第11話「運命の刻印、交わされる魂」

 故郷から戻った僕たちの間には、以前よりもっと深く、穏やかな空気が流れていた。

 過去という名の最後の鎖を断ち切り、僕は本当の意味で自由になれた気がした。

 蓮さんが、そのきっかけを与えてくれた。

 彼が、僕の凍てついた心を、その揺るぎない愛情で溶かしてくれたのだ。


 蓮さんの邸宅に戻った夜、僕はテラスで二人きり、星空を眺めていた。

 澄み切った冬の夜空には、数え切れないほどの星が瞬いている。


「綺麗だね」


 僕がつぶやくと、隣にいた蓮さんが、僕の肩をそっと抱き寄せた。


「ああ。だが、君の瞳の方が、ずっと綺麗だ」


 そんな、気障なセリフを、彼は真顔で言う。

 昔なら、恥ずかしくて顔も上げられなかっただろう。

 でも、今は素直にその言葉を受け取ることができた。

 彼の愛情表現が、たまらなく嬉しい。


「蓮さん」


 僕は、彼の胸に顔をうずめた。

 力強い心音が、僕に安心感を与えてくれる。


「ありがとう。僕を、連れ戻してくれて」


「礼を言うのは、私の方だ。君が、私を信じてくれた。一緒に来てくれた。それが、何より嬉しかった」


 彼は、僕の髪を優しく撫でる。

 その心地よさに、僕は目を閉じた。

 もう、迷いはない。

 覚悟は、とっくにできていた。


 僕は、ゆっくりと顔を上げた。

 そして、月明かりに照らされた彼の美しい顔を、まっすぐに見つめた。


「蓮さん。僕、あなたの本当の番になりたい」


 それは、僕からのプロポーズにも似た、魂からの告白だった。

 僕の言葉に、蓮さんは一瞬、息をのんだ。

 その黒曜石のような瞳が、驚きと、それから燃えるような喜びの色に、深く染まっていく。


「……湊」


 彼のかすれた声が、僕の名前を呼ぶ。


「本当に、いいのか。私と番になれば、君はもう、二度と後戻りはできなくなる。一生、私に縛られることになるんだぞ」


「望むところです」


 僕は、微笑んで見せた。


「あなたに縛られるなら、本望だよ。僕の全部、あなたにあげる。だから、蓮さんの全部も、僕にください」


 僕の大胆な言葉に、蓮さんはたまらないといった表情で、僕を強く抱きしめた。


「……ああ。もちろんだ。私のすべては、出会ったあの日から、とっくに君のものだ」


 彼の唇が、僕の唇に、そっと触れた。

 最初は、羽のように優しいキス。

 それが、だんだんと熱を帯びて、深く、お互いの魂を確かめ合うような、激しいものへと変わっていく。

 蓮さんのフェロモンが、甘く僕を包み込む。

 雪の森の香りが、僕の理性を溶かし、本能を呼び覚ます。

 僕の体からも、甘いオメガの香りが立ち上り、彼を誘った。


「……ベッドへ、行こう」


 蓮さんが、僕を抱き上げた。

 いわゆる、お姫様抱っこで。

 僕は、彼の首に腕を回し、その胸に顔をうずめた。

 恥ずかしさと、それ以上の幸福感で、胸がいっぱいだった。


 寝室の柔らかなベッドの上で、僕たちは服を脱ぎ捨て、初めてお互いの肌を重ねた。

 月明かりが、蓮さんの鍛え上げられた美しい体を照らし出す。

 彼の肌は熱く、僕に触れる手つきは、どこまでも優しかった。

 僕の体の、敏感な場所を、彼は全て知っているかのように、丁寧に、愛情を込めて愛撫してくる。


「は……ぁ……れん、さん……っ」


「いい声だ、湊。もっと聞かせてくれ」


 彼の指が、僕の内側を優しく探り、準備を整えていく。

 痛みは全くなく、ただ、とろけるような快感だけが、僕の全身を支配した。

 僕が、完全に受け入れる準備ができたのを確かめると、蓮さんは僕のうなじに顔をうずめた。


「湊……愛している」


 熱い吐息と共に、彼の牙が、僕の項に、ゆっくりと立てられる。

 運命の番だけが交わすことのできる、魂の刻印。

 鋭い痛みが走ったかと思うと、次の瞬間、雷に打たれたような強烈な快感が、背筋を駆け上がった。

 同時に、蓮さんのものが、僕の中にゆっくりと入ってくる。

 満たされる感覚。

 一つになる悦び。

 僕たちの魂が、完全に結びついた瞬間だった。


「あっ……!れん……!」


 僕と蓮さんの声が、一つに重なる。

 その夜、僕たちは何度も求め合い、お互いの名前を呼び合った。

 言葉にしなくても、わかる。

 僕たちの魂は、永遠に結ばれた。

 もう、何があっても、離れることはない。


 夜が明ける頃、疲れ果てて蓮さんの腕の中で眠りに落ちる寸前、僕は確かに聞いた。

 僕の髪にキスを落としながら、彼が幸せそうにつぶやく声を。


「ようやく、捕まえた。私の、たった一人の運命」

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