香りが魂の声になる世界。主人公セラフィナの持つ「苺」の香りは、喜びで甘くふくらみ、恐怖で硬い果実のように固まり、自分を取り戻すとき透明な芯が通る。感情の揺れがそのまま香りの変化として立ち上る——それだけで彼女の心がすべて伝わってくるんです。これはもう「設定」ではなく「文体」です。香りで物語を書くという、他のどこにもない表現がここにあります。
そしてこの作品、層がとんでもなく厚い。
セラフィナが周囲に翻弄されながらも自分の香りで立ち上がっていく成長物語。苺と薔薇、白椿と赤椿——すべてが香りの対比で組まれた構造の美しさ。香塔・神殿・王権の三権が絡む政治劇。そして不穏な影が差すミステリー。これだけの要素を抱えながら、「香り」という一本の軸で貫かれているから散らからない。読み進めるほど重なって、深みが増していきます。
キャラクターも一人ひとりに固有の香りが人格として根づいていて、本当に魅力的です。苺色の瞳で何度でも立ち上がるセラフィナ。華やかに見える双子の姉の内側がふと垣間見えたとき、胸を突かれました。白檀の香が不意に揺らぐ瞬間のときめき。名前を見るだけで鼻先に香りが蘇るほど、一人ひとりが鮮やかに息づいています。
香りと祈りと星が織りなす宮廷ファンタジー。丁寧に読むほど報われる、贅沢な物語です。宮廷もの・ファンタジー好きの方に薦めたい一作。どうか一人でも多くの方に届きますように。