昔の話、追憶
アリアは産まれた時から目が見えなかった。
それなりの商家に末娘として生まれたが、家族は皆アリアを無いものとした。
白濁し何処を見ているか分からない瞳が不気味だと言う理由で。
死なない程度に世話をして
と使用人に放り出されたアリアは、下働きの赤子を失ったばかりだと言う女から乳を貰い、家族の目に触れぬ様育てられた。
最低限の世話、と言われてはいても小さな乳飲み子である。
子を失ったばかりの下働きの女は我が子の様に愛情を持って接した。
やがて表情が出てくる様になると、他の使用人も小さな赤子を愛らしく思い、同時に盲目であるが故に家族に無いものとされるアリアの境遇に同情していた。
しかし、雇い主であるアリアの家族にうっかりアリアの様子を伝えてしまった使用人がムチを打たれ職を追われたと知れ渡ってからは、アリアは使用人達からも距離を置かれてしまう。
雇い主がムチを打った理由は、あの盲目の娘の存在を思い出させたからだった。
使用人達は、アリアと関わり職を失うのを恐れたのだ。
それからのアリアは父達が希望した〝最低限の世話”だけを受けて育った。
アリアに乳をやり愛情をかけていた下働きの女も、アリアが乳離れした頃に再び自分の子を授かり、職を失うのはごめんだとばかりに側を離れたのだろう。
食事は用意されていたが身の回りの世話はされず、しかしそれが幸いし盲目ではあるが一通り自分の事は自分で出来る人間へと成長した。
商家の跡取りである長男が、この世界では貴重な魔術師としての才を目覚めさせ王都の魔術機関へ行く事になった時、アリアは14才だった。
2つ上の姉は隣国の大きな商家の跡取りと婚約していたが、兄が魔術師として国に仕える為、急遽実家の跡取りとなり婿をとる事になった。
すぐに婚約解消の願いを隣国に送ったが、返答は否であった。
いや、否ではあるが突然の婚約解消で心を痛めた跡取りへの〝お気持ち”を込めてくれれば考える、と返答したのだ。
つまり金である。
多額の慰謝料を寄越せば婚約解消を認めようと言うものだ。
父は激怒したらしい。
さすが汚いやり方で商売を大きくしてきただけはあると大きな声で罵る声は、離れのアリアにも聞こえていた。
相手の要求する慰謝料は、隣国の大手商家なら支払えるだろうが、我が家の規模の商家では商売が立ち行かなくなる危険のある額であった。
どうすればいいのか、予定通り長女を嫁にやり我が家の跡取りは弟の子を養子に迎えるべきか。
しかし、昔から父より出来が良く人望のある弟に嫉妬していた父である。
その弟の子である甥を跡取りにするのは心情的に躊躇われた…。
そして、思い出したのだ。
そういえば、出来損ないの気味の悪い娘がもう1人いた事を。
結果から言うと、上の娘の代わりに、と差し出されたアリアを跡取り息子はとても気に入った。
美しい見た目もそうだが、なにより視線が定まらず何処を見ているのか分からない瞳がそそる、と言うアリアからすれば鳥肌しか立たない理由で。
その様子に父は、盲目ゆえに家族みんなで溺愛し、嫁に出す予定のなかった娘なのでやはり…
と嫁に出すのを渋る様子を見せ、慰謝料どころか支度金として多額のお金貰い受ける契約を取り交わすことにも成功していた。
そしてアリアは売られる様に嫁に出された。
15才の事だった。
婚家でのアリアは、やはり肩身の狭い立場だった。
支払うしかなかった支度金の契約は跡取り息子の独断で行われたもので、商家の主たる舅はアリアにそれほどの価値を見出さなかった。
それは姑も同じで、盲目の上に家業も手伝えないアリアが愛する息子の嫁である事の不満を隠そうとはしなかった。
それでもアリアに子が出来ればそれで良い、息子も何が良いのか分からないが嫁に夢中であるから、と冷遇されることもなく、商家の若奥様としてそれなりに過ごしていた。
それも最初のうちだけだった。
1年経ち2年経ち、アリアに懐妊の兆候が見られない日々が続くと姑からの当たりが強くなる。
夫はどうやら外に女を囲ったらしい。
相手は14才。
アリアを見染めたのもその年齢の頃だった。
どうやら夫は10代中頃の少女が好みの様で、少女から女性へと成長しつつあるアリアは彼の好みから外れてしまった様だった。
そして3年目、アリアは森に捨てられた。
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