無神論者の僕が、高千穂の夜神楽で「神様はいる」と思った理由。

やさい

無神論者の僕が、高千穂の夜神楽で「神様はいる」と思った理由。

旅行で宮崎県の高千穂に行った。宿の人に聞くまで知らなかったのだが、「夜神楽」という高千穂地方に伝わる伝統の神楽があるらしい。日本神話の里である高千穂ならではの神楽演舞だそうだ。

観光客向けに、高千穂神社で神楽を見せていると、これまた宿の人から伺った。日本神話にも神楽にもあまり詳しくはないが、せっかくなので見てみることにした。


夜、高千穂神社の神楽殿に入る。小さめの宴会場程度の広さで、奥に小さな舞台がある。観光客たちは広間の畳の上に座って見るようだ。宿から高千穂神社へ出発するときに、宿の人に「座布団を持って行ったほうがいいよ」と、エントランスの座布団を差し出された。多分どの宿でもそうしているようで、広間には宿ごとに色とりどりの座布団が並んでいた。持って帰るときに間違わないよう、宿ごとに色を変える取り決めでもしているのかな、と思った。


開演前、神楽の保存会の方が挨拶に立った。

驚くべきことに、本来の夜神楽は夕方から翌日のお昼までやるものとのことだった。観光客向けのものではその一部を1時間ほど見せていただけるらしい。

農作物の豊穣を祈ってのことだそうだ。つまり本来的に言えば、この神楽は見世物なんかではなく、純度の高い宗教的行為であると言える。高千穂の伝統的宗教文化を見せていただけるわけだ。


神楽の演舞が始まった。手作りの衣装を身に纏い、大道具、小道具を用いて楽器の演奏と共に神楽を舞う。厳かな面も和やかな面も持ちつつ、舞いと共に神楽は進行していく。


それらを眺めながら、ふと、大学で学んだ農業経済学のことを思い出していた。

農作物の豊穣を祈って、舞う。

この行為を「意味がない」と切り捨てることは簡単だ。農業というのは基本的に科学、または化学である。肥料の配合、品種改良、土壌管理。キャベツ工場が一定品質のものを生産し続けられるのは、そこに神がいるからではなく、徹底された管理があるからだ。

何十時間もかけて、その地域のみんなで舞う。その祈りが神に通ずることで豊穣がもたらされるのではなく、夜神楽を通じて地域の結束を強め、それが豊穣に繋がる、といった、現実的な側面も含んでいるのかもしれない。


ただ、神楽を見ていく中で、少し別の考えが浮かんだ。

果たして本当に、そこに「神はいない」のだろうか。

イザナギを、イザナミを、天照大御神を、その目で確かめたことのある人はこの世には恐らくいない。残っているのは古事記や日本書紀、またそれに準ずる伝記と、その土地に脈々と受け継がれている文化である。それは間違いなく尊いものであり、否定していいものではない、というのは私のスタンスだ。


では果たして、私は神を信じているのか?


胸を張って「神はいます!」と私は言えない。傾倒する神を持っていないからだ。でも、なんだか神はいる気がするし、いてほしいと思う。天照大御神がイザナギの左目から生まれたとか、スサノオが姫を櫛に変えたとか、そんなのは別に信じちゃいないが、ただ天照大御神はいてほしいし、スサノオも、イザナギもイザナミもツクヨミもキリストもブッダもアッラーもいてほしい。

じゃないと、全てが架空のもので存在しないとなると、この世界が崩れてしまう気がするから。


人を人と認識するのは心だ。物質的には人はただのタンパク質と脂肪の塊である。だがそれを「人」だと思うから、人なのだ。

それであれば、神がいて、そこに祈りを捧げ、神楽を舞うのも、人の心が天照大御神を具現化していて、間違いなく「いる」んだろう。その時に、付随するすべての事柄が単純であってほしいから、いてほしい。


農業経済学を学んでいる時、日本は土地所有へのこだわり、土地信仰が強いと聞いたことがある。夜神楽を見て、ああなるほどなと思った。

土地を手放したくないのはお金や勿体無さなんかではなく、その土地にいる個人的文化の具現化を手放したくないのではないだろうか。


「いる」と思うから、「いる」。神も、ご先祖様も、蟻も、自分も。

夜神楽が今日まで続いているのは、豊作という結果のためだけではない。舞っている仲間、見守る村人、そして神々が、確かにここに「いる」と確認し合うために、彼らは舞い続けているのかもしれない。


ところで、イザナギとイザナミの神楽演舞がちょっとエッチな感じだったのは、夜神楽を興味深く見ていた訪日観光客の方々に誤解を与えてはいないだろうか。「さすがHENTAIの国だ!」という感想とともに帰国しているのであれば…いや、強く否定はできないか……。

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