第4話

 足もとに転がる二つの死体を見下ろす。

 それらは、愛する互いを庇い合うように折り重なっていた。それぞれ銃弾で穴を開けられた頭から流れ出した血が、一つの道を作り床を舐めるように這い回っている。

「僕たちが一体何をしたっていうんだ?」

 男が最後に放った言葉はこれだった。

 私の目を真っ直ぐ見つめたその透き通った青灰色の瞳からは、自分たちには神掛けて犯した罪などはなく、自らの運命に納得していない様子なのは明白だった。

 私は、ああ、何て傲慢で独善的な連中なんだろうと辟易した。

 しかしまあ、彼の言うことにも一理ある点もあるだろう。確かに彼の生涯でこのような結末を招くほどの悪いことは何一つしていなかったかもしれない。彼がその人生でやってのけた最大の悪事といえば、最愛の女性を、最後まで我が身で守ろうとした女を彼女の両親から掠め取ったことくらいだろう。それも、あの混乱に乗じて、堂々と。

 他の連中のように、この国を土台から腐らせたわけではない。ただ、その存在自体が罪だっただけだ。

 しかし、生まれた身分が自分で選択できないということなら、私たちだって同じだった。好きであんな惨めな人生を約束された身分に生まれたわけじゃないのだから。

 だから、自分たちはそういう運命だったんだと、彼らには諦めてもらうしかない。私が、神学校で『資本論』に出会ってしまったのが運命だったように。

 この後、近くの街に行って、チェーカーに連絡して、死体と家を処分させることにする。

 だが、ここを去る前に家の中を見て回ることにした。と言っても、他に部屋と呼べる場所は扉もなく、ここと繋がっている狭い納屋のような部分だけだったが。

 そこには粗末なベッドと小さなテーブルだけがあり、彼らの寝室だったらしい。彼らの素性を考えれば、多少は金目のものもあるだろうと思ったが、目に見える範囲にこれと言った貴重品らしいものは見えなかった。

 どうやら彼らが言っていた「この身だけしか持っていない」というのは本当だったようだ。

 だが一つ、彼らが隠し持っていたものを見つけた。それは、とてもとても大切なものだった。

 ベッドに赤ん坊がすやすや眠っていた。

 舌打ちして、しばらく赤ん坊を眺める。赤子は、自分の人生に起こった悲劇など露知らず、悠々と幸せそのものといった顔で眠っている。

 しばらくその寝顔を眺める。

 迷わなかったわけではない。さすがの私だって、良心の呵責くらいは覚えた。しかし、例外を作ることはできない。迷いは即己の破滅なのだ。

 私は覚悟を決めると、引き金に指を掛け、赤ん坊の顔に照準を合わせた。

 すると瞬間。

 自分の運命の気配を察したのかどうなのか分からないが、赤ん坊が目を覚ました。そして、男に瓜二つの青灰色の右目と、これまた女の目と同じ薄茶色の目がしばらくの間私を見つめた後、沈黙を裂くように泣き喚き始めた……。

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