高校生歌集
吉田隼人
人形のゐる街
夏休み。とほき廊下を眺むれば消失点にひとりが消えぬ
やまぬ雨にみどり深まる沿線の墓地を車窓にうつしてねむる
麦藁帽失くせし少女の零したる青インクより夜ははじまる
画集よりムンクの少女抜け出でて誰もあらざる街に歩めり
臓物も砂糖のごとき雪に埋もれ犬のむくろはしづかに朽ちぬ
白鷺のふぶきに揺るるむなしさよ卓のうへの山かけ丼
氷点下六度の街に鳥の鳴く声よわれらの道標なれ
月影のもとの泉に洗ひたる人形の髪に花を飾れり
人形の歯車の花咲き誇りかなしき人工庭園つくる
未だ犬にならざりしこと確かめて人形型の消しゴムを見る
「組み立て式少女」と箱に書き付けて我が人形のかけらを売りき
へびいちご摘みし記憶のなきままに人形紅き血を吐きにけり
倒れむとしたる少女の人形を支ふるために詩集積みし夜
吹雪さへ吹かぬ朝なり人形の家をまとめて地図になき街
深き夜に狂へる風よきみもまた内なる獣のさけびとなるか
革命の夜にしんしんと降り積もる雪はかなたの硝子片にも
びいだまの人形の眼に反射せるプリズムのみを世界と呼びき
Liquidのごとき硝子のくだものをしづかに撫でつづける白き指
秋空は水面に映えてなほ昏し虚像ならざる世界はいづこ
想像のなかの少女が鈍行に忘れてゆきし指環がひとつ
亡霊の声なき声にしづみけり氷雨にけぶりつつ暮るる街
夕闇の廊下駆くれば透きとほる硝子のごとき冬の香ぞする
射むとする刹那の弓のごとく張りつめたる闇に冬花火咲く
めつむれば真暗闇におちてゆきひとりぼつちはゼロ人となる
眼に痛きほど空あをしくつきりと凍れる昼の月を宿して
蒼空をながめてあれば気圏よりはかなき夢も顔をのぞかす
まぼろしの少女ひとりのソプラノは青の粒子を透かして届く
限りなくひろがる青の迷宮をとはにさまよふ鳥のかなしみ
高校生歌集 吉田隼人 @44da8810
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