第20話 【音録石】ロゼーヌとの会話
【物件番号: 】音録石(マジックレコーダー)の記録
回収場所: ギルド地下金庫
回収日: 王暦125年 月 日
以下は、ミレット調査員とロゼーヌの会話の音録石である。一部欠損が見られるが、内容に支障なし。
ミレット:
「ロゼ ヌさん、聞きたいことがあって」
ロゼーヌ:
「なんでも、どうぞ」
(ロゼーヌは、ロッキングチェアに揺られながら、編み物をしている)
ミレット:
「昔、お父様が亡くなった時の話を聞きたいんです。その……」
ロゼーヌ:
「なるほど、あんたも気になるかい? そうだね、あれは50年近く前かねぇ。私がまだ、幼い頃だった。そうだ、ここに写真がある。これを見た方が、イメージしやすいだろうね」
(ロゼーヌ、編み物をやめて、棚に飾られていた写真を渡す)
ミレット:
「これが、お父様?」
ロゼーヌ:
「そうさ。あれは、秋のことだった。冒険者として『安らぎの村』で、儀式をして洞窟に向かった。そして、数日後。戻ってきても、ずーっと無言で。まあ、 友が死んだんだ、しょうがないさ。でも、その親友も死んだかは分からん。遺品は見つからなかったからね。後から、ギルドの遺 品のリストを見るといい。あれにゃ、50年の保管期間があるはず」
ミレット:
「待ってください。お父様が洞窟に行ったのは、いつですか?」
(ガサゴソと、何かの音がする)
ロゼーヌ:
「48年前だね」
ミレット:
「もしかして、その靴は……」
ロゼーヌ:
「そうさ、いつもヘ ゴンのところで買ってる。あの人には、靴底に何個目の靴か書いてもらってるのさ。逆算したら、48年とちょっと前ってなる」
(ミレット、ノートに数字を書く)
ミレット:
「すると、王歴77年ころですね?」
ロゼーヌ:
「そうなるかねぇ。ともかく、雨の降らない異様な季節だった。それは確かだね。なにせ、井戸を覗いても水面は見えなかった」
ミレット:
「どこかで聞いた記憶があります。学校だったかな……。ダブルセブンの災厄、でしたっけ?」
(パチパチ、と手のひらを叩く音)
ロゼーヌ:
「さすが、調査員。そう、あの年は魔の年だった。あんたも知ってるだろうけど、1月の冬も尋常じゃない寒さでね。だから、洞窟で一儲けして、王都で売りさばく計画だった。『11月から一気に寒くなるに違いない』ってね。でも、行くべきじゃなかった。まあ結果論だけどね」
ミレット:
「それで、話を戻すと……。お父様が洞窟へ行ったのは何月ですか? ざっくりと教えてもらえると、あとから遺留品リストを見るのに役立つので」
ロゼーヌ:
「うーん、何月かは覚えとらん。秋だったのは、確かだ。今みたいに、程よい温度でね。それ以上は分からん。ただ、1つ言えるのは、あんた以外の人も同じことを聞いてきたんだよ。ルチアーノ? キルア? うーん、そんな名前の女 だった」
(ミレット、筆記用具を落とす。カラン、という音が静寂を破る)
ミレット:
「私以外にも……?」
ロゼーヌ:
「そう、こんな偶然もあるんだねぇ。まあ、あの人も面識があったし、不思議じゃあないけどね」
ミレット:
「お知り合いですか? でも、この村には住民と新米冒険者しかいないはず……」
ロゼーヌ:
「私が覚えとるのは、数年前に『安らぎの王国』の話をした、それくらいさ。まあ、いつまでも、ここにいても捜査は進まないはずだよ。ギルドで遺留品リストを見直すといい」
(ミレットが、こくりとうなずくと、数秒後に電源がオフになる)
【研究員のメモ】
ルチアーノかキルアか知らないが、どこかで聞いた名前だ。あと少しで思い出しそうなのだが。ミレットなる少女よりも早く気づかなくては、学者失格だ。過去の記録を辿れば、勝てるはずだ。
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