典型的な恋について

 わたしは中学生らしいのラブストーリーに溺れていた。まずは読む本が変わる。流行りのファッションを紹介しているような雑誌を読むようになった。こういう雑誌って、クラスの陽キャっぽい女子が美容室で読んでいるようなイメージ。彼との接点を生み出した小説も読まないわけではないけども、雑誌を読んで、これまでは着なかったようなブランドの服を着るようになってみたり、服に合わせてメイクをしてみるようになったりと、見た目から変わっていった。彼の隣を歩いているわたしが、今までのような『野暮ったくて周りとの会話が成立しないようなコミュ障女子』のままではいけないと思ったからだ。彼はわたしの変化を「いいんじゃないすか、かわいくて」と喜んでくれたのが嬉しかった。

 次はダイエットだ。基本的に服はだらしなく太っている人間の為には作られていない。細さはかわいさに直結する。かわいい女の子といえば歌って踊れるアイドルを思い浮かべるが、デブなアイドルはテレビに映らない。わたしは実現可能な範囲のダイエット法を調べた。不健康にやせてはならない。彼との将来を考えるならばなおさらだ。

 中学生の身分であるわたしは、母親に協力を仰ぐ。母親はわたしの考える『かわいい』に対して積極的に付き合ってくれた。服装からメイク道具に至るまで、なんでも教えてくれる。わたしの『かわいい』化計画に携わり始めてから、わたしだけでなく、母親まで輝きだした。老いて死にゆく義父母の為に文字通り骨をすり減らしていた母親には、かつて服飾デザイナーとして働く夢があったらしい。彼と付き合い始めなければ、店頭に並べられた新作たちを少女のような目で眺める母親を見ることはなかったかもしれない。


「あんさあ、志方」


 ある日、クラスの陽キャグループトップがトイレで話しかけてきた。名前は、なんだっけ……同じクラスの女子ですら名前を覚えてない。


「何?」


 珍しく、取り巻きはいなかった。いつも他の女子と一緒にいるから、一人でいるのは本当にレアだ。わざわざ一人になって、わたしが一人になるところを狙ってきたのかもしれない、というぐらいの珍しさ。明日は空から槍が降るかもしれない。


「ふーみん先輩と別れた方がイイよ」

「……は?」


 わたしが彼と付き合っていることを、学校の誰もが知っている。だから、ふーみん先輩は、彼のことだろう。


「アタシさ、他の中学の子から聞いちゃったんだよね。ふーみん先輩はって。ふーみん先輩って、三年なのによその中学から転校してきたじゃん? フツー三年で転校しなくね? 友だちと卒業するだろ」

「……」


 校則違反の金髪(頭頂部が黒くなり始めていてプリンになっている)をいじりながら、ろくでもない話をしてくる。彼の悪評なんて聞きたくないわたしと、耳を傾けてしまうわたし。脳内でふたりのわたしが取っ組み合いの大げんか。


「ふーみん先輩がよその中学で付き合ってた彼女がなんだって。で、あくまでウワサなんだけど、その彼女、行方不明になる直前にふーみん先輩と会ってたって話」


 知らない。初めて聞いた。わたしが初めての彼女、ではなさそうなのは、なんとなく雰囲気でわかる。彼から聞いたわけではないけど、恋愛小説に出てくる男主人公のようにおどおどはしていない。


「それが、何?」


 だからといってそれが何だ。わたしは今の彼が好きだから、過去をほじくり返されたところでだから何って感じ。コイツは何だ。


 ――わたしに嫉妬しているのではないか?


「何って、別に、知らなさそうだから言ってあげただけっていうか。何。こわいんだけど。なんというか、親切心っていうの?」


 鏡を見た。今のわたしは、般若の面のような形相になっている。怖がられて当然だ。メイクを直す。変な話を聞いてしまう前の、いつものわたしの顔になった。わたしはかわいくて、かっこいい彼がいるから、カースト最上位のギャルから妬まれちゃう。致し方ない。

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