第9話 倉庫の罠と、逆転の人形
決戦は、パーティー前日の昼休み。
場所は、校舎から少し離れた体育倉庫の前だ。
「よし、セレナ、準備はいい?」
「うん、完璧」
私たちは倉庫近くの茂みの中に身を潜め、じっと様子を窺う。
私たちの手には、昨日アミーカの家で作った『秘密兵器』――藁(わら)を束ねて、私たちの古着と帽子を着せただけの、即席の身代わり人形が抱えられていた。
倉庫の扉は、先生たちの計画通り解放されている。その近くの木陰に、ゴードン先生と体育のバルガス先生が、息を潜めて隠れているのが見えた。
いやいや、先生たち本気すぎるでしょ。
私たちはじっと好機を待つ。
やがて、先生たちがふと校舎の方へ視線を外した、その一瞬。
「行くよ……せーの!」
アミーカの合図と共に、私たちは茂みから人形を全力で倉庫の入り口へ向かって放り投げると、すぐさま茂みの奥へと転がり込んで身を隠した。
ドサッ、ドサッ!
人形が倉庫の中に飛び込む音が響く。
振り返った先生たちの目には、私たちの服を着た何者かが倉庫に逃げ込んだように見えたはずだ。
「今だっ! 確保ーっ!!」
先生たちが猛ダッシュで倉庫へ駆け寄っていく。
私たちは息を殺してその様子を見守る。
ガチャン! バタン!
先生たちは中を確認もせず、勢いよく扉を閉め、外からかんぬきを掛けた。
「わはは! 確かに二人入ったな、もう袋のネズミだ! 大人しく出てきなさい!」
ゴードン先生の勝ち誇った声が聞こえる。
まずは第一段階、成功だ。
先生たちは今、人形を私たちだと思って閉じ込めている。
しかし、すぐに異変に気づくはずだ。
中からは何の返事も、動く音もしないのだから。
「……おい、静かすぎないか?」
「まさか、逃げたのか?」
しびれを切らした先生たちが、かんぬきを外し、警戒しながら少しだけ扉を開ける。
そして、二人揃って倉庫の中へと足を踏み入れた。
「……なんだこれは!?」
「く、草人形……!? やられた!!」
中から驚愕の声が響く。
――今だ!!
私たちは茂みから飛び出すと、音を立てないように、でも全速力で倉庫に駆け寄った。
そして、開けっ放しの扉を思い切り閉める!
バタン!!
ガチャン!!
すかさず外からかんぬきを掛ける。
完璧なタイミングだ。
「なっ、扉が閉まったぞ!?」
「おーい! 開かないぞー!!」
中からドンドンと扉を叩く音と、情けない声が聞こえてくる。
ふふっ、大逆転勝利!
バレたら終わりだなって思ってたから、見つからずに済んでよかったぁ。
私たちは顔を見合わせてクスクス笑うと、先生たちに見つからないよう、足音を忍ばせてその場を離れた。
◇◆◇
それから数分後。
私たちは服についた草や泥を丁寧に払い落とし、「たまたま通りかかった生徒」を装って倉庫に近づいた。
「あれ? 誰か中にいるのかな?」
「先生の声がするよ?」
中からは「誰かいないかー! 開けてくれー!」という必死な声が聞こえてくる。
私たちは急いで駆け寄り、かんぬきを外して扉を開けた。
「先生! 大丈夫ですか!?」
中から出てきたのは、埃まみれでゲッソリしたゴードン先生とバルガス先生だった。
二人は私たちを見て、ギョッとした顔をする。
「セ、セレナさんにアミーカさん……!?」
「大変でしたね! 私たち、図書室からの帰りに声が聞こえて……」
私が心配そうに言うと、アミーカも「怖かったですねぇ」としらじらしく相槌を打つ。
先生たちは狐につままれたような顔で、私たちと、倉庫の奥に転がる草人形を交互に見ている。
「あ、ああ……助かったよ。ありがとう……」
と、力なく礼を言うしかなかった。
まさか自分たちが閉じ込めたはずの「犯人」に助けられるなんて、夢にも思っていなかっただろう。
それに、人形を仕掛けたのが私たちだという証拠はどこにもないのだ。
「じゃあ先生、明日のパーティー楽しみにしてますね!」
「さようならー!」
私たちは元気に手を振ってその場を去った。
背中越しに、先生たちの深いため息が聞こえた気がした。
さあ、前哨戦は私たちの完全勝利。
明日の本番も、思いっきり楽しませてもらおうかな!
―――――――――――――――――
身代わり人形作戦で先生たちを完封!
「通りすがり」の演技も完璧でしたね(笑)
次回、第10話「止まった噴水と、止まらない疑念」
パーティーの目玉が故障!?
セレナの神業修理に、先生たちは破壊工作と勘違い……?
今回のイタズラ、
セーフだと思いますか?
アウトだと思いますか?
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