第27話 【冒険ガイド】新米冒険者へのアドバイス
【新米冒険者向け冒険ガイド(王歴125年出版・第25版)】
まえがき
本作を手に取った諸君は、冒険者として「ひよっこ」だろう。もしくは、将来的に冒険者を目指す子どもだ。そんな若き才能たちに「いかにして、生き延びるか」を書き伝えるのが作者としての役割である。「つまらない」と、本作を閉じた瞬間、君の人生も終わる。そのような愚かな行為をしないよう、切に願う。
湖の見える丘にて 王歴125年2月
■王都を中心としたダンジョンの位置
王都を中心として、各ダンジョンは以下の方角にある。
・東……「安らぎの洞窟」
・西……「そよ風の丘」「はじまりの草原」
・南……「試練の渓谷」
・北……「暗黒の荒野」
ここでポイントなのは、最初にどこへ向かうかである。南東に位置する「安らぎの洞窟」には、初心者にうってつけのスライムとゴブリンがいる。一方で、西の「そよ風の丘」「はじまりの草原」には、スライムしかいない。ゴブリンがいるのは、他には南の「試練の渓谷」のみ。これが、新米冒険者を悩ませる問題である。間違っても、北の「暗黒の荒野」に向かわないこと。
注1)「安らぎの洞窟」には、不気味な噂がある。「洞窟に行ったものは、行方不明になる」というものだ。しかし、迷信の一種だろう。
注2)「暗黒の荒野」へ向かうなら3年以上経験を積むこと。新米が立ち入れば、1時間も持たない。
■モンスターについて
・スライム
無色に近い青色で、ぶよぶよしている。体長の定義は出来ない。獲物に合わせて体を膨張させるためである。基本的に単独行動のため、新米冒険者でも倒せる。主な生息地「安らぎの洞窟」「そよ風の丘」「はじまりの草原」
・ゴブリン
体色は緑で、短い棍棒を持つ。背丈は成人男性の腰くらいで、群れで行動する。そのため、新米冒険者が数人で戦う必要がある。主な生息地「安らぎの洞窟」「試練の渓谷」
【研究員のメモ】
学生が「琵琶湖が見える!」などと言い出した。ここは、長野県であり琵琶湖は見えない。どうやら、ガイドブックの作者になりきりたいようだ……。
【研究員のメモ:追記】
学生の背中を確認した。そこには、ガイドブックに描かれている「ゴブリン」の挿絵と寸分違わぬ形のどす黒いアザが浮かび上がっていた。アザは脈動しており、彼がガイドブックを読み進めるたびに、少しずつ大きくなっているように見える。彼は今、「松明の準備をしなきゃ」と呟きながら、備品に火をつけようとしている。私の目にも、北アルプスが、かすかに「暗黒の荒野」のように霞んで見え始めた。
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