卵とクレイジー兄妹

蠱毒 暦

無題 卵騒動(一部始終のみ)

ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、と、とぅっ!!!!


「俺の名は、刃讃岐野ばさぬきの 宮津湖みやつこ!!!!! 何処にでもありそうなエレベーターが使えないズタボロマンションの89階に妹と一緒に住んでる、買い物帰りの普通の大学生さ!!!!!!」


ドッゴォォン!!!!


「帰ったぜ!!!!今日は特売で卵が…あ?まだ帰ってねえのか?なら好都合だぜ、ヒャッハァ!!!!」


……


ここは…大富豪の貴族から、文無し無戸籍ドロカスド貧乏まで通う事が許されている、貧富の格差と給食のお代わり争奪戦が激しいロマンス中学校。


光巫女ひかりみこさん!僕…あなたの事が、」


ピリリリリ…


「ごめんなさい…今、いいですか?」


「あ…うん。」


「はい。刃讃岐野ばさぬきのです…大家さん?」


『イヒヒッ、光巫女かぁい?宮津湖みやつこの天文学的なレベルのイカれ野郎が、まぁた、マンションのドアを壊しやがったんだ。しかも何やら怪しげな事をやってる。何とかやめるよう、言ってやれ。面倒ごとに巻き込まれたくないから、あたしゃあ、寝る…おやすみ。』


(お兄ちゃん…っ!!!)


わたしは辛うじて平静を装い、電話を切った。


「あ、わたし、ちょっと急用が出来たから…また今度とかでいい?埋め合わせはするから。」


「い、行ってらっしゃい。僕…ずっと、待ってるから。」


「…?ありがとう!」


クラスメイトの貴族の人に、何度も頭を下げてから、体育倉庫を出て、マンションへ向かって駆け出した。


……


ガチャガチャ…バキバキィ…カンカンカンカン…ジリリリリ————!!!!!!!


急いで外付けの今にも崩れそうな階段を登り、壊れた玄関のドアを横に立てかけてから、家の中に入り、匂いが移らないように、荷物を外に置く。


「……よし。」


何が起きてようと動じない覚悟を決めてから…焦げ臭くて、うるさい音がする台所に行く。


「おっ、帰ってきやがったか!!!!見てくれよぉ…今日は特売で卵が安くて沢山買って来たぜ!!!!!」


(うっ…想像以上に酷い。)


大量の卵を、フライパンの上にも置かずに直火で、燃やし続けるコンロはもう焼きたくないと悲鳴を上げ、半開きのレンジの中から、破裂した卵の断末魔が聞こえてくるようだった。


「お兄ちゃん…えっと。料理してたの?家事はわたしがやるから、やらなくていいよって…いつも言ってるのに。」


「いんや、違うぜぇ?分かるだろ??」


(何が?)


色々と考えた末、わたしは言った。


「ごめん…分からないよ。」


「んお?そうかぁ…俺よりも賢いお前でも、分からない事があるのか!なら、いい勉強になるぜぇ?」


お兄ちゃんは山積みになった卵をコンロにぶち込んで、わたしを見て自信ありげに笑った。


「あっためてるんだよ。こんなに卵が沢山あるんだ!ヒヨコの1匹くらい出来るって寸法さっ!!!前からペット、欲しかったんだろぉ?」


「……そっか。」


お兄ちゃんは全然、悪い人じゃない。常に善意だけで行動してる。


ただ不器用で、普通の一般常識で計れず、発想と手段が、ぶっ飛んでいる……バカな人なんだ。


昨日は「家計が少しでもよくなるように実験するぜヒャッハァ!!!」って言って、自室を爆発させたし、一昨日なんて…うう。考えたくない。


(だから…妹として、正さないと。)


「ヒュヒュルルヒュルピ〜♪」


視線を外し、下手くそな口笛を吹き卵を無駄に消費するお兄ちゃんをキッと睨みつけながら、ぴょんぴょんとジャンプして体のコンディションを確認してから、右の拳を強く握り…


「すぅっ……お兄ちゃんっ!!!貴重な食べ物を…命を粗末にしちゃいけないんだよ!!!!!」


「それは違うぜ?ヒャッッハ!!!!今、俺は新たな命を育もうと…ほら見てくれよ!!!!これとか…ヒビが入っ…ゲッ、何か嫌な予感が」


「妹激おこアッパー!!!!!」


「ギャハァァッ————!?!?!?」


何とか逃げ延びようとしたお兄ちゃんの下顎めがけて、それが炸裂した。


……


「はぁ…1週間前に綺麗に掃除したばっかりだったのに。しばらくは卵の匂い…取れないだろうなぁ。」


ピーピー


ボコボコにして気絶した、お兄ちゃんを台所から適当な廊下で寝かせておいた後…コンロを切って、僅かしか残っていない洗剤を使って、掃除をする。


ピヨピヨ


「夜のシフト。もっと増やさない…ピヨピヨ?」


壁の掃除をやめて、下を見るとコンロの近くにあった黒炭になった卵の残骸の中から、ひょっこりと顔を出していた。


「きゃあ!?!?う、嘘でしょ。」


あんな方法で産まれちゃったなんて、お兄ちゃんが知ったら……


(つけ上がって今度は、何をするか分かんない…よね。)


ドタドタドタドタ…!!


「っ…考えてる場合じゃない!」


ピヨ?…ピイッ!?


咄嗟に、ツギハギの制服のスカートの中に雛鳥を入れたと同時に顔面がパンパンになったお兄ちゃんがやって来た。


「ヒャッッハァ!!!悲鳴が聞こえたから、死の淵から華麗に舞い戻って来たぜ…ゴキブリでも出たのか!?!?」


「う、ううん…何でもない……お、お兄ちゃんは大人しく、爆発させた自分の部屋を掃除してて!!!!今日中に!!!!!」


「ウゲエッ…!?そりゃあ無いぜ、勘弁してくれよ…今日中だなんて、そんなぁ…!!!!」


「んもうっ…そんな事言ったら、お兄ちゃんの晩ご飯は抜きに」


「兄の偉大さを見せてやるぜ…待ってろよ、俺の晩飯ぃ————!!!!!」


ドタドタと立ち去るのを見て、わたしはひと息ついて、ポケットから取り出した。


ピーピー


躊躇いは一瞬だけあったけど。


「命を粗末にしちゃ…ダメだよね。」


……


食材の全てが特売で構成された晩御飯をお兄ちゃんに振る舞った後、私の部屋の中で、どう育てればいいのかを、壊れかけのスマホで調べてみた。


「適切な温度管理、清潔な環境、適切な餌と水…うーん。」


温度管理も、清潔な環境も、適切な餌と水も…このズタボロマンションでは実現不可能であるという現実に若干、打ちのめされそうになったけど。


ピーピー


寒さに震える雛鳥を見て、両手で潰さないように、優しく包む。


ピヨ…


「それでも…諦めたくない。」


かくなる上は…!


……


「それでヤクザ狩り…ではなく、バイトの帰りに、私の元に来たという訳ですか。」


ピヨピヨ


「はい…お世話は、全部わたしがやります…だからっ、お屋敷のお部屋を1つだけ…」


お兄ちゃんが大親友と呼ぶ(恋人かも?)、おう 沖奈おきなさんは、高価そうな机の上で呑気に歩く雛鳥を一瞥しつつ、丁寧に緑茶を一口飲んで、机に置いた。


「別に畏まらなくても、取って食べたりとかはしませんって。あなたのお兄さんのお陰で、随分と楽しく、飽きない大学ライフを謳歌させてもらっているのですから、それくらい構いませんよ。ですが、本当は……自分の部屋で育てたいのでは?」


ニヤッと悪戯げに微笑む沖奈おきなさんを見て思わず立ち上がって、その両手を掴んだ。


「本当ですか!?」


ピ、ピイィ!?


「ええ。妹さんがいいとおっしゃるのならですけれど…反応からして大丈夫そうですねぇ。ちなみに、この件をお兄さんには?」


「秘密にして頂けると…幸いです。」


「ええ。分かりました…輝夜。聞いていた通りです。今日中に諸々の設営をお願いします。」


「はい…主。」


襖の外から子供っぽい声がして、スタスタと立ち去る音がするのも…全く気にならないくらいに、わたしは嬉しかった。


「これから…よろしくね。」


ピヨピヨ♪


「ふふっ。可愛い…♪」


いつかペットを飼いたいって…ずっと思ってたから。


……


「行って来るね。」


ピヨピー


この日から、わたしの生活は大きく変わった…訳ではなかったけど。


「ヒャハ!!!最近…め、飯が多くねえか!?今にも吐きそうだぜ!!!」


「もうっ…自分で取った分は残したらダメだからねっ、お兄ちゃん!じゃっ、学校行って来ます!!」


わたしがいない時は、沖奈さんのメイドさん(?)がお世話をしてくれるから、安心出来る。


「また正解か。刃讃岐野…座っていいぞ。」


「はい。」


帰ったら…1日、また1日と経過するほどに、成長していくあの子が待ってる。それだけで…わたしは、それはもう有頂天になれて……


「業務内容通り、持って来ました。ある程度、血抜きとかしてビニール袋に入ってますよ。」


ドサッ


「っ!?まさか…炎上町No.1の犯罪シンジゲートのボスの首をたった、数時間で。」


「定時なのであがります。お疲れ様でしたー。」


「お、お疲れ様…はぁ。これが、炎上町最強の妹『暴虐系智天使ケルブ』の実力か。我ながら…ラッキーで、チョロい娘だ。」


学校の成績もさらに上がり、夜のバイトも絶好調。まさに我が世の春といえるくらいに…日々が充実していた。


そんなある日。バイトの都合で晩御飯が遅くなった夜のことだった。


「ただいま〜お兄ちゃん、お腹空いたでしょ。これから晩御飯を」


「それより見てくれよ、これ!」


お兄ちゃんが、わたしに見せつけたのは…


「何故か、お前の部屋に鶏がいてよ!」


「……」


所々、羽が残った…あの子の………鶏の死体。


「今夜はご馳走だぜ〜♪七面鳥っ、七面鳥っ!!!!いやっほう!!!!」


「……」


悲しくて…苦しくて…怒りのままに、何もかも滅茶苦茶にしたくなる…でも。

 

生物は生物故に、いつまでも…生き続ける事は出来ない。


わたしはあの子を『ペット』としてしか見る事しか出来ず、お兄ちゃんみたいに『貴重な食料』として、屠殺して…調理しようなんて考える発想は浮かばなかった。


今回ばかりは…お兄ちゃんが正しい。


時間は巻き戻らない。

1度起きた事象はやり直せない。

生き返らせるなんて…夢物語に他ならない。


だから…しょうがない。この現実を受け止めて…今出来ることを精一杯やる。


「…う」


「??」


そう思わないと…わたしの心が壊れちゃう。

些細な積み重ねの結果、理不尽にわたし達を殺そうとした両親と同じになるのは……嫌だ。


静かに体を震わせて、両手をギュッと握りしめて…お兄ちゃんに言った。


「七面鳥…ね?クリスマスは終わったけど…今日は特別なんだからねっ!」


「最高だぜ、ご馳走、ご馳走…ヒャッッハ!!!!」


これで…これでいい。それが…あの子にとっての…幸せなんだ。


(幸せ…なんだよね?)


……


「おやおや、それは残念…だったね。」


「なので設備の回収を…お願いしたくて。」


「……後で輝夜に伝えておくよ。明日の夜までには、撤去されてるかな。それまで置いておくけどいい?」


「はい…沖奈さん。ありがとうございました。」


お屋敷を出てから、夜のバイトを終わらせて家に帰り、謎に大人しくしていたお兄ちゃんを無視して部屋に戻る。


「あれ?」


あの子がいたケージの中。そこに露骨に卵が1つ置いてあって…わたしは手に取っ


ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、とぅ!!!


ベシャバキバキ——!!!!!!


「そりゃあ、卵じゃねえか!!!あの鶏が産んだかもしれねえな!!!!一緒に育ててみっか??」


「……お兄ちゃん。」


(あの子を殺しておいて…何様のつもり?)


(隠してるつもりかもしれないけど、『鶏の育て方』っていう本を持ってるの、バレてるよ?)


(こっそり沖奈さんに教えて貰って、この卵を用意したの?)


(ていうか、わたしの部屋のドア壊さないで!?玄関のドアの修繕費…結構かかったんだけど!?!?)


言いたい事がぐるぐると巡る中…わたしは左の拳を握り締め、お兄ちゃんをキッと睨む。


「ヤベェぜ、超逃げてえ…け、けど、だけどよ…俺は…俺はっ…今日だけは逃げねえぜ!!!!お前を悲しませちまう事…やっちまったんだから!!!!」


冷や汗をダラダラ流し、ギュッと目を閉じるお兄ちゃんを見て、わたしは…拳を下ろす。


「ありがとう……もういいよ。お兄ちゃん。」


「ゆっ、許してくれるのか!?本当に申し訳ねえ…ごめんよぉ。」


「うん。これから一緒に育てよ?」


「あぁ…ああ!!!どの鶏にだって負けねえ、最高にカッケェ〜鶏にしよーぜ、ヒャッッハァ!!!!!」


(…は?)


「可愛い子がいいのっ、お兄ちゃんっ!!!!!!!!」


「マジかよ…俺は断然、カッケェの…がっ!?」


わたしが一歩後ろに下がり、嫌な予感を察知したのか、背を向けて部屋の外へと逃げようとする、醜いお兄ちゃんを見て、息を吐いた。


「激おこぷんぷんドロップキック!!!!!!!!」


「…ギャッハァ!?!?」


こうして、2人で協力して鶏を飼う事になり…新たな家族が増えたのだった。

                   了
























































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