阿賀野沙長  二







「分かった。沙長に百五十を預ける」



 低頭するも、沙長は内心で少なすぎると考えていた。



「銭江殿。府軍出都の頃合いからして、到着は明午あたりだろうか」


「いえ、明辰から巳の刻かと」


「なれば沙長も皆も、今のうちに休んでおけ。では頼んだぞ」



 信和が立ち上がると、一同で頭を下げた。

 彼の足摺が止んで襖が閉められると、ざわりと広間に動揺が広まった。



「百五十で二百を討てとは。馬鹿な御大将ですな」



 銭江殿の言うことは尤もであったが、当の高万臥を落とした際も同じだった。城を落とした際の当軍は二百ばかりで、高万臥城内には五百の将兵はいたであろう。



 当方に下った際の銭江殿の申すところによれば、

『交戦派と非戦派に分かれた挙句、非戦派の多くは都や山へと逃げ散り、僅か百五十となった交戦派の多くも常勝軍である千騨国軍に恐れをなし、命を惜しんで下ることを選んだ』らしいが、実際はどうだったのだろうか。



「いずれにせよ、向かってくる府軍は退けねばなるまい。銭江殿、貫一殿。力添えをお頼み申し上げる」




 彼らの後頭を眺めながらに立ち上がり、広間を出ると、後ろから猪亥が付いてきた。



「彼らに後備うしろぞなえ役を与えてはなりませんぞ。聖院しょういん様」


「分かっている。囮役として動いてもらうさ。真っ先に靡いた彼らに信は置けんよ」


「は。心安くなりましたわ」


「それより、埋伏では当然に弓働きが肝要だ。よろしく頼むぞ」


「相でございまする。聖院様も端から勝目無しと考えて、お逃げ下さいますな」


「敵は明朝到来すると言っていたな。猪亥も逃げるなら今のうちぞ」



 猪亥は空ッとした笑い声を上げて、弓場のほうに歩いていった。阿賀野沙長は中守信和に与えられていた屋敷へと向かう。




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