第17話 『 声 』

 話が前後かつ重複する。

当初熊本で飼い始めた頃、カイはほとんど鳴かない猫だった。たまに鳴く時は風貌に似合わない細くしゃがれた声で、尚且つ申し訳程度のものだった。それが佐賀に来てからはいつのころからはしっかりと鳴いて自己主張をするようになった。それはおそらく、身体がしんどくなった分、その方が効率的だと彼なりに踏んだのだろう。そのうち声質もしゃがれた感じではなく、普通のしっかりとした通る声に変化した。

「ようやく猫らしくなったか?」

 僕ら夫婦はそう思ったりもしたが、やはり一抹の淋しさもそれぞれの身の内を過った。事実カイの身体は一回り以上小さくなり、特に足の衰えは顕著だった。あの王者然とした後ろ脚の筋肉はすっかり落ち、多少立てつけの悪い扉などはものともしなかった前足もやはり剛腕ではなくなった。

「カイ介護だなあ」

 僕は抱き抱えながらそう嘯いたが、カイの透き通った瞳だけは以前のまま、鮮明な輝きを保っていた。

 そう云えば、佐賀に来てからカイは、時折まるで思い出したかのように農作業する僕の傍までトコトコ歩いてくることがあった。そして僕の姿を見つけると幾度となく鳴くのだ。「おーい。お前、そこで何やってるんだ?」とでも言わんばかりに。その姿はほとんど笠智衆か大滝秀治レベルの佇まい。女房はそれをよく写真に収めていた。

 不思議だが、それでも僕は、カイの記憶を辿る時何故か昔のしゃがれ声の方を思い出してしまう。あの巨体に全く不釣り合いだった、情けないくらい繊細な鳴き声の方を。

 どうしてだろう?

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