季節の変わり目の大切さを

Kamikor

第1話 正月に

大晦日。彼はスーパーで買い物をしていた。かごの中には年越しそばと割引されていた天ぷらとみかん。正月らしい買い物と問われたら心もとないが彼にとっては、十分だった。レジに並ぶ人の表情はどこか緩んでおり、同じ時間に同じ場所に立っているだけなのに、いつもより距離が近く感じた。


アパートに戻ると、部屋は冷えていた。

エアコンをつけ、コートを脱ぎ、鍋に湯を沸かす。テレビでは紅白歌合戦が流れているが、彼は画面をほとんど見ていない。歌声が部屋に広がり年末であることをかろうじて実感させてくれる。


茹であがった蕎麦を啜りながら、彼は一年を振り返ろうとした。

しかし強く思い返される出来事は意外と少ない。

仕事と家の事、休日の事、連絡が途切れがちになった友人。良い事も悪い事もあったはずなのに、記憶の奥へと追いやられ見えなくなってしまっている。そんなことを気にしていても仕方がないと思った彼はふと時間を見るそこには23:57と針が指していた。もうこんな時間かと思い皿を片付けみかんを頬張った。


年が変わる瞬間、彼はみかんの皮を捨てテレビのカウントダウンに耳を傾けた

「3、2、1」。歓声とともに日付が切り替わる。

新しい年になった実感は薄いが、それでも彼の中に余白が生まれた気がした。


元日の朝、彼は近所の有名な神社に向けて歩を進めていた。

神社は思っていたよりも人は多く混雑している。そんな中、携帯電話を見ると、母から「あけまして、おめでとう」の短いメッセージが届いていた。彼は同じ文面を送り返し、人の流れに身を任せ進む。屋台のにおい、鈴の音、笑い声。彼は自分がこの流れの一部であることを少しだけ面白く感じた。


そうして賽銭箱の前に立ちお金を入れ、手を合わせる。願い事をしようとして言葉が詰まる。大きな夢や、切実な不安も今は浮かんでこない。結局彼は「無事でいられますように。」とだけ心の中で唱えた。


帰り道、屋台で買った甘酒を飲みながら、空を見上げた。冬の空は高く雲はゆっくりと流れていく。子どもの頃、正月はもっと特別で、時が止まったように感じていたことを思い出す。大人になっていくにつれ、その感覚は薄くなっていったが、完全に消えたわけではないらしい。


アパートに戻り、コートやらを脱ぎ捨て録りためた映画を流し、途中で本棚から一冊抜き取り読む。集中できているか分からないままページだけが進んでゆく。

窓の外では、誰かが帆を挙げているのか、糸の唸る音が微かに聞こえた。


ある程度本を読み終えた彼は、時間を見て外出の準備を始めた。

正月に集まってご飯を食べる約束をしていたのだ。

道を歩いて進むと、友人がおり去年の一年間であったことを話し盛り上がっていた。そうしてそこに付くと久々に顔を合わせる奴らもいれば、たまに会って話す奴らなど様々な奴らが集まっていた。


そしてその集まりが終わると、各々各自解散といった形で、皆去っていった。

部屋に戻り今日を振り返る。今年は色々とやらなければなと思い。

今年の正月も終わりを迎えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

季節の変わり目の大切さを Kamikor @Kamikor_KOA2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画