君と僕の物語

雨の日

今の私たちの話

付き合うの定義



「悟君と華ちゃんは、付き合ってるんだよね?」




そう聞かれて言葉に詰まった。




付き合うって、どうやって始まるんだろう?どこからが、付き合うって事なんだろう?


どちらかが「付き合ってください」って言って始まる交際は、付き合うだろうな、と思う。それなら私と悟は付き合ってはいない。


お互いが好き合っていて、両思いで、いつも一緒にいるのが当たり前なのは、付き合う、に入るのだろうか。それも付き合うの定義に入るのなら、私と悟は付き合っているのだと思う。






「ねぇ、悟」


隣で自転車を押しながら歩く悟を見る。去年まで私の方が高かった背が、いつのまにか抜かされている事に気づいた。


「ん?」


私を横目でチラリと見て、悟は短く答える。眉間に皺を寄せ不機嫌そうな顔は、怒っているのではなくいつもそうなのだ。昔から、ずっと。


「今日ね、みっちゃんに、悟と私は付き合ってるのか、って聞かれちゃった」


ちょっと照れ臭くて、悟から目を逸らし下を向く。


「…?何だそれ。何故そんな事聞くんだソイツは」


人の事なんて、どうでも良いだろう。何故気になるんだ、と悟は吐き捨てる様に言う。口は悪いが、これも怒っている訳ではない。


「皆が悟みたいに、他人に興味ない人ばっかりじゃないの!みっちゃんと私は友達だし、友達の恋愛は気になるものなのよ」


「そうか、そういうものか」


面倒くさいものだな、とため息を吐いた悟と私は話を終えて、無言のまま家路を歩く。




結局、付き合っているの?の答えは出なかった。


聞かれるまで疑問にも思わなかった。疑問に思い出すと、思考は止まらない。〝付き合おう”の言葉がなくても、両思いでいつも一緒にいるのが当たり前なら、私たちは付き合っているのだ。


私は悟が好き。悟も私が好き。お互い言葉は無かったけれど、そう確信していた。それを〝付き合う”の定義に当てはめようとした時、急に確信が揺れた。私は悟好き、それは私の心が一番良く知っている。じゃあ、悟は?言葉にされた事はない。

今までの時間の積み重ねが、彼の態度が、私への好意を感じさせるもの、信頼が。

悟は私を好きなんだと信じさせてきた。




チラリと隣を見る。自転車があるのに乗らず、私に合わせて歩く悟。


私と悟の家は隣同士だ。学校から家までは歩いて15分。徒歩30分以内の生徒は自転車通学が認められていない。

朝、一緒に歩いて登校し、帰りは帰宅部の悟は先に帰って美術部の私の部活が終わる18時頃に校門の前まで自転車で迎えに来る。

始めの頃は2人乗りで帰っていたがおまわりさんに見つかり注意され、学校に連絡が行き2人乗りの危険性を2人で説教された。

それからは、こうやって歩いて帰っているが、悟は自転車で迎えに来るのはやめなかった。




「悟君と華ちゃん、付き合ってるんだよね?」




みっちゃんの言葉が胸にズンッと落ちてくる。


好き合っている2人なら、付き合っているのだろう。それでも急に、言葉にされない感情に、好意に、確信が持てなくなった。




悟は、私の事好き?


そう聞いて、彼が眉をひそめ眉間にさらに皺を寄せ「はぁ?」と拒絶の反応を示す可能性が頭をよぎる。


私はそれが怖かった。




私たちには積み重ねた時間と信頼がある。あるのだと信じている。




それでもこの世界に生まれた私達は今、まだ15才だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る