第2話 厄介ごとにしかきこえない
強力な魔法使いのための「神々の宴」に魔素術しか使えない私が出ないとならないらしい。
全力で逃げたかったが、神々からの指名とあってはそうはいかなかった。
前世の私なら「神様のお告げだから」と言われても、鼻で笑って無視しただろう。
が、今世では、神々の指示がどんなに無茶なものでも従わないと、それに逆らったときの方が大変だというのを子どもの頃からきかされていたうえに、実際にそういう目に遭ったという人に何回も会ったことがあったので、神々の指示に逆らう気持ちにはならなかった。
本当に、この世界の神の強制力ってえぐいんだよなあ……。
今まできいてきた神々の指示に背こうとした人々のエピソードを思い出していると、私は顔から表情が抜け落ちていくのを感じた。そんな私を見て、ホリィが不満げな声を上げる。
「何よ、その顔!すっごく名誉なことじゃないの」
「私には厄介ごとにしかきこえないけど」
そのとき、鐘が鳴った。その後に、魔法を使った放送が流れる。寮に残っている一年生は制服に着替えて、三十分後に食堂に集まるようにと。ホリィが喜々として言う。
「きっと、あんたが宴の参加者に選ばれたっていう知らせがあるわよ」
私は気分が悪くなった。が、行くしかない。のろのろと着替え、それでも時間には間に合わせた。
食堂には三十人ちょっとの生徒たちがいた。そのほとんどが臙脂色の制服を着ている。一人だけ浅葱色の制服がいるのを見つけて意外に思った。貴族はどんなに家が離れていても、馬車を仕立てて通っているものとばかり思っていたのに。
そのたった一人の魔法科の生徒は、不安げに辺りを見回していたが、私を見るなり、笑顔を見せた。ジェニファだった。私の方に足早にやってくる。
「良かったー、知ってる子がいて。昨日、あれから大丈夫だった?」
「ああ、うん。自分の班と合流できたよ。えっと、寮生なんだ?」
「うん。家は城壁の近くだから、ちょっと遠くて」
「城壁の中なら、通えないこともないんじゃない?」
貴族なら。ジェニファは私が省略した部分を察して苦笑する。
「馬車があればね。でもうち、名ばかりの貴族だから、自前の馬車ってなくって。乗り合いの馬車を使えばいいんだけど、それだと魔法科では馬鹿にされるから、それくらいならいっそのこと寮に入った方がいいってお兄ちゃんが」
「そういうもんなんだ?」
「多分。お兄ちゃん、この学院の生徒だったとき家から通ってて、そのときに乗り合い馬車使ってそういう目に遭ったんじゃないかなって思う。お兄ちゃん、そういうこと言わないけど」
「そっかー。なんか、やりにくいねえ」
「そうなの。それに、これから家を引っ越す予定なんだけど、新しい家だってやっぱり城壁の近くで、寮住まいには変わりがないのよね」
「寮は嫌?」
「嫌じゃないよ。ただ、こういう風にどこの科の生徒かってわかるようにされると、私一人仲間外れみたいな感じがして、それがちょっと」
だから、私が寮生と知って嬉しかったとジェニファは言った。
と、食堂の入り口から、教師が三人ほど入ってきた。そのうちの二人には見覚えがあった。二人とも魔素術科の先生だ。残り一人は女性で、魔法使いならではの杖を持っているから多分魔法科の先生なのだろう。
魔法科の先生が口を開く。その目はジェニファに向きながらも、言葉はここにいる全員に対してのものだった。
「先程、王城から通達がありました。昨日の件については、原因が明らかになり、生徒への新たな危険はないとのことなので、寮での待機は解除します。詳しいことは冠の日に各教室で説明があるので、そのときにきいてください。ただ、家に帰っても昨日あったことについては、誰にも話さないように。いいですね?」
皆が頷く。そこで解散になった。
私は拍子抜けした。それだけ?って感じ。
しかし考え直す。ホリィが予想したように私が宴の参加者になったと宣言されるようなことはなかった。それで良いではないか。
生徒たちは食堂から出ていった。詳しいことって何だろうねー、とか言いながら。何となくグループめいたものができあがっている様子を見て、乗り遅れたかな、と私は思った。まあ、一人でいるのは苦じゃない。学校なら教室に行けばマリちゃんがいるし。
「これから、あなたも家に帰るの?」
ジェニファが声を掛けてきた。
「うん。最初の週末だから。親を安心させないと」
「そうだよねー。私も帰るんだけど」
ジェニファが言い掛けたところに、ラウトゥーゾさん、と魔法科の先生が声を掛けてきた。私はその場を離れ、自室に戻った。
「どうだった?どうだった?」
ホリィがはしゃいだような声で訊いてくる。
「別に何も。学院の生徒に危険がないことがわかったから、家に帰っていいって」
「えー、それだけー?」
「それだけ。じゃ、私は今から家に帰るから」
「わかった。私もついてくからね」
それはやめてくれ、と言いたかったが、昨日、森から戻るときだって、ホリィはちゃっかりとついてきていた。きっとあのときのようについてくるのだろう。そして私はそれを止められそうにないと思った。
厄介ごとにしか思えなかった。
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