幻堕を照らせ

くりおね。

【第1話】 おはよう






 僕はとてもいい子だった…はず。






 こんなことになった理由は知らないけれど、








 僕は望んでいなかったと……… 誓う。















  ・  ・  ・
















「うみ〜!! おはよう〜!! 今日も可愛いね〜?」


「?」


「可愛いのは当たり前。 さっさと朝食の準備すれば?」


「もううるさいなぁー、ばく。」


 忙しい朝に可愛い妹に「おはよう」と挨拶をするという自分で決めたルーティンをこなす長女、深九里みくりとその深九里に対してやきもちを焼いている漠はまた兄妹喧嘩を始めようとしていた。


「まだこうと会話してないんだけどー?」


「知らねぇよ、早起きすればいいだけじゃん」


「早起きしてもこうが起きてないじゃん」


 2人は一家が認める程妹が大好きでいつも何かがあればすぐに取り合っている。いつも母親や長男が止めても妹に関しての喧嘩は妹自身が止めに入らなければ終わることは無い。どこにいても。


「それこそ知らねー、起きる瞬間まで横で待ってりゃいいじゃん」


「その場所を横取りしてるの誰?」


「みくで〜す」


「うっざいなぁ、、」


「…ちょっと、うるさいんだけど。 恋海こうみ泣くじゃん」


 いつも朝の喧嘩の時や他の時の2人の喧嘩の時に妹をあやしているのは長男である李砂りさの役割である。

 そして恋海というのが2人が大好きな次女である妹の事である。美形な母親に似てもっちりとした顔に桃のようなピンクの頬、ぱっちりとした目に綺麗な藍色に近い瞳、そして綺麗なパーマのかかった癖毛の黒髪は産まれた瞬間、誰もを虜にした。母親は「小さい時は深九里もこんなだったのよ」と言うが本人曰く「絶対にうみの方が可愛いから。そんな事言わないで」とはっきり言っていた。


「ほら、また漠のせいで」


「いやいや、これは深九里のせいでしょ」


「どっちのせいとか関係ないでーす、早くご飯の準備してきてくださーい」


「「はーい」」


 小言を言いながらも2人は食卓へと向かうために階段を降りていった。


「恋海、怖かったでしょ」


「ん〜? こわくないよ、こーみつよいもん」


「だね、恋海強いもんね」


「うん!」


 こういうこともあり、恋海の事を大好きに思っているのにも関わらずその思いは伝わることはなかった。恋海はずっと李砂に懐き、四六時中学校が無ければ李砂と共に行動をしている。


 李砂と恋海もその後食卓へと向かえばそこにはみずみずしい野菜とポテトサラダが置かれていた。4人それぞれ好きなものが分かれているため、母親は4人それぞれ違う朝食を用意していた。李砂には白米、焼き魚、味噌汁。漠には目玉焼きを乗せたトースト。深九里にはジャムを乗せたトースト。恋海はお粥。


「母ちゃん! 明日は深九里のトーストと同じのがいい!」


「みくは明日和食にするー」


「え、じゃあトーストじゃないじゃん」


「なんで漠に合わせないといけないのよ」


「だって母ちゃん困るだろ?」


「今更こんなことで困るって…笑 本当に分かってないわね、別にこんなことぐらいどうって事ないわよ?」


 深九里と漠はよく喧嘩するがそれもいつも本気では無く遊びのような軽い感じなので一家には常に笑いに溢れていた。母親は子供の健康に気をつけ、李砂は年下達の面倒を見ていた。父親の代わりに。


「じゃー食べ終わったから行ってくる!」


「行ってらっしゃーい」


「ねぇねぇママ、今日はお菓子作ろうよ!!」


「良いわよ〜、でもその前に庭掃除手伝ってね?」


「はーい」


 ここ、晴入薇はにゅら国では10歳になるまで学校が無いためそれぞれの家庭は子供が大きくなるまでは家政婦を雇わず自分達で掃除をして生活をしていた。中には「式神」と訓練をする子供もいるが大体は家族との時間を楽しんでいる。


「じゃあ恋海、僕も行ってくるから。 お留守番…できる?」


「いつもしてるから! いけゆ!」


「帰ったらご褒美にいっぱい遊ぼうね!……じゃあ母さん、行ってくる!」


「行ってらっしゃい! 気をつけるのよ!」


 李砂はもう既に恋海とは10歳程離れており義務教育を終えようとしているところだった。漠は毎日暇だから近所の子供と遊んだり対決したりしている。特に幼馴染の李鵬りほうめいとは朝から夕方までずっと一緒にいる。


 式神は、数百年以上前から存在していると言われている超神秘的な力で作られるとされている霊的存在と言われている。実際のところは霊的とは思えない程現代社会に溶け込んでいる。そしてその超神秘的な力というのは式神を召喚する時期——つまり5歳になった頃——に式神を召喚すると共に全員に分け与えられる。そしてこの超神秘的な力を人々は「マナ」と呼んでいる。ただこれが平等ではなく人により分け与えられるマナの量、所謂強さは異なるそしてそのマナの量により召喚できる式神の強さも限られてくる。式神は召喚されればその召喚をした相手を生涯守ることが義務付けられている。また人によって式神の見た目は全く異なる。そして式神は話すこともできる。ただし話すことができる式神というのは召喚した相手のマナの量で変わってくる。ここで注意してもらいたいのは必ず全員が式神を召喚できるということではないということである。式神には相性というものが存在し、相性が悪ければ最悪死に至ることもあるため本人がどうしても式神を召喚したいと望まない限り、相性が悪い人は式神を召喚することを諦める。式神を召喚する時、マナも発生するため式神にもその人と同じマナが流れることになる。

 ここで厄介なのが「式神戦争」と国民の間で呼ばれているものである。現在国は近年大量発生している「悪魔」を討伐するため強い式神と強いマナを持った人を探している。このに問題があるのだ。もし期待していた子供がとても弱かった場合、親は子供を言葉など様々な暴力で傷つける。そしてその傷ついた子供はどこにその傷みを吐き出すのか——。説明するまでもないでしょう。

 

 そしてもう一つ謎なのが「悪魔」という存在である。悪魔は非常に危険な存在として扱われているで、その悪魔は人のネガティブな感情をかき集め塊となった人間のような見た目のもの。形や造りは人間と似ているものの人間でいう心臓(悪魔の場合心臓は「核」と呼ばれる)を完全に消滅するまでは殺せない、つまり人間に害を与え続ける。その悪魔を討伐するため構成されている組織がある。国民の誰もが目指し、憧れる「晴入薇はにゅらこくぐん」である。ただこれは正式名称であり、国民からは守ってくれる存在として「防衛隊」と呼ばれている。


「ねぇねぇママ!! 瀬菜せなも呼んでいい?」


「いいよ、瀬菜ちゃんの予定が空いてるならね」


「やったー!! えっと、じゃあ、迎えに行ってきてもいい?」


「いいけど瀬菜ちゃんのことだからすぐに来れるんじゃない?笑 行ってらっしゃい」


「はーい!!」


 深九里には10軒家が離れているだけの幼馴染、李鵬りほう瀬菜せながいた。何かあればすぐに連絡をして気になることやしたいことができればすぐに会うというとても仲の良い友達であり、趣味が似ていることから双子とも呼ばれている。そして瀬菜は漠の幼馴染である明とは一つ違っただけの兄妹だった。


 10歳まで地元に居続ける子供達は幼馴染と一緒に行動をし、将来引っ越す予定もなければ大人になってもずっと一緒にいる、なんていう事が多かった。深九里と瀬菜もそうだった。


「おばちゃーん!! おじゃましまーす!!」


 慣れたような手つきで家に入った瀬菜は入るなり誰にも場所を聞かずに「洗ってもいい?」と深九里に聞き「いいよ〜」と返事が来るとすぐに手を洗い、家から持ってきたであろうふわふわのリボンの付いたハンカチをポケットから取り出し水に濡れている手を拭いた。


「いらっしゃい、深九里は今からお菓子作るみたいだけど…瀬菜ちゃんも一緒にどう? 邪魔になりそうだったらおばさん違う部屋にいておくから必要になったら呼んでね?」


「ありがとう!! じゃあ瀬菜、クッキー作る?」


 何回も遊びに来ているから慣れているとはいえいきなり台所に立っていいものなのかと辺りをきょろきょろと見渡すと深九里がこっちにおいでと言わんばかりに手を振った。その手に誘われるかのように瀬菜は台所の深九里がいる場所に行った瀬菜はさっきとは別人のように明るい表情をして深九里の母の方へと振り向いた。


「だね!!」


「危ないからレンジとかオーブン使う時は言いなさいね!! ちょっと恋海の世話してくるから。」


「わかった!!」


「あの、ありがとうございます!!」


「別に気にしなくていいのよ、自分の家だと思って——でも、火元には気をつけてね? 使う時に深九里がおばさんの事呼ばなさそうだったら遠慮なく叫んででもいいから呼んでね」


 そう言うなり母親は恋海がいるらしい方へと向かった。



  ・  ・  ・



「恋海、待たせたね…って待ってないか…笑」


「?」


「恋海はほんっとに李砂お兄ちゃんがいないと話したがらないんだから…」


 恋海は話せるようになって「まま」「ぱぱ」「りしゃ」「ばう」「みうり」と名前を呼んだっきりまるで本当に自分の事を愛してくれていると感じる人以外には関わらないと思っているのか李砂にしか話しかけない。そんな恋海は李砂以外の人には表情だけで感情を表している。その事を気に病んでいる李砂は毎日笑顔で接しているがどこか落ち着かない表情でいる。そしてもちろん恋海のことが大好きな漠と深九里もどうか恋海が李砂以外の人と話す機会があればその時は真っ先に自分のところへ話しに来て欲しいと願っている。


「恋海、今何してるの?」


 これ!と自分が手に持っている塗り絵を母親に見せつけた恋海は満足気に目を細めた。


「塗り絵ねー…恋海上手だもんねー…」


 するとまた自分の世界に入ったのか塗り絵に没頭する恋海を見て母親は心の中でため息を吐いていた。


(何か障害を持ってないといいのだけれど…)


 話さないのは仕方がないと考え始めていた母親は話すことを強制させるのではなく勉強をさせようと李砂や漠、深九里にはしなかったが恋海には部屋の中に絵本や塗り絵、パズルを置くなど英才教育を始めようとしていた。


「ママー!! ここやり方分かんなーい!!」


「いつも一緒にしてたんだものね、分からなくなるのも仕方ない笑」


 そうなる未来は見えてたよと後付けして恋海に「すぐ来るからね、良い子にしててね」と頭を撫ですぐに階段を降りた。




  ・  ・  ・




「瀬菜ちゃん、今日は来てくれてありがとうね」


「今日も楽しかったです!! ありがとう、深九里!」


「ほら深九里、送って行きなさい」


 時間もかなり遅くなってるんだから、悪魔が来たらどうするのよ。と母親は深九里を急かし、背中を軽く押した。


「それぐらい分かってるって〜 じゃあ行こう瀬菜」


「うん! ありがとうおばちゃん!! クッキー家族と分けるね」


「そんなに量作ってないけど大丈夫? キャラとか形にこだわって何回も失敗してたから成功したの少なくてごめんね?」


「いいんです!! これも思い出だし……深九里と作ったってことが楽しかったから!!」


「瀬菜はまた良いこと言ってくれる〜」


「あんたも見習いなさいよ」


「先に漠に言ってよ…」


 あははっと小さく笑う瀬菜を見て釣られた2人も笑い、最終的には大声で笑っていた。


「で? なんで笑ったの?」


 え?と深九里の方に顔を向けた瀬菜はこう続けた。


「私のとこの明は漠とは違って大人しめで深九里みたいに大声で喧嘩とかなかなかしないから羨ましいなぁって思って。」


 お互い一つ違いの兄妹である瀬菜達と深九里達はお互いの兄をくんも付けずに呼び捨てで呼んでいる。


「じゃあ明ってあんまり気にしないタイプなの?」


 明とあまり会ったことがない深九里はうーんと唸り空を見上げた。


「多分ね。 詳しくは知らないけど。 喧嘩はあまりしないかな。」


「いいじゃん、みく達なんて喧嘩し過ぎてもう嫌だよ」


「でもその喧嘩ってほとんどうみちゃんが理由なんでしょ? 微笑ましいよ」


 私達の喧嘩はするとしたら絶対にどっちかが悪い時だから。逆に珍しいよ、深九里は。と空を見上げて言う瀬菜は少し寂しいようにも見えた。



  ・  ・  ・



「お腹空いたー!!」


 さすがに空暗くなってきたから帰ってきた〜とニコニコで帰ってきた弟に兄は声をかけた。


「おかえり、漠。」


「ただいま〜って、なんで李砂の方が帰り早いんだよ…授業は?」


「賢いから。 …ってのは嘘で漠が遅すぎるんだよ」


「そうよ!! もう晩ご飯の準備進めてるんだからね〜??」


「すみませーん、明が強すぎて攻略してたらこんな時間になってた」


 ほら見てみろ、と李砂に腕を見せた。その腕には何本も痣があり血が流れた後のような切り傷もあった。それを見た李砂は驚いて思わず力強く握ってしまっていた。


「李砂、痛い…」


「あ、ごめん……それにしてもどうしてここまで傷を増やしてまで…」


「勝ちたいんだよ、傷はどうせ母ちゃんの式神で治せるだろ」


 兄の手を振り払い帰ってきたばかりの弟は服を脱ぎながらクローゼットへと向かった。それを確認した母親はまたため息を吐いた。


「何回も「式神」じゃなくて「シキ」と呼びなさいと言っているのに…。」


「なんで「シキ」にしたんだっけ?」


「名前、決めるのめんどくさくて。 式神ならシキでいいじゃないって思ったの」


「確かに式神には名前としてじゃなくても行動で愛情は十分伝わるしね」


 料理の仕込みを終えたのか皿を並び始めた母親はお願いと手を合わせた。それを見た李砂は了解と階段を上った。


  ・  ・  ・


「恋海。 ご飯もうすぐでできるって」


 疲れて寝てしまっていた恋海は李砂に抱き上げられるとゆっくり目を覚ました。


「…………ごはん?」


「そう。 ごはん」


「ごはんたべたらあそんでくれゆ?」


「うん。 いっぱい遊ぼうね」


 安心したのかまた寝てしまい、李砂は少し笑っていた。


  ・  ・  ・


「母さん、恋海今日おねむさんみたい」


「あら、おねむさんなの。 でもご飯は食べないといけないから座らせといてくれる?」


「もちろん」


「えー!! うみと遊びたかったのにー!!」


「ご飯食べてからならいいよ」


「じゃー4人で遊ぶ! ね?」


「りょーかい。」


 その日はみんな美味しい夕食を食べ、絵本を読んだりパズルをしたりして寝たのだった。






  ・  ・  ・







晴世はるせ隊長たいちょう。 本日の成果でございます。」


 礼をした声の主はと言った男にバインダーを渡した。それに挟まれた紙には何かの一覧表が載っていた。


「今日はこれだけか。 隊員こどもたちはどれほど死んだ?」


「隊長。 と言うのはやめた方がよろしいと何度言えば分かってくれるのですか?」


「その事はいいから早く伝えろ。 死んだのか? 死んでないのか?」


 声の主は深いため息を吐いた。


「…………1人でございます。 担当していた地区に少々厄介な悪魔が出現したようで。」


「で? 倒したのか?」


わたくしが。」


 するとその男はその相手を睨んだ。訳が分からないようだった。


「何故お前が出向いたのだ。」


「まずはそのお前呼びを何とかしてくれませんかね…?」


「分かった……。 藤田ふじた君。 何故君がわざわざ出向いた」


「丁度。 手の空いている隊員メンバーが少なかったので。 後その者達のマナがその悪魔に匹敵するとは思えなかったので——」


「ではまた隊員こどもたちの育成をしなければならないな。」


「はい。 以上でございます。 それと、余計な世話かもしれませんがお子様は——」


「下がって良い」


 礼をすると藤田という女は扉を開き廊下に出た。


(ふぅ…。 疲れた…。 あのジジィ偉そうでムカつく!!)


 としての役割を終えたからなのか、別人のようになり結んでいた髪は下ろし、ネクタイは緩め上着のボタンは全て外した。


「ワタ。」


 そう藤田が呼ぶと藤田の隣から空気に馴染むように式神が現れた。「ワタ」という名前からして見た目は白く、靴や服、髪留めなど様々なところに綿が散りばめられている。


『はい〜!! さき様どうなさいました〜??』


「先に家帰って飯作っとけ。 私がすぐに食べれるように。」


『かしこまりました〜!! ではお先〜!!』


 藤田咲は廊下に自分のヒールの音をわざとらしく高く鳴らしながら帰宅して行った。



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幻堕を照らせ くりおね。 @meronpan_udon

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