第4話 密談


 警視庁新宿署刑事課強行犯係の神田令巡査部長は、ハコ(交番の隠語)時代の先輩である、中田恭介警部補に指定された、高円寺の喫茶店へと向かった。


 喫茶店の扉を開ける。


「おぉう、神田」


「つまらない話だったら、帰りますよ」


「俺の勘は当たるというのは会社内では定説だろう?」


「刑事の勘なんて、廃れたものですよ」


「お前、現役のデカがそんなことを言ったら、デカになれなかった奴、敵に回すぜ?」


 そう言った後に中田の座る席の向かいに立つ。


「アメリカン」


 令がそう言うと、中田はコーヒーを飲みながら、サンドイッチに手を伸ばす。


 しっかり、飯を食いだしている・・・・・・


「話はさっき、聞いたよな?」

「先日、渋谷駅で起きた騒動でしょう? ジンイチ(警務部人事一課監察係の略。ヒトイチとも言う)はその若い奴を探しているそうですよ」


 渋谷駅前で現職のSPである、鮫島が痴漢行為を働いて、若い男とおぼしき男にぼこぼこにされて、逮捕されたというのはすぐにニュースになった。


 若い男が鮫島の顔面を踏みつける、瞬間はSNSで拡散したが、警視庁の威信にもかかわる問題なので、同庁がすぐに削除要請を出した。


 しかし、拡散がされているので後の祭りだ。


「そいつ、知っているか?」


「顔を見る限り、秋山結鶴に似ていますね」


 令がそう言うと「誰だ? そいつ?」と言いながら、中田は手をナプキンで拭き始める。


「真木組に出入りしている、青川学院大学の学生ですよ。何でも、黒陽会会長の藤宮勇作の妾の子と言われていて、マル暴と生活安全部にハム(公安部の通称)までマークしていた、ヤバいガキですよ」


「ナマヤス(生活安全部を蔑視する言い方)がマークするって、相当悪いんだろうなぁ?」


「高校時代は真面目だったそうですが、キレると手が付けられなかったそうです。それで何度か、会社の世話になって、生安部のデーターベースに残ったそうです」


「ナマヤスで良いんだよ。あのオタク共ども?」


「中田さん、生安部の何が嫌いなんですか?」


 それを聞いた、中田はタバコを吸い始める。


 どうやら、この喫茶店は禁煙ではないようだ。


「あいつら、考えが読めねぇんだよ。気持ち悪くねぇか? まるでハムを相手にしているかのような気持ち悪さだ」


「まぁ、あの人たちは物腰が柔らかいから、俺たち、強行犯捜査が仕事の連中とは違うんですよ、本題は?」


「ていうか、よく、その秋山って奴のことを知っていたなぁ?」


「真木組の組長が自慢気に教えてくれたんですよ」


 それを聞いた、中田は目を丸くする。


「何すか?」


「マルBと堂々と接触するとか、咎められねぇか?」


「本意じゃないですよ。もっとも、会社内でもアウトローと見られているから、未だに本部に戻れず仕舞いですけどね?」


 それを聞いた、中田はにんまりと笑いながら、サンドイッチに再度、手を伸ばす。


「そいつよぉ・・・・・・俺はなぁ? 思うワケだ」


「何すか?」


「事件起こすぜ? とんでもねぇ、事件だ。俺の勘は当たる。お前もそれは分かって言えるだろう?」


 それを聞いた、令は微笑を浮かべながら「話がつまらないので、帰ります」とだけ言った。


「今、言った事を忘れるなよ。そしたら、お前らの出番だ」


「どうかな? マル暴と組むのはコリゴリだ?」


 そう言って、令は会計を払った。


「俺のおごりだよ」


「世話になりたくないんで」


「相変わらず、可愛げないなぁ? 神田ぁ? また、遊ぼうぜ?」


 そう言って、令が喫茶店の外に出ると、大雨が降り始めた。


 まいたなぁ?


 傘を持ってきていない。


 令は気が付けば、走っていた。


 続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る