騎馬戦
春山純
騎馬戦
「田島と岡部は確定な。あともう一人うちのクラスから出さないと」
体育委員の花嶋が言った。最後の体育祭を控え、3年生は騎馬戦をすることになっている。誰が騎馬の上に乗るのか、決める必要があった。自分は小柄という点では土台に向かないかもしれないが、けして華奢というわけでもない。腕が長くて細身の田島と岡部は妥当だろう。後の一人は、大柄な人間でもいいのではないか。土台の三人も大柄な人でそろえればいいだろう。他人事のような考えで、僕は単語帳に目を通していた。
「倉橋はどうなん?」
「他におらんしな」
女子体育委員の佐藤も呼応した。
「俺?もっと腕が長い奴の方がいいんじゃないか」
本心だった。土台の人間と比べ、騎馬の上に乗る人間は責任が重すぎる。華奢な岡部なら、自分でも支えられるだろう。
「でも、倉橋くんは~だから」
見かねたのだろうか。隣の席の曽根さんが言った。バドミントン部で社交的な彼女は黒木華似の日本美人で、僕は1年生で同じクラスだった頃から意識していた。成績もよく、明るい彼女は暗い僕にいは不釣り合いだろうとはわかっていたが、、、
「そうやな。じゃ、倉橋頼むで」
曽根さんの発言は聞き取れなかったが、僕を肯定するような言葉だったのだろうか。強引に押し切られたような気もしたが、クラスに貢献することも必要か、と自分を納得させた。
受験生ということもあり、ほとんど練習を積まないまま体育祭当日になった。
相手の騎馬の上は長身でバスケ部の佐土原。僕は緊張して、足から出る汗が止まらない。僕の足の下に手を入れている、土台の人に申し訳ない。滑って落ちるのではないか、という不安も出てきた。気づけば試合が始まろうとしている。僕は相手の顔を見た。佐土原を応援する、1組の連中の声がする。2組のやつ。もっと応援しろよ。そんなことを思っていると試合が始まった。互いに腕をつかみ合い、膠着が続く。佐土原は長い髪が帽子からはみ出ており、帽子が取れやすそうだ。腕が絡み合っているが、体感の強さには自信があり、バランスは崩さない。右に傾いたかと思うと、今度は左に傾く。一瞬、手がほどけた瞬間を逃さなかった。左手を懸命に伸ばすと、帽子をつかめた。笛が鳴る。沸き立つ3組の面々を前に、僕は一人しきりに頷いていた。クラスの勝利はどうでもよく、ただ自分が仕事を果たしたことに満足していた。
「倉橋君、すごかったね」
放課後、帰り支度をしている僕に曽根さんが言った。彼女はまだ赤いハチマキをしている。熱闘を終えた彼女の頬が火照っているのが、電気をつけていない教室の中でも分かった。
「え?」
席が隣とはいえ、普段あまり話すことのない曽根さんとの会話に、僕は戸惑ってしまう。
「やっぱり、倉橋くんを騎馬の上にして正解やったね」
「ああ。ありがとう」
そっけない対応だとは思いつつ、どう対応するのが正解なのかわからなかった。彼女がハチマキをほどこうとしたとき、思わず口に出していた。
「そういえばあのとき、何て言ったの?その、誰が騎馬の上になるかで話し合ってたとき」
「えっと、なんやっけ。あ、倉橋君は、勝利にこだわる人だから」
「え?」
彼女がそんな印象をいつ、僕に抱いたのか。僕と彼女は高1、高3と同じクラスになったものの、そこまで会話した記憶はない。国語の時間に話し合えと言われ、話したことが歩き気がするが、、、
「倉橋君さ、いつも朝練してたでしょ」
「私朝はいつも図書室で自習してるんだけど、倉橋君が練習してるのが窓から見えて。いつも頑張ってるなって」
正直なところ、ケガもあって部活にいい思い出はなかった。最後の大会でいい結果は出なかったこともある。それだけに、自分の努力の過程を見てくれていた人物がいるということに、感動を隠し切れない。結果がすべての勝負の世界で、努力の過程を見てくれている人物がどれほどいるのだろうか。
「そんな、見てくれてたんや。ありがとう」
そんなこともあったな。久々に戻ってきた地元の本屋で、そんなことを思い出していた。あの国語の時間、互いに最近読んだ本を紹介しあっていた気がする。彼女が紹介していた本を偶然見つけて、思わず手に取っていた。地元の大学に進んだ曽根さん。元気にしてるんかな。
騎馬戦 春山純 @Nisinatoharu
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