第63話 【音録石】アイゼンの調査

これは、調査員アイゼンが遺品回収に向かった際の音録石である。一部ノイズがあるが支障はない。



(中継地点の安らぎの村に向かっているアイゼンの姿)



アイゼン:

「まったく、予備調査員だが、休暇取る奴の代理なんてな。やってらんないぜ。あ、これ、録音されてるんだった……」



(アイゼン、手元の音録石を確認する)



アイゼン:

「でも、不思議なもんだぜ。これがきっかけで、本調査員に採用されるかもしれないんだからな! ミレットには礼を言うべきだな」



(安らぎの村への道を間違え、アイゼンはY字路を左に進む)



アイゼン:

「はぁ、早く遺品出てこないかな。洞窟まで行くの、だりぃー」



(あたりは既に暗く、雨が降り出した)



アイゼン:

「マジかよ! 雨とか聞いてねぇよ。お、洞窟じゃん。ラッキー! 雨宿りできるぞ」



(ポツン、と洞窟内に水滴の音が響く)



アイゼン:

「ん? なんか、おかしくないか。もしかして、『安らぎの村』行く前に、『安らぎの洞窟』に着いちゃった感じか」



(洞窟内を風が吹き抜け、アイゼンの服がたなびく)



アイゼン:

「洞窟内は冷えて寒いし、踏んだり蹴ったりだな。10月も下旬。夏に来るのがベストだな。まあ、死体は待ってくれないけど……」



(しばらくの間、沈黙。水滴の音だけが沈黙を破る)



アイゼン:

「なんかが、後ろを通り過ぎたような気がするけど、気のせいか?」



(アイゼンが振り向くと同時に、音録石の電源が切れる)



【研究員のメモ】

冷たい雨が降り始めた。アイゼンの記録と同期している。

プレハブの屋根を叩く雨音が、いつの間にか「洞窟の水滴」の音に変わっている。



【研究員のメモ:追記】

背後で、何かが通り過ぎた。

振り返る勇気はない。

私もまた、アイゼンのように「現実の場所」を見失っているからだ。

ここは長野なのか、それとも「安らぎの洞窟」の入り口なのか。

21時の収穫祭まで、私は「雨宿り」を続けることしかできない。

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