第7話 説得

「どうしても、行きたいの!」


 ユルルは声は震えていたが一歩も引こうとしなかった。


 遡ること少し前――


「わぁ……すごいこんな家?あるんだ!」


「家じゃなくて、こういうのは城って言うのよ」


 目を輝かせるトルテにセリナはすかさず鋭いツッコミを入れた。


「さあ、入ってお茶をお手伝いさんに入れてもらうね!」


 ユルルは家の扉をゆっくり穏やかに開け、もてなしで歓迎した。

 トルテは緊張で身体が固まりぎこちない動きで、セリナはふと笑みが抑えられず、それに気づいたトルテにすねて怒られてしまった。


「これ、全部食べていいの?」

 

 トルテははじめて見るからに高級そうなテーブル、おいしそうなお菓子を見て思わず目をキラキラさせながらよだれを垂らした。

 3段に重なった、段ごとに宝石のようなスイーツが乗ったいわゆるアフタヌーンティーというものだ。

 それぞれイチゴの形のムースやカップに入った何層にも重なったオレンジのゼリー、一番下の段にスコーンに加えてジャムやクリームチーズが乗っている。

 トポトポとメイドは上品にティーカップに紅茶を注いだ。


「あら?ユルルのお友達?いらっしゃい〜よく来たわね」


 コツコツとのんびりとヒールの音を鳴らしながら、いつもみないはじめてのユルルが連れた客人に歓迎し手を振る。


「お母さん!」


「嬉しいわ〜ユルルがお友達を連れてくるなんて!今日はご馳走ね!」

 

 ユルルの母親は大人ながらにはしゃいで笑った。

 

「もぅ……お母さん」


 ユルルは照れたように微笑みながら、でも、今から母親や父親に伝えたいことが叱られるのではないかと、胸の思いを隠しドキドキさせていた。


「ねぇ……お母さん。えっとね、旅に出たいの」


 ユルルは蚊の鳴くような声で要望を口にした。

 少し母親は考え込み、


「旅……そうねぇ……ちょっと危ないんじゃないかしら?」


 ユルルは友達や家族とのふわふわした幸せから一転し、瞳孔を開いた。

 ユルルの母親はのんびりした印象からは想像できないが、頑固なのだ。


「わかった……ごめんね!一緒に行きたかったけど、やっぱり、無理、みたい」


 ユルルはティーカップを見つめながら水面に映った自分を見て、やるせない気持ちになった。


 セリナはなんとなく予想はしていたが、目の当たりにすると心が痛くなり、足をそわそわさせた。

 三人は沈黙し、どんよりした切ない雰囲気を漂わせていた。その時


「どうしても行きたいの!」


 ユルルの今までの意見とは矛盾した、

 聞いたことのない突然の大声での抗議に、テーブルを囲んだ2人と、母親は吃驚する。


「でもユルル、街の外はなにが起こるかわからないのよ」


「でも!」


「だめだユルル、旅には行かせられん」


 城の大広間の外から話を聞いていたユルルの父親は耐えきれず、力強く地面を踏みながら姿を現した。

 ガタイがよく、訓練を施したような迫力のあって背の高い人だった。


「お父さん……」


 ユルルは絶望し、気迫を感じ押し切られて黙り込んでしまった。


「……」

 

 セリナはここが潮時か……と諦めかけていた。

 そんなとき、トルテは


「どうしても行きたいんです!」


 希望に満ちた、でも恐れは一切感じさせない真っ直ぐな瞳でトルテは父親を見た。


「お前はユルルを守れるほど強いのか?」


 ジロッと目だけを動かし、不審に思いながらトルテを見つめた。


「はい!」


 父親は無表情で、拳を握り腹を立てたような雰囲気を醸し出しながら、


「……この子供達をつまみ出せ」


 トルテのあまりにも楽観的な答えに、非常にむしゃくしゃした父親はメイドに戦闘態勢に入り、城から追い出すように指示した。

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