夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

プロローグ

 あの日、あの人から手を握られた。庭の夏椿を一緒に眺めよう。森のような場所に建っている、あの一軒家で暮らしたいのだと。お前のことを連れて行っても構わないか?寂しい思いをさせない。何も心配いらない。そう言われた。


 俺は素直に頷いた。いつまでも一緒に居るよと。


 そう思って、一年前に結婚した。しかし、素敵な日常を想像していたのに、待っていたのは現実だった。1カ月後には違和感、3か月後には疑惑、半年後には確信を得た。結婚したら相手が変わることを。


 今日も俺たちは喧嘩をしている。仲直りはこれからする予定だ。たぶん。


「夏樹……。機嫌が悪いのか?」

「結婚してから変わったよね。うっうっ、ひっく……」

「すまない。言い過ぎた。許してくれ」

「ふんっ」

「どうしたら機嫌を直してくれる?」

「黒崎さんしだいだよ」

「……愛している」

「……俺もだよ」


 いつものように、喧嘩をして仲直りをする。今回もそうだろう。おそらく。

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