削除済みの世界線から、連絡が来た
@Reo0401
新しい世界を作成中
新しいデータを作る。 いつもと同じ手順だった。 世界設定、地形生成、文明レベル。 カーソルは迷わず進む。指が覚えている。
ロード中、画面の端に通知が出た。
未読メッセージ:1
このゲームには、チャット機能なんてない。 少なくとも、そういう仕様のはずだった。
無視してログインする。 世界は正常に生成されている。 初期配置の街。初期配置の住人。 誰も、こちらを見ていない。
再び通知。
未読メッセージ:1
開く。
「ここ、まだある」
意味が分からない。 テスト用に作って、すぐ消したはずの世界。 観測終了。削除済み。
ログを確認する。 確かに、残っていない。
それなのに、通知は消えない。
「ねえ」 「今、どこ?」
画面を閉じた。 バグだ。そういうことにした。
その日から、ときどき通知が来る。 削除したはずの世界から。
返事はしない。 ただ、未読がゼロに戻るのを待つ。
戻るたび、胸の奥が少しだけ冷えた。
新しい世界を作った。 今回は長く遊ぶつもりだった。
ログインしてすぐ、違和感に気づく。
空の色が、設定と違う。
住人に話しかける。
「今日は、前と同じだね」
前?
別の住人は言う。
「ここ、森だったよね」 「いや、海だった」
会話が噛み合っていない。
メニューを開く。 エラー表示はない。
それでも、世界のあちこちに“痕跡”がある。 存在しないはずの建物。 意味を持たない記念碑。
通知が鳴る。
未読メッセージ:1
「混ざってる」 「前の私と、今の私が」
理解するのに、時間がかかった。
消した世界は、完全には消えていなかった。
再同期のウィンドウは、消えなかった。 選ばなければ混線は進む。 選べば、どちらかが失われる。
俺は、まだ何もしていない。
そのときだった。 画面の端に、 見覚えのない通知が現れた。
プレイヤーが参加しました
――は?
このゲームは、基本的にソロだ。 共有設定は、最初から無効にしている。 それなのに。
接続者:Guest
視点が、わずかに揺れた。 キャラクターが、 自分の意思と関係なく振り向く。
広場の端に、 もう一人の「創造主」が立っていた。
同じUI。 同じ操作アイコン。 でも、違う。
その動きは、 俺より迷いがなかった。
チャットが開く。
Guest: まだ、これ残ってたんだ
指が冷える。 「誰だ」と打とうとして、やめた。
Guestは、もう世界を見回している。 混線した住人たちを見て、 短く息を吐いた。
Guest: あー…… これ、同期ミスってるね
まるで、 よくある不具合みたいに。
Guestは、再同期ウィンドウにカーソルを合わせた。
Guest: 放置すると、 両方ダメになるやつだよ
「待て」と言おうとした。 でも、音声も、入力も、通らない。
俺は、もう操作権を持っていなかった。
広場の住人たちが、 一斉にこちらを見る。
「創造主様?」 「助けて……」
Guestは、少しだけ考える。 そして、 何の躊躇もなくクリックした。
画面が白く飛ぶ。
再同期中 意識データを整理しています
進捗バー。 30%。 60%。 90%。
静かになった。
街は、元通りだった。 住人たちは、 決められた動線を歩き、 決められた言葉を返す。
違和感は、ない。
World Archiveを見る。
ID-03。 状態:完全消失 観測不可
Guestのチャットが、一言だけ残る。
Guest: ちゃんと整理しないと、 こうなるんだよ
次の瞬間、 接続は切れた。
俺は、キャラクターを動かそうとする。 動く。 普通に。 問題なく。
NPCが話しかけてくる。
「創造主様、次は何をしますか?」
未読メッセージは、ない。 もう、来ない。 二度と。
しばらくして、 俺は新しいデータ作成画面を開いた。
ワールド名は、 やっぱり自動生成のまま。 考えるのを、やめたからだ。
ロードが始まる。
その直前、 ほんの一瞬だけ、 画面の端に文字が滲んだ。
今度は、 見られなかったですね
気のせいだ。 そう思って、 俺はゲームを始める。
削除済みの世界線から、連絡が来た @Reo0401
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