!」


痺れている顎を擦りながら不満を訴えたが、光輝は謝らずムスッと頬を膨らませる。


「でも、これは影太が悪い。だって、俺じゃ嫌で、中野とかいうヤツが良いって言うから……。」


「え、だってそれは……。」


『主に象さんに嫉妬するから』

そんな恥ずかしい事は言えず口籠ると、またどんどん光輝の機嫌が悪くなっていった。


「そもそも、あの中野ってヤツと一緒に居すぎじゃない?なんか今日も距離が近かったし……。」


「?そんなに距離が近かったか?それに、同じクラスだし部活も同じなんだから、そりゃ〜一緒にいる時間は多いだろう。」


中野とはクラスも部活も同じなため、光輝を除けば一番一緒にいる時間は長い。

それに、雰囲気や話も合うため、話していると楽しいので、これからも仲良くしたいと思っているのだが……。

なんだか様子がおかしい光輝を見て────ピンッ!ときた。


「はは〜ん?仲間外れにされてるって思って面白くないんだな〜?ほ〜?へぇ〜?ふ〜ん?

光輝は子供だなぁ〜!そういうの小学生で卒業しろよ、恥ずかしいヤツめ!」


『うえぇぇ〜ん!AちゃんとBちゃんが仲良し過ぎて、仲間はずれにされてるぅ〜!』


三人組のグループでよくあるトラブルの一つ。

なんとなく二人が仲良くて、一人があぶれてしまう感が出ちゃうヤツ。


俺はツンツンと不機嫌全開の光輝のオヘソを狙って突いて、何度目かの突きでオヘソの穴にクリティカルヒット!

穴に入った指をそのままクリクリと擽る様に、動かしてやった。


光輝は意外に寂しがり屋で、小さい頃から、あれもそれもどれも俺と一緒じゃなきゃ嫌!と駄々こねをする。

大きくなって、少し離れる時間が出来てきたから油断していたが、まだまだご健全の様だ。


「そもそも、お前こそどうなんだよ?ほら〜バスケ部の同期とか、先輩とか、マネージャーとか……めちゃくちゃくっつかれてるじゃ〜ん!」


誂う様に言いながら、光輝の周りを取り囲む沢山の奴らの事を思い出す。


クラスでは勿論、光輝はバスケ部の方も凄くて、とにかく入れ替わり立ち代わり話しかけられては仲よさげに話している様に見えた。


『流石!凄いな!日野は!』


『頼りにしてるからな!』


『キャー!日野君!!素敵ぃぃ〜!!』


先輩や同期達、光輝目当てに入った沢山の女子マネージャー達の黄色い声は、例え離れた場所にいたとしても聞こえるくらい大きくて、体育館の近くにあるゲーム愛好会の部室まで聞こえる程。

誰もに必要とされ愛されている光輝。

なのに、俺が仲良くしているヤツまでそうじゃないとムカつく!……は、少し酷くない?と思わなくもない。


なんだよ、このっ!この〜!!俺の数少ない友人まで盗ろうとするなよ!


面白くない気持ちが前に出たため、優しく動かしていた指を引いて、また強くズブッ!とヘソの穴を突いてやった。

すると、光輝はその攻撃が効いたのか……?ピクッ!と小さく震えて俺の両肩に手を触れる。


「……もしかして……影太も同じ気持ちだった……?……ごめん。俺は自分の気持ちばっかりで……余裕がなくて。だって、影太の側に人がいるとムカつくから……。」


「?────ハァ???」


『クソ陰キャ厨二病野郎がモテるとムカつくんだよ。ば〜か!ムカつき過ぎて、気持ちが抑えられない!余裕もなくなる!お前の側にいる奴らも全員、俺を一番にするべき!』


な、なんて……??────えっ?正々堂々喧嘩売られちゃった……??


「???」


ショックを受けて白目になっている俺を置いて、光輝はどんどんと話を続ける。


「俺の方は大丈夫だよ。全然、なんとも思ってないから。

あんなのどうでもいい烏合の衆だから、影太が気にする事はなんにもないよ。」


『ハァ〜……モテすぎて、正直どんなに好意を寄せられようが、なんとも思いませんねぇ〜。俺、モテますんで!

モテない陰キャボーイのお前には関係ないから、気にする意味が分かりませ〜ん☆』


「そっか……影太、気にしてない様子だったから、全然気にしてないと思ってたよ。でも、そうじゃなかったんだ。

ごめんね、気づかなくて。これからは影太だけを、ちゃんと見ているから。」


『おやおや、自分がモテない陰キャでも気にしませんみたいなポーズとってたくせに、本当はめちゃくちゃ気にしてたんだ〜。

はい、ごめんなさいね〜?気づいてあげられなくて!これからはちょっと気にしてあげるよ、可哀想だから!』

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