大空振りのふたご座観測日

陸前フサグ

天体観測はきっかけでしかない

「天体観測しようぜ!」


 いつでも青春が出来るフレーズ。

 それが俺の口癖だった。高校3年生になっても、それは変わらない。


 けどな、青春への近道である誘いには誰も乗っちゃくれないんだけど。


 皆、各々の青春を謳歌しながら、残り僅かの学校生活を終えようとしていた。


「また言ってんのかよ。学は相変わらずだな」

「冬は星が綺麗に見えるんだよ! なんもわかってねぇな」

 

 毎日同じ事を教室で叫んでも「コイツまた言ってるよ……」と、薄笑い、呆れられるだけなんだよな。


 俺、「似田貝 学にたかいまなぶ」は岩手県遠野市の出身だ。

 もちろん、今も住んでいる。

 豊かな自然の中で生まれ育ち、幼いころは何もないと嘆いていた。


 しかし、小学生に時に読んだ「宮沢賢治先生」の本のおかげで、星空を見ることに魅せられている。


 先生に人生を楽しませてもらってんだ。なら、俺も楽しませる側に立ちたい。それが憧れってもんよ。


 自分で詩や物語を書いたりなんかしてんだ。ネットに投稿しては、いつかなんとかなって職に就けたらと淡い期待を抱いている。


 ごく普通の高校生。


 だが、同級生にはカタブツにも無計画に見えるようだ。


 ノンノン。俺が悪いってんなら、そのイメージを払拭しなきゃじゃねぇの。


 同級生と天体観測で思い出を作りたい俺は金髪にしてみる。とりあえず髪色を変える。あるあるじゃん?


 しかし、俺の青春の目標は達成されぬまま、年明けも1月を迎える。


 もはや卒業なんだが? 


 この時期になれば学校の出席日数も数えるほどで、ほぼ休み。寝て起きて雪かきをするだけの日々を送る。


 あとはネット小説のサイトに読まれもしない文章を投げ、感想や評価されないことにももやもやを抱えるだけ。


 つっまんねえ。俺の青春、こんなんでいいのか? 


 賢治先生のような心洗われる文章を書きたいのに、俺の心は荒んでいくだけ。

 これじゃいけない。焦るように外に出た。白くなった世界に飛び出しては寒さに背中が丸まる。


「あ」

「ん?」


 家を飛び出してすぐにクラスメイトの黒茶姫カットの女子とバッタリ。

 数えるほどしか話したことのない「真坂 祈まさかいのり」だ。


 この女、がみがみ厳しいからあんまり得意じゃねえんだよな。まさに学級委員とか、風紀委員って感じのな。


 ほらみろ。俺を見る目つきが変わった。おっかねぇ。


「アンタまだ金髪にしてんの!? 卒業式出られないわよ!?」

「いだだだだだ!」

 

 と、問答無用で耳をつねって来る。容赦がないんだ、この女。


「俺は青春したくてこの色にしてんだよ!」

「何が青春よ! ただ恰好つけたいだけじゃないの!」

「は!? 黒髪のままで天体観測に誘ってもお堅いとか言われっから、こうしてんの!」

「アンタまだ言ってんの!? こんな寒くてドカ雪降ってるってのに、誰もしたいと思わないでしょうが!」

「あーっそうですか!」 


 顔を合わせたと思ったらお説教かよ。マジおもしろくねぇ。気分が悪いから家に戻るか。


 舌打ちでもしたい気分だったが、ぐっとこらえる。なのに祈はでっけえ溜息をつきがった。


「なんだ今の溜息!」

「わかった! 見てもいいけど!」

「何をだよ」

「星! 見たいんでしょ! 私が一緒に見てあげるわ」

「ま……」


 初めて、天体観測に乗り気なやつがいた。仕方なさそうにはしてるが、このチャンスは逃しちゃだめだ。賢治先生の良さ、天体観測がいかにいいもんか伝えられる!


 それが、とびきり嬉しくて堪らなかった。散々玉砕してきただっただけあって、その喜びは並じゃない。


「マジ!?」

「そのかわり、その髪色を卒業式まで何とかしなさいよ。それならいいわ」

「おっけおっけ! やるやる!」


 性別なんかこだわらない。同級生と臨んだ青春が出来ることに意味がある。でなければ、きっと死ぬまで後悔するだろうから。


  約束の時間は、当日の22時。場所は学校近く公園にした。  


 持ち物はデカくて優秀な望遠鏡。ガキのころから貯めた金でかったいいモンだ。場所も取れば、持ち歩くのも邪魔、背丈の半分以上ある。


「おぉ、重てぇ」


 その望遠鏡を背負っただけで、ゲロりそうなくらい楽しみでヤバイ。語彙力も失う。

 踏みしめる雪はまるでレッドカーペットの上にいるようだ。


 寒さなんて屁でもねぇや!


 公園に着いてすぐ、赤い炭酸ジュースの名前が入ったベンチにいるとメッセージを打った。


 返事はない。けど、祈じゃきっと来てくれると信じた。正義感の塊みたいな女だ、来ないわけねえ。

 わざと遠回りな道を選んで、高鳴る鼓動を押さえつけようとする。賢治先生の「銀河鉄道の夜」を音読してあるけば、興奮は高まるだけだが。


 

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