生きるとは

いつからだろうか。

翼が欲しいと思ったのは。


小さい頃、私は空を飛べた。

それは夢の中だけではなかった。


走れば風が背中を押し、

ジャンプすれば、世界が少しだけ遠ざかった。


空は近く、地面は軽かった。


その頃、私は翼を持っていた。

見えないけれど、確かにあった。


それは、想像力だったのかもしれない。

それは、無邪気さだったのかもしれない。


ただ、信じていた。

自分には飛べる力があると。


それは、誰にも邪魔されない自由だった。


けれど、いつの間にか、私は地面に足をつけて歩くことを覚えた。


空を見上げるよりも、足元の段差を気にするようになった。


私は、翼を無くしてしまったのだ。


どこかに落としたのかもしれない。

誰かに奪われたのかもしれない。


それとも、時間が削り取っていったのかもしれない。


探しても、見つからなかった。


もう飛べない。


ジャンプしても、すぐに地面に戻る。

風は背中を押さない。


空は遠く、ただ見上げるだけのものになった。


背中はただの背中で、そこに羽が生えていた記憶さえ、少しずつ曖昧になっていった。


それでも、空を見上げると、胸の奥が少しだけ痛む。


あの頃の自分が、まだどこかで飛び続けているような気がして。


私はもう飛べない。


けれど、飛びたいと思うことだけは、まだ残っている。



それが、

最後に残った翼なのかもしれない。

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