空腹のインテルメッツォ

まさしの

第1話 補給線異常あり

これは卵である。使い道はまだない。


どこで無駄遣いしたか、思い当たる節ばかりだ。ただ、キラキラしたところでわーわーと騒いでいたことは覚えている。

外出から帰ってきた。

いま、とてもお腹が空いている。

冷蔵庫の中は卵がひとつと麦茶。


その前でしゃがみ、それを見上げる。

扉は開いたままだ。

冷気が足首に溜まる。庫内灯の白い光が、台所の中で浮いている。


卵はひとつだけだ。

冷蔵庫の専用席のくぼみに、きちんと収まっている。

たしか先週に買ったやつだ。


財布の中を思い出す。

学生証。ポイントカード。あの卵を買った時のレシートも入っている。

講義のあと、友達と寄った喫茶店の名前がいくつか浮かぶ。

楽しかったかと聞かれたら、楽しかったのだと思う。

友達との会話は貴重だ。青春だ。

その瞬間を無駄にする選択肢は、その時の由奈にはなかった。

冷蔵庫の中身を思い出せないほどには充実していたのだ。


くぅ。柊由奈のお腹が鳴った。

一人暮らしの狭いワンルーム、誰にも聞かれていないけど顔が火照った。

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