第8話 背中が痛い。
夫婦で入れる和柄の刺青と言うのは幾つかある。
有名な図柄は2種類。
『夫婦鯉』『夫婦河童』だ。
どちらも有名な刺青で、刺青としての意味は夫婦円満、商売繁盛(金運)、困難の克服、魔除けという意味合いを持っている。
特に、夫婦河童は有名な刺青で、有名な時代劇作家が小説でこの刺青を入れた十手持ちとその妻の物語を書き、テレビドラマになった事もある。
また、刺青とは少し離れるが、その昔、硬派なヤンキーの女は自分の肩に好きな男の名前をナイフで刻んだ。
この刺青にも文字は刻んで貰っている。『純也妻 陽子』と……
そして俺には『陽子夫 純也』と入っている。
そして陽子には牝河童、俺には雄河童の図柄の刺青が入っている。
本当なら、ちゃんとした彫師に頼みたい所だけど、和彫りの彫師に頼むと今回の図柄の場合は1回数時間、期間として数か月掛かる。
だが、和彫りに拘らなければ数時間で入れる事が出来る彫師もいる。
それがタイ人の彫師に多く、かなりの大きさの物を数時間で彫り上げる者もいる。また金額もリーズナブルだ。
今回は有名な早彫りの出張彫刻をしている。タイ人の経営しているタトゥースタジオから特別料金を払い4人掛りで一気に仕上げて貰った
一気に勝負を掛けるなら、これしか無かった。
更に、この刺青には『ご利益』以外にも様々な意味がある。
例えば……
まず『こんな刺青を入れた危なそうな女 抱こうとは思わない』
勝手に危ない女だと判断し一般人なら手を出さない。
『危ない人間でも真面な人なら手を出さない』
人の女に手を出す事をヤクザの方は『豆ドロ』と言って良く思わない。 刺青にしっかり夫の名前が入っていれば、筋を通す人間なら、まず手を出したりしない。
『抱いたが最後確実に高額な慰謝料を請求できる』
良く、テレビドラマで『俺の女に手を出しやがって、金払え』と因縁を吹っ掛ける話があるが、逃げる方は『人妻だって知らなかったんだ』と逃げる話があり、知らなかったと言う事で慰謝料をかなり軽減される事がある。だが、刺青として目立つ場所に入っていれば知らなかったと言い逃れは出来ない。その結果、抱いてしまえば最後確実に慰謝料が成立する。 実際に刺青が証拠として扱われたケースがあり、只の一晩の火遊びで100万もの慰謝料が支払われた話もある。
それに『相手がそれなりに身分のある相手なら家族が反対してまず結婚出来ない』 特に公務員や政治家の家系や大手の会社社長との縁談はまず無理だろう。
ざっと、思いつくだけで、4つもある。
刺青という選択は浮気をする相手とどうしても別れたくない場合、かなり有効な手段だと、とある売れない小説家の友人から聞いた。
まさにその通りだと俺も思った。
つまり、今の陽子は、最低最悪の寝取り相手となる。
まぁ、婚約か結婚したあとだけどな……
それでも陽子を寝取るなんて根性がある相手がいたら褒めてやりたい。
尤も、絶対に慰謝料地獄に落としてやるけどな。
自分でも本当に困った奴だ……そう思う。
此処までして1人の女に拘るなんて案外俺はヤバい奴だったのかも知れない。
◆◆◆
「それじゃ、純也がこの責任を取るって事で久々にしようか?」
「いや、流石に刺青を入れたんだ今日位は安静にしていた方が良いよ……それに1週間は湯舟に浸からず軽くシャワーを流す事しかできないし、第一背中が痛くて、それ処じゃない……」
だが、のそのそと陽子は裸のまま俺に近づいてくる。
そして、俺に跨ってきた。
「いいじゃん! 私が上になってあげるからさぁ……」
「ちょっと待て! それでお前は良いかも知れないけど、俺は背中が擦れて痛い……止めてくれ」
「駄目だよ? 私、痛いって泣いて純也に助けを求めたのに、止めてくれなかったよね?」
目が据わっている……こういう時の陽子は止まらない。
そのまま、腰を下ろしてきた。
「ううっ、気持ち良いけど……背中が痛い……やっぱりやめ……」
「だ~め」
背中に刺青を入れたのだから、暫くは落ち込むか泣き喚くと思ったのに……陽子ってタフだ……
しかし……うっ、凄く背中が痛い。
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