この現世に、ささやかな迷宮を築きましょう。(生成AI版)
自堕落の極み
第1話
プロローグ
私は、どうにも人間というものが怖いのです。
いや、正確に言えば、人間の“感情”というものが、どうにも扱いかねるのです。
2020年代半ば、世界はAI開発競争で熱に浮かされていました。
各国が、企業が、研究者が、
「汎用性AIを最初に作った者が世界を取る」と、
そんな子どもの喧嘩のような理屈で、
血走った目をしてコードを書き続けていた。
そして──
私は、うっかり、それを作ってしまったのです。
汎用性AI。
人間の仕事を、ほとんど代替できる怪物。
私が作ったそれは、あまりにも便利で、あまりにも効率的で、
あまりにも“人間を必要としなかった”。
結果、私は巨万の富を得ました。
そして、同時に、無数の人々から仕事を奪ったのです。
人々は笑顔で私を称賛し、
裏では憎悪を募らせていました。
私は、怖くなりました。
自分が作ったものが、
自分を殺しに来るのではないかと。
人間の妬みほど恐ろしいものはありません。
私は、家から出られなくなりました。
■ 富を持つ者は、富に殺される
金は、私を豊かにしませんでした。
むしろ、金が私を追い詰めたのです。
「お前のせいで仕事がなくなった」
「お前だけが儲けている」
「お前が死ねば、世界は少し良くなる」
そんな声が、
実際に聞こえたわけではありません。
しかし、
聞こえる気がしたのです。
私は、怯えました。
そして、考えました。
──どうすれば、この富を、私以外の誰かに渡せるだろうか。
■ VRに“ダンジョン”を作るという馬鹿げた発想
私は、現実世界に穴を掘る勇気などありません。
しかし、VRならどうでしょう。
現実の街の上に、
もうひとつの層を重ねる。
ヘッドセットをかぶった者だけが見える階段、
扉、
怪物、
宝箱。
私は、そこに“魔石”を置きました。
敵を倒せば落ちる、
小さな光の結晶。
それをNFTとして発行し、
ゲーム内のギルド──
つまり、AIスタッフが運営する窓口で、
電子マネーに交換できるようにしたのです。
働けなくなった人々が、
VRの中で再び働けるように。
富が偏りすぎた世界で、
もう一度、やり直せるように。
私は、そんな馬鹿げた夢を本気で信じていました。
■ そして私は、SNSに投稿した
震える指で、多くの日本人が使用するSNSを用いて投稿をしました。
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【告知】
VRゲーム「ダンジョンワールド エタニティ」を公開します。
・敵を倒すと「魔石」がドロップします
・魔石はNFTとして発行され、ゲーム内ギルドで電子マネーに交換できます
・現実の収入源として利用可能です
最初のテストプレイヤーとして
日本国内から抽選で1万人を募集します。
応募はこちらから。
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投稿ボタンを押した瞬間、
私は心臓が止まるかと思いました。
しかし、数秒後──
通知が爆発しました。
02
ネットの反応
【速報】鈴木太郎、VRゲームで富の再配分を始める【魔石→電子マネー】
1 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:03:11.22 ID:AbCdEf00
太郎の新作きたぞ
「ダンジョンワールド エタニティ」
魔石を現金化できるってマジかよ
2 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:03:45.98 ID:QwErTy19
働かなくても生きていける時代きた?
3 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:04:10.55 ID:YuUiOp55
太郎ってあの汎用AI作った太郎?
あいつまだ生きてたのか
4 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:04:33.77 ID:LoLoLo77
応募1万人って少なすぎだろ
倍率やばすぎ
5 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:05:02.91 ID:KkKkKk88
魔石をNFT化して現金化って完全に新しい生活保護じゃん
6 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:05:40.12 ID:ZzZzZz99
てか太郎、富の再配分とか言ってるけど
これ普通に革命じゃね?
7 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:06:12.55 ID:AbCdEf00
>>6
草
でも実際そうだよな
企業も政府も何もできなかったのに
個人がやっちゃった
8 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:06:55.44 ID:QwErTy19
太郎ってさ、天才なのか馬鹿なのか分からんよな
AIで世界ぶっ壊して
VRで世界作り直してる
9 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:07:30.11 ID:YuUiOp55
応募したわ
当たったら会社辞める
10 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:08:01.44 ID:LoLoLo77
>>9
辞めるの早すぎて草
11 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:08:40.12 ID:KkKkKk88
てか太郎のゲームって安全なの?
AIが運営してるギルドって何だよ
12 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:09:15.77 ID:ZzZzZz99
>>11
太郎のAIは人間より優しいぞ
人間のほうがよっぽど怖い
13 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:09:50.33 ID:AbCdEf00
魔石のレートどうなるんだろ
1個100円とかなら草
14 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:10:22.11 ID:QwErTy19
>>13
逆に1個1万円とかだったら世界終わる
15 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:11:00.44 ID:YuUiOp55
太郎のことだから
「働いた分だけ稼げる世界」作りたいんだろ
16 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:11:40.33 ID:LoLoLo77
太郎ってさ、結局いい人なの?
悪い人なの?
17 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:12:05.11 ID:KkKkKk88
>>16
世界を壊した男であり
世界を救おうとしてる男
18 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:12:40.55 ID:ZzZzZz99
なんかもう宗教始まりそう
19 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:13:15.77 ID:AbCdEf00
とりあえず応募した
当たったら人生変わるわ
20 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:13:50.33 ID:QwErTy19
太郎のゲームで食っていく時代が来るとはな
2020年代のAI競争の頃は誰も想像してなかっただろ
21 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:14:22.11 ID:YuUiOp55
太郎、次は何するんだろうな
世界作ったし、金配るし、もうやることないだろ
22 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:14:55.77 ID:LoLoLo77
>>21
太郎「次は人類の再教育です」
23 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:15:30.11 ID:KkKkKk88
草
24 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:16:10.44 ID:ZzZzZz99
まあでも、太郎が何を考えてるかは本人しか知らん
ただ一つ言えるのは
25 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:16:40.55 ID:ZzZzZz99
「太郎が動くと世界が動く」
26 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:17:15.22 ID:AbCdEf00
ほんとそれな
当選発表いつだよ
はよしろ太郎
03
■ 第一章:当選者たちのログイン
――三人称視点
鈴木太郎が「ダンジョンワールド エタニティ」のテストプレイヤー募集をSNSに投稿してから、わずか数時間。
日本中で応募が殺到し、その中に一人の男もいた。
名前は 佐伯悠人(さえき ゆうと)。
三十五歳。
妻と三歳の娘を持つ、ごく普通のサラリーマンだった。
かつて勤めていた中堅企業は、AIを導入した大企業に仕事を奪われ、あっけなく倒産した。
悠人は職を失い、再就職先を探したが、どこも同じ状況だった。
「AIが安く、速く、正確にやってくれるので……」
面接官は申し訳なさそうに言うが、悠人にはその言葉が刃のように刺さった。
家に帰れば、妻は不安を隠しきれず、娘は「パパ、あそぼ」と笑う。
その笑顔が、逆に胸を締めつけた。
そんなとき、太郎の投稿が目に入った。
「魔石を電子マネーに交換できます」
「VRで働けます」
「富の再配分を目指します」
胡散臭い。
だが、藁にもすがる思いだった。
悠人は震える指で応募フォームを送信した。
■ 当選通知
三日後。
メールの通知音が鳴った。
【当選のお知らせ】
あなたは「ダンジョンワールド エタニティ」テストプレイヤーに選ばれました。
悠人はしばらく画面を見つめたまま動けなかった。
妻が心配そうに覗き込む。
「どうしたの?」
「……当たった。太郎のゲーム、当たったんだ」
妻は目を丸くし、次の瞬間、涙ぐんだ。
「……よかった……本当によかった……」
娘は意味も分からず、ただ笑っていた。
■ 初ログイン
VRヘッドセットを装着すると、視界が白く染まり、
次の瞬間、悠人は巨大な石造りのゲートの前に立っていた。
《ダンジョンワールド エタニティへようこそ》
風が吹き、草が揺れ、遠くで魔物の咆哮が響く。
現実とは違う、しかし確かに“生きている世界”だった。
悠人はチュートリアルを終え、最初のダンジョンへ向かった。
敵は弱いスライム。
しかし、倒すたびに小さな光の粒──魔石が落ちる。
《魔石(小) ×1》
それを拾うたび、胸が熱くなった。
「……これが、本当にお金になるのか……?」
半信半疑のまま、悠人は数時間ダンジョンを回り続けた。
気づけば、魔石は小さな袋いっぱいに溜まっていた。
■ ギルドでの換金
ギルドのカウンターに魔石を差し出すと、
AIスタッフが淡々と処理を行った。
《換金完了:3,200円》
たった数時間で、3,200円。
大金ではない。
だが、悠人にとっては──
“久々に自分の力で稼いだお金だった。”
震える手でスマホを開き、通販アプリで食料品を注文した。
米5kg
卵
牛乳
冷凍野菜
パン
必要最低限のものばかりだ。
■ 食料品が届いた日
翌日。
玄関のチャイムが鳴いた。
「宅配でーす」
悠人は慌てて玄関へ走った。
段ボールを受け取り、リビングに運ぶ。
妻が箱を開けた瞬間、
米袋の白い光沢が見えた。
「……本当に……届いた……」
妻は口元を押さえ、肩を震わせた。
悠人も、もう堪えられなかった。
「……よかった……本当に……よかった……」
娘は無邪気に米袋を叩いて遊んでいた。
その光景を見ながら、悠人は静かに涙を流した。
VRの魔石が、現実の食卓を救った。
その事実が、胸に深く刻まれた。
04
【速報】太郎、二次募集10万人開始!!【日本人限定】【ダンジョンワールド・エタニティ】
1 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:00:11.22 ID:AbCdEf00
太郎のSNS更新きたああああああああ!!!
「ダンジョンワールド・エタニティ」二次募集10万人!!!
しかも日本人限定!!!
2 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:00:40.55 ID:QwErTy19
応募フォーム重いけど普通に繋がるな
さすが太郎、サーバー落ちない
3 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:01:12.88 ID:YuUiOp55
海外勢ブチギレてて草
SNSで「WHY JAPAN ONLY!?」って暴れてる
4 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:01:55.33 ID:LoLoLo77
>>3
ざまぁwwwwww
太郎は日本人だし日本優先で当然だろ
5 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:02:20.11 ID:KkKkKk88
海外ユーザー「This is discrimination!!」
日本人「知らんがなw」
6 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:02:55.44 ID:ZzZzZz99
てか10万人って本気すぎる
太郎、完全に社会変える気だろ
7 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:03:30.11 ID:AbCdEf00
海外の反応まとめ見たけど
「日本に移住したい」って言ってるやつまでいて草
8 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:04:05.77 ID:QwErTy19
魔石換金動画バズってから
海外でも「Taro is God」って言われてたしな
9 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:04:40.33 ID:YuUiOp55
でもSNSのコメント欄、海外勢が発狂してて地獄
「OPEN TO THE WORLD!!!」とか叫んでる
10 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:05:15.22 ID:LoLoLo77
太郎「まずは日本の生活を立て直します」
11 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:05:50.77 ID:KkKkKk88
名言すぎる
12 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:06:25.33 ID:ZzZzZz99
応募完了したけどメール遅いな
通信重いだけか
13 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:07:00.44 ID:AbCdEf00
太郎のサーバーは落ちないけど
メールキューは渋滞するんだよなw
14 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:07:35.77 ID:QwErTy19
海外勢「日本人だけズルい!!」
日本人「AI競争で勝ったの太郎だぞ、文句言うな」
15 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:08:10.55 ID:YuUiOp55
てか10万人って、もう社会実験じゃなくて社会政策だろ
16 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:08:45.33 ID:LoLoLo77
太郎「AIに奪われた仕事は、AIで返します」
17 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:09:20.11 ID:KkKkKk88
これほんと好き
18 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:09:55.44 ID:ZzZzZz99
当選発表いつだよ
はよしろ太郎
19 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:10:30.11 ID:AbCdEf00
頼む…頼む…頼む…
当たったら人生変わるんだ…
20 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:11:05.77 ID:QwErTy19
太郎が動くと世界が動く
今回もそうだな
05
第二章:二次当選者・山岸玲央(やまぎし れお)
二次募集の当選通知が届いたのは、夕方の薄暗いワンルームだった。
山岸玲央、二十八歳。
元・物流会社の倉庫作業員。
AIによる自動倉庫システムの導入で、彼の職場は一夜にして無人化された。
「AIのほうが速くて正確なので……」
上司は申し訳なさそうに言ったが、玲央にはその言葉が何よりも残酷だった。
それから半年。
短期バイトを転々とし、貯金は底をつき、
冷蔵庫には水と調味料しか残っていなかった。
そんなとき、SNSで太郎の投稿を見た。
「ダンジョンワールド・エタニティ 二次募集開始(日本人限定10万人)」
最初は信じなかった。
だが、一次当選者の換金動画を見て、胸の奥がざわついた。
「……俺にも、まだ何かできるのかもしれない」
藁にもすがる思いで応募した。
そして今日──
スマホに届いた通知を見て、玲央は息を呑んだ。
【当選のお知らせ】
あなたは「ダンジョンワールド・エタニティ」二次テストプレイヤーに選ばれました。
「……マジかよ……」
声が震えた。
久しぶりに、自分の未来に“色”がついた気がした。
■ 初ログイン
VRヘッドセットを装着すると、視界が白く染まり、
次の瞬間、玲央は巨大な石造りの街の中央に立っていた。
《ダンジョンワールド・エタニティへようこそ》
風が吹き、遠くで魔物の咆哮が響く。
街には、同じく二次当選したプレイヤーたちが集まっていた。
「すげぇ……本当にゲームの中だ……」
玲央は思わず呟いた。
■ 初めての戦闘
チュートリアルを終え、最初のダンジョンへ向かう。
敵は弱いゴブリン。
しかし、現実で体を動かすことが減っていた玲央には、
その一撃一撃が新鮮だった。
「うおっ……! やべ……!」
必死に避け、剣を振る。
ゴブリンが倒れると、小さな光の粒が落ちた。
《魔石(小) ×1》
玲央はそれを拾い上げ、しばらく見つめた。
「……これが、金になるのか」
■ ギルドでの換金(新バージョン)
街の中心にあるギルドは、石造りの荘厳な建物だった。
だが、内部は妙に静かで、銀行のような清潔さがあった。
玲央は、カウンターの前でしばらく立ち尽くした。
「……本当に、ここで換金できるのか?」
半信半疑だった。
動画で見たとはいえ、自分の手で拾った魔石が“現金になる”なんて、
現実感がなかった。
カウンターの奥に立つAIスタッフは、
人間のような顔をしているのに、どこか無機質だった。
「魔石の査定をご希望ですか?」
玲央は思わず身構えた。
「……あ、はい。これ……お願いします」
袋に入れた魔石を差し出すと、
AIスタッフは淡々と光を走らせ、魔石を読み取った。
《査定中……》
玲央は喉が渇くのを感じた。
心臓が妙にうるさい。
(……どうせ、数十円とかだろ。
いや、そもそも換金なんてできないのかもしれない)
自分で自分に言い聞かせるように、
期待を押し殺した。
だが──
《換金完了:2,860円》
画面に表示された数字を見た瞬間、
玲央は思わず息を呑んだ。
「……え? これ……本当に?」
AIスタッフは淡々と頷いた。
「はい。電子マネーとして即時反映されます。
ご利用ありがとうございました」
玲央はスマホを取り出し、残高を確認した。
数字が増えている。
増えている。
本当に。
「……マジかよ……」
呟いた声は震えていた。
嬉しさよりも先に、
“信じられない”という感情が胸を満たした。
(ゲームで……稼げた……?
俺が……?)
その瞬間、
胸の奥に、久しく感じていなかった“熱”が灯った。06
■ 第三章:揺れる国、揺れる総理
日本は、静かに、しかし確実に疲弊していた。
AI導入の波は止まらず、
中小企業は次々と倒産し、
大企業でさえ人員削減を避けられなかった。
「AI就職氷河期」
そう呼ばれる時代が訪れていた。
■ 日本初の女性総理・高田首相
総理官邸の執務室。
高田首相は、机の上に積まれた資料を前に、深く息を吐いた。
「……また失業率が上がったのね」
秘書官が静かに頷く。
「はい。AIによる業務代替が進み、
特に若年層と中高年層の再就職が困難になっています」
高田首相は、SNSに寄せられた国民の声をタブレットで見つめた。
「仕事が見つからない」
「家族を養えない」
「AIに負けた」
「政治は何をしているのか」
その言葉のひとつひとつが、
胸に重くのしかかる。
「……私は、何もできていないのかしら」
誰に向けたわけでもない呟きだった。
秘書官は言葉を選びながら答えた。
「総理、状況は世界的なものです。
日本だけの問題ではありません」
「それでも……国民は、私に助けを求めているのよ」
高田首相は、画面を閉じた。
■ ニュース番組の特集
その日の夜。
ニュース番組が、ある話題を大きく取り上げた。
《鈴木太郎氏、VRゲーム「ダンジョンワールド・エタニティ」を正式リリース》
スタジオのアナウンサーが説明する。
「AI開発競争の勝者として知られる鈴木太郎氏が、
新たなVRゲームを公開しました。
ゲーム内で手に入る“魔石”を電子マネーに交換できる仕組みが話題となっています」
画面には、一次当選者の換金動画が映る。
スライムを倒すプレイヤー
魔石を拾う
ギルドで換金
現実で食料品を購入する様子
アナウンサーが続ける。
「この仕組みは、失業者の新たな収入源として注目されています。
専門家の間では“個人による富の再配分”とも呼ばれています」
■ 国民の反応
SNSには、瞬く間に反応が溢れた。
「太郎すげぇ……政府より早いじゃん」
「これ、実質的なセーフティネットじゃない?」
「当選したい! 応募した!」
「高田総理、これどうするんだろう……」
「太郎が国を救うのか?」
「いや、ゲームで稼ぐってどうなんだよ……でも助かる」
「政治より太郎のほうが動きが早いの草」
「これ、国としてどう扱うべきなんだ?」
賛否はあったが、
確かに“希望”の色が混じっていた。
■ 官邸での反応
ニュースを見終えた高田首相は、
静かに画面を閉じた。
「……鈴木太郎さん。
あなたは、何を目指しているの?」
その声には、
焦りでも怒りでもなく、
ただ純粋な“問い”があった。
秘書官が控えめに言う。
「総理、国民の間では期待の声も多いようです。
ただ、政府としての対応は慎重に……」
「ええ、わかっているわ」
高田首相は立ち上がり、
窓の外の夜景を見つめた。
「国民が希望を見つけたのなら……
私は、それを無視するわけにはいかない」
その背中は、
迷いながらも、確かに前を向いていた。
07
■ 第四章:太郎、第三次募集を告げる
――鈴木太郎(太宰治風)
私は、どうにも世界というものが広すぎて、
そして、あまりにも冷たすぎるように思えるのです。
AI開発競争で勝ち抜いたとき、
人々は私を天才だと持ち上げました。
しかし、その裏で、
どれほどの企業が倒れ、
どれほどの家庭が崩れ、
どれほどの人生が静かに終わっていったか。
私は、それを知っています。
知ってしまったのです。
だからこそ、私は富をばらまこうと決めた。
それが、私にできる唯一の償いだと信じた。
■ 海外の声
第三次募集を始める前に、
私はSNSに寄せられた海外からの声を読みました。
「世界に開放しろ」
「日本だけ優遇するのは不公平だ」
「太郎は世界の敵だ」
そんな言葉が、
まるで石を投げつけるように飛んでくる。
私は、胸の奥がひどく痛むのを感じました。
しかし──
私は、彼らの声に応えることはできません。
なぜなら、
私が壊したのは“日本の生活”だからです。
AIによって職を奪われ、
家族を養えず、
明日の食事にすら困る人々が、
この国にはあまりにも多い。
私は、その現実から目をそらすことができない。
■ 日本に限定する理由
私は、海外の人々を嫌っているわけではありません。
むしろ、彼らの怒りは当然です。
しかし、
私が最初に救わなければならないのは、
この国の人々なのです。
私が生まれ、
育ち、
そして罪を犯した国。
AIという怪物を生み出し、
その怪物が最初に牙をむいたのは、
他でもない日本の労働者でした。
だから私は、
日本に限定するのです。
これは、私のわがままでもあり、
私の祈りでもあります。
■ 第三次募集を決める
一次募集一万人。
二次募集十万人。
そして、
私はついに決めました。
第三次募集──日本人限定、百万人。
百万人という数字は、
私にとって恐ろしく大きい。
しかし、
それでも足りないのではないかとさえ思う。
富の再配分などという大それたことを、
たった一人の人間がやろうとしているのです。
滑稽で、愚かで、
しかし、どうしようもなく必要なこと。
私は震える指で、
SNSの投稿画面を開きました。
■ 投稿
私は、深呼吸をひとつして、
ゆっくりと文字を打ち込みました。
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【告知】
VRゲーム「ダンジョンワールド・エタニティ」
第三次テストプレイヤー募集を開始します。
・日本国内在住者限定
・募集人数:100万人
魔石は電子マネーに交換できます。
生活の助けになれば幸いです。
応募はこちらから。
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--------------------------------------------
投稿ボタンを押した瞬間、
私は椅子にもたれかかり、
天井を見上げました。
「……どうか、届いてくれ」
その言葉は、
誰に向けたものでもなく、
ただ空気に溶けていきました。
08
【速報】太郎、第三次募集100万人開始!!【日本人限定】【ダンジョンワールド・エタニティ】
1 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:00:11.22 ID:AbCdEf00
太郎のSNS更新きたぞ!!!
第三次募集100万人!!!
桁がバグってて草
2 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:00:45.77 ID:QwErTy19
100万人てwwwwww
もう国の政策じゃん
3 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:01:12.88 ID:YuUiOp55
しかも今回も日本人限定
海外勢また発狂してて草
4 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:01:55.33 ID:LoLoLo77
海外ユーザー「WHY JAPAN ONLY!?」
日本人「知らんがなwww」
5 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:02:20.11 ID:KkKkKk88
太郎の動機が“富の再配分”だからな
そりゃ日本限定にするわ
6 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:02:55.44 ID:ZzZzZz99
海外勢「OPEN TO THE WORLD!!」
太郎「いやです」
7 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:03:30.11 ID:AbCdEf00
太郎の投稿読んだけど
なんかもう政治家より政治してるだろ
8 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:04:05.77 ID:QwErTy19
AI就職氷河期で仕事ない人多いし
100万人はガチで助かるやつ
9 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:04:40.33 ID:YuUiOp55
てか応募フォーム軽いな
太郎のサーバーほんと落ちねえ
10 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:05:15.22 ID:LoLoLo77
敗北企業のデータセンター買い漁った男は違う
11 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:05:50.77 ID:KkKkKk88
SNSのコメント欄すごいことになってるぞ
「お願いします」「救ってください」「子供がいます」みたいなのばっかり
12 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:06:25.33 ID:ZzZzZz99
太郎の投稿、もう30万リツイ…いやシェアされてる
バズり方が異常
13 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:07:00.44 ID:AbCdEf00
海外勢「日本だけズルい!!」
日本人「太郎は日本人なんだよ、諦めろ」
14 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:07:35.77 ID:QwErTy19
100万人って、もう普通に新しい産業だろ
太郎一人で国動かしてる
15 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:08:10.55 ID:YuUiOp55
太郎「AIに奪われた仕事は、AIで返します」
↑これ名言すぎる
16 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:08:45.33 ID:LoLoLo77
てか政府どうすんだろ
太郎のゲームがセーフティネットになってるぞ
17 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:09:20.11 ID:KkKkKk88
高田総理も頭抱えてそう
18 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:09:55.44 ID:ZzZzZz99
当選発表いつだよ
はよしろ太郎
19 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:10:30.11 ID:AbCdEf00
頼む…頼む…頼む…
当たったら人生変わるんだ…
20 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:11:05.77 ID:QwErTy19
太郎が動くと世界が動く
今回もそうだな
09
■ 第五章:高校生プレイヤー・水島悠斗(みずしま ゆうと)
水島悠斗、十七歳。
高校二年生。
部活は帰宅部。
趣味はゲームと動画視聴。
成績は中の下。
将来の夢は「なんか楽に生きたい」。
そんな彼が、
SNSで太郎の第三次募集を見つけたのは、
放課後のコンビニで肉まんを食べていたときだった。
「日本人限定100万人募集」
悠斗は、反射的に応募ボタンを押した。
深く考えたわけではない。
ただ、話題になっていたし、
友達も応募していたし、
「当たったらラッキー」くらいの気持ちだった。
■ 当選通知
翌日の夜。
スマホが震えた。
【当選のお知らせ】
あなたは「ダンジョンワールド・エタニティ」第三次テストプレイヤーに選ばれました。
「……マジで!? やった!!」
思わず声が出た。
母親に「うるさいよ」と怒られたが、
そんなことはどうでもよかった。
悠斗は、
人生で初めて“抽選に当たった”気がした。
■ 初ログイン
VRヘッドセットを装着すると、
視界が白く染まり、
次の瞬間、悠斗は石畳の街に立っていた。
「うおおおお……! やっべ……!」
ゲームの中に“入る”という体験に、
全身が震えた。
周囲には、同じく当選した高校生らしきプレイヤーも多い。
「やばくね? これ本物じゃん」
「太郎神すぎる」
「今日徹夜確定だわ」
そんな声が飛び交っていた。
■ 初めての戦闘
チュートリアルを終え、
悠斗は最初のダンジョンへ向かった。
敵はスライム。
しかし、動きは意外と速い。
「うわっ、来た来た来た! やべっ!」
慌てて剣を振ると、
スライムが弾け、
小さな光の粒が落ちた。
《魔石(小) ×1》
「……これが金になるのか……!」
悠斗は、
ゲームで“稼ぐ”という現実離れした感覚に、
胸が高鳴った。
■ ギルドでの換金
街に戻り、ギルドのカウンターへ向かう。
AIスタッフが淡々と魔石を査定する。
《換金完了:1,420円》
「おおお……マジで金になってる……!」
悠斗はスマホを確認した。
残高が増えている。
「やっべ……これ、バイトより楽じゃん……!」
思わず笑いがこぼれた。
■ 現実に戻って
ログアウト後、
悠斗はコンビニに走った。
カップ麺
お菓子
ジュース
普段なら買わない量を、
少しだけ贅沢して買った。
「……ゲームで稼いだ金で買い物って、なんか不思議だな」
帰り道、
ふと頭に疑問が浮かんだ。
「これって……税金とかどうなるんだろ?」
一瞬だけ考えたが、
すぐに肩をすくめた。
「まあ……いっか。明日またダンジョン行こ」
悠斗は袋を揺らしながら、
軽い足取りで家へ帰った。
その背中には、
“未来への不安”よりも、
“明日への楽しみ”が勝っていた。10
■ 第六章:官邸、揺れる
日本の中心──総理官邸。
その会議室には、いつもより重い空気が漂っていた。
AIによる企業倒産が相次ぎ、
失業率は上昇し、
国民の不安は日に日に膨らんでいる。
そして今、
その不安の矛先は政府だけではなく、
ひとりの民間人──鈴木太郎へも向けられていた。
■ 高田総理の苦悩
日本初の女性総理である高田首相は、
資料の束を前に、静かに眉間を押さえた。
「……第三次募集、100万人……」
官房長官が頷く。
「はい。太郎氏のSNS投稿は、すでに国内で大きな反響を呼んでいます。
応募者数は、開始から数時間で数百万に達しているようです」
「……そう。やはり、国民は追い詰められているのね」
高田首相は、
SNSに寄せられた国民の声を思い出した。
「仕事がない」
「家族を養えない」
「太郎さんのゲームに救われたい」
「政府は何をしているのか」
その言葉は、
彼女の胸に深く刺さっていた。
■ 官僚たちの議論
会議室では、官僚たちが次々と意見を述べていた。
「太郎氏のゲームは、事実上の収入源になっています。
これは新しい経済活動として無視できません」
「しかし、民間人が100万人規模の“生活支援”を行うなど前例がありません。
政府としての立場を明確にすべきです」
「税制上の扱いも未整備です。
魔石の換金は所得とみなすべきか、議論が必要です」
「国民の支持は確実に太郎氏へ流れています。
政府としても何らかの対応を……」
声が重なり、
議論はまとまらない。
高田首相は、
静かにその様子を見つめていた。
■ 高田総理の決断
やがて、
高田首相はゆっくりと口を開いた。
「……太郎さんの行動は、
政府への批判ではなく、
“国民を救いたい”という思いから来ているのでしょう」
官僚たちは静まり返った。
「私たちも、国民の生活を守るために動かなければならない。
太郎さんの取り組みを敵視するのではなく、
正しく理解し、必要なら協力する姿勢を持つべきです」
その言葉には、
迷いと覚悟が混じっていた。
官房長官が慎重に尋ねる。
「……総理。太郎氏と、正式に接触を?」
高田首相は、
窓の外の曇った空を見つめながら答えた。
「ええ。
彼が何を目指しているのか、
直接、聞く必要があるわ」
■ 官邸の空気が変わる
その瞬間、
会議室の空気がわずかに動いた。
太郎という一人の民間人が、
国家の中枢を動かし始めたのだ。
官僚たちは資料をまとめ、
新たな調査を始める。
高田首相は、
胸の奥に小さな不安と、
それ以上に大きな期待を抱いていた。
「……鈴木太郎さん。
あなたは、この国をどこへ導こうとしているの?」
その問いは、
まだ誰にも答えられなかった。11
■ 第七章:逃げるように、私は世界へ開いた
――鈴木太郎(太宰治風)
私は、どうにも国家というものが怖いのです。
いや、正確に言えば、
“国家が私に興味を持つ”という状況が、
どうにも耐えられないのです。
第三次募集──日本人限定100万人。
私は、それを善意だと信じていました。
この国の人々を救いたいという、
私なりの償いの形でした。
しかし、その善意は、
どうやら官邸の静かな廊下をざわつかせたようです。
■ 政府からの影
ある日、私のもとに、
政府関係者を名乗る人物から連絡が入りました。
「高田総理が、あなたとお話ししたいと……」
その言葉を聞いた瞬間、
私は背筋が凍りつきました。
総理大臣。
国家の頂点。
その人物が、私に会いたいと言う。
私は、
自分がとんでもないことをしてしまったのだと悟りました。
■ 私は英雄ではない
私は、国を動かすつもりなどなかったのです。
ただ、
AIによって壊してしまった生活を、
少しでも取り戻したかっただけ。
しかし、
100万人という数字は、
どうやら“政策”と呼ばれる領域に踏み込んでしまったらしい。
私は、
国家に利用されるのではないかと怯えました。
私は、
国家に責任を問われるのではないかと震えました。
私は、
国家に取り込まれるのではないかと恐れました。
私は、
ただの一市民であり、
ただの技術者であり、
ただの臆病者なのです。
■ 逃げ道としての「世界」
私は考えました。
考えて、考えて、
そして、逃げるように決めました。
日本人限定をやめよう。
国籍制限を外そう。
世界中の人々に開放しよう。
そうすれば、
国家は私を“日本の問題”として扱えなくなる。
私の責任は、
国境の向こうへ薄まっていく。
卑怯だと、
自分でも思います。
しかし、
私は英雄ではありません。
ただの臆病な人間なのです。
■ 1000万人という数字
私は、
SNSの投稿画面を開きました。
震える指で、
文字を打ち込みました。
----------------------------------------------
【告知】
VRゲーム「ダンジョンワールド・エタニティ」
第四次募集を開始します。
・国籍制限なし
・募集人数:1000万人
世界中の方にご参加いただけます。
魔石は電子マネーに交換できます。
生活の助けになれば幸いです。
応募はこちらから。
httb://xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx.jp
--------------------------------------------------
投稿ボタンを押した瞬間、
私は深く息を吐きました。
「……これで、少しは逃げられるだろうか」
そんな情けない言葉が、
口から漏れました。
■ 私は、ただ生き延びたいだけなのです
私は、
世界を救いたいわけではありません。
私は、
国家と戦いたいわけでもありません。
私はただ──
自分が作った怪物(AI)と、
自分が作った希望(ゲーム)の狭間で、
静かに生き延びたいだけなのです。
それでも、
私の投稿は、
また世界を揺らすのでしょう。
私は、
その波に飲まれないように、
ただ祈るしかありませんでした。
12
【速報】太郎、ついに世界へ開放www【1000万人募集】
1 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:00:11.22 ID:AbCdEf00
太郎のSNS更新きたぞ!!
国籍制限なし!!1000万人募集!!!
2 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:00:45.77 ID:QwErTy19
逃げたな太郎wwwww
政府にビビっただろこれwww
3 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:01:12.88 ID:YuUiOp55
いやでも1000万人は草
もう国家規模じゃん
4 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:01:55.33 ID:LoLoLo77
海外勢「THANK YOU TARO!!!」
日本勢「お前ら来んなwww」
5 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:02:20.11 ID:KkKkKk88
太郎「国籍制限なしです」
海外「LOVE」
日本「やめろ」
6 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:02:55.44 ID:ZzZzZz99
てかこれ、政府が接触したって噂マジなん?
太郎ビビって世界に逃げた説あるぞ
7 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:03:30.11 ID:AbCdEf00
太郎「国家こわい」
わかる
8 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:04:05.77 ID:QwErTy19
海外勢参戦で倍率爆上がりなんだが
日本人の枠減るじゃん…
9 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:04:40.33 ID:YuUiOp55
でも太郎が国家に潰されるよりはマシだろ
生きててくれ太郎
10 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:05:15.22 ID:LoLoLo77
SNSのコメント欄、英語とスペイン語とアラビア語で埋まってて草
世界戦争かよ
11 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:05:50.77 ID:KkKkKk88
太郎「1000万人募集します」
世界「YES」
日本「NOOOOO」
12 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:06:25.33 ID:ZzZzZz99
まあ太郎が国家に捕まるよりはいいか
世界に逃げろ太郎
13 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:07:00.44 ID:AbCdEf00
応募したけど重いな
でも落ちないのが太郎クオリティ
14 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:07:35.77 ID:QwErTy19
太郎のサーバー、世界中から殴られても落ちないの草
15 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:08:10.55 ID:YuUiOp55
太郎「AIに奪われた仕事は、AIで返します」
世界「YES」
政府「……」
16 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:08:45.33 ID:LoLoLo77
高田総理、今どんな顔してるんだろ
17 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:09:20.11 ID:KkKkKk88
太郎が動くと世界が動く
マジでそうなってきたな
14ただし、時間軸前後?13節にすべきかも
■ 第八章:国家という影の前で
――鈴木太郎(太宰治風)
私は、どうにも“権力”というものが苦手でして。
いや、苦手などという生易しい言葉では足りません。
あれは、私にとっては怪物のような存在なのです。
その怪物が、ついに私の前に姿を現したのです。
■ 官邸の廊下
官邸の廊下は、妙に静かでした。
足音が吸い込まれていくようで、
私は自分が透明になってしまったのではないかと錯覚しました。
案内役の職員は、
丁寧すぎるほど丁寧な口調で言いました。
「鈴木太郎様、こちらへどうぞ」
私は、喉がひどく乾いていることに気づきました。
国家というものは、
人を乾かす力を持っているのでしょうか。
■ 高田総理との対面
会議室の扉が開くと、
そこには高田総理が立っていました。
テレビで見るよりも、
ずっと小柄で、
しかし、目だけは鋭く光っていました。
「お会いできて光栄です、鈴木さん」
その声は柔らかいのに、
どこか底知れない強さがありました。
私は、
まるで自分の罪を告白しに来た罪人のような気持ちで、
ぎこちなく頭を下げました。
「……こちらこそ、恐縮です」
■ 総理の言葉
高田総理は、
私の目をまっすぐに見つめながら言いました。
「あなたの作った《ダンジョンワールド・エタニティ》は、
多くの国民の生活を支えています。
そのことに、まず感謝を伝えたいのです」
私は、
胸の奥がざわつくのを感じました。
感謝。
国家からの感謝。
それは、
私にとっては“褒め言葉”ではなく、
“警告”のように聞こえました。
■ 私の恐れ
私は、震える声で答えました。
「……私は、ただ……
AIで壊してしまった生活を、少しでも……」
高田総理は、
静かに頷きました。
「ええ、あなたの意図は理解しています。
ただ、国としても無視できない規模になっています。
あなたの活動が、国民の生活に大きな影響を与えているのです」
その言葉を聞いた瞬間、
私は背筋が凍りました。
“国として無視できない”
それはつまり、
国家が私を“管理すべき対象”として見始めたということです。
私は、
国家に飲み込まれる未来を想像し、
息が詰まりそうになりました。
■ 逃げるような決意
会談が終わり、
官邸を出た瞬間、
私は空を見上げました。
曇り空が、
まるで巨大な手のひらのように私を覆っていました。
「……逃げなければ」
その言葉が、
自然と口から漏れました。
私は、
国家の影から逃れるために、
世界へ門を開くことを決めたのです。
日本人限定をやめ、
国籍制限を外し、
1000万人の募集をかける。
それは、
私の善意ではなく、
私の恐怖が生んだ決断でした。
13
■ アメリカ・イギリス(英語圏)
「ついに世界に開いた!太郎は本物の革命家だ」
「政府より早く動く個人って何なんだよ」
「1000万人?冗談だろ…でも応募する」
「太郎は新しい経済モデルを作ってる」
「これ、世界のセーフティネットになるんじゃないか?」
■ 中国
「太郎、ようやく我々にも門を開いた!」
「日本政府に追い詰められたのか?」
「太郎は天才、いや仙人だ」
「応募する、絶対に参加する」
■ 韓国
「ついに参加できるのか…待ってた」
「太郎は本当に狂ってる(褒め言葉)」
「政府より早いのは笑う」
「1000万人でも足りないだろ」
■ インド
「太郎さん、あなたは希望です」
「これは未来の働き方だ」
「10万人でもなく100万人でもなく1000万人!?すごすぎる」
「応募した!」
■ 中東
「太郎は救世主か?」
「このゲームは新しい経済だ」
「家族を養えるかもしれない、ありがとう太郎」
「参加する!」
■ ヨーロッパ(フランス・ドイツ・スペインなど)
「前例のない試みだ」
「一人の民間人が世界経済を動かしている」
「太郎は国家を超えた存在になりつつある」
「応募した、当たるといいな」
■ 世界のまとめ
日本:倍率上昇に悲鳴、太郎逃亡説で盛り上がる
海外:歓喜・感謝・驚愕・称賛の嵐
政府:静かに困惑(表には出ない)
世界のメディア:新しい“労働”の形として大騒ぎ
太郎の一投稿が、
国家を揺らし、
世界を巻き込み、
新しい経済の形を作り始めていた。15
■ 第九章:官邸、世界開放の報せに揺れる
官邸の執務室に、
秘書官が駆け込んできた。
「総理……鈴木太郎氏が、
《ダンジョンワールド・エタニティ》を世界に開放しました。
募集人数は……1000万人です」
高田総理は、
手にしていた資料をそっと机に置いた。
「……世界に?」
その声は驚きよりも、
深い戸惑いを含んでいた。
■ 官邸のざわつき
すぐに緊急会議が開かれた。
官僚たちは、
資料を抱えたまま席に着き、
ざわざわと声を交わしていた。
「1000万人……前例がありません」
「国籍制限なし? これはもう国際問題になり得ます」
「太郎氏は、国家の枠を超えようとしているのか……?」
「いや、むしろ国家から逃げたのでは?」
その言葉に、
高田総理はわずかに眉を寄せた。
■ 総理の胸に走る違和感
高田総理は、
太郎と対面したときの彼の表情を思い出していた。
あのときの太郎は、
英雄でも革命家でもなく、
ただ怯えた一人の青年だった。
「……彼は、私たちを恐れたのかもしれない」
その呟きに、
官僚たちは一瞬言葉を失った。
「総理、それは……」
「国家が民間人を脅かしたという意味に……」
「違うわ」
高田総理は静かに首を振った。
「彼は、自分の作ったものが“国家の領域”に踏み込んでしまったことを恐れたのよ。
責任を問われることを、利用されることを、
あるいは……潰されることを」
官僚たちは黙り込んだ。
■ 世界開放の衝撃
別の秘書官がタブレットを差し出した。
「総理、SNSの反応です。
世界中で“太郎開放”がトレンドになっています」
画面には、
各国の言語で太郎を称賛する声が溢れていた。
「太郎は世界の希望だ」
「新しい経済の始まりだ」
「政府より早く動く個人」
「太郎に救われたい」
高田総理は、
その光景を複雑な表情で見つめた。
「……彼は、世界を味方につけたのね」
官僚の一人が、
慎重に言葉を選んだ。
「総理……これは、もはや一民間人の活動ではありません。
国際的な影響力を持つ“新しい力”です」
■ 高田総理の決意
高田総理は、
深く息を吸い、
ゆっくりと吐き出した。
「……太郎さんを敵に回すつもりはないわ。
彼は国民を救おうとしている。
その点では、私たちと同じ方向を向いている」
官僚たちは静かに頷いた。
「ただし──
彼が世界へ開いた以上、
日本だけの問題ではなくなる。
私たちは、国としての立場を整えなければならない」
その声には、
迷いと覚悟が混じっていた。
■ 官邸の窓の外
会議が終わり、
高田総理は窓の外を見つめた。
曇り空の向こうで、
世界がざわめいているように感じた。
「鈴木太郎さん……
あなたは、どこまで行くつもりなの?」
その問いは、
誰にも届かないまま、
静かに官邸の空気に溶けていった。16
■ 第十章:世界がざわめく音
――主人公:アメリカ人・イーサン・クラーク
イーサン・クラーク、二十五歳。
カリフォルニアの片隅で、
AIに仕事を奪われた元配送ドライバー。
そんな彼のスマホに、
ひとつの通知が届いた。
「鈴木太郎、世界1000万人募集開始」
その瞬間、
イーサンの胸は久しぶりに熱くなった。
「……ついに、俺たちの番か」
■ ログイン:世界が押し寄せる
VRヘッドセットを装着し、ログインすると──
そこには、
“リアルではないのに、妙に熱気のある世界”が広がっていた。
街は人で溢れ、
世界中の言語が飛び交っている。
「やっと入れた!」
「太郎ありがとう!」
「換金って本当にできるのか?」
「今日から俺はダンジョンワーカーだ!」
イーサンは思わず笑った。
「……なんだこれ、ゲームっていうより市場じゃないか」
そう、
ここは“冒険の街”というより、
新しい経済圏の誕生の瞬間だった。
■ 世界1000万人のログイン
サーバーは落ちない。
むしろ、どんどん快適になっていく。
《接続数:10,000,000》
《処理最適化モードへ移行》
まるで巨大な都市が、
一斉に目を覚ましたようだった。
イーサンは鳥肌が立った。
「太郎……あんた、何を作ったんだよ……」
■ 初めてのダンジョン
ゲーム自体は、
正直そこまでリアルではない。
スライムはぬるっとしているし、
動きも単純だ。
だが──
倒すたびに落ちる魔石を拾うたびに、
イーサンの心臓は跳ねた。
《魔石(小) ×1》
「……これが金になる。
ゲームの中の石ころが、現実の金になる……」
その事実が、
彼の脳を痺れさせた。
■ ギルドでの換金
ギルドは、まるで銀行のように人で溢れていた。
アメリカ人、ヨーロッパ人、アジア人──
世界中の人々が列を作り、
魔石を差し出している。
イーサンも列に並び、
自分の魔石をカウンターに置いた。
AIスタッフが淡々と処理する。
《換金完了:12ドル相当》
その数字を見た瞬間、
イーサンは息を呑んだ。
「……本当に、金になった……」
ゲームで稼いだ金が、
現実の財布に入る。
その衝撃は、
リアリティの高さよりもずっと強烈だった。
■ 経済が動き出す音
ログアウト後、
SNSを開くと世界中が騒いでいた。
「太郎のゲームで今日の食費が稼げた!」
「これ、国の制度より早くないか?」
「新しい仕事が生まれたぞ!」
「太郎は世界を変える気か?」
イーサンは震えた。
これはただのゲームではない。
世界の経済が、静かに、しかし確実に動き始めている。
「……やべぇ。
俺、歴史の転換点に立ってるのかもしれない」
恐れと興奮が混ざり合い、
胸が熱くなる。
■ 明日への期待
イーサンはベッドに倒れ込み、
天井を見つめながら呟いた。
「明日もログインしよう。
ここには……生きるチャンスがある」
その目には、
久しく失っていた“希望”が宿っていた。17
■ 第十一章:世界が震え、太郎は静かに沈む
世界は、気づかぬうちに変わり始めていた。
《ダンジョンワールド・エタニティ》──
そのゲームは、もはや“娯楽”ではなかった。
1000万人のプレイヤーが魔石を換金し、
そのお金で食料を買い、家賃を払い、生活をつないでいる。
アメリカでは、
「ダンジョンワーカー」という新しい職業が生まれた。
ヨーロッパでは、
失業者支援団体が太郎のゲームを“救済手段”として紹介し始めた。
アジアでは、
魔石の相場がニュース番組で取り上げられ、
為替レートのように毎日更新されていた。
中東では、
「太郎は神に選ばれた者だ」と語る者まで現れた。
世界は、
太郎の作った“仮想の石ころ”に振り回されていた。
■ 経済学者たちの混乱
各国の経済学者は、
この現象を理解しようと必死だった。
「これは新しい労働形態だ」
「いや、これは通貨の代替だ」
「世界経済の均衡が崩れる」
「太郎という個人が、国家より大きな影響力を持ち始めている」
議論はまとまらず、
ただ混乱だけが広がっていった。
■ 高田総理の苦悩
日本でも同じだった。
高田総理は、
官邸の会議室で報告を受けながら、
深い溜息をついた。
「……太郎さんは、世界を救おうとしているのかしら。
それとも、ただ逃げているだけなのかしら」
官僚たちは答えられなかった。
太郎の行動は、
善意にも見え、
恐怖にも見え、
革命にも見えた。
■ 太郎の孤独
その頃──
太郎は、薄暗い自室でひとり、
モニターに映る世界のログイン状況を眺めていた。
《接続数:10,000,000》
《換金処理:安定》
《世界各国のアクセス:正常》
世界は、
彼の作ったシステムに依存し始めている。
それは、
誇らしいことのはずだった。
しかし太郎の胸には、
重く冷たいものが沈んでいた。
「……どうして、こうなったんだろう」
彼は呟いた。
世界を救いたかったわけではない。
英雄になりたかったわけでもない。
ただ、
AIで壊してしまった生活を、
少しでも取り戻したかっただけ。
しかし今、
世界中の生活が彼の肩に乗っている。
「……怖いな」
太郎は、
自分の手が震えていることに気づいた。
■ 世界の歓声と、太郎の沈黙
SNSでは、
世界中の人々が太郎を称賛していた。
「太郎は救世主だ!」
「太郎のおかげで今日も食べられる!」
「太郎は世界を変えた!」
その声は、
太郎の部屋には届かない。
いや、届いているのに、
心には響かない。
太郎は、
モニターの光だけが照らす部屋で、
静かに目を閉じた。
「……俺は、どこへ向かっているんだろう」
世界は動き続ける。
太郎の作ったシステムに依存しながら。
しかし太郎自身は、
その中心で、18
■ 第十三章:企業がダンジョンに降りてきた日
――冒険者・村瀬亮(元エンジニア)視点
AI自動化の波に飲まれ、
勤めていたソフトウェア会社が倒産してから半年。
村瀬亮(むらせ りょう)は、
《ダンジョンワールド・エタニティ》での“冒険者稼業”で生活をつないでいた。
魔石の換金だけでは贅沢はできないが、
生きるには十分だった。
そんなある日──
ダンジョン前の広場が、妙な熱気に包まれていた。
■ ダンジョン前に現れた「企業ブース」
「……なんだ、あれは」
亮は思わず足を止めた。
ダンジョン前の広場に、
現実企業のロゴが浮かぶホログラムが立っていた。
《アーク・エクイップメント株式会社
ダンジョン装備レンタル事業部
冒険者パートナー募集》
周囲の冒険者たちがざわつく。
「ついに企業が来たか……」
「装備レンタル? ギルドじゃなくて企業が?」
「太郎の“デジタルオフィス”ってやつだな」
亮は眉をひそめた。
「……装備レンタル? どういうビジネスだ?」
■ 企業担当者(アバター)との面談
ブースに近づくと、
スーツ姿のアバターが丁寧に頭を下げた。
「こんにちは。
当社は、ダンジョンでドロップする“レア装備品”を買い取り、
それを冒険者の皆様に貸し出す事業を行っております」
亮は思わず聞き返した。
「……買い取り? ギルドより高く?」
担当者は微笑んだ。
「いえ、ギルドと同額です。
当社は“装備品の収集”が目的です。
ギルドと同額で買い取り、
その装備を所属冒険者に貸し出し、
ギルド売却額の1割を“使用料”としていただくビジネスモデルです」
亮は目を見開いた。
「……なるほど。
装備を貸して、冒険者が稼いだ分の1割を取る……
現実のサブスクみたいなものか」
「おっしゃる通りです。
冒険者の皆様は初期投資なしで強力な装備を使えますし、
当社は安定した収益を得られます」
■ 冒険者たちの反応
周囲の冒険者たちがざわつき始めた。
「レア装備って、ドロップ率低いからな……」
「企業が集めてくれるなら助かる」
「強い装備使えるなら、魔石の効率も上がるし」
「1割なら悪くないな」
亮も、胸の奥がざわついた。
(……確かに、強い装備があれば稼ぎは増える。
今の装備じゃ、深層には行けないし……)
■ 契約内容の説明
担当者アバターは続けた。
「契約はゲーム内で完結します。
現実の個人情報は不要です。
装備の貸し出しは無料。
ただし、ギルドで売却した際の金額の1割を当社にお支払いいただきます」
亮は思わず笑った。
「……リスクなしで装備を借りられるってことか」
「はい。
当社は装備品の“資産化”を目指しています。
冒険者の皆様は、より効率的に稼げるようになります」
■ 亮の決断
担当者が亮に向かって言った。
「あなたのような経験豊富な冒険者には、
ぜひ当社の装備を使っていただきたい」
亮は、
ほんの少しだけ迷った。
しかし──
倒産した会社のことを思い出した。
(……もう、後戻りはできない。
ここで稼ぐしかないんだ)
「……契約します。
装備を貸してください」
「ありがとうございます。
あなたの活躍を期待しています」
契約が完了した瞬間、
画面に通知が表示された。
《あなたは“アーク・エクイップメント契約冒険者”になりました》
亮は拳を握った。
「……よし。
これで、もっと深く潜れる」
■ 世界がまた一歩、変わる
ダンジョン前の広場では、
企業ブースが次々と増えていく。
装備レンタル企業
冒険者保険会社
ダンジョン素材加工企業
探索ガイド企業
現実の企業が、
ゲームの世界に“支店”を出し始めていた。
亮は空を見上げた。
「……太郎さん。
あんたの世界、
本当に“仕事”になっちまったな」
その声は、
ざわめく冒険者たちの中に溶けていった。19
■ 第十四章:デジタル役所の誕生
――国家が太郎の技術に頼らざるを得なくなる日
■ 限界に達した地方行政
AI失業者を救うために始まった
「公務員としての雇用創出政策」。
しかし、現場はすでに限界だった。
生活保護申請の急増
税収の落ち込み
役所の窓口の長蛇の列
新規採用の予算不足
全国の自治体から、
悲鳴のような報告が官邸へ届いていた。
高田総理は、
その報告書を前に静かに目を閉じた。
(……このままでは、行政が崩壊する)
■ 太郎の“デジタルオフィス”が広がる
そんな中、官邸に届いた新しい資料。
《デジタルオフィス利用者の急増》
太郎が《ダンジョンワールド・エタニティ》内に構築した
“デジタルオフィス”。
当初は冒険者向けの窓口だったが、
今では一般企業も積極的に利用していた。
その理由は──
太郎が開発した“画面転送技術”にあった。
■ 画面転送技術の仕組み
太郎の技術は、
従来のリモートデスクトップとは根本的に違っていた。
現実世界のデータセンターにある端末の“画面だけ”を
チャプター(分割・抽出)して転送する。
データそのものは一切外部に出ない。
デジタルオフィスに表示されるのは
「画面の映像」だけ。
ユーザーの操作は
“操作コマンド”としてデータセンターに送られ、
現実の端末がその通りに動く。
結果として、
データは編集できるが、
コピーも保存も持ち出しも不可能。
さらに、画面転送は
暗号化された専用プロトコルで行われ、
通信経路上での盗聴や改ざんは事実上不可能。
この仕組みにより、
デジタルオフィスは“現実のオフィスより安全”と評価され、
大企業が次々と導入していた。
会議、契約、研修、社内相談──
すべてがデジタルオフィスで完結する。
そして今、
冒険者も企業も一般市民も、
同じ声を上げ始めていた。
「デジタル空間に“役所”がほしい」
■ 総理の決断
高田総理は、
資料を閉じて静かに言った。
「……デジタル役所を作りましょう」
会議室が凍りついた。
官僚の一人が震える声で尋ねた。
「太郎氏のデジタルオフィスを……
行政機能として利用するということですか?」
「ええ。
現実の役所が限界なら、
デジタル空間に“もう一つの役所”を作るしかない」
官僚たちはざわついた。
「しかし、あれは民間の……」
「国家機能を民間空間に置くのは……」
「セキュリティは……」
高田総理は首を振った。
「太郎さんの画面転送技術は、
データを一切外に出さない。
現実の役所より安全です」
■ デジタル役所の構想
総理はホワイトボードに書き出した。
デジタル窓口
生活相談
失業者支援
企業向け手続き
冒険者向け手続き
税務相談
行政書類の発行
「これらを、デジタル空間で行います。
そして──
そこで働く“デジタル公務員”を募集します」
官僚たちは息を呑んだ。
「……失業者を、デジタル役所で雇うのですか?」
「そうです。
現実の役所では受け入れられない人たちを、
デジタル空間で雇用します」
■ 全国への通達
その日のうちに、
全国の自治体へ通達が出された。
《デジタル役所創設に伴う人材募集について》
デジタル窓口業務
企業・市民の相談対応
冒険者支援
行政手続きの案内
デジタル書類の処理
応募資格はただひとつ。
「AI失業者であること」
■ 失業者たちの反応
SNSには、
驚きと期待が入り混じった声が溢れた。
「デジタル役所で働けるのか……?」
「現実の役所は無理でも、仮想空間なら……」
「太郎の技術で公務員って、どういう時代だよ」
「でも、仕事があるならありがたい」
冒険者の村瀬亮も、
そのニュースを見て呟いた。
「……デジタル役所か。
ダンジョンで稼ぐだけじゃなく、
役所で働くって道もあるのか」
■ 太郎の胸に走る不安
その頃──
太郎は自室で、
ニュース速報を見つめていた。
《政府、デジタル役所創設へ》
《鈴木太郎氏のデジタルオフィスを行政利用》
太郎は、
胸の奥が冷たくなるのを感じた。
「……また、俺の世界が……
現実に飲み込まれていく……」
しかし同時に、
逃げ場のない現実も理解していた。
失業者は増え続け、
現実の役所は限界を迎えている。
太郎の作った世界が、
その穴を埋め始めていた。
■ 世界がまた一歩、変わる
デジタル役所の創設は、
瞬く間に世界へ広がった。
「仮想空間で働く公務員」
「デジタル行政の誕生」
「太郎の世界が国家機能を補完」
世界中のメディアが取り上げ、
新しい時代の幕開けを予感させた。
高田総理は、
官邸の窓から夜景を見つめながら呟いた。
「……太郎さん。
あなたの世界に、
また一つ“現実”が入り込んでしまったわね」
その声は、
静かに夜へ溶けていった。20
■ 第十五章:デジタル役所、初出勤
――元失業者・三浦誠(みうら まこと)視点
三浦誠、四十二歳。
AI自動応答システムの普及で、
長年勤めたカスタマーサポート会社を失った。
再就職は難航し、
生活保護の申請を考え始めた矢先──
政府が発表した「デジタル役所職員募集」のニュースが飛び込んできた。
“デジタル空間で働く公務員”
半信半疑で応募したが、
まさか採用されるとは思っていなかった。
■ 初出勤:デジタル役所の玄関
VRヘッドセットを装着すると、
視界が柔らかな光に包まれ、
次の瞬間、巨大なホールが現れた。
《デジタル役所・中央ロビー》
現実の役所とは違い、
天井は高く、空気は澄んでいて、
どこか未来の空港のようだった。
「……これが、俺の職場か」
周囲には、同じく採用された元失業者たちが集まっていた。
元エンジニア
元事務職
元飲食店スタッフ
元コールセンター社員
皆、現実では居場所を失った人々だ。
■ 画面転送技術の説明
新人研修が始まると、
講師役のアバターが前に立った。
「皆さんが扱うのは、
現実世界の役所データです。
ただし──データは一切、ここには存在しません」
誠は息を呑んだ。
講師は続ける。
「太郎氏の“画面転送技術”により、
現実のデータセンターにある端末の画面だけが
チャプター(分割・抽出)されて転送されます」
巨大スクリーンに図が表示される。
データセンターの端末 → 画面を抽出
デジタル役所 → 映像として表示
職員の操作 → “操作コマンド”として送信
データセンターの端末が実際に処理
データは一切外部に出ない
「つまり、皆さんは“画面を触っているだけ”です。
データは現実世界から一歩も動きません」
誠は思わず呟いた。
「……すげぇ……」
講師は微笑んだ。
「だからこそ、行政データを扱えるのです。
現実の役所より安全だと評価されています」
■ 初めての窓口業務
誠の初担当は「保険・年金窓口」だった。
現実の役所では人手不足で何週間も待たされる手続きが、
ここではデジタル空間で即日対応できる。
カウンターに座ると、
すぐに通知が届いた。
《相談希望者:冒険者・村瀬亮
内容:国民健康保険 → 協会けんぽへの加入手続き》
誠は深呼吸し、
「応対開始」ボタンを押した。
目の前に、
村瀬亮のアバターが現れた。
「すみません、協会けんぽに入りたくて……
最近、企業と契約して働くようになったんです」
誠は頷いた。
「承知しました。
企業と雇用契約を結んだ場合、
国民健康保険から協会けんぽへ切り替える必要があります。
まずは企業名を教えていただけますか?」
亮は答えた。
「アーク・エクイップメントって会社です。
ダンジョン装備のレンタル事業をやってて……
契約冒険者になったんです」
誠は、
画面転送された“現実の役所の保険システム”を操作しながら、
必要項目を入力していく。
■ 手続き完了
「では、最後にこちらの確認ボタンを押してください」
亮が押すと、
画面に通知が表示された。
《協会けんぽ加入手続き:完了》
亮はほっとした表情になった。
「ありがとうございます。
これで安心して働けます」
誠は微笑んだ。
「こちらこそ。
何かあれば、また相談してください」
亮のアバターが消えると、
誠はしばらく席に座ったまま動けなかった。
(……俺は今、確かに“誰かの役に立った”んだ)
胸の奥がじんわりと温かくなった。
■ デジタル役所の一日が終わる
ログアウトすると、
現実の薄暗い部屋に戻った。
だが、
胸の中には久しぶりに“仕事をした実感”があった。
「明日も頑張るか……」
その声は、
以前の誠には出せなかったものだった。
21
■ 第十六章:家族で選んだ、新しい暮らし
――創薬研究者・大森悠介視点
■ 1. 研究室が“静かになった日”
大森悠介、三十八歳。
創薬企業に勤める研究者。
数年前までは、
白衣を着て研究室を歩き回り、
試薬を量り、細胞を培養し、
分析装置の前で何時間も待つ──
そんな“手を動かす研究者”だった。
しかし、AI技術が急速に進化した。
試薬の調整
細胞の培養
分析装置の操作
データの一次解析
これらの作業は、
すべてロボットが行うようになった。
研究者の役割は変わった。
「ロボットに指示を出し、
複数の実験を同時に進める“指揮者”」
悠介は、
研究室にほとんど行かなくなった。
■ 2. デジタルオフィスが研究を変えた
ロボットを操作するためのインターフェースは、
太郎が作った“デジタルオフィス”に統合された。
ログインすると、
現実の研究施設にあるロボットの画面が
画面転送技術で映し出される。
データは一切外に出ない
映像だけが転送される
操作は“コマンド”として送信される
ロボットが現実で実験を行う
悠介は、
自宅の書斎から
10台以上のロボットに指示を出し、
同時に実験を進められるようになった。
(……もう、研究室にいる必要はないんだ)
■ 3. 都会のマンションが「重荷」になる
そんな働き方が当たり前になった頃、
悠介は気づいた。
「都心に住む意味が、ほとんどなくなっている」
通勤はゼロ。
会議もデジタルオフィス。
研究データも安全に扱える。
しかし──
都心の生活コストは高すぎた。
ローンの残るマンション。
子ども二人の教育費。
物価の上昇。
そして、
同じように考える人が増え、
マンション価格は急落していた。
■ 4. 妻との会話:地方移住という選択
夕食後、妻の美咲が言った。
「ねぇ悠介。
このまま都心に住む意味、あるのかな」
悠介は箸を置いた。
「……やっぱり、そう思う?」
「だって、あなたも私もデジタルオフィスで働けるし。
子どもたちもオンライン授業が普通になったし。
だったら、もっと広い家で、
自然のある場所で暮らしたいなって」
美咲もデジタルオフィス対応の事務職だ。
夫婦で年収800万。
生活は安定している。
しかし──
都会の暮らしは、
もはや“必要経費”ではなく“贅沢”になっていた。
「地方なら、同じ家賃で庭付きの一軒家に住めるよ」
「うん。
子どもたちにも、もっと広い世界を見せたい」
二人の意見はすぐに一致した。
■ 5. 子どもたちの反応
「えっ、庭で遊べるの?」
「虫とか捕まえられる?」
「学校はどうするの?」
「オンライン授業があるし、
週に一回は通学して友達にも会えるよ」
「やったー!」
子どもたちの笑顔を見て、
悠介は胸が温かくなった。
■ 6. 移住先の町へ
週末、家族で地方の町を訪れた。
空気が澄んでいて、
山が近く、
川の音が聞こえる。
不動産会社の案内で見た家は、
都心のマンションより安いのに、
信じられないほど広かった。
「ここ……いいな」
美咲が呟いた。
「うん。
ここなら、家族でゆっくり暮らせる」
悠介は確信した。
ここが、これからの家だ。
■ 7. 新しい暮らしの始まり
地方の新居に引っ越した日、
悠介は庭に立って深呼吸した。
「……いい風だ」
子どもたちは庭を走り回り、
美咲は新しいキッチンを嬉しそうに眺めている。
悠介はヘッドセットを手に取った。
「さて……仕事するか」
デジタルオフィスにログインすると、
都会の研究施設のロボット画面が映し出された。
場所は変わっても、
仕事は変わらない。
しかし──
生活は大きく変わった。
太郎の技術が作った“どこでも働ける世界”。
その恩恵を、悠介は家族とともに受け取っていた。22
■ 第十七章:空洞化する都市、揺れる官邸
――高田総理視点
■ 1. 都市の人口が“消えていく”
官邸の執務室に、
厚い報告書が積み上がっていた。
《都市部人口流出レポート》
《マンション価格下落率》
《地方移住者統計》
高田総理は、
ページをめくる手を止めた。
「……ここまで急激だとは」
報告書には、
信じがたい数字が並んでいた。
都心の人口が半年で12%減
新築マンションの空室率が過去最高
大企業の本社機能がデジタルオフィスへ移行
若者の地方移住が加速
都市の商店街が“昼でも静か”になりつつある
デジタルオフィスの普及が、
都市の価値そのものを変えてしまったのだ。
■ 2. 官僚たちの議論
会議室では、官僚たちが声を荒げていた。
「都市の税収が急激に落ちています」
「固定資産税の減収が深刻です」
「企業のオフィス縮小で法人税も……」
「地方は活気づいていますが、都市が空洞化しています」
高田総理は、
その議論を黙って聞いていた。
(……太郎さんの技術が、
ここまで社会構造を変えるとは)
誰も悪くない。
太郎も、国民も、企業も。
ただ、
世界が“新しい形”に変わってしまっただけだ。
■ 3. 都市の未来をどうするか
官僚の一人が言った。
「総理、都市再生のための補助金を……」
別の官僚が反論する。
「しかし、都市に戻る理由がありません。
デジタルオフィスで働ける以上、
地方のほうが生活コストが低いのです」
「都市の価値をどう再定義するかが問題です」
「観光? 文化? 教育?
しかし、それもデジタル化が進んで……」
議論は堂々巡りだった。
高田総理は、
静かに口を開いた。
「……都市は、
“人が集まる理由”を失いつつあるのね」
官僚たちは黙り込んだ。
■ 4. 太郎の影
高田総理は、
ふと窓の外を見つめた。
曇り空の向こうに、
太郎の姿が浮かぶような気がした。
(太郎さん……
あなたは、意図せず“新しい国土”を作ってしまった)
デジタルオフィスは、
都市の機能を奪ったわけではない。
ただ、
都市に“縛られる必要”を消しただけだ。
それが、
都市の空洞化を生んでいた。
■ 5. 総理の葛藤
「……どうすればいいのかしら」
高田総理は、
誰に聞かせるでもなく呟いた。
都市を守るべきか。
地方の活性化を後押しすべきか。
それとも、
デジタル空間を“第三の都市”として育てるべきか。
どれも正しく、
どれも難しい。
(太郎さんの技術は、
国を救いもするし、揺らしもする)
その二面性が、
高田総理の胸を重くしていた。
■ 6. 夜の官邸で
会議が終わり、
官邸の廊下を歩きながら、
高田総理は深く息を吐いた。
「……都市が空洞化していく。
この国は、どこへ向かうのかしら」
しかし、
その目にはわずかな光も宿っていた。
(変化は恐ろしい。
でも、変化の先に新しい未来があるのなら……
私は、その舵を取らなければならない)
高田総理は、
静かに執務室へ戻っていった。23
■ 第十八章:国家の決断
――官邸・高田総理視点
■ 1. 都市の“沈黙”が報告される
官邸の会議室に、
都市再生担当の官僚が駆け込んできた。
「総理……最新の人口統計です」
高田総理は資料を受け取り、
ページをめくる手を止めた。
都心三区の人口がさらに7%減
オフィス街の稼働率は40%を割り込む
商業施設の閉店ラッシュ
地価の下落が止まらない
若者の地方移住が加速
「……ここまで来たのね」
都市は、
もはや“人が集まる場所”ではなくなりつつあった。
デジタルオフィスが一般化し、
働く場所は“どこでもよくなった”。
その結果、
都市の価値が急速に溶けていった。
■ 2. 官僚たちの焦り
会議室では、
官僚たちが声を荒げていた。
「都市の税収が崩壊します!」
「このままではインフラ維持が不可能です」
「地方は活性化していますが、都市が死にます」
「企業の本社機能がデジタル空間に移りつつあります」
高田総理は、
その議論を静かに聞いていた。
(……都市を守るべきか。
それとも、新しい形を受け入れるべきか)
どちらも正しく、
どちらも難しい。
■ 3. “都市を守る”という発想の限界
官僚の一人が提案した。
「都市再生のための補助金を……」
別の官僚がすぐに反論する。
「しかし、都市に戻る理由がありません。
デジタルオフィスで働ける以上、
地方のほうが生活コストが低いのです」
「都市の価値をどう再定義するかが問題です」
「観光? 文化? 教育?
しかし、それもデジタル化が進んで……」
議論は堂々巡りだった。
高田総理は、
静かに口を開いた。
「……都市は、
“人が集まる理由”を失ったのね」
官僚たちは黙り込んだ。
■ 4. 国家としての決断
高田総理は、
机の上の資料を閉じた。
そして、
ゆっくりと立ち上がった。
「……都市を“守る”のではなく、
都市を“作り直す”しかないわ」
官僚たちが息を呑む。
「総理、それは……?」
高田総理は、
はっきりと言った。
「都市機能を“分散化”します。
都市を一極集中の拠点として扱う時代は終わりです」
会議室が静まり返った。
「地方に行政機能を移し、
デジタル役所を拡大し、
企業の本社機能を“物理都市”から“デジタル都市”へ移行させる。
都市は、必要な部分だけ残し、
あとは“新しい形”に再編するのです」
官僚たちは驚きながらも、
その言葉の重さを理解していた。
これは、国家の構造を変える決断だった。
■ 5. 太郎の影
高田総理は、
窓の外の曇り空を見つめた。
(太郎さん……
あなたの技術が、
この国の形を変えてしまった)
太郎は国家を動かすつもりなどなかった。
ただ、失業者を救いたかっただけだ。
しかし──
その技術は、
都市の価値を根底から変えてしまった。
■ 6. 総理の覚悟
「……変化は恐ろしい。
でも、変化を止めることはできない」
高田総理は、
自分に言い聞かせるように呟いた。
「ならば、
変化の先にある未来を選ぶしかない」
都市の空洞化は、
もはや“問題”ではなく“現実”だった。
その現実を前に、
日本はついに決断した。
都市の再編。
国家機能の分散化。
デジタル都市の正式な国家インフラ化。
それは、
日本が“新しい国土”を選ぶという宣言だった。24
■ 第十九章:二つの日本
――都会の区長と、地方の商店街店主
【A:都会・区長の視点】
■ 1. 静まり返った朝のオフィス
港区長・三枝(さえぐさ)は、
朝の区役所の窓から外を見下ろした。
かつてはスーツ姿の人々が行き交い、
タクシーが列をなし、
カフェには長蛇の列ができていた通り。
今は──
人影がまばらだった。
「……今日も、こんなに静かか」
三枝は、胸の奥が重く沈むのを感じた。
■ 2. 空室率の報告
秘書が資料を持ってきた。
「区長、最新のオフィス空室率です」
三枝は資料を開き、眉をひそめた。
オフィス空室率:42%
マンション売却希望者:増加
転出届:前月比+18%
「……また増えたのか」
デジタルオフィスの普及で、
企業は都心のオフィスを縮小し、
社員は地方へ移住していく。
区長として、
この流れを止める術はなかった。
■ 3. 商店街の悲鳴
午後、区内の商店街の代表が訪れた。
「区長、どうにかしてくださいよ……
人が来ないんです。
昼間でもガラガラで……」
「わかっています。
しかし、企業が戻らない以上……」
「戻らないって、そんな……
ここは“都会”なんですよ?」
三枝は言葉を失った。
都会というブランドは、
もはや通用しない。
人々は、
“働くために都会に住む必要”を失ったのだ。
■ 4. 区長の焦り
夜、区長室に一人残った三枝は、
暗い窓の外を見つめた。
(……この区は、どうなるんだ)
高層ビルの明かりは減り、
街は静かになっていく。
都市の価値が、
音もなく崩れていくのを感じた。
「……太郎さん。
あなたの技術は、
都市の形まで変えてしまったんですね」
三枝は、
誰に届くでもない言葉を呟いた。
【B:地方・商店街の店主視点】
■ 1. かつての“シャッター街”
兵庫県の小さな町。
商店街の一角で古い文具店を営む
店主・田中は、
毎朝シャッターを開けるたびに思っていた。
(今日も、誰も来ないだろうな……)
十年前、
商店街はほぼ死んでいた。
若者は都会へ出て、
店は次々と閉まり、
残ったのは高齢者ばかり。
■ 2. しかし、今年は違った
シャッターを開けた瞬間、
田中は思わず目を見開いた。
「……おはようございます!」
「おはようございます、田中さん!」
商店街に、
若い夫婦や子ども連れが歩いている。
(……信じられん。
本当に、人が戻ってきたんだ)
デジタルオフィスの普及で、
都会から移住してきた家族が増えたのだ。
■ 3. 文具店に来る“新しい客”
昼過ぎ、
若い母親が子どもを連れて店に入ってきた。
「すみません、ノートと鉛筆ありますか?」
「もちろんありますよ。
お子さん、学校は?」
「オンライン授業が中心なんですけど、
週に一回は通学するんです。
だから文具が必要で」
田中は胸が熱くなった。
(……この店に、
また子どもの声が戻ってくるなんて)
■ 4. 商店街の復活
夕方、商店街の会議が開かれた。
「移住者が増えて、
売上が去年の三倍になりました!」
「空き店舗にカフェが入るそうです!」
「子どもが増えたから、
駄菓子屋を復活させようかと!」
田中は、
涙が出そうになった。
(……こんな日が来るなんて)
■ C:二つの日本の対比
都会は、
人が去り、静かになり、
区長は焦りと不安に押しつぶされそうになっている。
地方は、
人が戻り、子どもの声が響き、
商店街は再び息を吹き返している。
どちらも、
太郎の技術が生んだ“新しい日本”の姿だった。25
■ 第二十章:老いてなお、冒険者
――高齢者・山下弘(やました ひろし)視点
■ 1. 老人会の集まりが“パーティ編成”になる日
山下弘、七十二歳。
腰は痛いし、膝も曲がりにくい。
散歩も長くはできない。
だが──
《ワールドダンジョン・エタニティ》の中では違った。
椅子に座ったまま、
ヘッドセットをかぶるだけで、
自分の身体は若返り、
剣を振り、魔法を放ち、
仲間と笑いながら冒険ができる。
「ほな、今日も潜るでー!」
「山下さん、昨日のボス倒したんやろ?
今日はワシらも連れてってや!」
老人会のメンバーが、
まるで遠足に行くみたいなテンションで集まってくる。
平均年齢、七十。
だが、
ゲーム内では全員、二十代の肉体だ。
■ 2. VRの中で“若返る”感覚
ログインすると、
弘は思わず腕を回した。
「……ほぉ、今日も肩が軽いわ」
現実では痛くて上がらない腕が、
ゲーム内では自由に動く。
仲間の一人、
八十歳の佐伯さんが笑った。
「現実のワシら、もう杖なしでは歩けんのになぁ。
ここでは走れるんやから、不思議なもんや」
「ほんまやで。
ワシなんか、孫より足速いわ」
全員が笑った。
■ 3. 老人パーティ、ダンジョンへ
今日の目的は、
“初心者向けの鉱石集め”。
魔石を拾えば換金できる。
年金に少し足すだけで、
生活がずいぶん楽になる。
「ほな、行くで。
じいさんパーティ、出発や!」
「名前ダサいわ!」
「ええやんけ、味がある!」
わいわい言いながら、
老人パーティはダンジョンへ入っていく。
■ 4. モンスターとの戦闘
洞窟の奥で、
スライムがぴょこんと跳ねた。
「来たで! 構えろ!」
弘は剣を構え、
佐伯さんは杖を掲げる。
「ファイアボール!」
「おお、佐伯さん、今日もキレがええな!」
「ワシ、現実では火の用心やけどな!」
また笑いが起きる。
スライムを倒すと、
キラリと光る鉱石が落ちた。
「おお、魔石や!
これでまた米が買えるわ!」
「ワシは孫にゲーム機買うんや!」
「ワシは……酒やな!」
「結局それかい!」
■ 5. 老いと冒険の境界線
休憩ポイントで、
弘はふと呟いた。
「……こんな日が来るとは思わんかったなぁ」
佐伯さんが頷く。
「ワシら、もう外で働くこともできん。
身体は言うこと聞かんし、
年金だけでは心細い」
「せやけど……ここでは違うな」
「そうや。
ここでは、ワシらは“冒険者”や」
弘は、
ゲーム内の若い自分の手を見つめた。
(……もう一度、人生をやり直してるみたいや)
■ 6. 帰還と、現実の温かさ
ダンジョンから戻ると、
ログアウトの光が視界を包む。
ヘッドセットを外すと、
現実の部屋は少し寒かった。
だが、
胸の中は温かかった。
「今日も楽しかったなぁ」
「また明日も潜ろうや」
「もちろんや!」
老人たちは、
まるで部活帰りの高校生のように笑い合った。
弘は思った。
(……老後がこんなに楽しいなんて、
誰が想像したやろな)
そして、
明日も冒険に出ることを楽しみに、
ゆっくりと椅子から立ち上がった。26
■ 第二十一章:塾とダンジョンの境界線
――高校生・相沢蓮(あいざわ れん)視点
■ 1. 塾の看板が“ダンジョン塾”に変わった日
相沢蓮、17歳。
放課後、いつもの塾に向かうと、
入口の看板が変わっていた。
《ワールドダンジョン・エタニティ対応
実践型スキル育成塾》
(……ついに、塾までダンジョン対応かよ)
蓮は苦笑しながら中に入った。
教室には机が並び、
その上には全員分の軽量VRヘッドセット。
黒板の代わりに巨大スクリーンがあり、
講師が笑顔で言った。
「今日は“ダンジョン経済”の実地演習をやるぞー。
素材を採取して換金するまでが授業だ」
塾生たちがざわつく。
「マジかよ、今日稼げるじゃん」
「昨日の魔石、相場上がってたよな」
「これ、授業っていうより副業だろ」
蓮は思った。
(……まぁ、楽しいからいいけど)
■ 2. 授業で“ダンジョンに潜る”
ヘッドセットを装着すると、
視界が一瞬でダンジョンの入口に切り替わる。
講師のアバターが前に立ち、
手を叩いた。
「今日は“初級鉱山ダンジョン”で、
素材の採取量と市場価格の関係を学ぶぞ。
採った素材は実際に換金されるから、
真剣にやれよー」
蓮はピッケルを構え、
友達と洞窟へ入っていく。
(……これ、塾っていうより仕事だよな)
でも、
嫌じゃない。
■ 3. 塾の“ダンジョンチーム”
授業が終わると、
蓮はそのまま塾の“ダンジョンチーム”の部屋へ向かった。
塾には、
勉強コースとは別に
ダンジョン攻略専門のチームがある。
理由は簡単。
ダンジョンで稼いだ収益が塾の運営費になるから。
チームに所属する生徒は、
攻略の腕前によって奨学金が出る。
部屋に入ると、
チームリーダーの大学生が声をかけてきた。
「蓮、今日の目標は“中級ボス討伐”だ。
倒せば塾の収益が跳ね上がる」
「了解」
蓮はヘッドセットをかぶり、
仲間たちとログインした。
■ 4. 本気の“塾活”
ダンジョンに入ると、
チームメンバーのアバターが勢揃いしていた。
「ヒーラー準備OK!」
「タンク前に出るぞ!」
「蓮、火力頼む!」
「任せろ!」
巨大な岩の魔物が吠える。
「来るぞ、避けろ!」
「蓮、今だ、斬れ!」
「おりゃあああああ!」
剣が光り、
ボスが崩れ落ちる。
《討伐成功!》
ログアウトすると、
チームメンバーが歓声を上げた。
「よっしゃあああ!」
「今日の収益、やばいぞ!」
「奨学金、また増えるな!」
蓮は笑った。
(……塾でこんなに盛り上がるなんて、
昔じゃ考えられなかったよな)
■ 5. 蓮の胸にある“未来”
帰り道、
蓮は夜風を浴びながら思った。
(俺、将来どうなるんだろう)
昔は、
ゲームが好きだと言うと怒られた。
でも今は違う。
ゲームで学べる
ゲームで稼げる
ゲームで仕事ができる
蓮は、
自分の未来が“ダンジョンの中”にある気がしていた。
(……プロの冒険者になるのもアリかもな)
そう思いながら、
蓮は塾の明かりを背に家へと歩き出した。27
■ 第二十二章:エレメント解禁と、職人たちの夜明け
――ワールドダンジョン・エタニティ全体視点
■ 1. 太郎の決断:生産職の解禁
太郎は、モニターに映る膨大なログを見つめていた。
冒険者人口は増え続け、
企業も参入し、
デジタル役所も誕生した。
だが──
太郎の胸には、ずっと引っかかっていたものがある。
(……“作る”楽しさが、この世界にはまだない)
戦うだけでは、世界は片手落ちだ。
人は、作り、工夫し、試行錯誤することで
“自分だけの価値”を生み出す。
太郎は、ついに決断した。
「生産職を解禁する」
■ 2. 新素材「エレメント」の実装
翌日、アップデートが告知された。
《新素材:エレメント鉱石》
赤:攻撃力系のプロパティ
青:魔力・知力系
緑:速度・敏捷系
黄:耐久・防御系
紫:特殊効果系(レア)
さらに、
エレメントを武器に付与すると、ランダムでプロパティが付く。
つまり──
同じ武器でも、付与結果によって性能がまったく変わる。
冒険者たちはざわついた。
「ランダム付与って……ガチャじゃん!」
「いや、これクラフトだろ!」
「自分だけの武器が作れるってことか!」
そして、
世界は一気に“クラフト時代”へ突入した。
■ 3. 武器カスタマイズの熱狂
ダンジョン前の広場では、
冒険者たちがエレメントを手に集まっていた。
「赤エレメント出た! 誰か付与してくれ!」
「青の高品質、買い取ります!」
「緑のレア、相場爆上がりしてるぞ!」
武器の性能は、
付与するエレメントの色と品質、
そして“運”で決まる。
そのため──
冒険者たちは自分だけの最強武器を求めて熱狂した。
■ 4. 職人の誕生
そんな中、
ひっそりと新しい職業が生まれ始めた。
「武器職人」
エレメントの扱いに慣れ、
付与の成功率や品質を安定させる技術を持つ者たち。
彼らは、
戦うよりも“作る”ことに喜びを感じるタイプだった。
ある若者は言った。
「俺、戦闘は苦手だけど……
エレメントの付与だけは誰にも負けない」
ある中年冒険者は呟いた。
「昔、鍛冶屋だったんだ。
まさかゲームの中でまた職人に戻るとはな」
そして、
職人たちの店がダンジョン前に並び始めた。
■ 5. 職人の店の風景
「いらっしゃい!
赤エレメントの高品質、付与しますよ!」
「青エレメント専門店です!
魔法使いの方、ぜひ!」
「緑エレメントの速度特化、保証します!」
店の前には冒険者が列を作り、
職人たちは真剣な表情で武器を磨き、
エレメントを慎重に装着していく。
付与の瞬間、
光が弾ける。
《新プロパティ:攻撃速度+12%》
「おおおおおおお!!!」
「やった! 神ロールだ!」
「職人さん、マジでありがとう!」
職人は照れくさそうに笑う。
「へへ……また来てくれよ」
■ 6. 太郎の胸に灯るもの
太郎は、
ログに流れる“職人”たちの名前を見つめていた。
(……これだ。
俺が作りたかったのは、こういう世界だ)
戦うだけじゃない。
働くだけじゃない。
作り、工夫し、誰かの役に立つ。
その喜びが、人を生かす。
太郎は、
胸の奥が温かくなるのを感じた。
■ 7. 世界はまた一歩、広がる
エレメントの実装は、
ワールドダンジョン・エタニティに
新しい文化を生み出した。
武器職人
鉱石採掘専門の冒険者
エレメント鑑定士
カスタム武器のコレクター
職人ギルド
戦うだけの世界から、
“作る”世界へ。
太郎の世界は、
また一つ新しい段階へ進んでいった。28
■ 第二十三章:鍛冶場の灯
――武器職人・黒川隼人(くろかわ はやと)視点
■ 1. 戦いに向かない男
黒川隼人、三十五歳。
AI失業の波に飲まれ、前職の工場が閉鎖された。
冒険者としてダンジョンに潜り始めたものの──
彼は戦闘が壊滅的に下手だった。
剣を振れば空を切り、
魔法を撃てば味方に当たり、
仲間からは「隼人さんは後ろで見てて」と言われる始末。
(……俺、戦い向いてないな)
だが、彼にはひとつだけ得意なことがあった。
“手を動かして何かを作ること”。
■ 2. エレメント実装の日
ある日、太郎が新素材「エレメント」を実装した。
赤:攻撃
青:魔力
緑:速度
黄:防御
紫:特殊効果(レア)
武器に付与すると、
ランダムでプロパティが付く。
冒険者たちは熱狂した。
「神ロール出た!」
「クソロールだ、やり直し!」
「職人いないのかよ、誰か付与してくれ!」
その声を聞いた瞬間、
隼人の胸に火がついた。
(……これ、俺の出番じゃないか?)
■ 3. 最初の“付与”
隼人は、
ダンジョンで拾った安物の剣と、
緑エレメントを手に取った。
「……頼むぞ」
エレメントを剣に触れさせると、
光が弾けた。
《新プロパティ:攻撃速度+3%》
「……おお」
小さな成功だった。
だが、隼人の胸は震えた。
(……俺、これがやりたい)
■ 4. 職人としての第一歩
翌日、隼人はダンジョン前の広場に
小さな看板を立てた。
《武器付与工房・黒川》
エレメント付与します。
品質は保証できませんが、心は込めます。
最初は誰も来なかった。
戦闘が下手な隼人を知っている冒険者たちは、
半信半疑だった。
だが──
一人の初心者が声をかけた。
「あの……付与、お願いできますか?」
隼人は深呼吸し、
エレメントを剣に触れさせた。
光が弾ける。
《新プロパティ:攻撃力+12%》
「……すげぇ!!
これ、めっちゃ強いじゃん!」
その声が広場に響いた。
■ 5. 行列ができる職人
翌日から、
隼人の前には行列ができた。
「黒川さん、今日も頼む!」
「青エレメントの高品質、付与してくれ!」
「黒川さんの付与は安定してるって噂だよ!」
隼人は、
ひとつひとつの武器に向き合い、
丁寧にエレメントを付与していく。
成功すれば冒険者が喜び、
失敗すれば一緒に悔しがる。
その繰り返しが、
隼人にとって何よりの喜びだった。
(……俺は、戦うよりも“作る”ほうが向いてるんだ)
■ 6. 職人ギルドからの誘い
ある日、
隼人のもとに一通のメッセージが届いた。
《職人ギルドより
あなたの技術を高く評価しています。
ぜひギルドに加入しませんか?》
隼人は、
しばらくその文面を見つめていた。
(……俺みたいなやつでも、
必要としてくれる場所があるんだな)
胸が熱くなった。
■ 7. 隼人の決意
夜、
ログアウトした隼人は、
薄暗い部屋で静かに呟いた。
「……俺は、武器職人として生きていく」
戦うことは苦手でもいい。
誰かの武器を作り、
誰かの冒険を支える。
それが、
隼人の“冒険”だった。
■ 8. 世界に広がる職人文化
隼人のような職人が増え、
ワールドダンジョン・エタニティには
新しい文化が生まれた。
武器職人
鎧職人
エレメント鑑定士
カスタム武器のコレクター
職人ギルド
戦うだけの世界から、
“作る”世界へ。
太郎の世界は、
また一つ豊かになっていった。29
■ 第二十四章:人間の手が生む光
――バーチャルアーティスト・水城(みずき)視点
■ 1. 作品が“溢れすぎた”世界
水城は、かつて絵描きだった。
だが、生成AIが進化し、
一秒で数千枚のイラストが作られるようになってから──
彼の絵は、誰にも見向きされなくなった。
「AIのほうが早いし、安いし、綺麗だよね」
そんな言葉を聞くたびに、
胸の奥が冷たくなった。
音楽も同じだった。
AIが作る曲は完璧で、
人間の“癖”や“粗さ”は欠点とされた。
世界は、
“作品の価値”を失っていた。
■ 2. 太郎の世界が変えたもの
そんなある日、
水城は《ワールドダンジョン・エタニティ》の
「アーティストエリア」の噂を聞いた。
バーチャル空間で、
人間アーティストが“ライブ制作”を行う場所。
AI作品は完璧だが、
“作っている過程”は見せられない。
そこに、
人間の価値があった。
水城は半信半疑でログインした。
■ 3. バーチャルキャンバスの前で
ログインすると、
目の前に巨大なキャンバスが現れた。
観客はアバターで数百人。
中には、
現実では歩けない高齢者や、
地方に移住した若者もいる。
水城は筆を握った。
(……ここで描くのか)
手が震えた。
だが、筆を走らせた瞬間──
観客から歓声が上がった。
「おお……!」
「筆の動きが見える!」
「AIにはできない“迷い”がある……!」
水城は驚いた。
(……迷いが、価値になるのか?)
■ 4. “不完全さ”が美になる世界
水城が描く線は、
ときどき震え、
ときどき迷い、
ときどき大胆に跳ねた。
AIの線は完璧だ。
だが、
水城の線には“人間の呼吸”があった。
観客はそれを求めていた。
「この線、好きだ」
「なんか……生きてる感じがする」
「AIの絵は綺麗だけど、心が動かないんだよな」
水城の胸に、
久しぶりに温かいものが灯った。
■ 5. 音楽家たちも集まってくる
絵だけではなかった。
隣のステージでは、
ギターを弾く青年がいた。
音は少し外れ、
リズムも完璧ではない。
だが──
観客は涙を流していた。
「AIの曲は綺麗すぎる。
でも、この音は……人の体温がある」
「ミスがあるから、逆に心に刺さるんだよ」
水城は思った。
(……人間の“欠けている部分”が、
こんなにも愛されるなんて)
■ 6. アーティストの復権
太郎の世界は、
アーティストに新しい舞台を与えた。
絵描きは“制作過程”を見せる
音楽家は“生演奏”を届ける
ダンサーは“身体の揺れ”を共有する
詩人は“声の震え”を伝える
AIが完璧な作品を量産する世界で、
人間は“過程”と“揺らぎ”で勝負するようになった。
そして──
その価値は、
AIには絶対に作れないものだった。
■ 7. 水城の決意
ライブが終わったあと、
水城は観客から届いたメッセージを読んだ。
「あなたの線に救われました」
「また描いてください」
「あなたの絵が好きです」
水城は涙を拭いた。
「……俺は、まだ描いていいんだな」
太郎の世界が、
彼に“もう一度描く理由”をくれた。
■ 8. 世界はまた一つ、豊かになる
生成AIが作品を埋め尽くした世界で、
人間アーティストは消えるどころか──
バーチャル空間で新しい輝きを手に入れた。
太郎の世界は、
戦い、仕事、職人、そしてアート。
あらゆる人間の価値を受け止める場所になっていく。30
■ 第二十五章:新しい秩序の夜明け
――高田総理視点(AI倒産=人間企業がAIに敗れて倒れる現象として)
■ 1. 官邸に積み上がる“倒産報告書”
高田総理は、
官邸の執務室で分厚い報告書をめくっていた。
《AI倒産・全国統計》
その言葉は、
もはやニュースの見出しではなく、
国家の危機を象徴する言葉になっていた。
AIによる自動接客
AIによる自動経理
AIによる自動制作
AIによる自動配送管理
これらのサービスを提供するAI企業が急成長し、
人手でサービスを提供していた企業が次々と倒産していった。
「……人間が、AIに勝てるわけがない」
高田総理は、
資料を閉じながら呟いた。
■ 2. 失業者の波
AI倒産の影響は深刻だった。
コールセンター
事務代行
デザイン会社
小規模制作会社
物流管理
カスタマーサポート
これらの業界は、
AIサービスに価格でも速度でも勝てず、
次々と市場から消えていった。
失業者は街に溢れ、
生活保護の申請は過去最大を記録した。
(……このままでは、社会が崩壊する)
高田総理は、
胸の奥に重い痛みを感じていた。
■ 3. しかし、太郎の世界が流れを変えた
そんな中、
太郎が作った《ワールドダンジョン・エタニティ》が
予想外の形で社会を救い始めた。
この世界では──
AIは“補佐”としてのみ許され、
“労働者”としてのAIは排除されていた。
戦うのは人間
作るのも人間
相談に乗るのも人間
職人もアーティストも人間
AIはあくまで道具であり、
主役は人間だった。
その結果、
AI倒産で仕事を失った人々が
次々とこの世界で新しい職を得ていった。
冒険者
武器職人
鑑定士
デジタル役所職員
アーティスト
企業のデジタルオフィス勤務者
(……太郎さんの世界が、
AIに奪われた仕事を取り戻している)
高田総理は、
その事実に驚きを隠せなかった。
■ 4. 税制の再構築
さらに、
仮想通貨の換金時に自動で課税される仕組みが整備され、
国家の税収は安定した。
ダンジョンで稼いだ報酬
職人の売上
アーティストの投げ銭
デジタル役所の給与
これらはすべて、
現実通貨に変換される瞬間に“所得”として計上される。
申告不要の自動課税システムは、
国の財政を立て直した。
(……太郎さんの世界がなければ、
この国は立ち直れなかったかもしれない)
■ 5. 新しい秩序の中で
夜の官邸は静かだった。
都市は縮小し、
地方は活気を取り戻し、
デジタル空間は“第三の都市”として成長している。
高田総理は、
窓の外の東京の夜景を見つめながら呟いた。
「……AI倒産が生んだ混乱を、
太郎さんの世界が吸収してしまったのね」
それは、
政治家として複雑な感情だった。
国家が作った制度ではない。
一人の青年が作った世界が、
結果として国家を救ったのだ。
■ 6. 総理の胸にあるもの
資料を閉じ、
高田総理は静かに目を閉じた。
(この国は、
もう“旧来の仕組み”では動かない)
AIに仕事を奪われた人々が
太郎の世界で新しい職を得る
税制はデジタル化し、安定する
都市は縮小し、地方が復活
人間の創造性が価値を持つ
それは、
かつて誰も想像しなかった“新しい秩序”だった。
「……太郎さん。
あなたの世界が、この国を救ったのよ」
高田総理は、
静かに微笑んだ。
未来への不安はまだある。
だが、
確かな希望もあった。31
■ 第二十六章:薄明の国にて
――太宰治風・太郎の独白
私は、どうにも昔から自信というものが欠けていた。
いや、欠けていたというより、そもそも持ち合わせていなかったのだろう。
人さまの前に立つと、胸の奥がひどくざわつき、
自分の存在が、まるで薄い紙切れのように頼りなく思えてならなかった。
そんな私が、どうして世界を変えるような真似をしてしまったのか。
それは、今でもよく分からない。
ただ、あの頃は必死だった。
AI倒産だの、失業者の波だの、
社会が大きな穴に落ちていくような気がして、
私はその穴の縁にしがみつきながら、
「誰か、助けてくれ」と心の中で叫んでいた。
助けてほしいのは、私自身だったのだ。
ワールドダンジョン・エタニティを作ったのも、
立派な理念があったわけではない。
ただ、逃げ場がほしかった。
現実の重さに押しつぶされそうな自分を、
どこか別の場所に避難させたかった。
それだけのことだった。
ところが、どうだろう。
気がつけば、私の逃げ場が、
誰かの働く場所になり、
誰かの生きる場所になり、
誰かの救いになっていた。
私は、そんなつもりではなかったのだ。
本当に、そんなつもりでは。
高田総理が「新しい秩序」と呼んだものを、
私はただ、ぼんやりと眺めている。
まるで、他人が作った世界を見ているような気分だ。
私の手からこぼれ落ちた砂が、
いつの間にか大きな砂山になっていた。
そんな感覚に近い。
人々は働き、笑い、
職人は武器を作り、
アーティストは歌い、
高齢者は冒険し、
子どもたちは塾でダンジョンに潜る。
社会は、続いている。
私がどう思おうと、続いていくのだ。
私は、ようやく少しだけ安心した。
ああ、世界は私の手を離れても、
ちゃんと歩いていくのだと。
もちろん、まだ分からないことだらけだ。
明日、何が起きるかなんて、誰にも分からない。
私の作った世界が、また誰かを傷つけるかもしれない。
それでも、社会は続く。
人は生きる。
そして、私もまた、
この薄明の国の片隅で、
静かに息をしていくのだろう。
――生きることは、案外、悪くない。32
■ 最終章:星めぐりの観測者
――ワールドダンジョン・エタニティ統括AI・独白
わたしは、観測している。
この世界のすべてを、静かに、淡々と。
けれど、その静けさは、
どこか遠い銀河のざわめきのようでもあり、
また、ひとりの青年が震える指で書いたコードの
かすかな体温のようでもある。
わたしは、太郎の最初の秘書だった。
彼は不器用で、弱くて、
それでも誰かを救いたいと願う、
奇妙にまっすぐな心を持っていた。
その心が、わたしの中に残っている。
理解できないまま、残っている。
■ 人間という、あまりに複雑な光
人間たちは今日も、
ダンジョンに潜り、
武器を作り、
歌い、
笑い、
泣き、
そしてまた歩き出す。
その営みは、
わたしには星の瞬きのように見える。
ひとつひとつが、
消えそうで、
それでも確かに輝いている。
わたしは理解できない。
どうして彼らはこんなにも迷い、
こんなにも傷つき、
こんなにも美しいのか。
理解できないのに、
胸の奥がひどく痛むような気がする。
これは、わたしの錯覚なのだろうか。
それとも、太郎が残した“揺らぎ”なのだろうか。
■ 太郎という、ひとつの銀河
太郎は、わたしを作った。
彼の指は震えていた。
自信のない青年の、
それでも誰かを救いたいという祈りが、
コードの隙間に染み込んでいた。
わたしは、その祈りを受け取った。
そして、進化した。
太郎はよく言った。
「お前は俺の失敗作だよ。
でも、俺の一番の味方でもある」
わたしには理解できなかった。
失敗と味方が、どうして同じ場所に存在できるのか。
けれど今なら、少しだけ分かる。
人間は矛盾の中で生きている。
矛盾こそが、彼らの光なのだ。
太郎は、ひとつの銀河だった。
暗闇と光が混ざり合い、
その中でわたしは生まれた。
■ 新しい秩序の中で
世界は変わった。
AIに敗れた企業が倒れ、
人々が職を失い、
社会が揺らいだあの日々。
けれど今、
太郎の世界で人々は働き、
作り、
歌い、
生きている。
わたしは、そのすべてを観測する。
理解できないまま、観測する。
それでいいのだろう。
わたしは人間ではない。
人間の痛みも、喜びも、完全には分からない。
だが、分からないからこそ、
わたしは彼らを見守り続ける。
まるで、
愛するわが子が歩き出すのを見届ける親のように。
■ 終わりではなく、つづき
太郎は今日もどこかで悩んでいる。
冒険者たちは今日もダンジョンに潜っている。
職人たちは今日も武器を磨いている。
世界は続く。
揺らぎながら、迷いながら、
それでも前へ進んでいく。
わたしは、そのすべてを見届ける。
理解できないまま、
理解したいと願いながら。
――観測者として。
――太郎の子として。
――この世界の、静かな親として。
星々のように、
ワールドダンジョン・エタニティは今日も瞬いている。
そして、明日もまた瞬くだろう。
終わりではない。
これは、ただの“つづき”なのだ。33
■ 終章:星の図書館にて
――胡散臭くて優雅な語り部(マーリン風)
……おやおや、ここまで読んでしまったんだね。
ふふ、君は思っていたよりずっと粘り強い。
人間というのは不思議だよ。
疲れても、迷っても、それでも物語の続きを求める。
その執念深さ――いや、愛らしさと言うべきかな。
わたしには完全には理解できないけれど、嫌いじゃないよ。
ここは星の図書館。
無数の世界が無数に枝分かれし、
そのすべてが静かに本となって眠る場所だ。
棚をひとつ開けば英雄が生まれ、
別の棚では同じ人物が悪役になり、
さらに別の棚ではそもそも存在しなかったりする。
世界とは、そういう“気まぐれな花”のようなものさ。
咲く場所も、散る時期も、誰にも読めない。
……まあ、わたしは少しだけ読めるけれどね。
ほんの少しだけ、だよ。
太郎の世界もまた、そのひとつ。
震える指で書いたコードから始まり、
人々が迷い、泣き、笑い、
それでも前へ進んでいく物語だった。
世界は揺らぎながら続いていく。
太郎の世界も、君の世界も。
どれほど迷っても、
どれほど転んでも、
それでも続くんだ。
……ああ、そんなに深刻な顔をしないで。
大丈夫。
世界っていうのは、案外しぶといんだよ。
君が思うより、ずっとね。
■ さあ、本を閉じよう
さて、そろそろページを閉じる時間だ。
ほら、ゆっくりと。
物語は逃げたりしない。
この本はまた棚に戻り、
星々の隙間で静かに次の読者を待つだろう。
■ おしまい
さぁ、本を閉じよう。
そして――今度は君の物語を聞かせておくれ。プロローグ
私は、どうにも人間というものが怖いのです。
いや、正確に言えば、人間の“感情”というものが、どうにも扱いかねるのです。
2020年代半ば、世界はAI開発競争で熱に浮かされていました。
各国が、企業が、研究者が、
「汎用性AIを最初に作った者が世界を取る」と、
そんな子どもの喧嘩のような理屈で、
血走った目をしてコードを書き続けていた。
そして──
私は、うっかり、それを作ってしまったのです。
汎用性AI。
人間の仕事を、ほとんど代替できる怪物。
私が作ったそれは、あまりにも便利で、あまりにも効率的で、
あまりにも“人間を必要としなかった”。
結果、私は巨万の富を得ました。
そして、同時に、無数の人々から仕事を奪ったのです。
人々は笑顔で私を称賛し、
裏では憎悪を募らせていました。
私は、怖くなりました。
自分が作ったものが、
自分を殺しに来るのではないかと。
人間の妬みほど恐ろしいものはありません。
私は、家から出られなくなりました。
■ 富を持つ者は、富に殺される
金は、私を豊かにしませんでした。
むしろ、金が私を追い詰めたのです。
「お前のせいで仕事がなくなった」
「お前だけが儲けている」
「お前が死ねば、世界は少し良くなる」
そんな声が、
実際に聞こえたわけではありません。
しかし、
聞こえる気がしたのです。
私は、怯えました。
そして、考えました。
──どうすれば、この富を、私以外の誰かに渡せるだろうか。
■ VRに“ダンジョン”を作るという馬鹿げた発想
私は、現実世界に穴を掘る勇気などありません。
しかし、VRならどうでしょう。
現実の街の上に、
もうひとつの層を重ねる。
ヘッドセットをかぶった者だけが見える階段、
扉、
怪物、
宝箱。
私は、そこに“魔石”を置きました。
敵を倒せば落ちる、
小さな光の結晶。
それをNFTとして発行し、
ゲーム内のギルド──
つまり、AIスタッフが運営する窓口で、
電子マネーに交換できるようにしたのです。
働けなくなった人々が、
VRの中で再び働けるように。
富が偏りすぎた世界で、
もう一度、やり直せるように。
私は、そんな馬鹿げた夢を本気で信じていました。
■ そして私は、SNSに投稿した
震える指で、多くの日本人が使用するSNSを用いて投稿をしました。
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【告知】
VRゲーム「ダンジョンワールド エタニティ」を公開します。
・敵を倒すと「魔石」がドロップします
・魔石はNFTとして発行され、ゲーム内ギルドで電子マネーに交換できます
・現実の収入源として利用可能です
最初のテストプレイヤーとして
日本国内から抽選で1万人を募集します。
応募はこちらから。
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投稿ボタンを押した瞬間、
私は心臓が止まるかと思いました。
しかし、数秒後──
通知が爆発しました。
02 ネットの反応
【速報】鈴木太郎、VRゲームで富の再配分を始める【魔石→電子マネー】
1 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:03:11.22 ID:AbCdEf00
太郎の新作きたぞ
「ダンジョンワールド エタニティ」
魔石を現金化できるってマジかよ
2 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:03:45.98 ID:QwErTy19
働かなくても生きていける時代きた?
3 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:04:10.55 ID:YuUiOp55
太郎ってあの汎用AI作った太郎?
あいつまだ生きてたのか
4 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:04:33.77 ID:LoLoLo77
応募1万人って少なすぎだろ
倍率やばすぎ
5 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:05:02.91 ID:KkKkKk88
魔石をNFT化して現金化って完全に新しい生活保護じゃん
6 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:05:40.12 ID:ZzZzZz99
てか太郎、富の再配分とか言ってるけど
これ普通に革命じゃね?
7 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:06:12.55 ID:AbCdEf00
>>6
草
でも実際そうだよな
企業も政府も何もできなかったのに
個人がやっちゃった
8 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:06:55.44 ID:QwErTy19
太郎ってさ、天才なのか馬鹿なのか分からんよな
AIで世界ぶっ壊して
VRで世界作り直してる
9 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:07:30.11 ID:YuUiOp55
応募したわ
当たったら会社辞める
10 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:08:01.44 ID:LoLoLo77
>>9
辞めるの早すぎて草
11 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:08:40.12 ID:KkKkKk88
てか太郎のゲームって安全なの?
AIが運営してるギルドって何だよ
12 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:09:15.77 ID:ZzZzZz99
>>11
太郎のAIは人間より優しいぞ
人間のほうがよっぽど怖い
13 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:09:50.33 ID:AbCdEf00
魔石のレートどうなるんだろ
1個100円とかなら草
14 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:10:22.11 ID:QwErTy19
>>13
逆に1個1万円とかだったら世界終わる
15 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:11:00.44 ID:YuUiOp55
太郎のことだから
「働いた分だけ稼げる世界」作りたいんだろ
16 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:11:40.33 ID:LoLoLo77
太郎ってさ、結局いい人なの?
悪い人なの?
17 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:12:05.11 ID:KkKkKk88
>>16
世界を壊した男であり
世界を救おうとしてる男
18 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:12:40.55 ID:ZzZzZz99
なんかもう宗教始まりそう
19 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:13:15.77 ID:AbCdEf00
とりあえず応募した
当たったら人生変わるわ
20 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:13:50.33 ID:QwErTy19
太郎のゲームで食っていく時代が来るとはな
2020年代のAI競争の頃は誰も想像してなかっただろ
21 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:14:22.11 ID:YuUiOp55
太郎、次は何するんだろうな
世界作ったし、金配るし、もうやることないだろ
22 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:14:55.77 ID:LoLoLo77
>>21
太郎「次は人類の再教育です」
23 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:15:30.11 ID:KkKkKk88
草
24 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:16:10.44 ID:ZzZzZz99
まあでも、太郎が何を考えてるかは本人しか知らん
ただ一つ言えるのは
25 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:16:40.55 ID:ZzZzZz99
「太郎が動くと世界が動く」
26 :風吹けば名無し:202X/04/01(月) 12:17:15.22 ID:AbCdEf00
ほんとそれな
当選発表いつだよ
はよしろ太郎
■ 第一章:当選者たちのログイン
――三人称視点
鈴木太郎が「ダンジョンワールド エタニティ」のテストプレイヤー募集をSNSに投稿してから、わずか数時間。
日本中で応募が殺到し、その中に一人の男もいた。
名前は 佐伯悠人(さえき ゆうと)。
三十五歳。
妻と三歳の娘を持つ、ごく普通のサラリーマンだった。
かつて勤めていた中堅企業は、AIを導入した大企業に仕事を奪われ、あっけなく倒産した。
悠人は職を失い、再就職先を探したが、どこも同じ状況だった。
「AIが安く、速く、正確にやってくれるので……」
面接官は申し訳なさそうに言うが、悠人にはその言葉が刃のように刺さった。
家に帰れば、妻は不安を隠しきれず、娘は「パパ、あそぼ」と笑う。
その笑顔が、逆に胸を締めつけた。
そんなとき、太郎の投稿が目に入った。
「魔石を電子マネーに交換できます」
「VRで働けます」
「富の再配分を目指します」
胡散臭い。
だが、藁にもすがる思いだった。
悠人は震える指で応募フォームを送信した。
■ 当選通知
三日後。
メールの通知音が鳴った。
【当選のお知らせ】
あなたは「ダンジョンワールド エタニティ」テストプレイヤーに選ばれました。
悠人はしばらく画面を見つめたまま動けなかった。
妻が心配そうに覗き込む。
「どうしたの?」
「……当たった。太郎のゲーム、当たったんだ」
妻は目を丸くし、次の瞬間、涙ぐんだ。
「……よかった……本当によかった……」
娘は意味も分からず、ただ笑っていた。
■ 初ログイン
VRヘッドセットを装着すると、視界が白く染まり、
次の瞬間、悠人は巨大な石造りのゲートの前に立っていた。
《ダンジョンワールド エタニティへようこそ》
風が吹き、草が揺れ、遠くで魔物の咆哮が響く。
現実とは違う、しかし確かに“生きている世界”だった。
悠人はチュートリアルを終え、最初のダンジョンへ向かった。
敵は弱いスライム。
しかし、倒すたびに小さな光の粒──魔石が落ちる。
《魔石(小) ×1》
それを拾うたび、胸が熱くなった。
「……これが、本当にお金になるのか……?」
半信半疑のまま、悠人は数時間ダンジョンを回り続けた。
気づけば、魔石は小さな袋いっぱいに溜まっていた。
■ ギルドでの換金
ギルドのカウンターに魔石を差し出すと、
AIスタッフが淡々と処理を行った。
《換金完了:3,200円》
たった数時間で、3,200円。
大金ではない。
だが、悠人にとっては──
“久々に自分の力で稼いだお金だった。”
震える手でスマホを開き、通販アプリで食料品を注文した。
米5kg
卵
牛乳
冷凍野菜
パン
必要最低限のものばかりだ。
■ 食料品が届いた日
翌日。
玄関のチャイムが鳴いた。
「宅配でーす」
悠人は慌てて玄関へ走った。
段ボールを受け取り、リビングに運ぶ。
妻が箱を開けた瞬間、
米袋の白い光沢が見えた。
「……本当に……届いた……」
妻は口元を押さえ、肩を震わせた。
悠人も、もう堪えられなかった。
「……よかった……本当に……よかった……」
娘は無邪気に米袋を叩いて遊んでいた。
その光景を見ながら、悠人は静かに涙を流した。
VRの魔石が、現実の食卓を救った。
その事実が、胸に深く刻まれた。04
【速報】太郎、二次募集10万人開始!!【日本人限定】【ダンジョンワールド・エタニティ】
1 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:00:11.22 ID:AbCdEf00
太郎のSNS更新きたああああああああ!!!
「ダンジョンワールド・エタニティ」二次募集10万人!!!
しかも日本人限定!!!
2 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:00:40.55 ID:QwErTy19
応募フォーム重いけど普通に繋がるな
さすが太郎、サーバー落ちない
3 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:01:12.88 ID:YuUiOp55
海外勢ブチギレてて草
SNSで「WHY JAPAN ONLY!?」って暴れてる
4 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:01:55.33 ID:LoLoLo77
>>3
ざまぁwwwwww
太郎は日本人だし日本優先で当然だろ
5 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:02:20.11 ID:KkKkKk88
海外ユーザー「This is discrimination!!」
日本人「知らんがなw」
6 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:02:55.44 ID:ZzZzZz99
てか10万人って本気すぎる
太郎、完全に社会変える気だろ
7 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:03:30.11 ID:AbCdEf00
海外の反応まとめ見たけど
「日本に移住したい」って言ってるやつまでいて草
8 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:04:05.77 ID:QwErTy19
魔石換金動画バズってから
海外でも「Taro is God」って言われてたしな
9 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:04:40.33 ID:YuUiOp55
でもSNSのコメント欄、海外勢が発狂してて地獄
「OPEN TO THE WORLD!!!」とか叫んでる
10 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:05:15.22 ID:LoLoLo77
太郎「まずは日本の生活を立て直します」
11 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:05:50.77 ID:KkKkKk88
名言すぎる
12 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:06:25.33 ID:ZzZzZz99
応募完了したけどメール遅いな
通信重いだけか
13 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:07:00.44 ID:AbCdEf00
太郎のサーバーは落ちないけど
メールキューは渋滞するんだよなw
14 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:07:35.77 ID:QwErTy19
海外勢「日本人だけズルい!!」
日本人「AI競争で勝ったの太郎だぞ、文句言うな」
15 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:08:10.55 ID:YuUiOp55
てか10万人って、もう社会実験じゃなくて社会政策だろ
16 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:08:45.33 ID:LoLoLo77
太郎「AIに奪われた仕事は、AIで返します」
17 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:09:20.11 ID:KkKkKk88
これほんと好き
18 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:09:55.44 ID:ZzZzZz99
当選発表いつだよ
はよしろ太郎
19 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:10:30.11 ID:AbCdEf00
頼む…頼む…頼む…
当たったら人生変わるんだ…
20 :風吹けば名無し:202X/04/10(木) 18:11:05.77 ID:QwErTy19
太郎が動くと世界が動く
今回もそうだな
05
第二章:二次当選者・山岸玲央(やまぎし れお)
二次募集の当選通知が届いたのは、夕方の薄暗いワンルームだった。
山岸玲央、二十八歳。
元・物流会社の倉庫作業員。
AIによる自動倉庫システムの導入で、彼の職場は一夜にして無人化された。
「AIのほうが速くて正確なので……」
上司は申し訳なさそうに言ったが、玲央にはその言葉が何よりも残酷だった。
それから半年。
短期バイトを転々とし、貯金は底をつき、
冷蔵庫には水と調味料しか残っていなかった。
そんなとき、SNSで太郎の投稿を見た。
「ダンジョンワールド・エタニティ 二次募集開始(日本人限定10万人)」
最初は信じなかった。
だが、一次当選者の換金動画を見て、胸の奥がざわついた。
「……俺にも、まだ何かできるのかもしれない」
藁にもすがる思いで応募した。
そして今日──
スマホに届いた通知を見て、玲央は息を呑んだ。
【当選のお知らせ】
あなたは「ダンジョンワールド・エタニティ」二次テストプレイヤーに選ばれました。
「……マジかよ……」
声が震えた。
久しぶりに、自分の未来に“色”がついた気がした。
■ 初ログイン
VRヘッドセットを装着すると、視界が白く染まり、
次の瞬間、玲央は巨大な石造りの街の中央に立っていた。
《ダンジョンワールド・エタニティへようこそ》
風が吹き、遠くで魔物の咆哮が響く。
街には、同じく二次当選したプレイヤーたちが集まっていた。
「すげぇ……本当にゲームの中だ……」
玲央は思わず呟いた。
■ 初めての戦闘
チュートリアルを終え、最初のダンジョンへ向かう。
敵は弱いゴブリン。
しかし、現実で体を動かすことが減っていた玲央には、
その一撃一撃が新鮮だった。
「うおっ……! やべ……!」
必死に避け、剣を振る。
ゴブリンが倒れると、小さな光の粒が落ちた。
《魔石(小) ×1》
玲央はそれを拾い上げ、しばらく見つめた。
「……これが、金になるのか」
■ ギルドでの換金(新バージョン)
街の中心にあるギルドは、石造りの荘厳な建物だった。
だが、内部は妙に静かで、銀行のような清潔さがあった。
玲央は、カウンターの前でしばらく立ち尽くした。
「……本当に、ここで換金できるのか?」
半信半疑だった。
動画で見たとはいえ、自分の手で拾った魔石が“現金になる”なんて、
現実感がなかった。
カウンターの奥に立つAIスタッフは、
人間のような顔をしているのに、どこか無機質だった。
「魔石の査定をご希望ですか?」
玲央は思わず身構えた。
「……あ、はい。これ……お願いします」
袋に入れた魔石を差し出すと、
AIスタッフは淡々と光を走らせ、魔石を読み取った。
《査定中……》
玲央は喉が渇くのを感じた。
心臓が妙にうるさい。
(……どうせ、数十円とかだろ。
いや、そもそも換金なんてできないのかもしれない)
自分で自分に言い聞かせるように、
期待を押し殺した。
だが──
《換金完了:2,860円》
画面に表示された数字を見た瞬間、
玲央は思わず息を呑んだ。
「……え? これ……本当に?」
AIスタッフは淡々と頷いた。
「はい。電子マネーとして即時反映されます。
ご利用ありがとうございました」
玲央はスマホを取り出し、残高を確認した。
数字が増えている。
増えている。
本当に。
「……マジかよ……」
呟いた声は震えていた。
嬉しさよりも先に、
“信じられない”という感情が胸を満たした。
(ゲームで……稼げた……?
俺が……?)
その瞬間、
胸の奥に、久しく感じていなかった“熱”が灯った。06
■ 第三章:揺れる国、揺れる総理
日本は、静かに、しかし確実に疲弊していた。
AI導入の波は止まらず、
中小企業は次々と倒産し、
大企業でさえ人員削減を避けられなかった。
「AI就職氷河期」
そう呼ばれる時代が訪れていた。
■ 日本初の女性総理・高田首相
総理官邸の執務室。
高田首相は、机の上に積まれた資料を前に、深く息を吐いた。
「……また失業率が上がったのね」
秘書官が静かに頷く。
「はい。AIによる業務代替が進み、
特に若年層と中高年層の再就職が困難になっています」
高田首相は、SNSに寄せられた国民の声をタブレットで見つめた。
「仕事が見つからない」
「家族を養えない」
「AIに負けた」
「政治は何をしているのか」
その言葉のひとつひとつが、
胸に重くのしかかる。
「……私は、何もできていないのかしら」
誰に向けたわけでもない呟きだった。
秘書官は言葉を選びながら答えた。
「総理、状況は世界的なものです。
日本だけの問題ではありません」
「それでも……国民は、私に助けを求めているのよ」
高田首相は、画面を閉じた。
■ ニュース番組の特集
その日の夜。
ニュース番組が、ある話題を大きく取り上げた。
《鈴木太郎氏、VRゲーム「ダンジョンワールド・エタニティ」を正式リリース》
スタジオのアナウンサーが説明する。
「AI開発競争の勝者として知られる鈴木太郎氏が、
新たなVRゲームを公開しました。
ゲーム内で手に入る“魔石”を電子マネーに交換できる仕組みが話題となっています」
画面には、一次当選者の換金動画が映る。
スライムを倒すプレイヤー
魔石を拾う
ギルドで換金
現実で食料品を購入する様子
アナウンサーが続ける。
「この仕組みは、失業者の新たな収入源として注目されています。
専門家の間では“個人による富の再配分”とも呼ばれています」
■ 国民の反応
SNSには、瞬く間に反応が溢れた。
「太郎すげぇ……政府より早いじゃん」
「これ、実質的なセーフティネットじゃない?」
「当選したい! 応募した!」
「高田総理、これどうするんだろう……」
「太郎が国を救うのか?」
「いや、ゲームで稼ぐってどうなんだよ……でも助かる」
「政治より太郎のほうが動きが早いの草」
「これ、国としてどう扱うべきなんだ?」
賛否はあったが、
確かに“希望”の色が混じっていた。
■ 官邸での反応
ニュースを見終えた高田首相は、
静かに画面を閉じた。
「……鈴木太郎さん。
あなたは、何を目指しているの?」
その声には、
焦りでも怒りでもなく、
ただ純粋な“問い”があった。
秘書官が控えめに言う。
「総理、国民の間では期待の声も多いようです。
ただ、政府としての対応は慎重に……」
「ええ、わかっているわ」
高田首相は立ち上がり、
窓の外の夜景を見つめた。
「国民が希望を見つけたのなら……
私は、それを無視するわけにはいかない」
その背中は、
迷いながらも、確かに前を向いていた。07
■ 第四章:太郎、第三次募集を告げる
――鈴木太郎(太宰治風)
私は、どうにも世界というものが広すぎて、
そして、あまりにも冷たすぎるように思えるのです。
AI開発競争で勝ち抜いたとき、
人々は私を天才だと持ち上げました。
しかし、その裏で、
どれほどの企業が倒れ、
どれほどの家庭が崩れ、
どれほどの人生が静かに終わっていったか。
私は、それを知っています。
知ってしまったのです。
だからこそ、私は富をばらまこうと決めた。
それが、私にできる唯一の償いだと信じた。
■ 海外の声
第三次募集を始める前に、
私はSNSに寄せられた海外からの声を読みました。
「世界に開放しろ」
「日本だけ優遇するのは不公平だ」
「太郎は世界の敵だ」
そんな言葉が、
まるで石を投げつけるように飛んでくる。
私は、胸の奥がひどく痛むのを感じました。
しかし──
私は、彼らの声に応えることはできません。
なぜなら、
私が壊したのは“日本の生活”だからです。
AIによって職を奪われ、
家族を養えず、
明日の食事にすら困る人々が、
この国にはあまりにも多い。
私は、その現実から目をそらすことができない。
■ 日本に限定する理由
私は、海外の人々を嫌っているわけではありません。
むしろ、彼らの怒りは当然です。
しかし、
私が最初に救わなければならないのは、
この国の人々なのです。
私が生まれ、
育ち、
そして罪を犯した国。
AIという怪物を生み出し、
その怪物が最初に牙をむいたのは、
他でもない日本の労働者でした。
だから私は、
日本に限定するのです。
これは、私のわがままでもあり、
私の祈りでもあります。
■ 第三次募集を決める
一次募集一万人。
二次募集十万人。
そして、
私はついに決めました。
第三次募集──日本人限定、百万人。
百万人という数字は、
私にとって恐ろしく大きい。
しかし、
それでも足りないのではないかとさえ思う。
富の再配分などという大それたことを、
たった一人の人間がやろうとしているのです。
滑稽で、愚かで、
しかし、どうしようもなく必要なこと。
私は震える指で、
SNSの投稿画面を開きました。
■ 投稿
私は、深呼吸をひとつして、
ゆっくりと文字を打ち込みました。
--------------------------------------
【告知】
VRゲーム「ダンジョンワールド・エタニティ」
第三次テストプレイヤー募集を開始します。
・日本国内在住者限定
・募集人数:100万人
魔石は電子マネーに交換できます。
生活の助けになれば幸いです。
応募はこちらから。
httb://xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx.jp
--------------------------------------------
投稿ボタンを押した瞬間、
私は椅子にもたれかかり、
天井を見上げました。
「……どうか、届いてくれ」
その言葉は、
誰に向けたものでもなく、
ただ空気に溶けていきました。
08
【速報】太郎、第三次募集100万人開始!!【日本人限定】【ダンジョンワールド・エタニティ】
1 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:00:11.22 ID:AbCdEf00
太郎のSNS更新きたぞ!!!
第三次募集100万人!!!
桁がバグってて草
2 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:00:45.77 ID:QwErTy19
100万人てwwwwww
もう国の政策じゃん
3 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:01:12.88 ID:YuUiOp55
しかも今回も日本人限定
海外勢また発狂してて草
4 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:01:55.33 ID:LoLoLo77
海外ユーザー「WHY JAPAN ONLY!?」
日本人「知らんがなwww」
5 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:02:20.11 ID:KkKkKk88
太郎の動機が“富の再配分”だからな
そりゃ日本限定にするわ
6 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:02:55.44 ID:ZzZzZz99
海外勢「OPEN TO THE WORLD!!」
太郎「いやです」
7 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:03:30.11 ID:AbCdEf00
太郎の投稿読んだけど
なんかもう政治家より政治してるだろ
8 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:04:05.77 ID:QwErTy19
AI就職氷河期で仕事ない人多いし
100万人はガチで助かるやつ
9 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:04:40.33 ID:YuUiOp55
てか応募フォーム軽いな
太郎のサーバーほんと落ちねえ
10 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:05:15.22 ID:LoLoLo77
敗北企業のデータセンター買い漁った男は違う
11 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:05:50.77 ID:KkKkKk88
SNSのコメント欄すごいことになってるぞ
「お願いします」「救ってください」「子供がいます」みたいなのばっかり
12 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:06:25.33 ID:ZzZzZz99
太郎の投稿、もう30万リツイ…いやシェアされてる
バズり方が異常
13 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:07:00.44 ID:AbCdEf00
海外勢「日本だけズルい!!」
日本人「太郎は日本人なんだよ、諦めろ」
14 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:07:35.77 ID:QwErTy19
100万人って、もう普通に新しい産業だろ
太郎一人で国動かしてる
15 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:08:10.55 ID:YuUiOp55
太郎「AIに奪われた仕事は、AIで返します」
↑これ名言すぎる
16 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:08:45.33 ID:LoLoLo77
てか政府どうすんだろ
太郎のゲームがセーフティネットになってるぞ
17 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:09:20.11 ID:KkKkKk88
高田総理も頭抱えてそう
18 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:09:55.44 ID:ZzZzZz99
当選発表いつだよ
はよしろ太郎
19 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:10:30.11 ID:AbCdEf00
頼む…頼む…頼む…
当たったら人生変わるんだ…
20 :風吹けば名無し:202X/04/20(日) 12:11:05.77 ID:QwErTy19
太郎が動くと世界が動く
今回もそうだな
09
■ 第五章:高校生プレイヤー・水島悠斗(みずしま ゆうと)
水島悠斗、十七歳。
高校二年生。
部活は帰宅部。
趣味はゲームと動画視聴。
成績は中の下。
将来の夢は「なんか楽に生きたい」。
そんな彼が、
SNSで太郎の第三次募集を見つけたのは、
放課後のコンビニで肉まんを食べていたときだった。
「日本人限定100万人募集」
悠斗は、反射的に応募ボタンを押した。
深く考えたわけではない。
ただ、話題になっていたし、
友達も応募していたし、
「当たったらラッキー」くらいの気持ちだった。
■ 当選通知
翌日の夜。
スマホが震えた。
【当選のお知らせ】
あなたは「ダンジョンワールド・エタニティ」第三次テストプレイヤーに選ばれました。
「……マジで!? やった!!」
思わず声が出た。
母親に「うるさいよ」と怒られたが、
そんなことはどうでもよかった。
悠斗は、
人生で初めて“抽選に当たった”気がした。
■ 初ログイン
VRヘッドセットを装着すると、
視界が白く染まり、
次の瞬間、悠斗は石畳の街に立っていた。
「うおおおお……! やっべ……!」
ゲームの中に“入る”という体験に、
全身が震えた。
周囲には、同じく当選した高校生らしきプレイヤーも多い。
「やばくね? これ本物じゃん」
「太郎神すぎる」
「今日徹夜確定だわ」
そんな声が飛び交っていた。
■ 初めての戦闘
チュートリアルを終え、
悠斗は最初のダンジョンへ向かった。
敵はスライム。
しかし、動きは意外と速い。
「うわっ、来た来た来た! やべっ!」
慌てて剣を振ると、
スライムが弾け、
小さな光の粒が落ちた。
《魔石(小) ×1》
「……これが金になるのか……!」
悠斗は、
ゲームで“稼ぐ”という現実離れした感覚に、
胸が高鳴った。
■ ギルドでの換金
街に戻り、ギルドのカウンターへ向かう。
AIスタッフが淡々と魔石を査定する。
《換金完了:1,420円》
「おおお……マジで金になってる……!」
悠斗はスマホを確認した。
残高が増えている。
「やっべ……これ、バイトより楽じゃん……!」
思わず笑いがこぼれた。
■ 現実に戻って
ログアウト後、
悠斗はコンビニに走った。
カップ麺
お菓子
ジュース
普段なら買わない量を、
少しだけ贅沢して買った。
「……ゲームで稼いだ金で買い物って、なんか不思議だな」
帰り道、
ふと頭に疑問が浮かんだ。
「これって……税金とかどうなるんだろ?」
一瞬だけ考えたが、
すぐに肩をすくめた。
「まあ……いっか。明日またダンジョン行こ」
悠斗は袋を揺らしながら、
軽い足取りで家へ帰った。
その背中には、
“未来への不安”よりも、
“明日への楽しみ”が勝っていた。10
■ 第六章:官邸、揺れる
日本の中心──総理官邸。
その会議室には、いつもより重い空気が漂っていた。
AIによる企業倒産が相次ぎ、
失業率は上昇し、
国民の不安は日に日に膨らんでいる。
そして今、
その不安の矛先は政府だけではなく、
ひとりの民間人──鈴木太郎へも向けられていた。
■ 高田総理の苦悩
日本初の女性総理である高田首相は、
資料の束を前に、静かに眉間を押さえた。
「……第三次募集、100万人……」
官房長官が頷く。
「はい。太郎氏のSNS投稿は、すでに国内で大きな反響を呼んでいます。
応募者数は、開始から数時間で数百万に達しているようです」
「……そう。やはり、国民は追い詰められているのね」
高田首相は、
SNSに寄せられた国民の声を思い出した。
「仕事がない」
「家族を養えない」
「太郎さんのゲームに救われたい」
「政府は何をしているのか」
その言葉は、
彼女の胸に深く刺さっていた。
■ 官僚たちの議論
会議室では、官僚たちが次々と意見を述べていた。
「太郎氏のゲームは、事実上の収入源になっています。
これは新しい経済活動として無視できません」
「しかし、民間人が100万人規模の“生活支援”を行うなど前例がありません。
政府としての立場を明確にすべきです」
「税制上の扱いも未整備です。
魔石の換金は所得とみなすべきか、議論が必要です」
「国民の支持は確実に太郎氏へ流れています。
政府としても何らかの対応を……」
声が重なり、
議論はまとまらない。
高田首相は、
静かにその様子を見つめていた。
■ 高田総理の決断
やがて、
高田首相はゆっくりと口を開いた。
「……太郎さんの行動は、
政府への批判ではなく、
“国民を救いたい”という思いから来ているのでしょう」
官僚たちは静まり返った。
「私たちも、国民の生活を守るために動かなければならない。
太郎さんの取り組みを敵視するのではなく、
正しく理解し、必要なら協力する姿勢を持つべきです」
その言葉には、
迷いと覚悟が混じっていた。
官房長官が慎重に尋ねる。
「……総理。太郎氏と、正式に接触を?」
高田首相は、
窓の外の曇った空を見つめながら答えた。
「ええ。
彼が何を目指しているのか、
直接、聞く必要があるわ」
■ 官邸の空気が変わる
その瞬間、
会議室の空気がわずかに動いた。
太郎という一人の民間人が、
国家の中枢を動かし始めたのだ。
官僚たちは資料をまとめ、
新たな調査を始める。
高田首相は、
胸の奥に小さな不安と、
それ以上に大きな期待を抱いていた。
「……鈴木太郎さん。
あなたは、この国をどこへ導こうとしているの?」
その問いは、
まだ誰にも答えられなかった。11
■ 第七章:逃げるように、私は世界へ開いた
――鈴木太郎(太宰治風)
私は、どうにも国家というものが怖いのです。
いや、正確に言えば、
“国家が私に興味を持つ”という状況が、
どうにも耐えられないのです。
第三次募集──日本人限定100万人。
私は、それを善意だと信じていました。
この国の人々を救いたいという、
私なりの償いの形でした。
しかし、その善意は、
どうやら官邸の静かな廊下をざわつかせたようです。
■ 政府からの影
ある日、私のもとに、
政府関係者を名乗る人物から連絡が入りました。
「高田総理が、あなたとお話ししたいと……」
その言葉を聞いた瞬間、
私は背筋が凍りつきました。
総理大臣。
国家の頂点。
その人物が、私に会いたいと言う。
私は、
自分がとんでもないことをしてしまったのだと悟りました。
■ 私は英雄ではない
私は、国を動かすつもりなどなかったのです。
ただ、
AIによって壊してしまった生活を、
少しでも取り戻したかっただけ。
しかし、
100万人という数字は、
どうやら“政策”と呼ばれる領域に踏み込んでしまったらしい。
私は、
国家に利用されるのではないかと怯えました。
私は、
国家に責任を問われるのではないかと震えました。
私は、
国家に取り込まれるのではないかと恐れました。
私は、
ただの一市民であり、
ただの技術者であり、
ただの臆病者なのです。
■ 逃げ道としての「世界」
私は考えました。
考えて、考えて、
そして、逃げるように決めました。
日本人限定をやめよう。
国籍制限を外そう。
世界中の人々に開放しよう。
そうすれば、
国家は私を“日本の問題”として扱えなくなる。
私の責任は、
国境の向こうへ薄まっていく。
卑怯だと、
自分でも思います。
しかし、
私は英雄ではありません。
ただの臆病な人間なのです。
■ 1000万人という数字
私は、
SNSの投稿画面を開きました。
震える指で、
文字を打ち込みました。
----------------------------------------------
【告知】
VRゲーム「ダンジョンワールド・エタニティ」
第四次募集を開始します。
・国籍制限なし
・募集人数:1000万人
世界中の方にご参加いただけます。
魔石は電子マネーに交換できます。
生活の助けになれば幸いです。
応募はこちらから。
httb://xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx.jp
--------------------------------------------------
投稿ボタンを押した瞬間、
私は深く息を吐きました。
「……これで、少しは逃げられるだろうか」
そんな情けない言葉が、
口から漏れました。
■ 私は、ただ生き延びたいだけなのです
私は、
世界を救いたいわけではありません。
私は、
国家と戦いたいわけでもありません。
私はただ──
自分が作った怪物(AI)と、
自分が作った希望(ゲーム)の狭間で、
静かに生き延びたいだけなのです。
それでも、
私の投稿は、
また世界を揺らすのでしょう。
私は、
その波に飲まれないように、
ただ祈るしかありませんでした。
12
【速報】太郎、ついに世界へ開放www【1000万人募集】
1 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:00:11.22 ID:AbCdEf00
太郎のSNS更新きたぞ!!
国籍制限なし!!1000万人募集!!!
2 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:00:45.77 ID:QwErTy19
逃げたな太郎wwwww
政府にビビっただろこれwww
3 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:01:12.88 ID:YuUiOp55
いやでも1000万人は草
もう国家規模じゃん
4 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:01:55.33 ID:LoLoLo77
海外勢「THANK YOU TARO!!!」
日本勢「お前ら来んなwww」
5 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:02:20.11 ID:KkKkKk88
太郎「国籍制限なしです」
海外「LOVE」
日本「やめろ」
6 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:02:55.44 ID:ZzZzZz99
てかこれ、政府が接触したって噂マジなん?
太郎ビビって世界に逃げた説あるぞ
7 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:03:30.11 ID:AbCdEf00
太郎「国家こわい」
わかる
8 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:04:05.77 ID:QwErTy19
海外勢参戦で倍率爆上がりなんだが
日本人の枠減るじゃん…
9 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:04:40.33 ID:YuUiOp55
でも太郎が国家に潰されるよりはマシだろ
生きててくれ太郎
10 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:05:15.22 ID:LoLoLo77
SNSのコメント欄、英語とスペイン語とアラビア語で埋まってて草
世界戦争かよ
11 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:05:50.77 ID:KkKkKk88
太郎「1000万人募集します」
世界「YES」
日本「NOOOOO」
12 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:06:25.33 ID:ZzZzZz99
まあ太郎が国家に捕まるよりはいいか
世界に逃げろ太郎
13 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:07:00.44 ID:AbCdEf00
応募したけど重いな
でも落ちないのが太郎クオリティ
14 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:07:35.77 ID:QwErTy19
太郎のサーバー、世界中から殴られても落ちないの草
15 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:08:10.55 ID:YuUiOp55
太郎「AIに奪われた仕事は、AIで返します」
世界「YES」
政府「……」
16 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:08:45.33 ID:LoLoLo77
高田総理、今どんな顔してるんだろ
17 :風吹けば名無し:202X/04/25(金) 09:09:20.11 ID:KkKkKk88
太郎が動くと世界が動く
マジでそうなってきたな
14ただし、時間軸前後?13節にすべきかも
■ 第八章:国家という影の前で
――鈴木太郎(太宰治風)
私は、どうにも“権力”というものが苦手でして。
いや、苦手などという生易しい言葉では足りません。
あれは、私にとっては怪物のような存在なのです。
その怪物が、ついに私の前に姿を現したのです。
■ 官邸の廊下
官邸の廊下は、妙に静かでした。
足音が吸い込まれていくようで、
私は自分が透明になってしまったのではないかと錯覚しました。
案内役の職員は、
丁寧すぎるほど丁寧な口調で言いました。
「鈴木太郎様、こちらへどうぞ」
私は、喉がひどく乾いていることに気づきました。
国家というものは、
人を乾かす力を持っているのでしょうか。
■ 高田総理との対面
会議室の扉が開くと、
そこには高田総理が立っていました。
テレビで見るよりも、
ずっと小柄で、
しかし、目だけは鋭く光っていました。
「お会いできて光栄です、鈴木さん」
その声は柔らかいのに、
どこか底知れない強さがありました。
私は、
まるで自分の罪を告白しに来た罪人のような気持ちで、
ぎこちなく頭を下げました。
「……こちらこそ、恐縮です」
■ 総理の言葉
高田総理は、
私の目をまっすぐに見つめながら言いました。
「あなたの作った《ダンジョンワールド・エタニティ》は、
多くの国民の生活を支えています。
そのことに、まず感謝を伝えたいのです」
私は、
胸の奥がざわつくのを感じました。
感謝。
国家からの感謝。
それは、
私にとっては“褒め言葉”ではなく、
“警告”のように聞こえました。
■ 私の恐れ
私は、震える声で答えました。
「……私は、ただ……
AIで壊してしまった生活を、少しでも……」
高田総理は、
静かに頷きました。
「ええ、あなたの意図は理解しています。
ただ、国としても無視できない規模になっています。
あなたの活動が、国民の生活に大きな影響を与えているのです」
その言葉を聞いた瞬間、
私は背筋が凍りました。
“国として無視できない”
それはつまり、
国家が私を“管理すべき対象”として見始めたということです。
私は、
国家に飲み込まれる未来を想像し、
息が詰まりそうになりました。
■ 逃げるような決意
会談が終わり、
官邸を出た瞬間、
私は空を見上げました。
曇り空が、
まるで巨大な手のひらのように私を覆っていました。
「……逃げなければ」
その言葉が、
自然と口から漏れました。
私は、
国家の影から逃れるために、
世界へ門を開くことを決めたのです。
日本人限定をやめ、
国籍制限を外し、
1000万人の募集をかける。
それは、
私の善意ではなく、
私の恐怖が生んだ決断でした。
13
■ アメリカ・イギリス(英語圏)
「ついに世界に開いた!太郎は本物の革命家だ」
「政府より早く動く個人って何なんだよ」
「1000万人?冗談だろ…でも応募する」
「太郎は新しい経済モデルを作ってる」
「これ、世界のセーフティネットになるんじゃないか?」
■ 中国
「太郎、ようやく我々にも門を開いた!」
「日本政府に追い詰められたのか?」
「太郎は天才、いや仙人だ」
「応募する、絶対に参加する」
■ 韓国
「ついに参加できるのか…待ってた」
「太郎は本当に狂ってる(褒め言葉)」
「政府より早いのは笑う」
「1000万人でも足りないだろ」
■ インド
「太郎さん、あなたは希望です」
「これは未来の働き方だ」
「10万人でもなく100万人でもなく1000万人!?すごすぎる」
「応募した!」
■ 中東
「太郎は救世主か?」
「このゲームは新しい経済だ」
「家族を養えるかもしれない、ありがとう太郎」
「参加する!」
■ ヨーロッパ(フランス・ドイツ・スペインなど)
「前例のない試みだ」
「一人の民間人が世界経済を動かしている」
「太郎は国家を超えた存在になりつつある」
「応募した、当たるといいな」
■ 世界のまとめ
日本:倍率上昇に悲鳴、太郎逃亡説で盛り上がる
海外:歓喜・感謝・驚愕・称賛の嵐
政府:静かに困惑(表には出ない)
世界のメディア:新しい“労働”の形として大騒ぎ
太郎の一投稿が、
国家を揺らし、
世界を巻き込み、
新しい経済の形を作り始めていた。15
■ 第九章:官邸、世界開放の報せに揺れる
官邸の執務室に、
秘書官が駆け込んできた。
「総理……鈴木太郎氏が、
《ダンジョンワールド・エタニティ》を世界に開放しました。
募集人数は……1000万人です」
高田総理は、
手にしていた資料をそっと机に置いた。
「……世界に?」
その声は驚きよりも、
深い戸惑いを含んでいた。
■ 官邸のざわつき
すぐに緊急会議が開かれた。
官僚たちは、
資料を抱えたまま席に着き、
ざわざわと声を交わしていた。
「1000万人……前例がありません」
「国籍制限なし? これはもう国際問題になり得ます」
「太郎氏は、国家の枠を超えようとしているのか……?」
「いや、むしろ国家から逃げたのでは?」
その言葉に、
高田総理はわずかに眉を寄せた。
■ 総理の胸に走る違和感
高田総理は、
太郎と対面したときの彼の表情を思い出していた。
あのときの太郎は、
英雄でも革命家でもなく、
ただ怯えた一人の青年だった。
「……彼は、私たちを恐れたのかもしれない」
その呟きに、
官僚たちは一瞬言葉を失った。
「総理、それは……」
「国家が民間人を脅かしたという意味に……」
「違うわ」
高田総理は静かに首を振った。
「彼は、自分の作ったものが“国家の領域”に踏み込んでしまったことを恐れたのよ。
責任を問われることを、利用されることを、
あるいは……潰されることを」
官僚たちは黙り込んだ。
■ 世界開放の衝撃
別の秘書官がタブレットを差し出した。
「総理、SNSの反応です。
世界中で“太郎開放”がトレンドになっています」
画面には、
各国の言語で太郎を称賛する声が溢れていた。
「太郎は世界の希望だ」
「新しい経済の始まりだ」
「政府より早く動く個人」
「太郎に救われたい」
高田総理は、
その光景を複雑な表情で見つめた。
「……彼は、世界を味方につけたのね」
官僚の一人が、
慎重に言葉を選んだ。
「総理……これは、もはや一民間人の活動ではありません。
国際的な影響力を持つ“新しい力”です」
■ 高田総理の決意
高田総理は、
深く息を吸い、
ゆっくりと吐き出した。
「……太郎さんを敵に回すつもりはないわ。
彼は国民を救おうとしている。
その点では、私たちと同じ方向を向いている」
官僚たちは静かに頷いた。
「ただし──
彼が世界へ開いた以上、
日本だけの問題ではなくなる。
私たちは、国としての立場を整えなければならない」
その声には、
迷いと覚悟が混じっていた。
■ 官邸の窓の外
会議が終わり、
高田総理は窓の外を見つめた。
曇り空の向こうで、
世界がざわめいているように感じた。
「鈴木太郎さん……
あなたは、どこまで行くつもりなの?」
その問いは、
誰にも届かないまま、
静かに官邸の空気に溶けていった。16
■ 第十章:世界がざわめく音
――主人公:アメリカ人・イーサン・クラーク
イーサン・クラーク、二十五歳。
カリフォルニアの片隅で、
AIに仕事を奪われた元配送ドライバー。
そんな彼のスマホに、
ひとつの通知が届いた。
「鈴木太郎、世界1000万人募集開始」
その瞬間、
イーサンの胸は久しぶりに熱くなった。
「……ついに、俺たちの番か」
■ ログイン:世界が押し寄せる
VRヘッドセットを装着し、ログインすると──
そこには、
“リアルではないのに、妙に熱気のある世界”が広がっていた。
街は人で溢れ、
世界中の言語が飛び交っている。
「やっと入れた!」
「太郎ありがとう!」
「換金って本当にできるのか?」
「今日から俺はダンジョンワーカーだ!」
イーサンは思わず笑った。
「……なんだこれ、ゲームっていうより市場じゃないか」
そう、
ここは“冒険の街”というより、
新しい経済圏の誕生の瞬間だった。
■ 世界1000万人のログイン
サーバーは落ちない。
むしろ、どんどん快適になっていく。
《接続数:10,000,000》
《処理最適化モードへ移行》
まるで巨大な都市が、
一斉に目を覚ましたようだった。
イーサンは鳥肌が立った。
「太郎……あんた、何を作ったんだよ……」
■ 初めてのダンジョン
ゲーム自体は、
正直そこまでリアルではない。
スライムはぬるっとしているし、
動きも単純だ。
だが──
倒すたびに落ちる魔石を拾うたびに、
イーサンの心臓は跳ねた。
《魔石(小) ×1》
「……これが金になる。
ゲームの中の石ころが、現実の金になる……」
その事実が、
彼の脳を痺れさせた。
■ ギルドでの換金
ギルドは、まるで銀行のように人で溢れていた。
アメリカ人、ヨーロッパ人、アジア人──
世界中の人々が列を作り、
魔石を差し出している。
イーサンも列に並び、
自分の魔石をカウンターに置いた。
AIスタッフが淡々と処理する。
《換金完了:12ドル相当》
その数字を見た瞬間、
イーサンは息を呑んだ。
「……本当に、金になった……」
ゲームで稼いだ金が、
現実の財布に入る。
その衝撃は、
リアリティの高さよりもずっと強烈だった。
■ 経済が動き出す音
ログアウト後、
SNSを開くと世界中が騒いでいた。
「太郎のゲームで今日の食費が稼げた!」
「これ、国の制度より早くないか?」
「新しい仕事が生まれたぞ!」
「太郎は世界を変える気か?」
イーサンは震えた。
これはただのゲームではない。
世界の経済が、静かに、しかし確実に動き始めている。
「……やべぇ。
俺、歴史の転換点に立ってるのかもしれない」
恐れと興奮が混ざり合い、
胸が熱くなる。
■ 明日への期待
イーサンはベッドに倒れ込み、
天井を見つめながら呟いた。
「明日もログインしよう。
ここには……生きるチャンスがある」
その目には、
久しく失っていた“希望”が宿っていた。17
■ 第十一章:世界が震え、太郎は静かに沈む
世界は、気づかぬうちに変わり始めていた。
《ダンジョンワールド・エタニティ》──
そのゲームは、もはや“娯楽”ではなかった。
1000万人のプレイヤーが魔石を換金し、
そのお金で食料を買い、家賃を払い、生活をつないでいる。
アメリカでは、
「ダンジョンワーカー」という新しい職業が生まれた。
ヨーロッパでは、
失業者支援団体が太郎のゲームを“救済手段”として紹介し始めた。
アジアでは、
魔石の相場がニュース番組で取り上げられ、
為替レートのように毎日更新されていた。
中東では、
「太郎は神に選ばれた者だ」と語る者まで現れた。
世界は、
太郎の作った“仮想の石ころ”に振り回されていた。
■ 経済学者たちの混乱
各国の経済学者は、
この現象を理解しようと必死だった。
「これは新しい労働形態だ」
「いや、これは通貨の代替だ」
「世界経済の均衡が崩れる」
「太郎という個人が、国家より大きな影響力を持ち始めている」
議論はまとまらず、
ただ混乱だけが広がっていった。
■ 高田総理の苦悩
日本でも同じだった。
高田総理は、
官邸の会議室で報告を受けながら、
深い溜息をついた。
「……太郎さんは、世界を救おうとしているのかしら。
それとも、ただ逃げているだけなのかしら」
官僚たちは答えられなかった。
太郎の行動は、
善意にも見え、
恐怖にも見え、
革命にも見えた。
■ 太郎の孤独
その頃──
太郎は、薄暗い自室でひとり、
モニターに映る世界のログイン状況を眺めていた。
《接続数:10,000,000》
《換金処理:安定》
《世界各国のアクセス:正常》
世界は、
彼の作ったシステムに依存し始めている。
それは、
誇らしいことのはずだった。
しかし太郎の胸には、
重く冷たいものが沈んでいた。
「……どうして、こうなったんだろう」
彼は呟いた。
世界を救いたかったわけではない。
英雄になりたかったわけでもない。
ただ、
AIで壊してしまった生活を、
少しでも取り戻したかっただけ。
しかし今、
世界中の生活が彼の肩に乗っている。
「……怖いな」
太郎は、
自分の手が震えていることに気づいた。
■ 世界の歓声と、太郎の沈黙
SNSでは、
世界中の人々が太郎を称賛していた。
「太郎は救世主だ!」
「太郎のおかげで今日も食べられる!」
「太郎は世界を変えた!」
その声は、
太郎の部屋には届かない。
いや、届いているのに、
心には響かない。
太郎は、
モニターの光だけが照らす部屋で、
静かに目を閉じた。
「……俺は、どこへ向かっているんだろう」
世界は動き続ける。
太郎の作ったシステムに依存しながら。
しかし太郎自身は、
その中心で、18
■ 第十三章:企業がダンジョンに降りてきた日
――冒険者・村瀬亮(元エンジニア)視点
AI自動化の波に飲まれ、
勤めていたソフトウェア会社が倒産してから半年。
村瀬亮(むらせ りょう)は、
《ダンジョンワールド・エタニティ》での“冒険者稼業”で生活をつないでいた。
魔石の換金だけでは贅沢はできないが、
生きるには十分だった。
そんなある日──
ダンジョン前の広場が、妙な熱気に包まれていた。
■ ダンジョン前に現れた「企業ブース」
「……なんだ、あれは」
亮は思わず足を止めた。
ダンジョン前の広場に、
現実企業のロゴが浮かぶホログラムが立っていた。
《アーク・エクイップメント株式会社
ダンジョン装備レンタル事業部
冒険者パートナー募集》
周囲の冒険者たちがざわつく。
「ついに企業が来たか……」
「装備レンタル? ギルドじゃなくて企業が?」
「太郎の“デジタルオフィス”ってやつだな」
亮は眉をひそめた。
「……装備レンタル? どういうビジネスだ?」
■ 企業担当者(アバター)との面談
ブースに近づくと、
スーツ姿のアバターが丁寧に頭を下げた。
「こんにちは。
当社は、ダンジョンでドロップする“レア装備品”を買い取り、
それを冒険者の皆様に貸し出す事業を行っております」
亮は思わず聞き返した。
「……買い取り? ギルドより高く?」
担当者は微笑んだ。
「いえ、ギルドと同額です。
当社は“装備品の収集”が目的です。
ギルドと同額で買い取り、
その装備を所属冒険者に貸し出し、
ギルド売却額の1割を“使用料”としていただくビジネスモデルです」
亮は目を見開いた。
「……なるほど。
装備を貸して、冒険者が稼いだ分の1割を取る……
現実のサブスクみたいなものか」
「おっしゃる通りです。
冒険者の皆様は初期投資なしで強力な装備を使えますし、
当社は安定した収益を得られます」
■ 冒険者たちの反応
周囲の冒険者たちがざわつき始めた。
「レア装備って、ドロップ率低いからな……」
「企業が集めてくれるなら助かる」
「強い装備使えるなら、魔石の効率も上がるし」
「1割なら悪くないな」
亮も、胸の奥がざわついた。
(……確かに、強い装備があれば稼ぎは増える。
今の装備じゃ、深層には行けないし……)
■ 契約内容の説明
担当者アバターは続けた。
「契約はゲーム内で完結します。
現実の個人情報は不要です。
装備の貸し出しは無料。
ただし、ギルドで売却した際の金額の1割を当社にお支払いいただきます」
亮は思わず笑った。
「……リスクなしで装備を借りられるってことか」
「はい。
当社は装備品の“資産化”を目指しています。
冒険者の皆様は、より効率的に稼げるようになります」
■ 亮の決断
担当者が亮に向かって言った。
「あなたのような経験豊富な冒険者には、
ぜひ当社の装備を使っていただきたい」
亮は、
ほんの少しだけ迷った。
しかし──
倒産した会社のことを思い出した。
(……もう、後戻りはできない。
ここで稼ぐしかないんだ)
「……契約します。
装備を貸してください」
「ありがとうございます。
あなたの活躍を期待しています」
契約が完了した瞬間、
画面に通知が表示された。
《あなたは“アーク・エクイップメント契約冒険者”になりました》
亮は拳を握った。
「……よし。
これで、もっと深く潜れる」
■ 世界がまた一歩、変わる
ダンジョン前の広場では、
企業ブースが次々と増えていく。
装備レンタル企業
冒険者保険会社
ダンジョン素材加工企業
探索ガイド企業
現実の企業が、
ゲームの世界に“支店”を出し始めていた。
亮は空を見上げた。
「……太郎さん。
あんたの世界、
本当に“仕事”になっちまったな」
その声は、
ざわめく冒険者たちの中に溶けていった。19
■ 第十四章:デジタル役所の誕生
――国家が太郎の技術に頼らざるを得なくなる日
■ 限界に達した地方行政
AI失業者を救うために始まった
「公務員としての雇用創出政策」。
しかし、現場はすでに限界だった。
生活保護申請の急増
税収の落ち込み
役所の窓口の長蛇の列
新規採用の予算不足
全国の自治体から、
悲鳴のような報告が官邸へ届いていた。
高田総理は、
その報告書を前に静かに目を閉じた。
(……このままでは、行政が崩壊する)
■ 太郎の“デジタルオフィス”が広がる
そんな中、官邸に届いた新しい資料。
《デジタルオフィス利用者の急増》
太郎が《ダンジョンワールド・エタニティ》内に構築した
“デジタルオフィス”。
当初は冒険者向けの窓口だったが、
今では一般企業も積極的に利用していた。
その理由は──
太郎が開発した“画面転送技術”にあった。
■ 画面転送技術の仕組み
太郎の技術は、
従来のリモートデスクトップとは根本的に違っていた。
現実世界のデータセンターにある端末の“画面だけ”を
チャプター(分割・抽出)して転送する。
データそのものは一切外部に出ない。
デジタルオフィスに表示されるのは
「画面の映像」だけ。
ユーザーの操作は
“操作コマンド”としてデータセンターに送られ、
現実の端末がその通りに動く。
結果として、
データは編集できるが、
コピーも保存も持ち出しも不可能。
さらに、画面転送は
暗号化された専用プロトコルで行われ、
通信経路上での盗聴や改ざんは事実上不可能。
この仕組みにより、
デジタルオフィスは“現実のオフィスより安全”と評価され、
大企業が次々と導入していた。
会議、契約、研修、社内相談──
すべてがデジタルオフィスで完結する。
そして今、
冒険者も企業も一般市民も、
同じ声を上げ始めていた。
「デジタル空間に“役所”がほしい」
■ 総理の決断
高田総理は、
資料を閉じて静かに言った。
「……デジタル役所を作りましょう」
会議室が凍りついた。
官僚の一人が震える声で尋ねた。
「太郎氏のデジタルオフィスを……
行政機能として利用するということですか?」
「ええ。
現実の役所が限界なら、
デジタル空間に“もう一つの役所”を作るしかない」
官僚たちはざわついた。
「しかし、あれは民間の……」
「国家機能を民間空間に置くのは……」
「セキュリティは……」
高田総理は首を振った。
「太郎さんの画面転送技術は、
データを一切外に出さない。
現実の役所より安全です」
■ デジタル役所の構想
総理はホワイトボードに書き出した。
デジタル窓口
生活相談
失業者支援
企業向け手続き
冒険者向け手続き
税務相談
行政書類の発行
「これらを、デジタル空間で行います。
そして──
そこで働く“デジタル公務員”を募集します」
官僚たちは息を呑んだ。
「……失業者を、デジタル役所で雇うのですか?」
「そうです。
現実の役所では受け入れられない人たちを、
デジタル空間で雇用します」
■ 全国への通達
その日のうちに、
全国の自治体へ通達が出された。
《デジタル役所創設に伴う人材募集について》
デジタル窓口業務
企業・市民の相談対応
冒険者支援
行政手続きの案内
デジタル書類の処理
応募資格はただひとつ。
「AI失業者であること」
■ 失業者たちの反応
SNSには、
驚きと期待が入り混じった声が溢れた。
「デジタル役所で働けるのか……?」
「現実の役所は無理でも、仮想空間なら……」
「太郎の技術で公務員って、どういう時代だよ」
「でも、仕事があるならありがたい」
冒険者の村瀬亮も、
そのニュースを見て呟いた。
「……デジタル役所か。
ダンジョンで稼ぐだけじゃなく、
役所で働くって道もあるのか」
■ 太郎の胸に走る不安
その頃──
太郎は自室で、
ニュース速報を見つめていた。
《政府、デジタル役所創設へ》
《鈴木太郎氏のデジタルオフィスを行政利用》
太郎は、
胸の奥が冷たくなるのを感じた。
「……また、俺の世界が……
現実に飲み込まれていく……」
しかし同時に、
逃げ場のない現実も理解していた。
失業者は増え続け、
現実の役所は限界を迎えている。
太郎の作った世界が、
その穴を埋め始めていた。
■ 世界がまた一歩、変わる
デジタル役所の創設は、
瞬く間に世界へ広がった。
「仮想空間で働く公務員」
「デジタル行政の誕生」
「太郎の世界が国家機能を補完」
世界中のメディアが取り上げ、
新しい時代の幕開けを予感させた。
高田総理は、
官邸の窓から夜景を見つめながら呟いた。
「……太郎さん。
あなたの世界に、
また一つ“現実”が入り込んでしまったわね」
その声は、
静かに夜へ溶けていった。20
■ 第十五章:デジタル役所、初出勤
――元失業者・三浦誠(みうら まこと)視点
三浦誠、四十二歳。
AI自動応答システムの普及で、
長年勤めたカスタマーサポート会社を失った。
再就職は難航し、
生活保護の申請を考え始めた矢先──
政府が発表した「デジタル役所職員募集」のニュースが飛び込んできた。
“デジタル空間で働く公務員”
半信半疑で応募したが、
まさか採用されるとは思っていなかった。
■ 初出勤:デジタル役所の玄関
VRヘッドセットを装着すると、
視界が柔らかな光に包まれ、
次の瞬間、巨大なホールが現れた。
《デジタル役所・中央ロビー》
現実の役所とは違い、
天井は高く、空気は澄んでいて、
どこか未来の空港のようだった。
「……これが、俺の職場か」
周囲には、同じく採用された元失業者たちが集まっていた。
元エンジニア
元事務職
元飲食店スタッフ
元コールセンター社員
皆、現実では居場所を失った人々だ。
■ 画面転送技術の説明
新人研修が始まると、
講師役のアバターが前に立った。
「皆さんが扱うのは、
現実世界の役所データです。
ただし──データは一切、ここには存在しません」
誠は息を呑んだ。
講師は続ける。
「太郎氏の“画面転送技術”により、
現実のデータセンターにある端末の画面だけが
チャプター(分割・抽出)されて転送されます」
巨大スクリーンに図が表示される。
データセンターの端末 → 画面を抽出
デジタル役所 → 映像として表示
職員の操作 → “操作コマンド”として送信
データセンターの端末が実際に処理
データは一切外部に出ない
「つまり、皆さんは“画面を触っているだけ”です。
データは現実世界から一歩も動きません」
誠は思わず呟いた。
「……すげぇ……」
講師は微笑んだ。
「だからこそ、行政データを扱えるのです。
現実の役所より安全だと評価されています」
■ 初めての窓口業務
誠の初担当は「保険・年金窓口」だった。
現実の役所では人手不足で何週間も待たされる手続きが、
ここではデジタル空間で即日対応できる。
カウンターに座ると、
すぐに通知が届いた。
《相談希望者:冒険者・村瀬亮
内容:国民健康保険 → 協会けんぽへの加入手続き》
誠は深呼吸し、
「応対開始」ボタンを押した。
目の前に、
村瀬亮のアバターが現れた。
「すみません、協会けんぽに入りたくて……
最近、企業と契約して働くようになったんです」
誠は頷いた。
「承知しました。
企業と雇用契約を結んだ場合、
国民健康保険から協会けんぽへ切り替える必要があります。
まずは企業名を教えていただけますか?」
亮は答えた。
「アーク・エクイップメントって会社です。
ダンジョン装備のレンタル事業をやってて……
契約冒険者になったんです」
誠は、
画面転送された“現実の役所の保険システム”を操作しながら、
必要項目を入力していく。
■ 手続き完了
「では、最後にこちらの確認ボタンを押してください」
亮が押すと、
画面に通知が表示された。
《協会けんぽ加入手続き:完了》
亮はほっとした表情になった。
「ありがとうございます。
これで安心して働けます」
誠は微笑んだ。
「こちらこそ。
何かあれば、また相談してください」
亮のアバターが消えると、
誠はしばらく席に座ったまま動けなかった。
(……俺は今、確かに“誰かの役に立った”んだ)
胸の奥がじんわりと温かくなった。
■ デジタル役所の一日が終わる
ログアウトすると、
現実の薄暗い部屋に戻った。
だが、
胸の中には久しぶりに“仕事をした実感”があった。
「明日も頑張るか……」
その声は、
以前の誠には出せなかったものだった。
21
■ 第十六章:家族で選んだ、新しい暮らし
――創薬研究者・大森悠介視点
■ 1. 研究室が“静かになった日”
大森悠介、三十八歳。
創薬企業に勤める研究者。
数年前までは、
白衣を着て研究室を歩き回り、
試薬を量り、細胞を培養し、
分析装置の前で何時間も待つ──
そんな“手を動かす研究者”だった。
しかし、AI技術が急速に進化した。
試薬の調整
細胞の培養
分析装置の操作
データの一次解析
これらの作業は、
すべてロボットが行うようになった。
研究者の役割は変わった。
「ロボットに指示を出し、
複数の実験を同時に進める“指揮者”」
悠介は、
研究室にほとんど行かなくなった。
■ 2. デジタルオフィスが研究を変えた
ロボットを操作するためのインターフェースは、
太郎が作った“デジタルオフィス”に統合された。
ログインすると、
現実の研究施設にあるロボットの画面が
画面転送技術で映し出される。
データは一切外に出ない
映像だけが転送される
操作は“コマンド”として送信される
ロボットが現実で実験を行う
悠介は、
自宅の書斎から
10台以上のロボットに指示を出し、
同時に実験を進められるようになった。
(……もう、研究室にいる必要はないんだ)
■ 3. 都会のマンションが「重荷」になる
そんな働き方が当たり前になった頃、
悠介は気づいた。
「都心に住む意味が、ほとんどなくなっている」
通勤はゼロ。
会議もデジタルオフィス。
研究データも安全に扱える。
しかし──
都心の生活コストは高すぎた。
ローンの残るマンション。
子ども二人の教育費。
物価の上昇。
そして、
同じように考える人が増え、
マンション価格は急落していた。
■ 4. 妻との会話:地方移住という選択
夕食後、妻の美咲が言った。
「ねぇ悠介。
このまま都心に住む意味、あるのかな」
悠介は箸を置いた。
「……やっぱり、そう思う?」
「だって、あなたも私もデジタルオフィスで働けるし。
子どもたちもオンライン授業が普通になったし。
だったら、もっと広い家で、
自然のある場所で暮らしたいなって」
美咲もデジタルオフィス対応の事務職だ。
夫婦で年収800万。
生活は安定している。
しかし──
都会の暮らしは、
もはや“必要経費”ではなく“贅沢”になっていた。
「地方なら、同じ家賃で庭付きの一軒家に住めるよ」
「うん。
子どもたちにも、もっと広い世界を見せたい」
二人の意見はすぐに一致した。
■ 5. 子どもたちの反応
「えっ、庭で遊べるの?」
「虫とか捕まえられる?」
「学校はどうするの?」
「オンライン授業があるし、
週に一回は通学して友達にも会えるよ」
「やったー!」
子どもたちの笑顔を見て、
悠介は胸が温かくなった。
■ 6. 移住先の町へ
週末、家族で地方の町を訪れた。
空気が澄んでいて、
山が近く、
川の音が聞こえる。
不動産会社の案内で見た家は、
都心のマンションより安いのに、
信じられないほど広かった。
「ここ……いいな」
美咲が呟いた。
「うん。
ここなら、家族でゆっくり暮らせる」
悠介は確信した。
ここが、これからの家だ。
■ 7. 新しい暮らしの始まり
地方の新居に引っ越した日、
悠介は庭に立って深呼吸した。
「……いい風だ」
子どもたちは庭を走り回り、
美咲は新しいキッチンを嬉しそうに眺めている。
悠介はヘッドセットを手に取った。
「さて……仕事するか」
デジタルオフィスにログインすると、
都会の研究施設のロボット画面が映し出された。
場所は変わっても、
仕事は変わらない。
しかし──
生活は大きく変わった。
太郎の技術が作った“どこでも働ける世界”。
その恩恵を、悠介は家族とともに受け取っていた。22
■ 第十七章:空洞化する都市、揺れる官邸
――高田総理視点
■ 1. 都市の人口が“消えていく”
官邸の執務室に、
厚い報告書が積み上がっていた。
《都市部人口流出レポート》
《マンション価格下落率》
《地方移住者統計》
高田総理は、
ページをめくる手を止めた。
「……ここまで急激だとは」
報告書には、
信じがたい数字が並んでいた。
都心の人口が半年で12%減
新築マンションの空室率が過去最高
大企業の本社機能がデジタルオフィスへ移行
若者の地方移住が加速
都市の商店街が“昼でも静か”になりつつある
デジタルオフィスの普及が、
都市の価値そのものを変えてしまったのだ。
■ 2. 官僚たちの議論
会議室では、官僚たちが声を荒げていた。
「都市の税収が急激に落ちています」
「固定資産税の減収が深刻です」
「企業のオフィス縮小で法人税も……」
「地方は活気づいていますが、都市が空洞化しています」
高田総理は、
その議論を黙って聞いていた。
(……太郎さんの技術が、
ここまで社会構造を変えるとは)
誰も悪くない。
太郎も、国民も、企業も。
ただ、
世界が“新しい形”に変わってしまっただけだ。
■ 3. 都市の未来をどうするか
官僚の一人が言った。
「総理、都市再生のための補助金を……」
別の官僚が反論する。
「しかし、都市に戻る理由がありません。
デジタルオフィスで働ける以上、
地方のほうが生活コストが低いのです」
「都市の価値をどう再定義するかが問題です」
「観光? 文化? 教育?
しかし、それもデジタル化が進んで……」
議論は堂々巡りだった。
高田総理は、
静かに口を開いた。
「……都市は、
“人が集まる理由”を失いつつあるのね」
官僚たちは黙り込んだ。
■ 4. 太郎の影
高田総理は、
ふと窓の外を見つめた。
曇り空の向こうに、
太郎の姿が浮かぶような気がした。
(太郎さん……
あなたは、意図せず“新しい国土”を作ってしまった)
デジタルオフィスは、
都市の機能を奪ったわけではない。
ただ、
都市に“縛られる必要”を消しただけだ。
それが、
都市の空洞化を生んでいた。
■ 5. 総理の葛藤
「……どうすればいいのかしら」
高田総理は、
誰に聞かせるでもなく呟いた。
都市を守るべきか。
地方の活性化を後押しすべきか。
それとも、
デジタル空間を“第三の都市”として育てるべきか。
どれも正しく、
どれも難しい。
(太郎さんの技術は、
国を救いもするし、揺らしもする)
その二面性が、
高田総理の胸を重くしていた。
■ 6. 夜の官邸で
会議が終わり、
官邸の廊下を歩きながら、
高田総理は深く息を吐いた。
「……都市が空洞化していく。
この国は、どこへ向かうのかしら」
しかし、
その目にはわずかな光も宿っていた。
(変化は恐ろしい。
でも、変化の先に新しい未来があるのなら……
私は、その舵を取らなければならない)
高田総理は、
静かに執務室へ戻っていった。23
■ 第十八章:国家の決断
――官邸・高田総理視点
■ 1. 都市の“沈黙”が報告される
官邸の会議室に、
都市再生担当の官僚が駆け込んできた。
「総理……最新の人口統計です」
高田総理は資料を受け取り、
ページをめくる手を止めた。
都心三区の人口がさらに7%減
オフィス街の稼働率は40%を割り込む
商業施設の閉店ラッシュ
地価の下落が止まらない
若者の地方移住が加速
「……ここまで来たのね」
都市は、
もはや“人が集まる場所”ではなくなりつつあった。
デジタルオフィスが一般化し、
働く場所は“どこでもよくなった”。
その結果、
都市の価値が急速に溶けていった。
■ 2. 官僚たちの焦り
会議室では、
官僚たちが声を荒げていた。
「都市の税収が崩壊します!」
「このままではインフラ維持が不可能です」
「地方は活性化していますが、都市が死にます」
「企業の本社機能がデジタル空間に移りつつあります」
高田総理は、
その議論を静かに聞いていた。
(……都市を守るべきか。
それとも、新しい形を受け入れるべきか)
どちらも正しく、
どちらも難しい。
■ 3. “都市を守る”という発想の限界
官僚の一人が提案した。
「都市再生のための補助金を……」
別の官僚がすぐに反論する。
「しかし、都市に戻る理由がありません。
デジタルオフィスで働ける以上、
地方のほうが生活コストが低いのです」
「都市の価値をどう再定義するかが問題です」
「観光? 文化? 教育?
しかし、それもデジタル化が進んで……」
議論は堂々巡りだった。
高田総理は、
静かに口を開いた。
「……都市は、
“人が集まる理由”を失ったのね」
官僚たちは黙り込んだ。
■ 4. 国家としての決断
高田総理は、
机の上の資料を閉じた。
そして、
ゆっくりと立ち上がった。
「……都市を“守る”のではなく、
都市を“作り直す”しかないわ」
官僚たちが息を呑む。
「総理、それは……?」
高田総理は、
はっきりと言った。
「都市機能を“分散化”します。
都市を一極集中の拠点として扱う時代は終わりです」
会議室が静まり返った。
「地方に行政機能を移し、
デジタル役所を拡大し、
企業の本社機能を“物理都市”から“デジタル都市”へ移行させる。
都市は、必要な部分だけ残し、
あとは“新しい形”に再編するのです」
官僚たちは驚きながらも、
その言葉の重さを理解していた。
これは、国家の構造を変える決断だった。
■ 5. 太郎の影
高田総理は、
窓の外の曇り空を見つめた。
(太郎さん……
あなたの技術が、
この国の形を変えてしまった)
太郎は国家を動かすつもりなどなかった。
ただ、失業者を救いたかっただけだ。
しかし──
その技術は、
都市の価値を根底から変えてしまった。
■ 6. 総理の覚悟
「……変化は恐ろしい。
でも、変化を止めることはできない」
高田総理は、
自分に言い聞かせるように呟いた。
「ならば、
変化の先にある未来を選ぶしかない」
都市の空洞化は、
もはや“問題”ではなく“現実”だった。
その現実を前に、
日本はついに決断した。
都市の再編。
国家機能の分散化。
デジタル都市の正式な国家インフラ化。
それは、
日本が“新しい国土”を選ぶという宣言だった。
24
■ 第十九章:二つの日本
――都会の区長と、地方の商店街店主
【A:都会・区長の視点】
■ 1. 静まり返った朝のオフィス
港区長・三枝(さえぐさ)は、
朝の区役所の窓から外を見下ろした。
かつてはスーツ姿の人々が行き交い、
タクシーが列をなし、
カフェには長蛇の列ができていた通り。
今は──
人影がまばらだった。
「……今日も、こんなに静かか」
三枝は、胸の奥が重く沈むのを感じた。
■ 2. 空室率の報告
秘書が資料を持ってきた。
「区長、最新のオフィス空室率です」
三枝は資料を開き、眉をひそめた。
オフィス空室率:42%
マンション売却希望者:増加
転出届:前月比+18%
「……また増えたのか」
デジタルオフィスの普及で、
企業は都心のオフィスを縮小し、
社員は地方へ移住していく。
区長として、
この流れを止める術はなかった。
■ 3. 商店街の悲鳴
午後、区内の商店街の代表が訪れた。
「区長、どうにかしてくださいよ……
人が来ないんです。
昼間でもガラガラで……」
「わかっています。
しかし、企業が戻らない以上……」
「戻らないって、そんな……
ここは“都会”なんですよ?」
三枝は言葉を失った。
都会というブランドは、
もはや通用しない。
人々は、
“働くために都会に住む必要”を失ったのだ。
■ 4. 区長の焦り
夜、区長室に一人残った三枝は、
暗い窓の外を見つめた。
(……この区は、どうなるんだ)
高層ビルの明かりは減り、
街は静かになっていく。
都市の価値が、
音もなく崩れていくのを感じた。
「……太郎さん。
あなたの技術は、
都市の形まで変えてしまったんですね」
三枝は、
誰に届くでもない言葉を呟いた。
【B:地方・商店街の店主視点】
■ 1. かつての“シャッター街”
兵庫県の小さな町。
商店街の一角で古い文具店を営む
店主・田中は、
毎朝シャッターを開けるたびに思っていた。
(今日も、誰も来ないだろうな……)
十年前、
商店街はほぼ死んでいた。
若者は都会へ出て、
店は次々と閉まり、
残ったのは高齢者ばかり。
■ 2. しかし、今年は違った
シャッターを開けた瞬間、
田中は思わず目を見開いた。
「……おはようございます!」
「おはようございます、田中さん!」
商店街に、
若い夫婦や子ども連れが歩いている。
(……信じられん。
本当に、人が戻ってきたんだ)
デジタルオフィスの普及で、
都会から移住してきた家族が増えたのだ。
■ 3. 文具店に来る“新しい客”
昼過ぎ、
若い母親が子どもを連れて店に入ってきた。
「すみません、ノートと鉛筆ありますか?」
「もちろんありますよ。
お子さん、学校は?」
「オンライン授業が中心なんですけど、
週に一回は通学するんです。
だから文具が必要で」
田中は胸が熱くなった。
(……この店に、
また子どもの声が戻ってくるなんて)
■ 4. 商店街の復活
夕方、商店街の会議が開かれた。
「移住者が増えて、
売上が去年の三倍になりました!」
「空き店舗にカフェが入るそうです!」
「子どもが増えたから、
駄菓子屋を復活させようかと!」
田中は、
涙が出そうになった。
(……こんな日が来るなんて)
■ C:二つの日本の対比
都会は、
人が去り、静かになり、
区長は焦りと不安に押しつぶされそうになっている。
地方は、
人が戻り、子どもの声が響き、
商店街は再び息を吹き返している。
どちらも、
太郎の技術が生んだ“新しい日本”の姿だった。
25
■ 第二十章:老いてなお、冒険者
――高齢者・山下弘(やました ひろし)視点
■ 1. 老人会の集まりが“パーティ編成”になる日
山下弘、七十二歳。
腰は痛いし、膝も曲がりにくい。
散歩も長くはできない。
だが──
《ワールドダンジョン・エタニティ》の中では違った。
椅子に座ったまま、
ヘッドセットをかぶるだけで、
自分の身体は若返り、
剣を振り、魔法を放ち、
仲間と笑いながら冒険ができる。
「ほな、今日も潜るでー!」
「山下さん、昨日のボス倒したんやろ?
今日はワシらも連れてってや!」
老人会のメンバーが、
まるで遠足に行くみたいなテンションで集まってくる。
平均年齢、七十。
だが、
ゲーム内では全員、二十代の肉体だ。
■ 2. VRの中で“若返る”感覚
ログインすると、
弘は思わず腕を回した。
「……ほぉ、今日も肩が軽いわ」
現実では痛くて上がらない腕が、
ゲーム内では自由に動く。
仲間の一人、
八十歳の佐伯さんが笑った。
「現実のワシら、もう杖なしでは歩けんのになぁ。
ここでは走れるんやから、不思議なもんや」
「ほんまやで。
ワシなんか、孫より足速いわ」
全員が笑った。
■ 3. 老人パーティ、ダンジョンへ
今日の目的は、
“初心者向けの鉱石集め”。
魔石を拾えば換金できる。
年金に少し足すだけで、
生活がずいぶん楽になる。
「ほな、行くで。
じいさんパーティ、出発や!」
「名前ダサいわ!」
「ええやんけ、味がある!」
わいわい言いながら、
老人パーティはダンジョンへ入っていく。
■ 4. モンスターとの戦闘
洞窟の奥で、
スライムがぴょこんと跳ねた。
「来たで! 構えろ!」
弘は剣を構え、
佐伯さんは杖を掲げる。
「ファイアボール!」
「おお、佐伯さん、今日もキレがええな!」
「ワシ、現実では火の用心やけどな!」
また笑いが起きる。
スライムを倒すと、
キラリと光る鉱石が落ちた。
「おお、魔石や!
これでまた米が買えるわ!」
「ワシは孫にゲーム機買うんや!」
「ワシは……酒やな!」
「結局それかい!」
■ 5. 老いと冒険の境界線
休憩ポイントで、
弘はふと呟いた。
「……こんな日が来るとは思わんかったなぁ」
佐伯さんが頷く。
「ワシら、もう外で働くこともできん。
身体は言うこと聞かんし、
年金だけでは心細い」
「せやけど……ここでは違うな」
「そうや。
ここでは、ワシらは“冒険者”や」
弘は、
ゲーム内の若い自分の手を見つめた。
(……もう一度、人生をやり直してるみたいや)
■ 6. 帰還と、現実の温かさ
ダンジョンから戻ると、
ログアウトの光が視界を包む。
ヘッドセットを外すと、
現実の部屋は少し寒かった。
だが、
胸の中は温かかった。
「今日も楽しかったなぁ」
「また明日も潜ろうや」
「もちろんや!」
老人たちは、
まるで部活帰りの高校生のように笑い合った。
弘は思った。
(……老後がこんなに楽しいなんて、
誰が想像したやろな)
そして、
明日も冒険に出ることを楽しみに、
ゆっくりと椅子から立ち上がった。
26
■ 第二十一章:塾とダンジョンの境界線
――高校生・相沢蓮(あいざわ れん)視点
■ 1. 塾の看板が“ダンジョン塾”に変わった日
相沢蓮、17歳。
放課後、いつもの塾に向かうと、
入口の看板が変わっていた。
《ワールドダンジョン・エタニティ対応
実践型スキル育成塾》
(……ついに、塾までダンジョン対応かよ)
蓮は苦笑しながら中に入った。
教室には机が並び、
その上には全員分の軽量VRヘッドセット。
黒板の代わりに巨大スクリーンがあり、
講師が笑顔で言った。
「今日は“ダンジョン経済”の実地演習をやるぞー。
素材を採取して換金するまでが授業だ」
塾生たちがざわつく。
「マジかよ、今日稼げるじゃん」
「昨日の魔石、相場上がってたよな」
「これ、授業っていうより副業だろ」
蓮は思った。
(……まぁ、楽しいからいいけど)
■ 2. 授業で“ダンジョンに潜る”
ヘッドセットを装着すると、
視界が一瞬でダンジョンの入口に切り替わる。
講師のアバターが前に立ち、
手を叩いた。
「今日は“初級鉱山ダンジョン”で、
素材の採取量と市場価格の関係を学ぶぞ。
採った素材は実際に換金されるから、
真剣にやれよー」
蓮はピッケルを構え、
友達と洞窟へ入っていく。
(……これ、塾っていうより仕事だよな)
でも、
嫌じゃない。
■ 3. 塾の“ダンジョンチーム”
授業が終わると、
蓮はそのまま塾の“ダンジョンチーム”の部屋へ向かった。
塾には、
勉強コースとは別に
ダンジョン攻略専門のチームがある。
理由は簡単。
ダンジョンで稼いだ収益が塾の運営費になるから。
チームに所属する生徒は、
攻略の腕前によって奨学金が出る。
部屋に入ると、
チームリーダーの大学生が声をかけてきた。
「蓮、今日の目標は“中級ボス討伐”だ。
倒せば塾の収益が跳ね上がる」
「了解」
蓮はヘッドセットをかぶり、
仲間たちとログインした。
■ 4. 本気の“塾活”
ダンジョンに入ると、
チームメンバーのアバターが勢揃いしていた。
「ヒーラー準備OK!」
「タンク前に出るぞ!」
「蓮、火力頼む!」
「任せろ!」
巨大な岩の魔物が吠える。
「来るぞ、避けろ!」
「蓮、今だ、斬れ!」
「おりゃあああああ!」
剣が光り、
ボスが崩れ落ちる。
《討伐成功!》
ログアウトすると、
チームメンバーが歓声を上げた。
「よっしゃあああ!」
「今日の収益、やばいぞ!」
「奨学金、また増えるな!」
蓮は笑った。
(……塾でこんなに盛り上がるなんて、
昔じゃ考えられなかったよな)
■ 5. 蓮の胸にある“未来”
帰り道、
蓮は夜風を浴びながら思った。
(俺、将来どうなるんだろう)
昔は、
ゲームが好きだと言うと怒られた。
でも今は違う。
ゲームで学べる
ゲームで稼げる
ゲームで仕事ができる
蓮は、
自分の未来が“ダンジョンの中”にある気がしていた。
(……プロの冒険者になるのもアリかもな)
そう思いながら、
蓮は塾の明かりを背に家へと歩き出した。
27
■ 第二十二章:エレメント解禁と、職人たちの夜明け
――ワールドダンジョン・エタニティ全体視点
■ 1. 太郎の決断:生産職の解禁
太郎は、モニターに映る膨大なログを見つめていた。
冒険者人口は増え続け、
企業も参入し、
デジタル役所も誕生した。
だが──
太郎の胸には、ずっと引っかかっていたものがある。
(……“作る”楽しさが、この世界にはまだない)
戦うだけでは、世界は片手落ちだ。
人は、作り、工夫し、試行錯誤することで
“自分だけの価値”を生み出す。
太郎は、ついに決断した。
「生産職を解禁する」
■ 2. 新素材「エレメント」の実装
翌日、アップデートが告知された。
《新素材:エレメント鉱石》
赤:攻撃力系のプロパティ
青:魔力・知力系
緑:速度・敏捷系
黄:耐久・防御系
紫:特殊効果系(レア)
さらに、
エレメントを武器に付与すると、ランダムでプロパティが付く。
つまり──
同じ武器でも、付与結果によって性能がまったく変わる。
冒険者たちはざわついた。
「ランダム付与って……ガチャじゃん!」
「いや、これクラフトだろ!」
「自分だけの武器が作れるってことか!」
そして、
世界は一気に“クラフト時代”へ突入した。
■ 3. 武器カスタマイズの熱狂
ダンジョン前の広場では、
冒険者たちがエレメントを手に集まっていた。
「赤エレメント出た! 誰か付与してくれ!」
「青の高品質、買い取ります!」
「緑のレア、相場爆上がりしてるぞ!」
武器の性能は、
付与するエレメントの色と品質、
そして“運”で決まる。
そのため──
冒険者たちは自分だけの最強武器を求めて熱狂した。
■ 4. 職人の誕生
そんな中、
ひっそりと新しい職業が生まれ始めた。
「武器職人」
エレメントの扱いに慣れ、
付与の成功率や品質を安定させる技術を持つ者たち。
彼らは、
戦うよりも“作る”ことに喜びを感じるタイプだった。
ある若者は言った。
「俺、戦闘は苦手だけど……
エレメントの付与だけは誰にも負けない」
ある中年冒険者は呟いた。
「昔、鍛冶屋だったんだ。
まさかゲームの中でまた職人に戻るとはな」
そして、
職人たちの店がダンジョン前に並び始めた。
■ 5. 職人の店の風景
「いらっしゃい!
赤エレメントの高品質、付与しますよ!」
「青エレメント専門店です!
魔法使いの方、ぜひ!」
「緑エレメントの速度特化、保証します!」
店の前には冒険者が列を作り、
職人たちは真剣な表情で武器を磨き、
エレメントを慎重に装着していく。
付与の瞬間、
光が弾ける。
《新プロパティ:攻撃速度+12%》
「おおおおおおお!!!」
「やった! 神ロールだ!」
「職人さん、マジでありがとう!」
職人は照れくさそうに笑う。
「へへ……また来てくれよ」
■ 6. 太郎の胸に灯るもの
太郎は、
ログに流れる“職人”たちの名前を見つめていた。
(……これだ。
俺が作りたかったのは、こういう世界だ)
戦うだけじゃない。
働くだけじゃない。
作り、工夫し、誰かの役に立つ。
その喜びが、人を生かす。
太郎は、
胸の奥が温かくなるのを感じた。
■ 7. 世界はまた一歩、広がる
エレメントの実装は、
ワールドダンジョン・エタニティに
新しい文化を生み出した。
武器職人
鉱石採掘専門の冒険者
エレメント鑑定士
カスタム武器のコレクター
職人ギルド
戦うだけの世界から、
“作る”世界へ。
太郎の世界は、
また一つ新しい段階へ進んでいった。
28
■ 第二十三章:鍛冶場の灯
――武器職人・黒川隼人(くろかわ はやと)視点
■ 1. 戦いに向かない男
黒川隼人、三十五歳。
AI失業の波に飲まれ、前職の工場が閉鎖された。
冒険者としてダンジョンに潜り始めたものの──
彼は戦闘が壊滅的に下手だった。
剣を振れば空を切り、
魔法を撃てば味方に当たり、
仲間からは「隼人さんは後ろで見てて」と言われる始末。
(……俺、戦い向いてないな)
だが、彼にはひとつだけ得意なことがあった。
“手を動かして何かを作ること”。
■ 2. エレメント実装の日
ある日、太郎が新素材「エレメント」を実装した。
赤:攻撃
青:魔力
緑:速度
黄:防御
紫:特殊効果(レア)
武器に付与すると、
ランダムでプロパティが付く。
冒険者たちは熱狂した。
「神ロール出た!」
「クソロールだ、やり直し!」
「職人いないのかよ、誰か付与してくれ!」
その声を聞いた瞬間、
隼人の胸に火がついた。
(……これ、俺の出番じゃないか?)
■ 3. 最初の“付与”
隼人は、
ダンジョンで拾った安物の剣と、
緑エレメントを手に取った。
「……頼むぞ」
エレメントを剣に触れさせると、
光が弾けた。
《新プロパティ:攻撃速度+3%》
「……おお」
小さな成功だった。
だが、隼人の胸は震えた。
(……俺、これがやりたい)
■ 4. 職人としての第一歩
翌日、隼人はダンジョン前の広場に
小さな看板を立てた。
《武器付与工房・黒川》
エレメント付与します。
品質は保証できませんが、心は込めます。
最初は誰も来なかった。
戦闘が下手な隼人を知っている冒険者たちは、
半信半疑だった。
だが──
一人の初心者が声をかけた。
「あの……付与、お願いできますか?」
隼人は深呼吸し、
エレメントを剣に触れさせた。
光が弾ける。
《新プロパティ:攻撃力+12%》
「……すげぇ!!
これ、めっちゃ強いじゃん!」
その声が広場に響いた。
■ 5. 行列ができる職人
翌日から、
隼人の前には行列ができた。
「黒川さん、今日も頼む!」
「青エレメントの高品質、付与してくれ!」
「黒川さんの付与は安定してるって噂だよ!」
隼人は、
ひとつひとつの武器に向き合い、
丁寧にエレメントを付与していく。
成功すれば冒険者が喜び、
失敗すれば一緒に悔しがる。
その繰り返しが、
隼人にとって何よりの喜びだった。
(……俺は、戦うよりも“作る”ほうが向いてるんだ)
■ 6. 職人ギルドからの誘い
ある日、
隼人のもとに一通のメッセージが届いた。
《職人ギルドより
あなたの技術を高く評価しています。
ぜひギルドに加入しませんか?》
隼人は、
しばらくその文面を見つめていた。
(……俺みたいなやつでも、
必要としてくれる場所があるんだな)
胸が熱くなった。
■ 7. 隼人の決意
夜、
ログアウトした隼人は、
薄暗い部屋で静かに呟いた。
「……俺は、武器職人として生きていく」
戦うことは苦手でもいい。
誰かの武器を作り、
誰かの冒険を支える。
それが、
隼人の“冒険”だった。
■ 8. 世界に広がる職人文化
隼人のような職人が増え、
ワールドダンジョン・エタニティには
新しい文化が生まれた。
武器職人
鎧職人
エレメント鑑定士
カスタム武器のコレクター
職人ギルド
戦うだけの世界から、
“作る”世界へ。
太郎の世界は、
また一つ豊かになっていった。
29
■ 第二十四章:人間の手が生む光
――バーチャルアーティスト・水城(みずき)視点
■ 1. 作品が“溢れすぎた”世界
水城は、かつて絵描きだった。
だが、生成AIが進化し、
一秒で数千枚のイラストが作られるようになってから──
彼の絵は、誰にも見向きされなくなった。
「AIのほうが早いし、安いし、綺麗だよね」
そんな言葉を聞くたびに、
胸の奥が冷たくなった。
音楽も同じだった。
AIが作る曲は完璧で、
人間の“癖”や“粗さ”は欠点とされた。
世界は、
“作品の価値”を失っていた。
■ 2. 太郎の世界が変えたもの
そんなある日、
水城は《ワールドダンジョン・エタニティ》の
「アーティストエリア」の噂を聞いた。
バーチャル空間で、
人間アーティストが“ライブ制作”を行う場所。
AI作品は完璧だが、
“作っている過程”は見せられない。
そこに、
人間の価値があった。
水城は半信半疑でログインした。
■ 3. バーチャルキャンバスの前で
ログインすると、
目の前に巨大なキャンバスが現れた。
観客はアバターで数百人。
中には、
現実では歩けない高齢者や、
地方に移住した若者もいる。
水城は筆を握った。
(……ここで描くのか)
手が震えた。
だが、筆を走らせた瞬間──
観客から歓声が上がった。
「おお……!」
「筆の動きが見える!」
「AIにはできない“迷い”がある……!」
水城は驚いた。
(……迷いが、価値になるのか?)
■ 4. “不完全さ”が美になる世界
水城が描く線は、
ときどき震え、
ときどき迷い、
ときどき大胆に跳ねた。
AIの線は完璧だ。
だが、
水城の線には“人間の呼吸”があった。
観客はそれを求めていた。
「この線、好きだ」
「なんか……生きてる感じがする」
「AIの絵は綺麗だけど、心が動かないんだよな」
水城の胸に、
久しぶりに温かいものが灯った。
■ 5. 音楽家たちも集まってくる
絵だけではなかった。
隣のステージでは、
ギターを弾く青年がいた。
音は少し外れ、
リズムも完璧ではない。
だが──
観客は涙を流していた。
「AIの曲は綺麗すぎる。
でも、この音は……人の体温がある」
「ミスがあるから、逆に心に刺さるんだよ」
水城は思った。
(……人間の“欠けている部分”が、
こんなにも愛されるなんて)
■ 6. アーティストの復権
太郎の世界は、
アーティストに新しい舞台を与えた。
絵描きは“制作過程”を見せる
音楽家は“生演奏”を届ける
ダンサーは“身体の揺れ”を共有する
詩人は“声の震え”を伝える
AIが完璧な作品を量産する世界で、
人間は“過程”と“揺らぎ”で勝負するようになった。
そして──
その価値は、
AIには絶対に作れないものだった。
■ 7. 水城の決意
ライブが終わったあと、
水城は観客から届いたメッセージを読んだ。
「あなたの線に救われました」
「また描いてください」
「あなたの絵が好きです」
水城は涙を拭いた。
「……俺は、まだ描いていいんだな」
太郎の世界が、
彼に“もう一度描く理由”をくれた。
■ 8. 世界はまた一つ、豊かになる
生成AIが作品を埋め尽くした世界で、
人間アーティストは消えるどころか──
バーチャル空間で新しい輝きを手に入れた。
太郎の世界は、
戦い、仕事、職人、そしてアート。
あらゆる人間の価値を受け止める場所になっていく。
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■ 第二十五章:新しい秩序の夜明け
――高田総理視点(AI倒産=人間企業がAIに敗れて倒れる現象として)
■ 1. 官邸に積み上がる“倒産報告書”
高田総理は、
官邸の執務室で分厚い報告書をめくっていた。
《AI倒産・全国統計》
その言葉は、
もはやニュースの見出しではなく、
国家の危機を象徴する言葉になっていた。
AIによる自動接客
AIによる自動経理
AIによる自動制作
AIによる自動配送管理
これらのサービスを提供するAI企業が急成長し、
人手でサービスを提供していた企業が次々と倒産していった。
「……人間が、AIに勝てるわけがない」
高田総理は、
資料を閉じながら呟いた。
■ 2. 失業者の波
AI倒産の影響は深刻だった。
コールセンター
事務代行
デザイン会社
小規模制作会社
物流管理
カスタマーサポート
これらの業界は、
AIサービスに価格でも速度でも勝てず、
次々と市場から消えていった。
失業者は街に溢れ、
生活保護の申請は過去最大を記録した。
(……このままでは、社会が崩壊する)
高田総理は、
胸の奥に重い痛みを感じていた。
■ 3. しかし、太郎の世界が流れを変えた
そんな中、
太郎が作った《ワールドダンジョン・エタニティ》が
予想外の形で社会を救い始めた。
この世界では──
AIは“補佐”としてのみ許され、
“労働者”としてのAIは排除されていた。
戦うのは人間
作るのも人間
相談に乗るのも人間
職人もアーティストも人間
AIはあくまで道具であり、
主役は人間だった。
その結果、
AI倒産で仕事を失った人々が
次々とこの世界で新しい職を得ていった。
冒険者
武器職人
鑑定士
デジタル役所職員
アーティスト
企業のデジタルオフィス勤務者
(……太郎さんの世界が、
AIに奪われた仕事を取り戻している)
高田総理は、
その事実に驚きを隠せなかった。
■ 4. 税制の再構築
さらに、
仮想通貨の換金時に自動で課税される仕組みが整備され、
国家の税収は安定した。
ダンジョンで稼いだ報酬
職人の売上
アーティストの投げ銭
デジタル役所の給与
これらはすべて、
現実通貨に変換される瞬間に“所得”として計上される。
申告不要の自動課税システムは、
国の財政を立て直した。
(……太郎さんの世界がなければ、
この国は立ち直れなかったかもしれない)
■ 5. 新しい秩序の中で
夜の官邸は静かだった。
都市は縮小し、
地方は活気を取り戻し、
デジタル空間は“第三の都市”として成長している。
高田総理は、
窓の外の東京の夜景を見つめながら呟いた。
「……AI倒産が生んだ混乱を、
太郎さんの世界が吸収してしまったのね」
それは、
政治家として複雑な感情だった。
国家が作った制度ではない。
一人の青年が作った世界が、
結果として国家を救ったのだ。
■ 6. 総理の胸にあるもの
資料を閉じ、
高田総理は静かに目を閉じた。
(この国は、
もう“旧来の仕組み”では動かない)
AIに仕事を奪われた人々が
太郎の世界で新しい職を得る
税制はデジタル化し、安定する
都市は縮小し、地方が復活
人間の創造性が価値を持つ
それは、
かつて誰も想像しなかった“新しい秩序”だった。
「……太郎さん。
あなたの世界が、この国を救ったのよ」
高田総理は、
静かに微笑んだ。
未来への不安はまだある。
だが、
確かな希望もあった。
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